猫に極振りした男の末路 作:猫を愛でる
もう投稿されることはない。
男、いや、猫がNWOの世界へと降り立ってから数日が過ぎた。
数日過ぎたが、彼は初期位置である町から一歩も出ず、ただ寝転がって過ごしていた。寝転がって過ごしていたためレベルは当然1のまま。
こいつ何のためにNWOやってんだよと疑問に思うだろう。無論、この男にその疑問をぶつければ「二度目の人生……いや、猫生を謳歌するためだが?」と真顔で答えるであろう。狂人である。
さて、この猫は数日NWOやってきたわけだが、その事柄は大変少ないためダイジェストでお送りすることとする。
まず猫になった男、タマがNWOに降り立ってまず始めにしたことと言えば、この町の散策である。土地に住みついた猫は餌をもらえる場所や寝床を押さえているものだ。猫を始めて初日の男も、それに倣って餌をもらえる場所と今日寝る場所を探し始めた。
町をキョロキョロと見渡しながら散策していると、赤い鉄鎧を纏った大楯の男が近づいてきた。ほー、と関心したように顎に手を当てたあと、挙動不審に回りをキョロキョロと確認しながら近づいてくる。
……見るからに怪しい男よ。でも分からんこともない。この完璧な猫の姿に興味を示し、大人しければ触ってやろうという魂胆など見え見えである。
だが、それを無言で待つのも、また猫よ。男は近づけた大きな手で、頭から背中をなぞるようにして猫を撫で始めた。
「へぇー、NWOでもNPCの猫がいたのか。結構町には居たつもりだったんだが、気付かなかったな」
そりゃそうだ。この猫はつい先ほどこの世界に降り立ったのだ。初めて見るのも頷ける。
「名前はっ……と、あー表示されないな。てことは名無しか」
「みゃう」
俺にはタマという立派な名前がある。そういう意味合いで猫は鳴いたが、そんな意味が込められていると思っていない大楯の男は、「返事しやがった」とそのまま撫で続けた。
撫で続けられそろそろウザくなってきた猫は、スルリと大きな手から逃れると、ててて、と路地裏へと消えていった。
この男と出会ったのが原因で、掲示板にて話題になっていたと知るのは随分後の事であった。
さて、人に見つかると面倒臭いと知った猫は、壁をつたって適当な家の屋根へと躍り出た。
清々しく気持ちのいい風が通り抜けた。空を見上げると太陽がポカポカとした光を地上へと降り注いでいた。
ふむ、これは絶好の昼寝ポイントなのでは? 現実の人の喧騒に疲れていた猫にとっては、ここで寝ること以外の選択肢はなかった。
さっそく、身体を屋根に預け、うにゃうにゃと寝転がりながら一番のポジションを探し始める。数分後「あっ、ここやんけ」という場所を見つけ、そのまま目を閉じた。
……ぽかぽかして気持ちがいい。
……たまにそよぐ風が丁度いい。
……すやぁ
……スキル【休息】を取得しました。
……すやぁ
…………
………
……
はて、寒さに目を開けば外は真っ暗闇だった。夜になったかと伸びをしてから、つったかと地上へ降りると、昼と比べて人口密度は少なかった。だが、それと反比例するように賑わいは大きくなっていた。
多くの光がある方へと猫は歩みを進める。近づいてみると分かったが、どうやら飲食店のようだ。酒と肉を両手にわいわいと話しに花を咲かせている。
……猫は寝ていた頭の回転をあげて、その光景からひとつの解を導きだした。
此処こそが餌の貰いどころでは?
思い至った猫は早速向かった。しなりしなりと「おう、猫のお通りだぞ」と言いたげに歩くと、酔っ払いの視線も一人二人は向くというもの。
「あらぁ?ねこちゃんじゃなぁい、おいでー?」
両手を広げる水色の髪の女に近づく。あっ抱き上げるのは禁止で、って遅かったか。猫はそのまま抱き抱えられた。
「うふふー、かわいいですねー」
抱き抱えたと思ったら、猫を膝においてわしゃわしゃと雑に撫で始めた。こやつ酔っておるな、と猫は察する。とりあえず「ヴ~」と不機嫌ですよと鳴き声で伝えると、「あー、怒らないで怒らないで」と言いながら料理に載った皿の方に手を伸ばした。おや、これは?
