悠が帰りその姿が見えなくなってから、なのはは自分の部屋でユーノと休んでいた。
「なのは、どう?今日は少しは休めた?」
「うん!なんだかリフレッシュできた気がするの。ありがとうユーノくん。」
「お礼言うのは僕の方だよ。なのはにも悠にも凄く助けられてるから。」
「にゃはは、なんだか照れちゃうの。」
一方その頃ゴールキーパーの少年とマネージャーの少女も家に帰る途中だった。
「やっぱり私はあの子ばかり褒めらるのは納得できないわ。」
マネージャーの少女は未だに機嫌が悪いようだった。
「まだ機嫌は直ってないんだね……、そうだ!実は君に渡したい物があるんだ。気に入ってくれるといいんだけど…。」
相変わらず機嫌の悪い少女に少年はポケットから青く光る宝石のような物を取り出した。
「うわぁ、綺麗な石……、ありがとう!すごく嬉しいわ!」
石を受け取った少女は久しぶりに笑顔をみせ、ようやく少年は安堵する。
「うん、気に入ってくれて僕も嬉しいよ。(よかった、機嫌も直ったみたいだ。)」
「でもあなたの事を認めてない人達には本当ウンザリするわ!」
「はぁ……、直ってなかった。…っ‼︎なんだ⁉︎この光‼︎」
安堵したのも束の間、再び怒り出した少女に少年はため息をつく事となった。しかしその瞬間石が光りだし、辺りが光に包まれた。
「やっぱ記憶違いって事はないよな。」
なのはの家からの帰宅途中、悠は自らと周囲の記憶の相違について考えていた。
悠の記憶では自分は昔から勉強はそれ程得意ではないが運動は誰にも負けないくらい得意であった。
「今までは魔法を使っての運動しかしてなかったから気づかなかったけど、絶対に体力は昔の俺より低い。」
今日アリサ達に聞いた現在より過去の自分は運動能力は最低クラス、むしろ勉強は割と得意との事であった。悠は過去に熱心に勉強したことも、体育の授業で手を抜いた記憶もなかった。
「それにこの時期は色んなクラブチームや友達に誘われてたハズだしな。」
極め付けは自身の環境である。悠はこの時期にクラブチームの勧誘を大量に受けていたのだ。そしてなのは達以外の友達の事もある。悠は小学生に戻ってから1度も他の友人からサッカーや外出の誘いを受けていなかった。周囲の人間からの情報、過去の自分には間違いなく存在したサッカー仲間、そして明らかに低下している運動能力、以上の事から考えられるのは……
「俺は過去に戻ってきた訳じゃないってことか。」
過去にタイムスリップしたかと思えばそこは自分の過去によく似た別世界。タイムスリップでも訳がわからないのに、さらにパラレルワールドであった。
「でも、ぶっちゃけどっちでもいいんだよな。どっちでも元の世界に戻る方法なんてわかんねぇし、ここも結構楽しいし…っ‼︎この気配は…ジュエルシード‼︎」
結局自分が別世界に来ていようが関係ない。自身の好きに生きるのみ。そう考えているとジュエルシードの気配を感じ、その方向に向かって走るのであった。
「おいおい……なんだよこれ……。」
ジュエルシードの気配がした場所で悠が目にしたのは巨大な樹木の根により破壊されている街であった。
「なんてデカさだ…。今までこんな規模の暴走なんて見たことねぇぞ。ん?…あれなのはか⁉︎無茶しすぎだろ‼︎」
悠は暴れ狂う大樹の周りを飛び回るなのはを発見し、なのはの後方より襲いかかる根に魔力弾を放つ。
「これは悠くんの流星拳⁉︎」
『無茶し過ぎだぞ!なのは‼︎』
なのはは魔力弾と念話から悠が助けに来たのだとわかった。振り返るとペガサスクロスを身に纏った悠がこちらに走っているのがわかる。
『ごめんなさい…でも悠くんは下がってて。このジュエルシードはわたしが封印するから!』
なのはに駆け寄ろうとする悠は信じられない言葉をかけられ、思わず声をあげてしまう。
「はぁ⁉︎何言って…」
「わたしのせいなの‼︎わたしの…、ホントは気づけたハズなのに、気のせいだって勝手に思って…」
なのはは今回のジュエルシードの暴走に責任を感じていた。あの時悠との会話を中断し、キチンと魔力をサーチしていたら防げたはずだ。街が破壊されてしまったのは自分のせいだ。そう考え1人で暴走を止めようと考えたのであった。
「バカやろう‼︎そんなのお前のせいでも何でもないだろ‼︎俺なんて毎回発動しなけりゃ気づきもしない…、なのはがいなけりゃ封印すらできねぇんだ‼︎」
「で、でも…」
「でもじゃねぇよ!それに責任感じるなら最も被害を抑えられる方法を取れよ‼︎1人でやって被害が広がったんじゃ意味ねぇだろうが‼︎そんなのお前のワガママだ!」
