ヘパイスに転生してTSアフロディと仲良くなった 作:あっかーまん
「だから!パスの時はトゥキックじゃなくて、インサイドキックにしなさいと何回言わせるのよ!」
「おぉ、そうだったね」
「そうだったねじゃないわよ!ふざけてんの!?」
「真面目にやってるさ」
無駄に爽やかな汗をかきながら、私の叱責をヒラリと交わす波久奴。
アイツはあれから、毎日私の隣でサッカーの練習をしていた。
時折アイツのへたくそすぎるプレーに見ていられなくなり、口を出してしまうのは悔しい。
アイツは才能があるタイプだ、自分の身体の動きを俯瞰的に見ることができるかのように私がプレーやフォームを指摘したときには、その日の練習のうちに意識して練習をやりまくり、翌日にはできてしまうようになるほどだった。
でもまだ一緒に練習をできるほどではない、まぁ普通に部活動でのほほんとやっている奴よりは上手くなっているけど、まだ認めたわけじゃない。
良くて中の下ってところかしら。
アイツは本当に毎日サッカーをしていた、私が居る時も、いない時も、雨な日も台風が来た時だってアイツは放課後にずぶ濡れになりながら練習を続けていた。
最初に見た時は目を疑ったわ、アイツは自分に対する周りの評価のためだけに私に取り入ろうとしていると思ったから。
私の顔色を伺って接待のようなプレーしかしないチームメイトや、有名人のパパの娘である私を腫物のように扱う大人達みたいに。
でもアイツは違った、泥だらけになりながらも必死でボールを追いかける目でわかってしまった。
いやアイツと過ごす数週間のうち、途中から気づいてはいたのだ。
アイツはもう、私の事を考えていない、だだ目の前のボールを真っ直ぐに見ていた。
アイツは、波久奴カオルは本気でサッカーが好きなんだと。
気づいたら私の身体は波久奴の所へ走っていた。
この気持ちがなんなのか自分ではよくわからない、でも胸の奥から湧き上がる感情を抑えられなかった。
台風の大雨でグランドの状況は最悪、一瞬で靴下までびしょ濡れになってしまったけど、構わない。
最終的に傘も投げ捨てて一心不乱に彼の元へ向かっていた。
私が息を切らしながら近づくと、彼は練習を止めてこちらに向いた。
「紫電?ずぶ濡れじゃないか、傘忘れたのか?」
「…なんでよ」
「なにがアンタをそこまでさせるわけ!?先生にひとりぼっちで可哀想な私と一緒にいろって言われたにしても、アンタにメリットなんて何もないのよ!!」
「もういい加減ウザいのよアンタみてるの、優等生でみんなの人気者なアンタがサッカーやる必要なんかないでしょ!?
私にはサッカーしかないのよ!!」
支離滅裂だ、これまでに味わったことない感情は留まることはなかった。
私の悪い感情は今ここに全部出てしまったのではないのかと思うほどだ。
しかしアイツは一瞬驚いたのか目を見開いていたが、すぐにいつもの切長の目に戻りコッチを真っ直ぐ見つめて言った。
「最初にも言ったけど、僕は誰かに言われてサッカーをやってるわけじゃないし、キッカケは紫電だけど、可哀想だとかそんな事を思った事はなかったよ」
アイツはゆっくりと年下の子を諭すかのような口調で続けた。
「正直言うと、ここ数日は紫電の事を考えている余裕はなかったんだ、紫電が教えてくれた事を覚えるのに必死で生徒会の仕事もあんまり手をつけられていないほどに…」
「今日だっていつか試合出た時に雨の日だったら困るでしょ?だから慣れておこうと思ってさ」
そういって泥でグシャグシャになった靴を見せつけてきた。
確かにアイツはここ数日放課後になるとすぐにグランドの端で私と同じタイミングで練習していた、これは生徒会の仕事をほったらかしにしていたからだったとは思わなかった。
コイツは優等生でサボりなんてした事ないやつだと思ってたから。
「アンタ、生徒会の仕事サボってサッカーの練習してたってこと?」
「結果的にサボってしまったな、副会長の相沢さんには迷惑かけちゃったな」
「なんで?なにがアンタをそこまでさせるわけ!?」
私は訳がわからず、責めるように波久奴を問い詰める。
その時さっきまで散々降っていた雨の曇から光が差し込み、眩しい日差しが目に入る。
波久奴も雨が止み、日が出てきたのを確認したのち、ゆっくりとコチラを向き、ハッキリとした声でこう言った。
「初めて好きになれたかもしれないんだ、サッカー」
