…起床ラッパの音が聞こえる。携帯のアラーム音だ。こいしは飛び起きると姿勢をビシッと正して叫ぶ。
「こちら第4部隊中隊長こいし、これよりゾウアザラシ作戦を実行する!総員各位、突撃開始っ!」
勇ましい掛け声と共に外へ出て行った。アラームぐらい消して行ってよ…。携帯を置いて行ったので、アラームを解除して通知を確認する事にした。
アラーム解除はできたが、ナンバーロックがかかってて通知を確認できない。しかも12桁も設定してある。
「もう、こいし!」
私は漁船を飛び出てこいしを追いかけた。彼女は船の近くの岩場で草を編んでいた。私は彼女の隣に座ると携帯のロックを解除する様に頼んだ。
「何さ!お姉ちゃんってば携帯だのお酒だのに夢中になっちゃってさ、私の事なんかどうでもいいんだい!」
「ああもう、この子ったら訳の分からない拗ね方しちゃって…。あなたが大事だから危険を顧みず船まで追って行ったんでしょうが!」
「大好き!」
こいしは編んでいた草を手放して私に飛びつく。私は彼女の背中をさすり頭を撫でてあげた。彼女は離れるとまた草を編み始める。
「で、パスワードは?」
「196311221230」
「よく覚えてられるわね、そんな長い数字」
「そう?覚えやすいけどなぁ」
私はこいしに言われたとおりの数字を入力してロック画面を解いた。新着のメールは来てない。自宅に電話をしてみたが、お燐も出なかった。仕事が忙しいのかもしれない。
こいしは寝る所に敷くゴザ的な物を作ってるらしい。私も服や物入れ代わりの物が欲しい。同じ様に草を編む。皮の丈夫な動物がいたならなぁ…。
あれこれ考えているとこいしは手を叩いた。
「お姉ちゃん、私達無人島から出られるかも」
「え?」
「まず上に飛ぶ。今私達が立っている高さからは見えない遠い場所が見えるようになる。そこに見えた島に飛ぶ」
地球は非常になだらかな球形になっている。そのため、どれだけ視力が良くても人間の様な高さから見る事ができる距離はそれほど遠くない。しかし私たちは飛ぶ事ができる。現時点ではどこの島も見えなくても、そうする事でなら見える様になるかもしれない。
実際にいつまで飛べるのかとか試したことはないが、少しも休憩せずに飛べる範囲を考えてみる。往復なら150km、片道なら300kmまでは行ける…はず。しかし、体力も妖力もそれなりに要する。事前準備や計画は念入りにしておくべきだろう。
私達はオーストラリア方面のどこかに向かって渡航していた。生きて流されるには限度がある。船での往来のある大雑把な位置が把握できれば文明的な生活をしている場所へ向かう事もできそうだ。
「なるほど、いい案かもしれないわね」
「そして、どうにかして日本大使館に行く!」
時間は午後を回っていた。だが、私達はお互いに何をやる気力もなくぼんやりとしていた。
つい先ほどまでテンション上げて話をしていた頃が遠い昔の様に思える。
私達は草を編む手さえ止めてあらゆる考えを尽くし、意見を出し合った。途中途中、携帯で調べ物をしたり詳しそうな人に意見を聞いてみたりもしていた。
…とりあえず分かったのは、ここから一番近い場所はパプアニューギニアと言う事。そこには日本大使館もある。
次の問題はパスポートだ。盗難や紛失問題もあるため正規の手続きさえ踏めば再発行はしてもらえるらしいものの、戸籍謄本と言うものがいるらしい。私達にはこれがない。
最終手段は密入国だ。…コンテナ船、旅客船…。日本に着くまで何日かかるんだろう。その辺りを話しているうちに途方に暮れて気力がなくなった。
深刻なのは私ではない。姉だった。心が折れてサードアイを閉じてしまったのである。
「大好き!」
壊れた姉のこの言葉を聞いたショックで私のサードアイは開眼してしまった。こんな事があっていいのか…。
こうなったら私がしっかりするしかない。今は生き抜くので精一杯だが必ず生還する方法はあるはず。私は拳を突き上げ強く心に誓った。
さて、壊れた姉にお酒は必要あるまい。シートと鉄の網を回収すべく地下貯蔵庫に向かう。
「こいし、どこいくの?」
「地下貯蔵庫」
「私もお酒飲む!」
お酒を飲みに行く訳じゃ無いけどね。私が飛ぶと姉もついて来る。地下貯蔵庫に到着すると早速とシートと鉄の網を取る。姉はさっさと中に入り、酒を飲みに行った。集合場所は分かってる。私は構わず鉄の網とシートを持って拠点へ運びに飛んだ。
私達が寝床にする予定だった場所に鳥が複数いた。身を寄せ合ったり、地面をつついてみたりしている。
それから、服の着替え用の草編みを続ける。この島の探索を続けて、他に前にこの島に降りたった人物が何か残して調査したい所だ。それには虫よけがいる。ここも多いがあっちは比ではない。
そういえば、姉は虫よけの草をどうこうとか言っていた気がする。
「そういえばまだ飲んでるのかな…」
心配になって地下貯蔵庫に見に行った。貯蔵庫には枝を敷き詰め上から服を被せてある。私がシートと鉄の網を持って行ったからだろう。
「…お姉ちゃん?」
急にサァーッと血の気が引いて行った。地下倉庫の中にもいない。え、どこ行った??