悠は怒っていた。なのはが手伝ってと言えないほど信頼のない自分に、なにより自分の魔力探知が低いばかりにジュエルシードが暴走した時、毎回なのは責任を感じさせてしまっていることに。
『2人とも落ち着いて‼︎今は言い争ってる場合じゃないよ!』
そこにユーノからの念話が来てなのは達は自らに迫る大樹の根を確認し、回避する。
『なのは!話は後だ!とにかくこいつを黙らせるぞ‼︎ユーノ、どうすりゃいいんだ⁉︎』
『まずはこの根の元となってる部分を探さないといけないんだけど、これだけ広範囲だと…。』
また探知能力か。悠は自らの力不足を嘆かずにはいられなかった。自身の探知能力の低さ故になのはは責任をかんじているというのに、封印する為にはまず探知能力が必要であるという事実が悠を更にイラつかせた。
『わたしがやるよ!必ず見つけてみせるの!』
ユーノの言葉を受けてすぐに行動したなのはであったが、探知魔法に力を入れることで回避がおざなりになっていた。
「なのはのやつ無茶し過ぎだ!少しは冷静に…ぐはっ⁉︎」
なのはに迫る根を地上から魔力弾で撃墜する悠に地面から鞭のような根が襲う。直撃を受けた悠はそのまま近くのビルまで吹き飛んだ。
『冷静になるのは悠もだよ‼︎悠も自分を見失ってるよ‼︎』
『…悪いユーノ。どうやら俺も熱くなりすぎてたみたいだ。』
強烈な一撃を受け、ユーノの言葉を聞く事で悠はようやく冷静さを取り戻した。
「(自分の不甲斐なさを嘆くのは後だ。今はどうやってあの根を止めるかだな。流星拳で吹っ飛ばすにしても、アンドロメダクロスの鎖で縛るにしても根の数が多すぎる。)」
悠はなのはが探知に集中できる方法を模索した。
「きゃあっ⁉︎これじゃあうまく探知できないの…。」
「(クソッ‼︎今の俺じゃ…ダメだ、また冷静さを欠いちまってる。)…冷静に、どんな状況でもクールに徹するんだ…。」
冷静に状況を分析し、尚且つなのはや自分への攻撃に対処しながら悠はある違和感に気が付いた。
「なんだ⁉︎クロスから凍気を感じる…。魔力を高めると凍気も強く…。この感じ…まさか‼︎」
悠はクロスから何かを訴えかけられるような感覚に覚えがあった。
「どの道このままじゃジリ貧だ!こうなりゃ鬼が出るか蛇が出るか、突っ込むぜ!うおおぉぉーー‼︎高まれ俺の魔力よ!」
「うわっ⁉︎この光は⁉︎」
<Cygnus Cloth set up>
悠が最高潮まで魔力を高めるのに呼応し、辺りが光に包まれユーノは思わず目を塞いだ。そして光が収まったとき彼が目にしたのはクールホワイトの鎧に身を包んだ悠の姿だった。
『ゆ、悠…その姿は……。』
『セイントクロスの新しい形態だろうな。アンドロメダクロスの時と同じような感覚だったからまさかとは思ったが…。』
「まさかまた形が変わるなんて…一体そのデバイスは…。」
これで2度目となる悠のデバイスの変化にユーノは驚きを隠せなかった。
「とにかく、ここでモタモタしている時間はないな。」
『なのは!一旦高度を上げるんだ!』
『えっ?悠くんなんでまた格好が変わってるの?』
バリアジャケットが変化した悠の姿にユーノと同じく疑問を持ったなのはであったが、悠は今は説明する暇は無いとなのはを押し切り、なのはは街に建ち並ぶ高層ビルより高く舞い上がる。
「よし、このクロスならば暴れ狂う木々も止めらるだろう。はあぁー!高まれ、俺の凍気よ!」
「さっ、寒い!悠の周りがまるで吹雪の吹き荒れる雪山のようだ!」
悠が魔力を高めると同時に周囲の気温が下がり、ユーノは身体を震わせる。悠が魔力を高める際の手の動きはまるで優雅に羽ばたく白鳥のようであった。
「その無駄に伸ばした根っこを全部凍らせてやるぜ!ダイヤモンドダスト‼︎」
悠が拳を振るうとその前方がみるみる凍りつき、ものの数十秒で大樹は全て凍りついてしまった。
「なんて範囲だ…。これだけの広範囲魔法まで使えるなんて、悠は途轍もない才能を秘めているのかも。」
『なのは、探知魔法を頼む。』
『う、うん、わかったの。』
悠の放った広範囲魔法に驚いているなのはとユーノであったが、悠の言葉を受けなのはは暴走の元となるジュエルシードを捜索する。その後しばらくしてジュエルシードをもつ2人を発見。既に大樹は凍結しているため封印も難なくすましたが、大樹は街に大きな爪痕を残していた。
「街が…守れたハズなのに……。」
「今回は反省すべき点が余りにも多いな……。」
「なのは、悠、今日はもう帰って休もう。なのはも悠も相当つかれてるから。」
ユーノに促されたなのはと悠は、それぞれ多くの想いを抱えながら家路に着くのであった。