少女さとりが無人島から脱出したい話   作:ヤングコーン

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船長の後ろにあった宝箱には何もなかった。
既に荒らされた後と考えられる。
こいしは海賊の宝が手に入らずがっかりした様子だった。

私は妹を喜ばせるべく何とかサプライズを用意していた。
その反応は意外にも…?


※射命丸達の会話は古明地姉妹が無人島についてから6日目の出来事です。
古明地姉妹のストーリーが先に7日に進んでるので、時系列的的な進行が不親切ですみません…。


第9話 海賊の宝、私の宝

「改まった態度で聞かれても、答えられる事は多くないわよ」

 

「知ってる範囲でいいんです。霊夢はさっき、1週間ほど前に会った事を隠しましたね。何故ですか?結界の事と関係が?」

 

「頼まれたのよ、黙っておく様に。いつもみたいに唐突に現れて、結界を緩めろとか」

 

耳を疑った。てっきり、結界を弱め紫を呼んだとばかり考えていた。

紫の方から霊夢の元に現れ、結界を緩めろだなんて…にわかに信じがたい。

 

「???…それは本当に紫さんなんですか?他の妖怪が化けたとかじゃなくて?」

 

「どんな妖怪が、何の目的であの大妖になりすまして私を騙そうとするの?」

 

確かに紫に成りすます事も、紫に成りすまして霊夢をだます事も簡単には思えないが…。

だとすると何の目的なんだろうか。

 

「紫さんは何の目的があってそんな事を?」

 

「知らない。煙に巻かれて私の元を消え去ったのよ」

 

腑に落ちない。どうして結界を緩めさせるような真似をしたのか、どうして自身の事について霊夢に黙秘させたのか。思惑も動向もつかめない。

 

私が霊夢に古明地姉妹の事を伝えなければこの事についても聞く事はなかった。

こいしさんが外に出ようとしたのは偶然だったため計画してた…なんてことはないんだろうが、今の彼女らの現状についてはどう考えているんだろうか。

 

ちんぷんかんぷんだ。

 

『下手な考え休むに似たり。欠けたピースが揃わなければどれだけ長考を重ねても真実には辿り着けない』

 

声が聞こえた。紫だ。辺りを見渡してもいない。

空中に裂け目が出来たかと思うと、彼女は優雅な仕草でこの地に舞い降りた。

 

「考えるという病に侵されると、時折この事が分からなくなってしまう…。ね?」

 

奇妙奇天烈摩訶不思議、服を着て歩く異質。

現れただけでその場の空気を支配してしまうただならぬオーラはまさに八雲紫そのものである。

 

彼女は霊夢の元まで歩くと彼女をデコピンをした。

 

「1週間は黙っておくようにと口酸っぱく言っておいたでしょうに」

 

「事情が事情だけに言わない訳にはいかないじゃない。あの2人は現にまだ幻想郷に帰ってない。紫がどう動いているかも分からないんじゃ、訳も分からず頑なに口を結んでても仕方ないでしょ」

 

「仕方のない子ね」

 

紫はため息をついた。

 

「それで、何がどうなってるんです?」

 

「幻想郷の真上に空飛ぶ幽霊船が現れたのよ」

 

面食らった。訳が分からない。まずそんな物があれば確実に目につくはずだが私は見てない。

そもそも、船というのは水の上に浮くものだろう。それが空を飛ぶとはこれまた…。

 

霊夢も首をかしげている。

 

「空飛ぶ幽霊船も何も、船って空を飛ぶための乗り物なんじゃないの??」

 

「何言ってんですかあんた」

 

幻想郷に海はないが川はある。その上に浮かぶ小舟ぐらい見た事あるはずだが、

なして船を空を飛ぶための乗り物だと勘違いしてしまったのか…。

 

…いや、考えて見れば霊夢の場合は空を飛ぶ船の方が見る機会が多かったのかもしれない。

 

「まぁ結界の外なんだけど、不運にも乗組員の幽霊が1人幻想郷に落ちちゃったらしいのよ。中には入れても外には出れない。幽霊船は乗組員を待って幻想郷の真上に留まってた。位置が特定できたなら結界を弱めたりせずに送り返してやったけども…」

 

「それで、その船はどうなったんです?」

 

「残念ながら他の乗組員を連れて去ったわ。元居た乗組員の幽霊は外に出たでしょうけどその後の事はわからないわね」

 

「…ひょっとして、その他の乗組員というのが古明地姉妹ですか?」

 

「厳密には違うわね。乗組員になれるのは人間だけ。幻想郷の外の人間が1人行方不明になったはずよ。で、あの姉妹はその際に一緒に引き込まれてしまったの」

 

「で、でもあの2人は港から乗り込んだって…」

 

「そういう記憶があるだけでしょうね。遭難までどう過ごしたか聞いたららいいわ、答えられないはずよ」

 

…考えてみれば、霊夢が結界を弱めたのは1週間ほど前…いや6日前になる。古明地姉妹もその時にいなくなってしまった。こいしさんからのメールの内容を振り返れば、確かに船に乗ったその日には遭難してたことになる。どのみち普通の船に乗ったとは考えられない。

 

紫はいくつか用紙を見せた。外の世界のゴシップ誌の切り抜きだった。

さまよい続ける海賊の幽霊と幽霊船についての記述がある。

 

