私の名前は、橙。藍様の式だ。
私の仕事と言えば、食う、寝る、遊ぶ、藍様の癒しになる、だ。
今日は猫会議のボス猫を手なづけ、より強力な橙グループを作ろうと企てていた。
必殺のアイテムは猫じゃらし。こいつでボス猫をにゃんにゃんしてやろう。
しかし、あらゆる場所に部下を巡らせたあのボス猫にその計画は筒抜けだった。
猫会議に殴り込みにでかけたが、人間の里の飼い猫の1匹がマタタビスプレーをかけた
ぬいぐるみを持参していたのだ。
哀れ、マタタビの前では1匹の猫である私は小1時間ほどにゃごにゃごしていた。
やんぬるかな。私は敗北に喫し、「僕でも3分で飽きたのに…」という猫の小言を
背に逃げおおせた訳だ。
この屈辱、忘れはしない。必ずや名誉挽回する。
藍様に頼み、マタタビスプレーに抗う訓練を続けていた。
臥薪嘗胆の日々を経て、ついに目の前にマタタビスプレーをかけたぬいぐるみを見ても反応せずに済む様になった。
ついに復讐の時…!!
と、言う時に藍様から例のお願い事が来た。紫様を起こすから同行して欲しいとの事だ。
今日は大事な日ではあるが、藍様の頼みとあっては断れない。
…というのがここに至るまでの経緯だった。
今や、藍様は紫様の相手をしていらっしゃる。
つい先ほどまで賑やかだったが、静かになった。事が済んだのだろうか。
そろりと襖を開けてみる。
「あ、橙。大丈夫。何もかも上手く行ったわ」
藍様は紫様に跨っている。紫様はというと、藍様を乗せ部屋を4足で歩いていた。
私は静かに襖を閉めて深呼吸をする。
「藍様と紫様がご乱心だ…!!!!」
…木漏れ日がまぶしい。体がぽかぽかする。私は目を開けた。ここは第1拠点だ。私は眠ってしまっていたみたい。
「こいし?」
こいしがいない。もう、離れるなとかいっていつも自分から離れていくんだから…。
手元にある携帯がチカチカと光っている。何だろう。
ボイスメモと、受信メールが1着。
ボイスメモを開いた。
「お姉ちゃん、寝ちゃったから先に探索を進めておくよ。起きたら上空に弾幕を撃って知らせて」
ふふ。休めばいいのに、うちの妹は頑張り屋さんだなあ。
メールの受信履歴を覗いた。紫からのメールだ。何だろう。
『橙です。助けてください。うちの藍様と紫様がご乱心なんです』
「??」
えっと…どゆこと?わからない。見ると、こいしが紫と連絡をしていたらしい。
何故か私とこいしの間に子供が生まれた事になってる。なんで?
さっきの橙をなのる紫のメール、添付された画像がある。なんだろう。
見てみると、紫に欄が跨っている画像だった。
「どういう事だよ!!」
私の心の奥底から、刻まれたツッコミの魂が呼応する。
閉ざされた心が解き放たれ、サードアイが開眼する。
…はっとする。閉眼していた時の記憶が頭になだれ込んできた。
そうだ、私は確か紫に助けを求めて…。考えるんだ。どんな経緯があって、紫の携帯が橙の手に渡ったかを。
橙の住処はマヨヒガの猫の里だ。基本的には八雲紫達とは別居している。八雲紫と藍が同居している家は誰にも特定されていない。おそらく橙1人で家に向かうのは困難だ。藍が連れて行った可能性が高い。
紫は恐らく冬眠に入っている。故に返信をしない。しかし、重要な連絡が来た場合には関係なく対応に走るはず。そのための保険…藍に携帯を預けていたのではないか。当たり前だが、彼女は紫ではない。メールを見る事はあっても、返信はしなかった…という推測もできなくはない。
私達の状況を何とかするためかどうかは分からないが、何かの折に必要あって橙を家に連れて来て、その際に写真の様な事態になって、困り果てた橙が私達に助けを求めたと言う訳だ。
写真から分かる通り、紫は起きている。彼女らがご乱心であれば、正気に戻せば私達が助かる可能性は大いにある。しかし、彼女らの正気の奪還に使える手段は限られている。鍵を握るのは橙。彼女が2人を放って遊びに出かけるとまずい。
何とか橙が家にいる間に手を打たねばならない。しかしどうすればいい!
私の手は考えるよりも早く紫の携帯に電話をかけていた。
身体の動きに考えが追い付く。そうだ、悩んでいても仕方がない。今この瞬間に橙は家を離れるかもしれないのだ。内容なんてかけながら、話しながら考えればいい。
この千載一遇のチャンス、逃すわけにはいかないのだから!!!
『はい、もしもし橙です』
「橙!藍さんに代わって!藍さんの正気は私が取り戻す!!」
『うぇ!?え、あ、うん。お願い』
電話を代わった。私は深呼吸をする。ここからが本番だ。
頑張れ私、私ならできる…。慎重さの中に大胆さを含め、
全力で事に当たれば…ッ!!
この古明地さとりがが切り抜けられなかった物事など
一度だってないんだッ!!!
