ヘパイスに転生してTSアフロディと仲良くなった 作:あっかーまん
「ルールは5本蹴って多い方の勝ちよ、私が3本先取してアンタがゼロなら私の勝ち、簡単でしょ?」
紫電はそう言いながら、ペナルティマークの上にボールを乗せる。
「わかった」
俺も初めて着けるキーパーグローブのマジックテープを確認して、目線を紫電に向ける。
見るからに自信満々なのが分かる
「それじゃあ行くわよ!」
紫電は2、3回その場でジャンプして助走の準備に入った。
PKとは一見簡単にゴールを奪えるサッカー内でのミニゲームに思えるが、その失敗率はプロでも低くない。
最適な助走、コース、ボールを蹴る強さ、全てを完璧にできたとしても失敗に大きな影響を与える物がある、それはプレッシャーだ。
相手の行動を読み、自分の思考を読み取らせないように勝負する。
結局のところ心理戦である、そしてPKにおいて相手に最も心理的ダメージを与えるといえるのは…
最初のゴールを防ぎ、自分が先にゴールを決めること。
「よし、こい!!」
つまりこのシュートは絶対に止めらければならない!
中腰で手を広げ全集中をしてシュートを待つ、紫電はゆっくりと助走をとりボールに近づくと素早くシュートの体制に入った。フェイントだがアフロディとの特訓で経験済み
紫電が大きく走り出し右足を振り上げシュートをする、目線は左だが蹴り足が若干ボールの右側(紫電から見て)を蹴っていたのを視て俺はとっさに右へ飛んだ。
そのままボール弾こうとしたときボールが少し右にブレて俺の顔面に激突した。
「ヘゴォッ!?」
「!?」
ボールはそのままゴールの外へいき、俺は無事にゴールを阻止した。
「あ、あんた大丈夫…?」
「…ウン、ダイジョブ」
恥ずかしさと痛みで声が小さくなってしまった。
飛びすぎで顔面ブロックしてしまったが、紫電は明らかに動揺していた、俺がゴールを阻止したというのもあるが顔ブロの効果もあったのだろう、心理的には俺が優勢だ。
「今度は俺の番だ!」
俺はシュートには自信はあまりないが、先制を抑えた事によって心に少しだけ余裕ができた。
狙いはゴールの左上、先ほど紫電が狙ってたコースをあえて狙い裏をかく。
助走を取りボールを蹴る前に紫電の方を見て俺は驚愕した
彼女はロクに構えも取っておらず、ただ俺がボールを蹴るのを待っていた。
一瞬同様したが、俺はそのまま目線のフェイントから左端へシュートを打った。
コースはやや低いが、スピードはある。
確実に決まったと思ったその瞬間、紫電は右手を前に出し
「チェイン・オブ・ヘブン」
そう呟いたときに紫電の背後から無数の黄金の鎖が飛び出しボールに巻きつき、紫電の手の中に収まった。
「…まじかよ」
「悪くないシュートだとは思うけど、私からゴールを奪うのは諦めなさい」
どこか冷めたような目でみてくる紫電。
まさかこの歳で必殺技を習得しているとは、そしてこの完成度はまさに神技といえるだろう。
才能もあると思うが、きっと死ぬほど努力してきたのだろう。
そう思わせられるほどの凄みが彼女から伝わってきた。
紫電のどこか諦めたような、つまらなさそうな態度は自分に匹敵する相手がおらず高め合えるパートナーが居ないという天才ゆえの孤独から来るものだったのか。
その後、調子を崩され紫電に1点を取られたがなんとか残りのシュートはセーブしたものの、俺のシュートは全て止められての俺の最後のシュートの番になった。
ボールを持ったまま呆然と立ち尽くす俺に向かって紫電は
「もういいわ、アンタ結構センスあるしそれなりに楽しめたわよ、パパには私から入団させてもらうように告げ口しておくから今日はもう帰りなさいな」
と呆れたような顔で言った。
「…諦めろっていうのか?」
「そういう事になるわね」
諦めることは簡単だ、もう入団もさせてもらえるらしいし、天才の紫電にセンスを認められているのだ、入団後のレギュラー入りも難しくはないだろう。
ーーーこんなんで終わり?ハハッ!そんなわけねぇだろ!!!
