ポケットモンスター カオス ~暗黒破壊神は陽の目を見たい~ 作:ディヴァ子
そして、俺はリリスの仮住まいに案内されたのだが、
『お前、これは……』
まさかのすぐそこだった。
今明かされる、衝撃の真実ゥ~!
何とこいつ、屋上の物置を勝手に改築してやがったのだ。
どうやって事前情報も無しにピンポイントで待ち構えていられたのか気になっていたが、単にそこで暮らしてただけだった。そりゃあ、近所で騒音がしたら気になるよね。
一応、造り自体はしっかりしている。どこから運び込んだのかは知らないが、機材はそれなりの物が揃っているし、研究用の資料も結構ある。
何より、こんな手狭な空間なのに、きちんと生活スペースが確保されている。電源はその辺から引っ張ってくればいいとして、上下水道管はどうやって繋げたんだろう。洗面器にバスタブ、様式トイレまであるし。詳しい訳ではないが、専門の業者がいるくらいには難しいと思うんだけど。
総括すると、部屋の一部を研究所として使っている六畳間って感じだった。外観は物置そのものだけどね。
戸をスライドしたら、そこはアパートの一室でしたって、何気に凄いホラーだよな。宇宙人がちゃぶ台で待ち構えてるくらいビックリする自信がある。
……ああ、だからセブンも一瞬フリーズしたのね。立ち直った後も言われるまま座っちゃってたし。あれ、確実に状況を整理出来てなかったんだろうなぁ。
「だって、仕方ないじゃない! 学会を追放された私には、金が無いのよ! 先立つ物が無ければ、どんな夢も野望も叶えられない! 世の中、金、金、金よっ!」
『
それも真じゃない踊らされてた方の。
――――――って言うか、学会を追放って、過去に一体何をやらかしたんだ、このマッドは。ポケモンの擬人化が最終目標らしいから、前段階として
今更だけど、こいつ生かしておいて大丈夫なんだろうか。「おっと間違えた」とか言いながら、地球破壊爆弾のスイッチとか押しそう。
だが、こいつの才能は確かな物がある。
こんなタイヤや農具がぶち込まれてそうな小さな物置を、中身だけだがそれなりの体裁を整えているし、この劣悪で色々と足りていない状況下であれだけの発明をしたかと思うと、空恐ろしい物がある。
これでしっかりした設備と資金があれば……ああ、なるほど、だからソウイチロウの後を継ごうとしたのか。親類を都合のいい財布程度にしか見ていないその性根は、はっきり言って腐っていると思うが、嫌いじゃないぞ、そういうの。むしろ大歓迎である。
胡蝶蘭はそりゃあ美しいが、雑草が生えたらそれまでだからな。育てるなら根強い方が楽に決まっている。
「……あ、すいません、奴隷の分際で大声を」
『いや、そこまで卑屈にならんでいいし、タメ口でも構わんぞ?』
お前は奴隷だが、
この手の類は、ある程度好きに泳がせる方が良い結果を出す。雁字搦めにしても旨味は無いし、発想力の妨げになる。
言うなれば、こいつは躾の成っていない狂犬、もしくは狼なのだ。牙こそあるが、上手い噛み方が分からないだけ。「恩」という餌をちらつかせて飼いならした方が、後々の為である。
ある意味この町に相応しい人種、という訳だ。
あと、敬語が致命的に似合わない。キャラ的に、もっと情緒不安定な話し方でもいいくらいである。
「は、はぁ……そういう事なら……」
『よし、それではさっそく御三家ポケモンを貰おうか。一匹と言わず、三匹全部な』
「分かったわ。ついでにポケモン図鑑もあげるわね」
『わ、わーい……』
ついでにポケモン図鑑も貰った。そんなオマケみたいな扱いでいいのか。
ちなみに、ティアーザのポケモン図鑑はロトムではなく何故かゲンガーが入っている。全体的に紫色で、ちょうどキョダイマックス形態を平べったくした感じだ。人の命を平然と奪うようなポケモンをナビゲーターにしていいのか。開発者は何を考えていたのだろうか。
「それじゃあ、さっそく
そう言ってリリスは、両サイドにカプセルが設置された怪しげな機械――――――超獣製造機みたいな装置を起動した。
「それじゃ、まずはこの遺毛を――――――」
