山菜は姉が採っている。本日は未踏の地を探索するための対策に費やした。
家に帰る方法は大きな発展はない。私人としての射命丸さんに話を聞くと、協力してくれるとは言っていたが。
心を閉ざしてからの姉は稚児の様に愛らしく無邪気だ。
心を閉ざすのをやめ、サードアイが開眼したら悶絶しそうな事ばかりしている。
何なら、そのショックでまた心を閉ざしてしまいそうだ。
姉が可愛い。今はそれでいいんじゃないかと思う。
漁船の中、私達が寝床にしていた場所は水漏れしていた。もう長くはここを寝床として使えない。第1拠点を本格的に寝床とする準備を進める事になった。姉が野草を採取している時に湖を見つけたらしく、そこで水浴びもした。
草で出来た服を着て洗濯物を干す。私は拠点から少し離れた所の鳥を仕留めると、首を切って吊るし血抜きをしていた。
使える漂流物を探しているうちに、浜の岩場で塩がこびりついていた。私はナイフで削ってそれを持って行った。新鮮な肉は美味しいだろうが、味付けは欲しい。姉は虫よけ代わりになる塗り薬を野草から作っている。探索のためだ。
それから、家に帰る方法についても模索していた。姉は最終的に八雲紫にどうにかしてもらう算段を立てていたらしい。代わりに側近の式神から連絡が来て、少なくとも次の重役会議までは起きそうにないという事だった。
「こいし、難しい顔してどうしたの?」
「ううん、何でもない」
姉の方を向くと、花冠を作っていた。それを私の帽子に被せた。
「似合ってるよ!」
「ありがとう」
サードアイを閉じた姉は、あれから家に帰りたがる事がなくなった。私が家に帰りたい事を知ってからは協力してくれるが主体性がない。目先の物から目先の物へ興味関心が移り、執着しない。お腹が空いたり、寒かったり、喉が渇いたり。そういう要求も一時的なものですぐ忘れてしまう。
自分なくては生きていけない、そんな気さえした。
世話のかかる姉になってしまったが…、私はそんな姉への愛おしさが時間と共に増していっているのを感じていた。
私がそばにいて欲しいと言うと、姉は自分から離れない限りそう遠くへは行かなくなった。ただ目は離せない。
姉が見つけてくれた湖には魚がいる。水浴びに使う他に、確実に魚を釣る方法があったら…と思う。釣り竿には針がない。鋭利にした枝を銛代わりに使ったりする事も考えたが、水中活動での体力消耗の激しさと割にあうかどうか…。
ぼんやりしていると姉の姿が見えなくなった。私は立ち上がって辺りを見回すと日向ぼっこして眠ってる所を見つけた。
Prrrrr…。
電話がかかってきた。私は着信相手も見ずに電話に出る。
「はい、もしもし」
『もしもし、さとりさん?射命丸です。ちょっとお聞きしたい事が…』
「こいしです」
『あややややっ!メリーさんですか』
「蓮子です」
『あなたのジョーク、未だによく分からないんですよね』
「天狗ほどでは」
すると受話器の向こうからゲラゲラと笑い声が聞こえて来る。特に面白い事を言った気がしないが、ツボにはまったらしい。笑い過ぎてせき込んでいるようだ。
『ああ、すみません。それで、さとりさんは?』
「鴉天狗としてのあなたには話せません。姉の知人として、射命丸さんとしてなら話せます」
『それを言われると弱いんですよね…。コホン、それでお姉ちゃんはどうしたの?』
「実は…」
姉は射命丸さんに事情を話していなかった様で、乗った船が遭難して無人島にいる事から話さねばならなかった。それから、心が折れて心を閉ざしてしまった事や代わりに自身が意識を戻したことなどその他もろもろ。
要するに、今は元の姉の様な確かな受け答えは困難であるという事だ。そう伝えた。
『それはまた難儀な…。私から何かしてあげられる事でもあればいいけど』
「気持ちだけで大丈夫です。それで、聞きたい事というのは?」
『んあぁ、その事はまた今度で。…こっちからもできる事はさせてもらうよ。だから根気強く、自暴自棄にならないでね』
射命丸さん…。
現時点で分かっている事は伝えた。向こうからカタカタと何かを動かす音が聞こえる。タイプライター?
