2人の共同生活は順調に進んでいた。
隣家で志保に作ってもらうわけにいかなくなってから台所に立つようになっていた新一は、振る舞う相手がいることにより、更に色々なレシピに挑戦した。元来飲み込みの早い彼が料理上手になるのに時間はかからず、真純は毎日帰宅するのが楽しみになった。
「今日のご飯何かなあ‥」と嬉しげに呟き、友人に誰に料理を作ってもらっているのか質問攻めに遭い、かわすのに苦労する、なんて一幕もあったほどだ。
新一の方も、帰宅すると真純が「ただいま」と言ってくれる生活は心地が良かった。
事件解決後、処理を手早く進め、早く帰りたそうに時計をちらちら見る新一に、高木は何があるのかと首を傾げ、妻の美和子やその婦警仲間の苗子たちは彼女と同棲してるのでは、と騒いでいた。
なによりも、2人はうなされることも無く、寝つけないこともなく、ぐっすりと熟睡することができていた。
また、真純は新一の相棒代わりを務めるようにもなっていた。
2人共探偵である為、事件などの際は共に協力しあうことにより、お互い捜査が早く進み解決に早く至ることができていた。
お互いの弱い部分を見せ合うことのできる存在は家族が側にいない2人にとって大切なものだった。
家族同然の感覚で、2人はお互いを名前を呼ぶようにもなった。
恋人でもない若い男女が一つ屋根の下、という状況は世間的には褒められたものではない為誰にも明かしていなかったが、彼らが誰かに悟られるようなことはなかった。
ルームシェアを始めて1ヶ月程経ったある日。
新一のもとに九州から依頼が入り、その日は丁度真純にも別の依頼が入った為、これまで出張依頼が入った時のように、新一と共に調査に行くわけにもいかなかった。
九州であれば、日帰りは難しい。
2人は久しぶりに1人で眠ることとなった。
依頼を終えて帰宅した真純は、灯りがなく、人の気配も無い家に寂しさと不安を覚えながらも、夜には眠りにつくことができた。
新一はというと、依頼が夜までかかり、やはり帰ることは難しかった。
だが、彼は1人で眠ることが恐ろしく、また真純のことも心配になり、結局、ホテルの予約をキャンセルし、最終便で東都に帰ってきた。
灯りの消えた我が家に着いた新一は、自分の部屋に向かおうとして、真純部屋から微かに漏れ聞こえる悲鳴に似た声に顔色を変えた。
「おい、真純!大丈夫か?」
扉を叩きながら声をかけるが、返事は無いまま、声は止まない。
やむなく、いつしか友となってしまった、自身と瓜二つのかつての宿敵から教わったピッキングを使ってまで開けようとした新一は、鍵がかかっていないことに気づいた。
「‥っ入るぞ!」
真純は、ベッドの上で、枕を抱きしめながらもがいていた。
「真純、聞こえるか?」
新一は真純のベッドの横に行き、耳元で囁いた。
うっすらと目を開けた真純は、新一の姿を認めると涙をこぼした。
「しん、いち、くん‥?」
「ああ。」
真純は新一の方に手を伸ばし、新一の腕をとって、ようやく安心したように息を吐いた。
「大丈夫か?うなされてたのか?」
「うん。いままで平気だったのに、今日は、また、あの夢、見ちゃって‥」
「大丈夫だ。オレはここにいる。一緒にいる。」
「うん。ありがとう。もうちょっと、こうしてても、いい‥?」
「ああ。」
やがて真純が寝入ったことを確認し、新一が真純の手から腕を外そうとすると、真純はそれに気がつき離れようとした新一の襟元と腕を掴んで引き留めた。
「ちょっと、離してくれ。」
「やぁ…一緒にいてくれるって言ったじゃないか…」
小さな子供が駄々をこねるように眉根を寄せてむずがった真純は、そのまま新一をベッドにひきずりこんだ。
「わっ、おい、真純…」
「ふふ…いっしょ…」
そう笑みを浮かべて嬉しそうに呟く真純が自身の胸元にしがみついていては、ベッドから出ることは叶わない。
柔らかい笑みを浮かべ、仕方ないというようなため息をついた新一は、依頼で疲れていたこともあり眠気に耐えきれなかった。
「おやすみ、真純。」
「おゃ、すみ…」
真純の猫のような柔らかいくせっ毛をひと撫ですると、新一もまた眠りに落ちていった。