ポケットモンスター カオス ~暗黒破壊神は陽の目を見たい~ 作:ディヴァ子
ティアーザ地方。
それは赤道付近に存在する、世界一小さな大陸「アザスト大陸」と周辺の諸島群「ニュージーランティス」――――――こちらで言うオーストラリアとニュージーランドを包括する地方である。パプアニューギニアとかは含んでないそうな。オメーの席ねぇし!
内情も似たような物らしく、経済は基本的に農耕資源や鉱物資源などの輸出と観光事業で成り立っており、歴史的な関係国であるガラル地方とカントー&ジョウト地方からの移民が人口の多くを占めていると言った、良くも悪くも“他国ありき”な状態だ。その癖、環境破壊や自然災害、移民に伴う軋轢など、内輪でも揉め事が絶えない。
むろん、赤道付近なので環境それ自体が厳しく、絶対的な降雨量が少なく陸地の大半が乾燥地帯となっており、海に囲まれている為に塩害も発生しやすくなっているという、まるでパンゲア大陸のような悩みを抱えている。よくこんな土地を開発しようと思ったな、過去のガラル政府。正直、先住民に任せっきりの方がいいような気がするのだが……。
こんな感じで割とよく似たお土地柄のティアーザ地方だが、現実のそれと違い全体が右に九十度回転していて、地図で見ると三日月のような配置になっている。
何故そうなったかというと、今よりも遥か太古の昔に、宇宙から飛来した「マガツキの悪夢」なる邪悪な存在たちと、アルセウス率いる神と呼ばれしポケモンたちによる神話級の戦いの影響で、プレートそのものがねじくれ曲がって現在の形になったのだとか。何それ怖い。
というか、シンオウ地方のポケモンがどうして海を越えた先で大立ち回りしてんだよ。普通に迷惑だろ。これだから神は……。
まぁ、そんな伝承があるからか「暗黒大陸」呼ばわりする輩も多いが、実際は雄大な自然と独特のポケモンたちが生息する美しい場所だ――――――って、コイキングオヤジ……もとい、ソウイチロウが言ってた。空路だから海路よりは早く着いたが、それでも数時間掛かったからな。
「……さて、ティアーザ地方に到着した訳だが、ここからはどうするんだい?」
と、ワラトゥネム州ドロンゴルシティ(オーストラリアのシドニーに相当する場所)の空港に到着した所で、ソウイチロウが聞いてきた。
「それより、どうしてオレの上にお前が乗っているのか、その理由が知りたいかな!?」
『変な目で見られない為だ、我慢しろ』
「いや、充分変だと思うけどな!?」
ちなみに、俺は今、ライトの頭上に陣取っている。理由はいろいろあるが、こいつを足蹴にして悦に入りたいのが本音だったりする。だってムカつくんだもん、このガキ。一々噛み付いて来やがって。
「――――――で、本気でこれからどうするつもりなんだ? 儂らはこれからタスマニー島にでも行こうかと思っとるが、一緒に来るか?」
『いや、遠慮しておこう。ここはドロンゴルシティなんだろう? なら、このまま空路でニュージーランティスにでも行くさ』
俺は再度確認を取って来たソウイチロウに、そう答える。何が悲しくて、こんなだだっ広いだけのルージュラみたいな土地で暮らさにゃならんのだ。こっちまで乾燥肌になるわ。
それに人間が密集している地域の方が、俺にとっては都合が良い。利用出来る駒は多い方がいいからな。表向きは「安全な国」として通っているような場所なら、尚の事。
「空路って……大丈夫なのか? 確かニュージーランティスって、ポケモンの制限が厳しい筈だけど?」
俺の下でライトがそんな質問をしてくる。大丈夫だ、問題ない。
『さっきのフライトで、セキュリティシステムの出来栄えはある程度理解したから、大丈夫だ。精々適当に“乗り継ぐ”さ』
俺はあくタイプながら、ゴーストタイプ以上の憑依能力がある。脳波やオーラのパターンを偽装するなどお手の物だ。TLTで滅茶苦茶練習したからな。
余談だが、日本からの道中はライトに憑依して来た。乗り心地が微妙だから、もう一度する気は無いけど。シンクロ相手ぐらい、選びたいじゃん?