「今までよくわからなかったけど、ようやく他の事なんてどうでもいいって思えるほど夢中になれる物を見つけたかもしれないから」
柔らかい日差しと共に、波久奴は今まで見たことのないような笑顔でそう答えた。
その瞬間、私を縛っていた鎖のような物がバラバラと崩れた音がした。
有名人の娘という周囲の目や、腫れ物を扱うような教師やクラスメイトたちとの人間関係の憑物が取れた気がした。
もうなにもかもどうでもいい、波久奴のように何にも囚われずに、純粋にサッカーだけを楽しみたい。
というか、楽しめば良かったんだ、サッカーを…
パパに負けない選手になり、有名人の娘ではなく、1人の人として自分を確立するためにサッカーを利用していたのかもしれない。
サッカーを始めた頃は純粋に楽しかった。
パパと遊べてたというのもあるけど、できない事を出来るようになるというのが楽しかったからだ。
「なんだ…こんな簡単な事だったのに」
なぜ忘れていたんだろう、サッカーを愛する気持ちを。
私にはサッカーしかないというのに…
「あ、あともう一つ。」
波久奴は思い出したかのように話し始めた。
「ありがとう、僕にサッカーを教えてくれて。」
「まだ未熟だから、紫電に教えてもらえると助かる、あとお前は1人じゃない、僕もいる、そして世界にはもっとサッカーが上手い奴がいる。
だからクラブチームに入って本格的にサッカーをやらないか?」
「ちょっとまって!アンタ本気なの!?」
話が急すぎて動揺が隠せない、そもそも地元にクラブチームがないと伝えたら、作ればいいさ、なんて簡単に言ってみせた…
どーやって誰が作るのかさっぱり考えてなさそうなアイツの脳天気ぶりに少しだけおかしくなって笑ってしまいそうになったけど、すこし波久奴に救われたような気がした。
ハッキリと言葉でお前は1人じゃないって言われた時は不覚にもドキっとしてしまった。
しかしアイツはまだまだサッカーが下手っぴだ、これからちょっとだけ、ほんのちょーっとだけ、面倒見てあげてもいいかななんて考える事にした。
「これで紫電とようやく友達になれたかな?」
「調子のらないで、アンタみたいな下手っぴが友達なんて10年早いわ!」
友達というワードに少し嬉しくなってしまったが、反射的に憎まれ口を叩いてしまった。
自分の素直じゃないところが嫌になる。
しかし波久奴は笑って
「じゃあ上手くなれば友達になれるって事だな」
と言って、ボールを足で掬い上げリフティング練習を開始した。
「〜っ!う、上手くなれれば考えてあげるわっ!」
コイツのポジティブさはどこから来るのか不思議に思う反面、友達になる事を求められているという事が嬉しくて少しニヤけてしまう。
そのニヤケ顔を隠すために急いで後ろを振り向くと、空には虹が掛かっていた。
この日以降、放課後は波久奴と一緒に練習する事もあった。
まぁ私が指導してあげているって感じだけど!
そもそも基礎練しかしていない波久奴は、応用からフェイントまで使う私に1on1で足元にも及ばず、項垂れていた。
しかし、私に受けたフェイントをコピーするかのように真似し、使用してくる技にはすこし驚いた。
そこから数ヶ月して、パパがクラブチームを作った。
どうやら波久奴が家に来て、パパに直談判したらしい。
「すごい情熱の子だったな!今どき珍しいタイプの子だったのでついOKしてしまった!!」
パパは高笑いしながらこう続けた。
「それに戒もそろそろ全力でサッカーをやりたいと思ってな!」
ポンポンと頭を撫で回しながらそう言った。
パパは忙しいから、学校生活なんか知らないと思ってた。
聞くところによると、数ヶ月前、波久奴がパパに直談判したときに
「少しでも時間を作って紫電を見てあげて欲しい」と言ったようだ。
そこからパパは仕事の休憩中に抜け出し、フェンスの向こうから放課後に校庭でサッカーをする私達を見ていたらしい。
アイツは意外と強引なところがある、たまに人の話を聞かないところもある、そして私に負けず劣らずサッカーが好きだ。
今日も放課後アイツとサッカーをする、最近は学校に行くのが嫌では無くなってきた、アイツのおかげかもしれない…
かもしれないなんて、また素直になれない私が現れてしまう。
もう少し大人になって、素直になれたなら、アイツに感謝の言葉を伝える事ができるのだろうか。
そして、友達になって下さい…と。
ありがとうございます