フェイトと出会った日から数日後、悠となのはは、より一層魔法の練習とジュエルシードの捜索に精をだしていた。そのためなのは達には疲労が溜まり、何時ものように公園で魔法の練習をした帰りにユーノから休息の提案が出された。
「なのは、ここ数日ちょっと頑張りすぎだよ。明日は日曜日で学校も無いんでしょ?明日はゆっくり休もうよ。」
「でも、ジュエルシードが……。」
目的の為に休む暇は無いと考えるなのはであったが
「いやー、休もう。もうめっちゃ休もう。俺ももうかなり疲れてるんだわ。てか休みを下さい。」
悠が気を利かせ、なのはに休む理由を与えた。
「そ、そんなに疲れてるんだ……。ゴメンね悠くん、明日はわたし1人で…」
「よし、明日は一緒にどっか遊びに行こうぜ!なのはとは最近よく一緒にいるけど一緒に遊びに行ったこと無いし!」
休む理由を与えたにも関わらず、頑張ろうとするなのはに悠は一緒に居て無理やり休ませる事にした。ちなみにすずかの家に行ったのは遊びにではなく尋問の為であると考えているのでノーカウントである。
「えぇ〜‼︎えっと、なら明日の朝…」
なのはは急な申し出であったが、真面目な性格ゆえに明日の予定を提案する。
次の日なのはと悠はある河原のグランドに来ていた。
「紹介するね、この人がわたしのお父さんだよ。このサッカーチームの監督さんなの。」
「初めまして、なのはの父の高町士郎です。今日は応援に来てくれてありがとう。」
「天海悠です。いえ、俺もサッカーは好きですから。」
そこで悠はなのはの父、士郎と出会った。どうやら士郎はサッカーチームのオーナー兼監督を勤めているとの事で、
今日は試合があるようだった。
「しかしなのはが男の子を連れて来るとは思わなかったな。少し驚いたよ。」
「お、お父さん!何言ってるの⁈」
士郎は娘が初めて男の子を紹介してきたことに娘の成長を感じ喜びを、また同時に寂しさも感じていた。そのため少しなのは達をからかうような事を言ってしまったのである。
「そうなんですか?サッカーの試合なら寧ろ男の方が興味ありそうですけど。」
「悠くん…、全然慌てないね。」
「あ…あぁ、いつもはアリサちゃんとすずかちゃんだったからね。(この年の男の子だとまだ意識しないのかな?)」
しかし焦るなのはとは裏腹に悠は冷静に感想を述べていた。その事に士郎は少し安心感覚えてしまった。
「なのはー、おはよー。」
「なのはちゃん、天海くんおはよう。」
悠達が話しているとアリサとすずかがやって来た。
「おはようアリサちゃん、すずかちゃん。」
「うぃーっす。」
なのはは今日の試合に悠だけではなく、アリサとすずかも呼んでいた。
「気の抜けた挨拶ねぇ。そんなんだから猫に潰されるのよ。普段からナヨナヨし過ぎなのよ。」
「ありゃ猫が凄かったんだよ。あんなフライングボディプレス食らったら誰でも同じ結果だったさ。てか俺そんなナヨナヨしてなくね?」
先週末、すずかの家にてかなり長い時間アリサ達の前から姿を消していた悠となのはは、週明けにその理由を聞かれる事となっていた。悠はその時に猫にフライングボディプレスを受け、気を失っていたと説明したのであった。
「ウチにそんな猫いたかなぁ?」
「あははは……。あの猫は凄かったの。(サイズがとはいえないよね。)」
実際悠は猫に潰されていたので、なのはと悠の表情から妙にリアリティを感じた為、アリサはその話しを信じることにしたのである。
序でにアリサは当初なのはと悠が仲良くなった経緯を知る、という目的ですずかの家に呼んだのだが忘れてしまったようだ。悠にとって僥倖であった。
「しかしあの翠屋JFCの監督がなのはの父親だとはなぁ。」