もちろん、この世界なりのセキュリティは敷いているようで、“ゴーストタイプが取り憑いたり、エスパータイプが操っている”くらいなら見破れるが、その程度じゃ俺を補足する事など出来んよ。中身だけなら邪悪なる暗黒破壊神な訳だし、何より俺は唯一無二に近い存在である。対策しようにも、免疫を作るだけのサンプルが無いのでは、どうしようもあるまい。
「そっか。ま、お前なら大丈夫だろーよ。とっとと行きやがれ。重くはないけど、単純に邪魔だ」
『へいへい、そうさせてもらいますよ』
相変わらずムカつく野郎(♀)だな、こいつ。別れの挨拶くらいきちんとしろよ。
「……心に決めていると言うのなら、止めはしまい。とりあえず、ミュートシティに向かうと言い。きっと面白いぞ」
すると、ソウイチロウが話を纏めた。あの怪しい笑みを浮かべて。本当に何を企んでるんだ、このオヤジ。
『それじゃあな。ひとまず、世話になった。機会があればまた会おう』
「ああ、いずれまた」「そんじゃなー」
俺は軽ーく挨拶をしてから踵を返し、乗り手となる人間を探した。出来れば子供が良いな。確実に親がいるだろうし、一先ずは怪しまれないからな。
……お、いたいた。あの暇そうなピクニックガールにしよう。
『はい憑依ぃー!』「あびぇっ!?」
気付かれぬよう後をつけ、トイレに入った所で憑依。“取り憑かれた”という記憶だけを改竄して、頭の片隅で静かに息を潜める。これなら周りは一切変化に気付かないし、本人も違和感を持たない。何の問題もなく飛行機に同乗出来るだろう。
だが、予想外のアクシデントが俺を襲った。
「さ、さささ、寒いぃぃ……でも、これを持っていれば……痛いぃいいいいいっ!」
(こ、こいつ、阿保なのか!? 阿保だな、うん!)
何とこいつ、ライトの同類――――――孤児な上に密航者だった。
さらに、その遣り方が“火傷玉満載の荷物に紛れる”という狂気の沙汰だ。思考を覗いていたから分かってはいたが、まさか本当にやるとは思わなかった。これが阿呆でければ何と言う。死ぬ気かよ。子供って怖い。
「あー、寒かった……さ、早く隠れなとぉわぉっ!?」
『俺まで寒かったよクソッタレが! これからはもうちょい真っ当に生きろ、このアマぁ!』
その後、道連れにされ掛けながらも、どうにかニュージーランティス入りを果たした俺は、早々にピクニックガールから離脱した。人選って大事だよね。
とりあえず、ちゃんとご飯食べて糞して寝ろ。どう考えても痩せ過ぎなんだよ、病気かと思ったわ。
……うーん、何かこっちに来てから俺らしく無いミスを連発してる気がする。あれか、Luckの低さが種族の特徴なのか。これはどげんかせんといかんな。
まぁ、それはそれとして――――――やって来ました、ニュージーランティス。
アザスト大陸が「暗黒大陸」なら、ニュージーランティスは固有の鳥ポケモンが多数生息する「鳥の楽園」である。現実のニュージーランドと同じで孤島故の適応拡散が著しく、海の妨害を受けずに侵入出来た鳥類が殆どのニッチを占めている。残りは鳥の餌となる昆虫類、少数の爬虫類や両生類、後に人の流れで持ち込まれた哺乳類が主な生物相になる。
一時は後からやって来た哺乳類型のポケモンに押され、鳥ポケモンが死滅する寸前にまで追い詰められたらしいが、住民の努力と政府の厳しい制限により、どうにかこうにか以前の姿を取り戻しつつあるという。ニュージーランドも見倣ってもらいたいものだ。
余談だが、到着した場所はオーガランドシティ。現世のオークランドに相当する。
直行便がこことエンプレスタウン(※クイーンズタウン)の二つしかないので、ミュートシティ(※ウェリントン)に近いこちらに決めた。もう一回乗り継ぐ必要はあるけど、海を隔ててないだけまだマシである。
『さてと、さっそくミュートシティとやらに……ヴォアアアアアアアッ!?』
しかし、空港を出た瞬間、特に意味のない理不尽な暴力に襲われた。
というか、いきなり爆発した。アスファルトが膜のように捲れ上がり、停めてあった車が玩具の如く宙を舞う。むろん、この俺も。
ぐむむ、単体だと痛覚すらないこの身体だが、さすがにこの不意打ちには雄叫びを上げざるを得なかった。
『ギィグワァヴヴヴッ!』
『キキャァアアアアッ!』
一体何事かと見上げてみると、空港前の広場でドクロ怪獣や彗星怪獣みたいな声を上げながら、アクジキングと色違いのアーゴヨンが大怪獣バトルを繰り広げていた。上空にウルトラホールが二つ開いているので、出た途端に鉢合わせとなったのだろう。時空移動したウルトラビーストは慣れない環境で凶暴化しているらしいからな。こうなるのも仕方ない。
ま、理解するのと納得するのは別物だがね。
『ギャヴォォオオオオオッ!』
『ギァォッ!?』『キャァッ!?』
さっきの仕返しに、俺もその喧嘩に混ざる。戦闘態勢に入ると同時に身体から闇が噴き出し、半径百メートル程のドーム型の暗黒世界を形成した。
うむ、感じる……感じるぞ……あくタイプ技の威力が上がっている事を!