さらに、分厚い強化ガラスのカプセルに、ポケモンの物と思われる毛を入れようとする。
おい、ちょっと待て。
『遺毛って……つまり、死体からクローンを作ろうってのか?』
「そうだよ? こっちじゃ割とポピュラーなんだけど……ああ、カントー地方には馴染みが薄いか」
おい、倫理観。
今明かされる、衝撃の
「ほら、ティアーザ地方って自然保護とか環境改善に敏感でしょ? だから、種の保存とか絶滅種の蘇生とかに熱が入ってんのよ。今では新人トレーナーが研究所で500円払って御三家を手に入れるくらい当たり前ね」
『そーなのかー』
旅の相棒を小遣い出して買うとか、情操教育としてどうなのか。将来的にロケット団みたいな輩を滅茶苦茶に排出しそう。
「さて、三匹ともなると完成に時間が掛かるし、紅茶でも淹れましょうか?」
『頂こうか』
「トッピングは?」
『いや、ストレートで良い』
「ラジャラジャー」
容器に遺毛と何の肉を入れ、真ん中の機械にある丸扉の中にムーンボールをセッティングしてから、装置全体を起動させると、リリスはお茶の用意を始めた。
ほほぅ、使うのはウバか。ミルクを入れても良いが、味も刺激的で香りも立つから、俺はストレートで飲む方が好きだ。
『ポットデオチャオチャ~』
『おっ、ポットデスなんか持っているのか』
随分と古びたポットを使ってるなと思ったら、ポットデスだった。図鑑説明だと大分アレな味の紅茶を出すらしいが、大丈夫なんだろうな。
「あ、いや、この子手持ちじゃないのよ。勝手に住み着いてるだけ。私、ゴーストタイプに懐かれるから……」
『オカルトマニアだもんな』
「でも、紅茶作りの腕前は保証するわ。何たって齢二百年らしいからね」『オチャルティ~♪』
フーン、と俺は相槌を打ちつつ、その様子を見守る。
ウム、自慢するだけあって手際が良い。これは期待出来そうである。
それにしても、主従関係が成り立っていないにも関わらず、随分と仲が良いな。よく見ると置物の振りをしたゴーストタイプが割といる。目に付くだけでも、ジュペッタ、サマヨール、ヤミラミがいた。こいつらも居候なのだろうが、それにしても多い。
『……お前、手持ちはいないのか?』
お茶と御三家が出来るまでの暇潰しに、俺はリリスに話を振る。
ポケモンこそいるが、どれも扱いは野良と一緒。こいつの手持ちは全然見掛けない。もしかして、一匹もいないのだろうか?
「とりあえず、ボールに入っているのはこの子だけかな?」
『ンガァ~ハッハッハッ』
すると、リリスがダークボールから色違いのゲンガーを繰り出した。見た所隙は無いし、経験豊富な個体なのだろう。さしずめリリスのボディーガードか。
『持ってるなら、何でさっき使わなかった?』
「いや、【アンチ・フィールド】は敵味方関係なく作用するから……」
『なるほど』
使いたくても使えなかったのか。リリスとしては小娘一人くらい自分だけでも大丈夫だと高を括っていたのだろうが、結果はご存じの通り。油断は大敵。慢心ダメ、絶対。
――――――チン。
御三家製造機の方から間抜けな音がした。いや、電子レンジかよ。
「あ、一匹目が出来上がったみたいね。さっそく出してみましょう」
『ウルフゥウウウッ!』
リリスは真ん中の機械からムーンボールを取り出し、ティアーザ御三家の一匹目……フクロイヌポケモンのウルフルを繰り出した。
尻尾が炎になったフクロオオカミのような姿をしており、凛とした目と腰部の虎柄、額の三日月と星のマークが特徴だ。タイプはいわ/ほのおの複合で、ステータスは両刀気味の速攻型である。その分耐久力は低いようだが、いわタイプに耐久を期待するのが間違っているので、特に問題はない。
「ウルフルは、元はティアーザ全土で繁栄していたウルファングの幼体なんだ。今野生で見られるのはタスマニー島くらいだけどね。もっとも、それも再生させた個体群を野生に帰しただけだから、純粋な野生種は絶滅してるんだけど」
『へぇ……』
見た目の時点で分かっていたが、本当にフクロオオカミみたいな奴なのか。競合相手は誰だろう?