悠は小学生の頃からサッカーが好きで様々なクラブチームから勧誘されるほどの実力があった。その中の1つが翠屋JFCであった。しかし丁度その頃祖父が倒れ、彼は家事をするため、そして何より祖父が遺した財産をムダに使えないと考え、誘いを断ったのであった。
「悠くん?どうしたの?」
「いんや、なんでもないさ。」
「なのはちゃん、天海くん試合始まるみたいだよ。」
悠達が話していると試合の時間になったらしく、選手達が中央に集まった。
「このあたしが応援してるんだから絶対勝ちなさーい!」
「それって応援なのか……?」
試合が始まって早々、アリサのヤジか応援かわからない怒号が響く中、事件は起こった。
「何やってんのよ!しっかり……あれ?」
「あの子、蹲ったまま起きないな。」
ボールを持った翠屋JFCの少年が相手チームのスライディングによって転ばされてから起き上がらなかった。
「もしかしたら怪我したのかも。わたしお父さんの所に行ってくるね。」
「待ってなのはちゃん、私達も行くよ。」
なのはは直ぐに士郎の元に向かい、すずか達も後を追った。
なのは達が士郎の元に到着すると丁度倒れた少年の治療をしているところであった。
「うーん、思ったより酷いな。これは暫くは動かさない方がいいね。」
「す、すみません監督!」
治療をする士郎に謝る少年は本当に申し訳なさそうであった。何故なら少年は応援に来ていたすずかに見惚れていてパスが来ても惚けていたのである。
「多分チームメイトの何人かも気付いてるだろうな……。可哀想に、向こう一年間はそのネタで弄られるだろう。」
悠はその哀れな少年に合掌をしていると、後ろから声がかかって来た。
「天海君、だったよね。君サッカーが好きって言ってけど、良かったら彼の代わりに試合に出てくれないかい?」
「えっ⁈俺ですか?」
実は士郎のチームには今日は偶然にも交代メンバー居らず、このままでは1人少ないまま試合を続行することになるのである。
練習試合とはいえ、士郎はチームのみんなを勝たせたかった。
「いいじゃない、少しは運動して身体を強くしなさいよ。」
「わたし、悠くんなら活躍できると思うの!」
アリサとなのはの言葉に少し迷った悠であったが
「よっしゃ、やるか。」
試合に出ることにしたのである。
悠がユニフォームに着替えてグランドに立ち、試合が再開しようとする時にユーノから念話が届いてきた。
『意外だったよ。悠はこういうの面倒臭がってやらないと思ってたのに。』
『ん?ユーノ居たのか?俺も最初は断ろうと思ったんだけどさ、これも訓練になるかと思ってよ。ほら俺って魔力弾も打つけど基本肉弾戦だからさ。』
『なるほどね。普段の訓練も殆んどは魔法の扱い方だもんね。でも居たのかは酷いな……、確かに他の人がいるから目立った行動は取れないけど。』
『悪い、悪い。……おっと試合が始まるみたいかだ。そんじゃユーノ、また後でな。』
『うん、試合頑張って!』
会話が終わってから少しして、試合が再開されたのだが悠は違和感を感じていた。
「あれ?俺ってこんな足遅かったか?…っはぁ!しかも直ぐに息が上がる……し!」
悠は先ほど倒れた少年の役割、左サイドのミッドフィルダーをすることになったが、思ったように動けずに苦労していた。
「いくら小学生に戻ったからって、こんなに体力が落ちるなんて…。ヤバイッ……!間に合わねぇ。」
試合も終盤に差し掛かった頃、味方陣地に攻めて来た相手に接近しようとした悠だったが、思ったより走る速度が遅く敵の侵入を許してしまう。
「何やってんのよ!天海!あんた負けたらどうなるか分かってんでしょうね⁉︎」
その事で更にヒートアップするアリサであったが、結局シュートを打たれてしまった。
「うわっ!やられ……っておぉっ⁈」
誰もが点を入れられたかと思ったが何とゴールキーパーがスーパーセーブを見せる。
「すげーな、今のを止めるなんて。おっと!こっちに来るな。」
