深夜。
あの後真純を家まで送っていった新一には、再び独りの夜が訪れていた。
今日もまた眠れない。
なんとか眠ろうと、普通は飲まないホットミルクを飲んでからベッドに入ったのだが、やはり眠れず、書斎でぼうっとしていた。
ちょうど日付けが変わったころ、マナーモードにしていたスマホがテーブルの上で静かに着信を知らせた。
見ると真純からだった。
「世良?どうしたんだ?」
『‥ゃま‥ん‥だ‥』
「大丈夫か?」
『秀兄も、ママも、ボクを置いていっちゃうんだ。吉兄だって。ボクは邪魔なんだ。いたって、迷惑になるだけなんだ‥』
「世良!」
『工藤君も、ボクを置いていくの‥?』
「待て、世良、違う。赤井さんもメアリーさんも任務の為に一人で向こうに行ったんであって、世良が邪魔なわけじゃない。羽田名人も、『そんなことない!ママも秀兄も、敵とかに狙われる弱味になるから連れてけないって言ったし、吉兄だって新婚生活なのに仕事で2人きりになる時間が取れないって言ってた‥!ボクはいらないんだ‥!』
真純の悲痛な叫びに、新一はおそらく朝彼女自身が言っていたように魘されていたのだろうと判断した。
だがどれだけ言葉をかけても届かず、うわ言のように『ボクは邪魔なんだ』と繰り返す真純に、新一は落ち着かせる為深呼吸を促してから、真純の住むマンションの住所を訊いた。
「今からそっちに行くから、何か飲み物を飲んで、身体を冷やさないようにして待ってろ。」
『‥え‥?ここに?来てくれるの‥?』
「ああ。電話は繋いでおくから。」
真純の住むというマンションは存外近く、深夜で通行量の少ない道路を(探偵である新一としては事件以外ではあり得ないことに)スピード違反しながら車を飛ばせば、10分とかからなかった。
「世良!」
マンションのドアを開けた真純は新一を認めると、あの時のような虚ろな瞳から涙をこぼした。
「くどう、くん…」
覚束ない足取りの彼女を支えながらリビングに行き、ソファに座らせる。
「くどう、くんは、ボクを置いてかない…?」
「ああ。ここに、世良の側にいる。」
「ほんとに…?一緒にいてくれる…?」
「ああ。今だって来ただろ?」
涙声のまま何度か繰り返すと、真純は安心したのか「そっか、居てくれるんだ…」と呟き、力のない笑みを浮かべながら新一の胸によりかかった。
「おい、ちょっと、ここで寝たら身体冷えるぞ。」
揺らしてもまともな反応が返ってこない真純を、新一は抱き上げて隣の部屋に運んだ。
真純がきちんと眠ったのを確認して帰ろうとした新一はそこで気づいた。
「帰れねーな‥」
真純が眠ってしまった以上、内側から鍵を閉める者はいない為新一がそのまま帰るわけにはいかない。
だが勿論新一は真純の家の鍵など持っていない。
残る選択肢は、真純の目が覚めるまで‥つまり朝まで、新一がここにいることである。
だがその方が‥同じ家に彼女がいた方が、昨日のように寝れるかもしれないくらいだ、と新一は考えた。
「ソファ借りるぞ」
返事がない事はわかっていながら、むしろ返ってこないよう、ちゃんと眠れているよう願いながらも、礼儀として小さな声で寝室に向かって呟いた新一はコートを脱いでかけ、ソファーで眠りについた。