「もしもし!私、さとりです!藍さんですか!!!」
『はい、藍です』
「具体的な内容はメールに添付しております!何卒お助けください!」
『もちろんです。今からそちらへ向かいます。紫様に乗って』
そう言って電話が切れた。どうやら状況は既に知ってるらしい。助かった。
紫に乗って…と言うのが少し気になるが。
私は天に向かって弾幕を放った。遠くにいるこいしにも見えるだろう。
そう経たないうちにこいしは帰って来た。
「お姉ちゃん、起きたんだね!」
「ええ、少しばかり長く眠りすぎたようね」
こいしはきょとんとする。目をぱちぱちとさせて私をじっくり見た。
「その眠そうな半開きの目、声調を聞けばわかる陰鬱なイメージ…。お姉ちゃん、戻ったんだね!」
「待って、他にあるでしょ。サードアイ。ねえ、サードアイ見て。ほら、開いてる。サードアイ見てほら」
「もうちょっとだけ、目を閉じたままのお姉ちゃんで良かったけどなー」
どういう意味だ。
私は紫と藍が迎えに来てくれる胸を話した。だから、後は座して待つだけだと。
こいしは隣に座って一息ついた。島の3分の2ほどは探索したらしい。人工物の様な目立ったものは何もなかったそうだ。
こいしは頬杖を突きながら少し考える。
「ねえ、連絡がついた時には紫は起きてたんでしょ?いつ来るのかな」
空間の裂け目から出入りするような方だ。私達を今すぐに助け出すぐらい訳ないと思うが…。
不安に思って電話をかけてみる。出ない。橙も、藍も紫も。
実は正気に戻ってなくて、私達を迎えに来ると言って未だに紫の部屋を散歩したりして。
「ひょっとすると迎えに来ないかも」
「えぇ…」
私はこいしに顛末を告げた。写真を見てこいしは笑い転げる。そんな、人のプライベートをそんなに笑わなくても…。
それから結局、夜になっても迎えに来るどころか連絡も来なかった。
希望はなくなった訳じゃない。射命丸さんは私たちのために動ているし、
重役会議の時に正気に戻るのであればあと1週間ほど耐えるだけだ。
…あの時はショックで心を閉ざしてしまったが、思えば時間が経てば解決する事じゃないか。
果報は寝て待つ。それまでここでゆっくりしていればいいのだ。
地霊殿に帰れば、また忙しくなるのだから……。
…情報は鮮度が命だ。この狭い幻想郷、噂はあっという間に広がる。私はあの日の事を悔いていた。
『たまには筆を休めたら?』
レミリア嬢の言葉だった。ここ最近はこれっきりニュースがなく退屈な毎日だった。ありもしない新報のために空を飛び回り続けるのはとても疲れた。
いっそニュースを起こしてやろうと企てるも、あの憎き二枚貝…姫海棠はたてに密かに見張られててできない。
以前、『メイクニュース、ジャーナリズム道に潜む暗黒面』という見出しで私が工作している所を記事にされてしまった。
花果子念報の知名度もあってそこまで話題にはならなかったから火消しは何とかなったものの、
人間の里からの出入りが頻繁なにとり雑貨店で売られている新聞だけに軽視はできなかった。
そんな時、取材をしていたレミリア嬢に一休みするように勧告されたのだ。
そうだ。これまで頑張りすぎていた。ゴムも張りすぎれば伸びきってしまう。
これはきっと休むべき時なのだろう。そう思ってしばらくメモ用紙も持たずにくつろいだり遊びにでかけていたりしていた。
しかし、新報はその時に起きてしまったのだ。
どういう訳か、四季映姫さんが幻想郷に妖怪警察署を建ててしまったのだ。
(度の過ぎた妖怪同士の争いは秩序を乱すため、それを取り締まる…と言う事だった。
どうも他に理由がある気がするが定かではない)
そのニュースを真っ先に取り上げたヤツこそが、あの姫海棠はたてなのだ。
いつもは二の次、三の次と記事に後れを取って発行されるヤツだが、今回は根気強く新報を待ち続けた事もあって早かった。
してやられた。あろう事か大スクープを逃した。
更に大ダメージ。四季映姫さんのと小町さんの婦警コスの写真が更に大反響。まるでアイドルだ。
珍しく写真を大々的に貼り付けた新聞が飛ぶように売れた。
まだまだ今年は始まったばかりだが、ここでつけられた差は小さくない。
棚から牡丹餅ではあるが、奴はチャンスはしっかりモノにする女。このまま勢いを
増せばスポンサーが乗り換えを考えるやもしれない。
「ジャーナリズム道は、牛の涎の様に長く、細く、しぶとく…千切れぬ様に…」
…ふと、古明地姉妹の顔が頭に浮かんだ。
あれから何とかあの2人が帰る方法も模索していた。こちらも収穫なし。
実は霊夢も最近は紫とコンタクトが取れないらしい。
(かなり困惑していた)
少しぐらい励ましのメールをすればよかっただろうか。
むしろ、変に隠したりしなければもっと効率よく情報収集できたのでは…。
いや、本人の希望だ。言うまい。
元気にしてるだろうか。私は携帯を開くと彼女らメールを送った。
『進捗ダメです。そちらの調子はどうですか』
そう経たないうちに返信が来た。
『問題解決の兆しは見えてきました。私達は元気です』
写真が添付されている。さとりさんとこいしさんのツーショットだ。
あれ…こいしさんのサードアイが開いてる。
「これだ!!!」
頭に電撃が走った。いや、実際は何も閃いていない。
しかし、確かなインスピレーション的何かが頭をよぎった。
勢いよく外に出ようとすると、誰かとぶつかった。
それは今しがた会いに行こうと思っていた霊夢だった。
古明地姉妹を帰すための話を挟んでるけど、前置きを長くしすぎてしまう。
かといって丸きりカットすると味気がない。
終盤にさしかかるとまとまりがなくなるのはもう自分の作風だと思う事にした。