オセアニア近辺で悪逆非道を極めた海賊が、欠落した乗組員を探して世界中を航海しているという話しである。

 

他の資料によればよりセンセーショナルな伝説にすべくかなり脚色されてるようで、大した略奪行為はできなかった様子。海上で乗組員の複数が病に倒れ、海に捨てられてしまった。生き残りが秘密の島に戻る事はできたものの、再出航は厳しく言い争いから内部争いが起きたようだ。

 

「これ海賊の生き残りいないんでしょう?島の場所は不明、誰が海賊の顛末を?」

 

「後年、船長の息子を名乗る男がそう言っていた記録があるらしいわ。でも、その息子が本物なのか、記録の出どころはどこなのか、探しても探しても全然見つからないの。デマの可能性も濃くなったし、諦めたわ」

 

紫は調査のために外に出ていたらしい。時折戻って来ると言っても、幻想郷での不在時間がが長い事を察されるとまずい連中がいる。元より頻繁に出歩いたりしない。自身の不在を悟られないために頻繁に姿を現しては不審がったり勘繰る奴も出てくる。

 

そのため、誰にも具体的な事を告げずにより身を隠して調査にあたっていたという訳である。

 

「…あれ、結局どうやって古明地姉妹を助けるつもりなんです?」

 

「秘密の島の位置が特定できなかったから、いっそ幽霊船に乗り込む事にしたのよ」

 

私は携帯電話を取り出して、調査をもとにおよそ古明地姉妹がいるであろう場所を記した地図を見せた。

 

「本当にざっくりとした位置なのでアレですが」

 

「ああ、それ私の携帯にも送られてたわね。ありがとう、おかげで次の船の出現位置をかなり絞れたわ。あの幽霊船は1週間に1回航海して同じ場所で沈んでる様なの。後は捕捉して乗り込めば、古明地姉妹のいる島の近くに到着するって訳」

 

霊夢は置いてある資料を眺めて首をかしげている。特に世界地図をスケール感が理解できないようだ。

私もネットなんて言う物がこちらで普及して、世界地図なるものを見た時は同じように首を傾げた。

想像もつかないが、世界は自身が思っていたよりずっとずっと広いようだった。

 

いくつかの写真を見比べながら霊夢が言う。

 

「もし捕捉できなかったら次の救出は来週になるの?」

 

「救出は明日よ。来週はないわ。必ず助ける」

 

「随分な自信ね、秘策でもあるの?」

 

そう言って彼女が見上げると、紫は霊夢を指さしていた。

 

 

 

 

こいしは浜辺で不貞腐れていた。肝心な宝箱の中身がなかったのだ。

私は止めたのだが、身なりから船長や副船長と思しき2人の服を探っても何もなかったらしい。

 

「…前人未踏の島じゃないと思ったら、海賊が隠れ家として使ってて、財宝があるかと思えば、既に金目のものは奪われた後…。骨折り損のくたびれ儲けだよ全く」

 

目だって荒らされた形跡は見られなかったが、こいしが確信に至ったのは船長の銃の引き金を引いたはずの右手の指がなくなっている事からだった。その指に指輪がはまっていて、それを力づくで取ろうとして折れたと考察しているらしい。

 

荒らされる前はどれほどの財宝が置いてあったのだろう。皆目見当もつかない。

 

「そう言わないの。探検は楽しめたじゃない」

 

「ぬか喜びもいいとこだよ。はぁ…」

 

もう…。

 

私は袖に隠していたものを取り出す。黙っていたが、実は宝を発見していたのだ。

それは船長の左手の中にあった。左手が拳を作ったまま閉じていた事が気になった。

 

あの場に金目のものはありそうにない。こいしが今みたいにいじける気がしていた。

 

私はこいしが他の場所を探してる間に船長の左手の指を無理矢理折って中を確認したのだ。船長は特殊な意匠が施された金貨を握っていた。大切にしていたのだろう。

 

こいしの機嫌が戻れば戻すつもりでいた。でも、今のままじゃしばらくはあの様子だろう。

私は諦めて金貨を彼女に渡す事にしたのだ。

 

「こいし、これあげる」

 

チカッと光る金貨にガバッと体を起こしてマジマジとそれを見るこいし。

持たせる。見た目よりもずっしりと重い感覚に、こいしは感動している。

 

「わお!お姉ちゃんってばしっかりお宝見つけちゃって!抜け目ないなあ!」

 

「でしょ。ふふん」

 

「…でもいいよ。それはお姉ちゃんが見つけた宝だしね」

 

「そう?」

 

こいしは宝を受け取らなかったが、見つかったという事実だけで満足してくれた。

このお宝は彼に返そう。価値観は人それぞれだが、死に間際まで誰にも渡すまいと握っていたのだ。

 

大切な物を奪われるという事の怖さ、辛さは無人島に来て初日に味わった。

冒険は楽しかったが、海賊の宝はいらない。私の宝は、ずっとずっとすぐそばにあるのだから。

 

私は静かにこいしの手を握る。こいしも私の手を握り返してくれた。

 

 

【挿絵表示】

 




ちょっと時間がなくて校正が充分にできませんでした。

後日誤字脱字がないか確認したいと思うので、お見苦しいとは思いつつ何卒ご容赦くだされば何よりです。

【追記】
校正が終わりました。多分もうないと思います
(割と色んな方に誤字脱字の修正をしていただいているので、恐縮至極です。)
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