射命丸さんはいくつか確認を取ると、別れを告げて電話を切った。
明日はいよいよ島の探索に本腰を入れる。生活もそれなりに充実してきたし、蚊よけの塗り薬もある。目印のために花をすり潰して作った絵の具もある。明日は探検だと言うと、姉も喜んでいた。
私は鳥を肉片事に捌き、枝で支えた鉄網の上に乗せて火で焼いた。
焼ける間に姉が採って来た山菜を食べる。野生のものながら鮮度が高く、美味しい物もあった。贅沢は言ってられないが、クセが強かったり苦い物もあった。今は食べられるものは食べないと。
肉が焼けるか焼けないかの頃、姉はうつろうつろと船を漕いでいる。これから食べごろだと言うのに。私は傍に寄って揺さぶる。
「そろそろ食べ頃だよ、ほら」
私は骨の部分をとってあげた。彼女はお礼を言うと目を半開きにしながらもぐもぐ食べる。このままだと、食べながら寝てしまいそうな勢いだった。
焼けたものは自分も食べる。…こうして解体して焼いてみて思ったが、2羽はいらなかったかもしれない。余った食材は明日に回そう。
姉は2つ目を食べ終わる前に眠ってしまった。隣で船を漕いでいたかと思うと急にコテッと倒れてしまうもので驚いた。仕方がないので私は寝床に連れて行ってあげた。自分の分も食べると、火の始末をして寝る。
…そういえば、着信履歴には自宅があった。お燐達の心配をしているんだろう。眠かったが、何とか身体を起こして家の安否を確認に電話をかける。
『…ふぁい』
この声はお空だ。
「お空?家の方はどう?」
『さとり様?ええ、問題ありませんよ』
その妹の方なのだが、今から説明する気力がないのでそういう事にしておくことにした。
幻想郷には異変などもないようで、地霊温泉でのトラブルもうまく対処してるようだった。今はお燐は姉のいた事務所で電話対応をしているらしい。お空もしばらくぶりに自宅に戻ったらしく、ぐったりしているようだった。
比較的に人間の里の近くに出来た河童の湯は客層を親子、子供向けにしており休憩所の他に健康器具を使ったトレーニングやちょっとした(アナログ的)ゲームセンターなどの設備があり人気らしい。
これにより客足が落ちる事になったが、事前に大々的に広告を打っていたのを知っていたお空とお燐は地霊温泉の客層を独身と大人向けの娯楽を充実化させる事を企てていた。
今、人気なのが鬼との賭博場だ。駆け引きは鬼の方が上手いらしく人間が負けてしまう事も多い。それでも、どちらもその駆け引きがとても楽しいらしくどちらもやめられないんだとか。掛け金は高めから低めのテーブルまであって、掛け金なくてもギャラリーとして楽しむ事も出来る。
時折、霊夢が来て鬼を軒並みに負かして金を毟り取っていく事から、旧地獄の赤い通り魔として名が知れ渡ってしまったらしい。…巫女として知れ渡らなくていいのだろうか…。
できれば早く帰って来た欲しいが、自宅や自身近辺にそれほど大きな問題はないとの事だった。そうして電話を切る。
月明かりに照らされ、姉の顔が見えた。わずかに目を開いてこちらを見ている。
「こいし、寝ないの?」
「いや、寝るよ」
私は横になる。姉を胸元に抱き寄せると、頭を撫でた。
「んん、そういう事は姉にしない」
「お姉ちゃんは今から私の妹になるのです」
「妹はこいし!私はお姉ちゃん!」
重い瞼を一生懸命に開いて抗議する姉。「はいはい」と聞き流しながら頭を撫で続けると、その開いた瞼も段々と開かなくなっていく。
「んんん…」
僅かに唸るような声をだすと、私の胸板に頬ずりをしてからすっかり眠りに落ちてしまった。おやすみ、私の可愛いお姉ちゃん。