これから探索に入る。どんな宝に出会えるのか、とても楽しみだ。
「れ、霊夢!どうしてここに…」
「自伝が書きたいの。その相談に」
「あの、ここ出版社じゃないですよ?というかここ、自宅兼事務所です。半分は
プライベートなんですよ。何で知ってるんですか」
「細かい事はいいじゃない」
全然細かくない。…紅白といい、黒白といい、縄張りだとか領地だとか知らないんだろうか。
言いたい事は山ほどあるが、こちらから相談したい事もある。今は胸の奥にしまい込んだ。
こちらの要件の前に霊夢の要件を聞かないと話が前に進みそうにない。早めに話をつけよう。
「取材なら考えないでもないですよ。それで、どんなネタなんです?」
「博打の必勝法」
「却下です」
「なんでよ!」
即答したら怒った。私はため息をつくとトランプカードを取り出した。ジョーカーを取り除き、52枚の中に1枚だけ、サインしたハートの3を中に入れる。それを霊夢に見せたうえで目の前でシャッフルしてからその場に広げる。
「1枚取ってください」
納得がいかないまま彼女は1枚取った。それはハートの3、私がサインしたものだ。
「…手品でしょ?」
「種も仕掛けもないですよ」
霊夢に背を向けてインクを左手の薬指の先を浸した。拳を作って両手を彼女に突き出した。
「1本だけインクに浸しました。どれだと思います?」
「左手の薬指」
私は目の前で手を広げる。正解だ。
回転式拳銃のおもちゃを取り出す。シリンダーに弾を5つ詰めてセットすると、撃鉄を引いて回す。
それを霊夢に渡した。
「自分のこめかみに当てて撃ってください」
「嫌よ」
「弾が出たらここから好きなものを持って行っていいですよ」
どのみち、弾が発射されたところで飛距離のでないものだ。怪我は絶対にしない。
霊夢はため息をつきながら自分のこめかみを撃った。出ない。
「言いたい事はあります?」
「で、でも…」
「伊吹さんにやられたんでしょ」
何も言い返してこない。どうやら図星の様だ。
霊夢がここ最近、旧地獄を行き来してそれなりに稼いでいる情報は知っている。
自伝を出したいと言い出したあたりでなんとなく察しはついていた。
私は動揺してる霊夢さんに言う。
「ダメですよ、鬼の前で勝負前に勝利宣言したりするのは」
「天狗や河童はあの辺りには来ないはず…」
「伊吹さんは最初相手に勝たせるんですよ。豪快な印象とは裏腹にかなり狡猾で、根っからの勝負師です。身ぐるみ剥がれなかっただけまだ良心的ですよ」
「…やけに詳しいわね」
そりゃあね…。
そろそろ自伝の事は諦めてくれたに違いない。私は霊夢への用事を伝える。端的に言えば八雲紫に会いたいと言う内容。
彼女は頭を掻いて苦い顔をする。
「この間も言ったけどね、会えないの。どう言う訳か」
「今から1週間ほど前、結界が僅かに弱まりましたよね?」
「そう…だったかな。それが?」
「その時に紫さんはあなたの元に現れたのでは?」
「何を根拠に…。紫とは2週間以上会ってないわ」
私はじっと霊夢の目を覗き込む。目を逸らす事はなかったが、いつもの様な余裕が感じられない。これは…ひょっとすると?
