ポケットモンスター カオス ~暗黒破壊神は陽の目を見たい~ 作:ディヴァ子
とある新月の夜、摩天楼の立ち並ぶ経済都市「ミュートシティ」。
「………………」
高い高いビルの屋上から、夜景を見下ろす少女が一人。目は虚ろで、表情は暗い。転落防止の策を越えており、一歩でも前に出れば落ちる――――――そんな危険な位置に座り込んでいる。
だが、彼女にとって、それはどうでもいい事。何故なら彼女は今、自殺しようとしているのだから。
事実、少女の近くには脱いだ靴が揃えられてるし、遺書代わりにモンスターボールが置かれている。随分とカントー的だが、生まれはそっちなのかもしれない。
「……もう嫌だ。辛いし、苦しいよ。だから……さようなら」
いよいよその時が来た。夜見への旅立ちだ。ここから飛び降りれば、確実に死ねる。人生から解放される。
まぁ、自殺するような奴は大抵はどんなあの世でも地獄行きなのだが、少女に知る由は無い。彼女はとにかく、辛い現実から逃げ出したかった。ただそれだけ。
しかし、たったそれだけの為に、少女は死ぬより辛い生き地獄を味わう事になる。
『なら、その身体はもういらないよな? ありがたく使わせてもらおう』
突如として来訪した、漆黒のポリゴンによって。
「あ……がっ……!?」
黒いポリゴンは闇のような靄となると、少女の身体に纏わり付き、染み込んでいく……自らを上書きしていく。
『クックックックッ、これで俺もポケモントレーナーという訳だ』
そして、一刻と経たぬ内に姿を変えてしまった。
茶髪は鴉の濡れ羽に、瞳は真紅に。爪は鋭く青くなり、顔立ちも儚い美少女から勝気な俺っ娘へと変質。服装も漆黒のメイド服に書き換えられていた。
少女の面影は何処にもない。完全に乗っ取られたのだろう。
『さて、さっさと降りるとしよう』
少女を乗っ取ったポリゴンは意気揚々とビルから飛び去ろうとするが、
『――――――ピカァッ!』
ボールの中で悪戦苦闘していたピカチュウが、ポーンと飛び出して来た。主人の異変を察知して、助けようと自ら脱出したのだろう。
だが、既に時遅し。少女はもうピカチュウが知る彼女ではないどころか、人間ですらないのである。
『ピカチュウか。とりあえず、死んでおけ』
『ピッ!?』
だから、こうして遠慮なく猛毒を浴びせられる。漆黒のポリゴンはあく/どくの複合タイプであり、あく技やどく技を使いこなす事が出来るのだ。
『ほれ、どうしたどうした? その程度か?』
『ピッ! ガァッ! チュヴッ!』
さらに、シャドーボールを三連打し、叩きのめす。耐久力の低いピカチュウは完全に動けなくなり、その間も猛毒に身体が侵されていく。いずれ死んでしまうだろう。
『……これで義理は果たした。ここからは自由に生きさせてもらうぞ』
そして、絶妙にピカチュウの手が届かない所に回復の薬を置いて、今度こそビルを飛び去った。
『さぁて、まずは御三家の入手からかな』
ポリゴンは行く、ジーランティスの大地を。
彼女の目的はただ一つ。自己の確立。模造でも偽物でもない、本物となる為に。
彼女は――――――ポリゴンの自我として宿っているのは、邪悪なる暗黒破壊神なのだから。
◆◆◆◆◆◆
Nスペース、地球の衛星軌道上。
『ノヴァァアアアアアアアアアッ!』
赤き稲妻の如きラインが血走る漆黒のウルティノイド、邪悪なる暗黒破壊神=ダークザギは雄叫びを上げていた。
彼は今、窮地に立たされている。
十八年にも及ぶ綿密な計画の成就により見事に復活を果たしたと言うのに、土壇場で絆の光を受け継いだ
(クソッ、こんな所で終わってなる物か!)
それでもザギは最期まで諦めなかった。生き延びる為、何よりノアを超越するという矜持を貫く為に。“
しかし、現実は非情だ。彼がどれだけ足掻こうと、そんな事は無駄無駄無駄と言わんばかりに光線を上書きし、とうとう本体へ直撃させる。
超新星爆発にさえ耐えられる筈のザギは塵も残さず爆散し、宇宙の闇へと消えた。
だが、彼は不死身の存在。魂すらも粉々に砕け散ったものの完全な消滅には至らず、爆発で発生した特異点からマルチバースに逃げ込み、様々な平行宇宙へと散らばって行く。
そんなダークザギの欠片の一つが、ある世界へと降り立った。
そこはポケモンと呼ばれる不思議な不思議な生き物が、空に、海に、森に、街に――――――世界中の至る所でその姿を見る事が出来る、夢と冒険に溢れた異世界。
『……何だこりゃ?』
しかも、野良として彷徨う、一匹のポリゴンに憑依する形で。
そう、これは邪悪なる暗黒破壊神=ダークザギがポリゴンとして転生し、自己を確立する為に暗躍する、金と狂気の冒険譚なのである……。
◆ダークザギ
「ダークサイドノア」の異名を持つ邪悪なる暗黒破壊神。
元々はM80さそり座球状星団の来訪者たちが、異形進化生命体「スペースビースト」のトラウマを克服する為、かつて窮地を救ってくれた「ウルトラマンノア」を模して造り上げた、「ウルティノイド・ザギ」がその前身。ある意味“人造ウルトラマン”の辿る末路の体現者と言える。神様を気取るのは止めよう。
スペースビーストや怪獣を支配し操る能力があり、M80さそり座球状星団では強化したスペースビーストで荒廃させ、別宇宙のM78星雲では怪獣軍団を造り上げ破壊の限りを尽くしたが、復活したウルトラマンノアとの死闘に敗れ魂だけの状態となり、元の宇宙における地球へと飛来。とある人間に成りすましながら暗躍し見事に復活を遂げるも、同じく復活したノアと人間の絆を前に大敗を喫し、宇宙の藻屑となった。ただ完全消滅には至らなかったようで、平行宇宙でその姿を見掛ける事もある。
超新星爆発にも耐えられる強靭な肉体と、消える事のない不滅の魂、自演★乙にも程がある下衆な精神を持ち合わせた、まさに悪のウルトラマンといった感じな彼だが、元来は光の存在であり、ネット上では紅茶が好きな紳士だったりもする。まさに悪の華。