『フゥヴォァアアッ!』
俺は強化された悪の波動をぶっ放し、次いでシャドーボールを乱れ撃ち、呆けていた二匹のウルトラビーストを一方的にボコボコにした。
『ヴルヴォァアアアアアアアッ!』
最後は破壊光線をプレゼント。耳障りな電子音を奏でながら破滅の光が放たれる。
『ギィガァアアッ!』『キャァアアアアォッ!』
ダメージ自体はそこまで無かったようだが、立て続けに入った横槍ボンバーに驚いたアクジキングと色違いのアーゴヨンは、各々の世界へと帰って行く。もう来んじゃねぇぞ。
『まったく、何て場所だ……』
その後、俺は見つからないよう闇に紛れながら移動し、物陰に隠れた所で暗黒世界を解除した。しばらくは騒然としていたが、警察や救急隊が駆け付けた事である程度鎮静化し、やがて静かになる。
盗み聞きした会話によると、このような事態は割と頻繁にあるらしい。何でも太古の昔に落ちた巨大隕石の影響で時空が安定していないのだとか。だからってポケモン界の超獣がポンポン出てくるのはおかしいだろ。
アザスト大陸もそうだが、本当に何でこんな所を植民地にしようと思うかなー。案外、ダイマックス巣穴に出るウルトラビーストってここを経由してんじゃねぇの?
ま、アローラ地方でも無いのにウルトラビーストをゲット出来るチャンスがあると思っとけばいいか。今は無理だが、進化して強くなれば倒せるようになるだろうし。進化すればする程に耐久性が低下する事には目を瞑っておく。
『――――――よし、気を取り直して、移動するか』
ソウイチロウの思惑に乗るのは何か嫌だが、土地勘ゼロなのに彷徨うのはリスクが高いし、“面白い事”とやらも気になる。
あと、いい加減ちょうど良い
この身体、体力はそこそこあるがガラスのように脆く、何かに取り憑いていないと簡単に割れてしまう。自己再生出来るから大丈夫なのだが、砕けた時に闇をそこら中にばら撒いてしまうので、十中八九マークされる。カントーでは一度それで面倒な事になった。目撃者の記憶を改竄したから、事件にはなってないけど、一々対応するのも面倒臭い。
そもそも、元人型生命体として、手足が無いのは不便極まりなかった。
“器用な手先”は文明的生活をする上で必要不可欠だ。足は言わずもがな、最低でも“物を掴める手”が無いと、道具を作ったり使ったり出来ないからな。バルタン星人とかメトロン星人とか、あんな手でどうやって高度な文化を築いたんだろう。未だに分からん。
……つーか、この身体だと、紅茶もロクに楽しめねぇんだよ!
何だ、真面な感覚器官が視覚と聴覚しか無いって、生きてる意味あんのか?
まぁ、レジ系統も同じような物だし、人工ポケモンに限ってもゴルーグ系統という前例があるから、何とも言えんが。
ともかく、俺はきちんとした五感が欲しい。紅茶は幾らでも手に入るのに飲む事さえ出来ないとか、どういう拷問なんだ。生き地獄にも程があるだろう。
嗚呼、早く人間になりたい……。
『次はあいつにしよう』
そんな馬鹿な事を考えつつ、俺は色んな通行人の身体を渡り歩き、ミュートシティへ向かった。途中、何度も事故や災害に見舞われたのは言うまでもあるまい。
――――――俺、破壊神じゃなくて、実は死神なんじゃないかと思えて来たよ、うん。
◆ポリゴン(ティアーザのすがた)
・分類:ウィルスポケモン
・タイプ:あく/どく
・性別:不明
・特性:クリアボディ/のろわれボディ/ダークメイカー(隠れ特性)
・種族値
HP:108
こうげき:10
ぼうぎょ:38
とくこう:110
とくぼう:39
すばやさ:94
・図鑑説明
闇の力を手に入れた、ポリゴンの新たな姿。身体が硝子に近い結晶体となった為、通常よりも脆くなったが、割れると猛毒の障気が漏れ出すので、襲うポケモンは非常に少ない。