携帯電話を取り出すと画像フォルダを開く。
「地霊温泉に行った事は?」
「あるわ。種類も少しずつ増えて来て非常に快適ね。最近は客足が少し減ったけど、客も疎らに広がってとてもくつろげるし利用してる」
「さとりさんには会いました?」
「最近会ってないわね。鬼を相手に大勝したから、祝酒に呼んだ事あるんだけど立て込んでるって…」
霊夢は首を横に振った。そこで古明地姉妹のツーショットを、こいしさんのサードアイだけ親指で隠して見せた。背景は幻想郷にある木々とは異なる種類の林。
そして彼女らが置かれた状況と、それまでの経緯を簡単に説明する。
その間、私は一度も霊夢から視線を外さなかった。彼女は口元をきゅっと結んだまま話を聞いていた。
「……会ったわよ。1週間前に。紫に」
私はペンとメモ帳を手に持った。
「詳しくお聞かせ願えますか?」
…ロマンだ。そこにはロマンがあった。
「お…お姉ちゃん…」
こいしが興奮気味にこちらの顔を伺う。ごくり。私も唾を飲んだ。
拠点より最も離れた島の端、腐れかかっているが木造の人工物を発見した。
もう諦めかけている時だった。確かによく見れば人の手が加えられているのが分かるが、よく気付けたものだ。
「ようし、行くわよこいし。足元に気を付けて…」
言ったそばから何かに足を引っ掛けて転んだ。
「もう、こいしってば…」
鼻をぶつけたらしく鼻頭をさすっている。私はこいしの元に駆け寄ると服についた泥を払い除ける。
それにしても、一体何に足を引っかけたのだろう。見やると木の枝…じゃない。なんだこれ。
根でもないのに枝の様なものが連なって…。
「人骨だこれ」
こいしが先に言った。部分部分がなくなったりしているが、どうやら人骨のようだ。
骨の頭部があったであろう場所の近くには石像の様なものがある。これを持ち出そうとしていたのだろうか。
私達は一緒に先へ進む。
大がかりなものはなく簡易的なものだが、ロープを使ったり木々を組んだりして何かを作ってある。
状態の良し悪しにばらつきはあるものの、どれもどんな用途で作られたか分からない。
更に進むと3つほど白骨死体があった。頭が壊れている物、腕が折れている物、特に目立った損傷がないもの。
使い物にならなくなった曲刀と、よくわからない鉄くずがいくつか落ちていた。
洞窟の前に木の棒が突き立てられ、小さな動物の頭蓋骨が吊るされている。
「向こうの1人、ここで3人。計4人はどうしてあんな所で死んでるんだろう」
「何かを巡って争ったのかな」
洞窟の中はこざっぱりしていて、寝るためのサラシの様なものと装飾品の様なものがあるばかりだった。質素なタペストリー4つとと、ゴザが7つ。ゴザの上にはミイラの様な裸の死体があった。横向きになったまま死んでいて、争った様子は見られない。病死したんだろうか。
ここにいた集団が7人だったなら、後2人分の死体がない事になる。
「2人は生き延びたのかな…」
「お姉ちゃん、あのタペストリー」
見てみると、タペストリーの端が千切れている。中は空洞になっている。ここからまだ先に行けるらしい。上手く隠したもんだ。この先はやけに湿気が多い。
中には金品ザックザク…!とまではいかないが彼らが集めたらしき宝があった。中央で曲刀が刺され死んでる死体があった。これまでの死体は服がボロボロだったのに対し、ここで死んでる死体は中世時代の海賊を彷彿とさせるものだった。
死体は先ほどのミイラの様な死体と違って白骨化が進んでいる。ちょうど彼の死体当たりの上から滴り続けている水滴と何か関係があるんだろうか。
まだ先が続いている。先には…大きな宝箱と、それを背に死んでる死体があった。
こちらの死体はさっきの死体より服を着こんでて、状態が分からない。
こいしは死体が被っていた海賊帽子を掴むとそれを頭に被った。
頭蓋骨がゴトリと落ちた。
「やめなさいこいし」
「ちぇっ、いいじゃん。戦利品だよ」
こいしは宝箱の中を覗いている。私は死体が手に持っていた羊皮紙を取った。何か書いてある。文字の様だ。
文字は滲んでいて読めない。…残念。
『宝はあっても、船員がいないんじゃ島からは出られない』
しわがれた声が聞こえた。
「お姉ちゃん、何か言った?」
「ううん、言ってない。こいしは?」
お互いに顔を見合わせる。そして転がっていた頭蓋骨を見た。右こめかみには穴が空いていた。