そのままゴールキーパーは高くボールを蹴り上げ、丁度悠の真上あたりに来た。
「よっと。流石にトラップとかはできるな……っと!それじゃあ反撃開始だ!」
悠はそのボールを繊細なトラップで受け止め、トリッキーなドリブルで敵地を切り抜けて行った。
「天海くん、す、凄い……!」
「天海ってこんなにサッカー上手かったの⁈」
「悠くんどうしたんだろう?」
悠の快進撃にギャラリー達は1部を除き、驚きの声を挙げている。
「おっ!良いとこいるじゃん!」
悠が視線を動かすと、悠を止める為に集まった相手選手の隙をつき、フリーになっている味方選手を発見する。
「頼んだぜ、そら!行っけー‼︎……ってあらら。」
悠はすかさずパスを出し、通りはしたがなんとパスを受けた味方選手のシュートはクロスバーに直撃して空を舞ってしまう。
「でもまぁ、弾かれた位置が良かったな。」
空を舞ってきたボールはパスを出し、自由に動けるようになった悠の前方に飛んできた。
「ちぇいさー‼︎」
悠はタイミングを合わし、落ちてくるボールをダイレクトにシュートして、見事ゴールネットを揺らすのだった。
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悠がゴールを決めた後、相手チームはチャンスを作れず翠屋JFCは1ー0で勝利した。
「凄かったよ天海くん!サッカー上手だったんだね。」
「あんたがサッカーやるところなんて想像すらできなかったからビックリしたわよ。」
悠はすずかとアリサの言葉を受け、アリサの言葉に強い違和感を覚えたが、とりあえずアリサの言葉は無視することにして答えた。
「そんな事ねぇよ、自分の足の遅さに絶望するかと思ったぜ。俺ってあんなに足遅かったか?」
「何言ってんの?他の人と同じくらい速かったじゃない。あんた体育の授業手を抜いてたの?」
「え?どういうことだ?」
「天海くん体育の授業でその……速い方じゃなかったから。」
「と言うかほぼドベじゃない。」
「え……?そうだっけ?(どういうことだ?確かに小学生に戻った分遅くなったと思うが……。あの頃も徒競走では負け無しだったはずだ。)」
悠はアリサとすずかの話しを聞き、先ほどの違和感についても考える。
悠は小学生の頃から勉強はイマイチだが運動能力は優秀であり、学校の休み時間や放課後はグランドでサッカーをしていた。それ故に教室で談笑したり、塾へ行くなのは達とは殆んど会話をすることも無かったのである。
「(バニングスが俺がサッカーをする姿が想像つかなかった、ってのも気になるな。じいちゃんが死んでからはサッカーを殆んどしなくなったとはいえ、休憩時間には毎回やってたし全く見てないなんてことがあるのか?)」
「ありがとう天海君、おかげで助かったよ。どうだい?よかったらこのままウチのチームに入らないかい?」
少し考え込む悠であったが士郎に声を掛けられて思考を中断した。
「すみません、今は他にやることがあるので。」
「そうかい?君なら上を目指せると思うんだけど……。まぁあまり無理強いはできないからね。」
悠は先ほどのアリサ達の自分に対する記憶の違和感について、なのはにも意見を聞く為に士郎の誘いを早々に断った。そして先ほどから姿の見えないなのはを探すと、みんなとは少し離れた所であっさり見つけることができた。
「あんな所にいたのか。」
『悠くんお疲れ様。』
なのはを発見すると同時に、悠になのはからの念話が飛んできた。
『ありがとよ。でもどした?急に念話での話しなんて。」
『うん、悠くんさっきの試合、普段の悠くんに比べて何だか凄く動きが悪くなった気がして……。やっぱり魔法の練習やジュエルシードの捜索で凄く疲れ…』
『やっぱりなのはもそう思うか⁈丁度俺もそのことを聞きたかったんだよ!』