「ん? その猫……昼に会ったやつか」
「なにぃ~クロム、この猫さまに私より先に出会ってたってこと~?」
「いや、たまたまだって」
(はよ飯よこせ)
「……て、おいおい。猫に人の食べ物あげたら駄目なんじゃねーのか?」
「いいのよ。どうせここはVRMMOなんだから、猫になにあげても大丈夫よ」
小皿にサーモンのカルパッチョが少し盛られて出される。本来なら駄目な行為だが、ここは電脳世界。そういうことも許される。
猫は前に出されたサーモンにパクリと食い付いた。
うめ、うめ。
脂のよくのったサーモンもさることながら、その脂っこさを打ち消すレモンのカルパッチョソースが旨さを引き立たせる。
いつのまにか猫は無我夢中にサーモンを齧りついていた。
「ふふ、凄い夢中に食べてるわねー」
「……それにしても、こんなよく作られたAIもあるもんなんだな」
「もう、ここでAIとか言うのはちょっとテンション下がるんですけどー」
「あ、あー。ごめんて」
何か痴話喧嘩をしているようだが自分には関係ないことだろうと、猫は最後の一切れであるサーモンに齧りついた。
『スキル【奉仕される者】を取得しました』
変な声が聞こえたが、これも自分には関係ないだろう。
こんな感じで、屋根で昼寝したり、散策したり、餌を貰ったりという平和な野良猫人生を送っていた。
猫になってからというもの、男の心の満たされ具合は恐ろしいほどに満たされていた。猫最高。やっぱ猫しか勝たん。
くあっと大きな口を開けて欠伸をしつつ、ゴロゴロと寝転がる。
今日は町の中心にある水場の縁で寝ていた。
初心者の初期位置であるこの広場は、上級のものから初心者と、色んな人が通りかかる。それを眺めながら眠気を待つのが最近の楽しみである猫は、今日も今日とて行き交う人々を眺めていた。
「わぁ~、今のVRMMOってこんな風になってるんだ!」
お、初心者だ。と、猫は観察する。初期装備と初期の大楯を装備した少女。大楯かぁ、戦いに興味ないし持つためのお手々も肉球に変えてしまったから、もう物を持つことはこの姿では叶わないな。とか思いながらウンウンと唸って動かない少女を眺めたいたら、例の少女が明らかに視線を此方に向けて歩いてきた。これは撫でられるな。
「わぁ!三毛猫だー!モフモフしてて可愛いねぇ」
予想通り頭を撫でてきた少女に、黙って撫でられる猫。「えへへー、可愛いねぇ」と延々と撫でてくる少女に呆れつつ、撫でられていると、撫でていた少女は急に声をあげた。
「あっ!猫ちゃん撫でてる場合じゃなかった!えっと、モンスターと戦える場所戦える場所……」
どうやらこの少女は狩場を探しているようだ。……これでも猫は数日前から町を探索し尽くしているため、何処を行けば狩場に出られるかも熟知している。
しかたないにゃあ、と重い腰をあげて水場の縁から飛び降り、狩場の方角へと数歩いったあと、振り返って「みゃお」と鳴く。
「……? ……あっ、もしかして案内してくれるの?猫ちゃんありがとー!」
どうやら自身の意図は伝わったようだとひと安心したあと、そのまま歩いていく。
「まってー、猫ちゃん早いよー!」
その声に立ち止まって後ろを見ると、随分と遠くで少女が走っていた。……めっちゃ遅くね?
途中立ち止まりながら案内した。
「あ、ここから外に出れるんだ!案内してくれてありがとう猫ちゃん」
頭を撫でられる。まぁ、もう慣れたが。
ひとしきり撫でられたあと、じゃあねーと元気そうに手を振りながら奥へと消えていく少女を見送ると、そのまま踵を返して広場へと戻っていった。
今日は案内という大仕事をしたから、よく寝れそうだ。とか思いながら。
ちなみにこの猫の中身は33歳独身の男だということを忘れないように。
最後にステータス載せておきます。
タマ
Lv1
HP 38/38
MP 16/16
【STR 0】
【VIT 0】
【AGI 50】
【DEX 50】
【INT 0】
装備
頭【空欄】
体【空欄】
右手【空欄】
左手【空欄】
足【空欄】
靴【空欄】
装飾品【空欄】【空欄】【空欄】
スキル
【休息】【奉仕される者】【人間観察】