風が吹いた。帽子が飛んだ。私はすぐに追いかけてキャッチする。後ろを見ると、大きく厚い雲が向こうからやって来るのが見えた。
「いけない、早く見つけないと…」
空を飛んで辺りを探してみる。いない。森の中に入ったかもしれない。空を飛んでいては見つけられない。私は草を掻き分け入って姉を呼びながら探す。いない。
漁船だ、漁船にいるに違いない。私は飛んで漁船を探す。いない。
「どうして、どこに行ったの!?」
水源近くの拠点へ向かった。それでもいない。
無責任だった。今の姉は糸の切れた凧。どこに行くのか、私はおろか本人さえも知らない。目を離すべきじゃなかった。喉が渇いて、それでも構わずに姉を呼び続けた。
仮に心を閉ざそうと姉は妖怪だ。この辺りに凶暴な動物だっていない。死ぬはずはない。分かっているのに、これが今生の別れにになるような…そんな恐怖が私を包んだ。
「お姉ちゃん、どこなの!?いたら返事して!!」
空が暗くなって来る。肌寒くなってきた。姉はもっと寒い思いをしているはず。
浜辺を一周した。いない。どうして…。やがて雨が降って来た。まだ探索していない場所。あそこにいるんだろうか。そんなはずはない、入違ってるだけだ。あるいは…。私は焦る心を落ち着かせて考える。
もう何時間そうしていたか、忘れた頃。私は日を改めて探す事にした。雨に濡れて体も冷えてきた。私は拠点に向かう。この程度の雨、漁船でも良かった気はしたが…気分だ。
私達が一緒に作った寝床に取りが寄り添いあって眠っている。真ん中には鳥と一緒に眠ってる姉がいた。
「お姉…ちゃん…」
私は鳥をどけて姉を揺さぶる。
「お姉ちゃん、お姉ちゃん!」
「ん…。こいし?」
「勝手にどっかに行ったりして、心配したんだよ!?」
「…うん。だからね、私探してたんだ。どこに行ってたの?」
探してた…?私を??
見れば体のどこかしこに切り傷を作っていた。私はボロボロと涙が出る。そうだ、お姉ちゃんも私を探してたんだ。見つからないはずだ。お互いを探しあっていたんだ。ずっとずっとすれ違って、それでも想い合ってた。
私は口をパクパクとさせる。どう言葉を紡いでいいか分からなかった。
「私…」
お姉ちゃんはため息をつくと私を抱き寄せる。
「服、持って来てくれたんだね。ありがとう」
雨…服…あっ。
「いけない、地下貯蔵庫が!」
シートも鉄の網もしてない。私は急いで立ち上がるが、手首を掴まれた。
「放して、お酒が…」
「いいの。今はこいしがいてくれれば。ね?」
優しさの中に厳しさを含めた目だった。これ以上身体を冷やせば体調不良になりかねない。心を閉ざした今もなお、妹である私に対して姉であろうとしている。雨に濡れた服を脱いで、シートを掛布団代わりに一緒に被る。さっきどけた鳥が私の体に寄り添う。寝返りは打てそうにないが、ぽかぽかしてて温かい。
今日はぐっすりと眠る事ができそうなのだった…。
古明地姉妹に塩分を取らせる方法を考えてたら投稿がこんな時間帯になってしまった。
浜辺の岩場に塩が付着してるとか、天日干しとか、色々考えて見てるけどいい案が思い浮かばない。
とりあえず今はスルーの方向で