悠はなのはに聞きたかった質問をする前に、同じ疑問をなのはが持ったことに興奮して更に詳しく聞いた。
『う、うん、普段の悠くんなら一瞬でボール所まで移動できるよね?』
『普段ってジュエルシードを探す時の話かぁ〜。あれは魔力で強化されてるからできる動きに決まってるだろ…。』
『あっ‼︎そっか!寧ろ今が普段の悠くんになるんだよね。』
『普段がアレだと俺は化け物だろ……。』
なのはの感じていた疑問が自分の物とは違っていたことに悠は落胆の色を隠せなかった。
『にゃはは。ゴメンね、どうしても魔法を使ってる時の悠くんが印象強くて。でも悠くんも動きが悪くなったて思ったんだよね?』
『あぁ……ちょっと聞きたいんだが、俺達がユーノに出会う前の俺って体育の授業中の印象ってどんな感じだ?』
『え?うーん…あんまり積極的じゃないよね。体力測定も多分わたしと同じくらいだったけど、やっぱり手を抜いてたんでしょ?』
『そっか……わかった、サンキュー。(やっぱりアリサ達と同じかな?幾ら何でもなのはと同じくらいってのはありえねぇ。いっそ俺が未来から来たってバラすか?いや…そんなことしたら正気を疑われるな。それに…)』
「天海君、これからウチの店で祝勝会をしようと思うんだ。よかったら来てくれないかな?なのはもそんな所にいないでこっちに来なさい。」
なのはとの念話で悠は益々疑問を膨らます事になったが、またしても士郎に声を掛けられてしまう。その後士郎の言葉で集合した悠達はそのまま士郎の営む店、喫茶翠屋にて行う祝勝会に参加することになった。
「いやー、なのはの母さんの料理美味いなぁ。」
「ホントよね、ウチのシェフにも全然負けてないわ。」
「うふふ、ありがとう。どんどん食べてね。」
祝勝会ではなのはの母親、高町桃子が料理を振る舞い悠はその出来栄えに感動していた。
しかしそんな中不満の声が上がるテーブルがあった。
「なんかあの助っ人の子ばっかりヒーロー扱いなんて嫌な感じよね。あの子のミスで危うく点を取られるところだったのに。」
「ま、まぁ、もともとあの子がチームに入ってくれなかったらあのスペースは空いてたからさ…。それに僕は気にしてないから。」
そのテーブルはスーパーセーブを見せたゴールキーパーとチームのマネージャーのいるテーブルであった。マネージャーの女の子は悠にばかり注目が集まることに不満の声を挙げ、ゴールキーパーは何とか彼女の気を落ち着かせていた。
その後アリサとすずかは習い事があるため悠より早く翠屋を後にしたので、悠となのはは2人でジュエルシードの捜索
範囲などを話し合うのだった。
「ふぅ、食った、食った。ご馳走様です。料理ありがとうございました、とっても美味しかったです。」
「ふふふ、ありがとう。よかったらまたお店に顔を出してね。」
「あぁ、いつでも来てくれ、歓迎するよ。」
そして祝勝会もお開きになったところで悠は桃子と士郎に礼を言い、帰る準備をした。それに続き翠屋JFCの選手達も解散し、それぞれ帰り始めた。
「なのはも今日は誘ってくれてありがとな。楽しかったよ。」
悠がなのはにも挨拶をするのと時を同じくして、ゴールキーパーの少年はバッグから何かを取り出し、それをポケットに入れてマネージャーの女の子の所に向かって行った。
「あれ?今の感覚……。」
その際になのははジュエルシードの気配らしき物を感じたのだが
「どうした?なのは?」
「ううん、なんでもない。わたしも今日は凄く楽しかったの!また明日から頑張ろうね!」
なのはは悠との会話を優先するのであった。
「あぁ!じゃあ、また明日な。」
そう言って悠は自分の家に帰って行った。
「気の所為だよね……。」
悠が見えなくなった後、なのはは誰に言うでもなく小さくそう呟くのであった。