ここで引いてやすやすと逃げ帰るようじゃい今までアイツと練習してきた自分を否定する事と一緒だ。
それにこのイナズマイレブンの世界っていうのは諦めないで挑戦する者に勝利の女神が微笑むって事を俺は知っている!
「悪いけどここで帰るわけにはいかない、ぜってーお前から点取ってみせるからさっさと構えろ!!」
啖呵を切って俺はボールを置き、紫電を見る。
「バカね、何回やってもおんなじよ」
さっさと打ってきなさい、と言う紫電は完全にこちらを嘲笑っていた。
そこは気にしない、気にするとすれば紫電のチェイン・オブ・ヘブンをどう破るかだ。
ーーーやるしかねぇな必殺シュート…
打てるかは分からない、以前から照美と必殺シュートを練習していたが未だに俺も照美も打てたためしはない。
でもやるしかない、できるできないじゃない、やるんだ!
イメージしろ、ひたすら真っ直ぐに、槍の様にゴールに突き刺さるボールの軌道を。
この悔しさも、サッカーに対する情熱も、これまでの照美との日々の思い出も、一つ一つ三叉の槍の穂先に織り込んで。
俺はボールに向かって走り出す、加速して一気に近づく、紫電は未だ余裕の態度だ、だが関係ない。
右足を天へ向けて大きく振りかぶり、振り下ろす。
狙うはゴールの中心、ボールの真ん中をトゥキックで当たることによってシュートの威力に全振りする。
「くらえ!トライデントアロー!!」
「ッ!! チェイン・オブ・ヘブン!」
先程とは何かが違うことを感じ取った紫電は、すぐに必殺技を放つ。
俺のシュートにはぼんやりとだが三又の槍が浮かんでゴールへ真っ直ぐと向かった。
だが紫電のチェイン・オブ・ヘブンの鎖に阻まれ、彼女の元へボールが戻ろうとした時、鎖に段々とヒビが入っていった。
そしてそのヒビは広がり、鎖は砕けた。
しかし、ボールはゴールポストに当たり得点にはならなかった。
「う、嘘よ…こんなの…!」
尻餅をついた紫電は自分の必殺技が破られたことを信じられずに呆然と座り込んでいた。
俺は弾かれたボールの行方を見て自身の敗北を実感した。
でも不思議とさっきまでの敗北感や悔しさなどは感じていない。
ーーーあぁ、やっぱりサッカーって楽しいな
俺は紫電との真剣勝負を楽しんでいたのだ、そして土壇場での必殺シュートの発現。
負けはしたものの、そこには照美との特訓の成果ともいえる自身の成長を感じることができる経験ができた充実感でいっぱいだった。
「紫電大丈夫か? ほら、手貸すから立ちなよ」
俺は座り込む紫電に手を差し出したが
「いらないわよ!!」
と言って叩かれてしまった。
なんで勝ったのにキレてんだろうと不思議に思っていると。
「お疲れ様だ、2人とも!部灰君の最後のシュートは凄まじかったな!!気迫を感じたよ!」
紫電監督が声をかけてきて
「ぜひ君をチームに歓迎したいのだが、どうだろうか!」
顔を近づけて物凄い熱量で言ってくる監督。
俺の気持ちはもう変わりない。
「はい!お世話になります!」
と元気よく返事したのをジト目で背後から見ていた紫電の視線が気になって振り返ると顔を逸らされてしまった。
「戒の事も宜しく頼む!あの子は少し気難しい子だが、根は優しい子なんだ、少しずつでも仲良くしてくれると嬉しい!」
監督に頼まれたら断れないが、紫電は俺と目も合わせてくれず、そっぽ向いたままだ。
「…もちろんです」
返事したはいいもののどうしたものかと悩みながら、今日のところは見学も終わったので帰り支度をして帰宅した。
頭の中の妄想ストーリーを文字にするのってマジで難しい…
オリジナル必殺技は読者様の方で咀嚼して飲み込んで頂けると幸いです。