「ルガルガンらしいわ」
ああ、それなら納得だ。どう考えても相性不利だもんな。タイプ的にも、ステータス的にも。能力は特化してる方が強くなり易い。どっち付かずの中途半端な両刀性能が仇になったのだろう。
「ついでに言えば、家畜荒らしのレッテルも張られたらしいわよ。主犯はルガルガンだったらしいけどね」
『踏んだり蹴ったりだな』
その果てに種族単位で滅亡したのだから、笑い事ではないが。
『ちなみに、
「捨てなきゃ問題無いわ。ティアーザ地方ではボール一つ一つに発信機が仕込まれてるから、勝手に所有権を放棄してポケモンを逃がすと捕まるしね。もちろん情状酌量の余地とかはあるけど、最悪の場合は処刑されるわ」
それはつまり、トレーナーの命は政府が握っている、という事だ。
『過激すぎませんか?』
「それだけトレーナーには責任が伴うって事。逃がしたポケモンにも未来は無いしね」
まぁ、そこまでしないと、生態系の確保が難しいのだろう。人は自分に甘くなるからな。
「そんな事より、冷めるわよ?」
次のボールと材料をセットしながら、リリスが言った。今度はルアーボールか。素材は……甲羅の一部か?
『ああ、それもそうだな』
滅んだ命より、今の紅茶の方が大事よね。紳士たるもの、紅茶を欠かす事は出来ないのである。
……うん、美味い。今度はダージリンでも淹れてもらおう。
――――――チン。
「あ、次のが出来たわね」
リリスがボールを取り出し、次なる御三家の一匹を繰り出す。
『クラァ~?』
現れたのは、ぶたばなポケモンのクラトン。
ゼニガメのような色合いをしたスッポンモドキに似た姿をしており、月よりも丸い頭とションボリした目、子豚みたいな鼻と尻尾が特徴。タイプはいわ/みずの複合で、見た目通りの耐久型だ。防御と特防の両方が高く、物理攻撃も特殊攻撃もそれなりに熟せるが、亀の親戚なだけあって鈍足なのが珠に傷である。
「クラトンは淡水か汽水域の水中に生息していて、主に水草を好んで食べるわ。後から来たゼニガメ系統との生存競争に負けて絶滅したけどね。あと、環境破壊も大きな原因かな。見ての通り、棲み処を選ぶタイプだから……」
『クラァン?』
リリスの説明に、クラトンが首を傾げる。そんな事だから絶滅するんだよ。
フム、こっちは逆にどっち付かずに負けた形か。汎用性の違いが如実に出てるな。追い払う事は出来ても追い掛ける事が出来ないのだから、そりゃあ干上がるだろう。
「さて、最後の子ね……」
リリスが最後となる御三家ポケモンの材料をセットする。今度は枯れた葉っぱか。くさタイプなんだろうなぁ、きっと。
『……さっきから気になってたんだが、その装置はどういう仕組みなんだ?』
ふと、俺は今まで気になっていた事を聞いてみた。
見た感じ、超獣製造機よろしく両サイドの材料を真ん中の機械で合成しているようだが、その仕組みがよく分らない。カントー地方の化石再生技術もそうだけど、あんな適当な素材だけでポケモン一匹を復活させるとか、オーバーテクノロジーにも程があると思うんだが。
「端的に言えば、お肉に遺伝情報を上書きして、真ん中の装置で無理矢理形にしてるって感じね」
『ザックリし過ぎじゃないですかね?』
「そう言われても、私だって全てを理解してる訳じゃないのよ。使えるから使ってるだけ。テレビの点け方を知っていても、仕組みは理解出来ない、みたいな感じかしら?」
割と適当で草が生えるんだけど。
「大体、専門用語を捲し立てたって理解出来るの?」
『それはそうだが……』
「だけど、一つだけ言えるのは、“この石”が全ての要になっているのは確かね」
と、装置の動力部と思われる場所を指差すリリス。見ると、願い星によく似た青い輝石がバチバチと発光していた。あれがゴミのような肉塊に命を与えているのだろう。
『これは願い星なのか?』
「いえ、似ているけど違うわ。ガラル地方のダイマックスと同じく、ポケモンの生命力を増幅させ、巨大化させる効果はあるけどね。技は通常のままで、HPだけじゃなく他のステータスも上昇するけど、特性と持ち物の効果が封じられてしまうの。たぶん、起源となる物が違うのね」
なるほど、共通点はデカくなる事だけか。起源が違うというリリスの意見にも納得だ。
おそらく、ムゲンダイナとは別系統のポケモンが関わっているのだろう。マガツキの悪夢とやらがそれか?
『……って言うか、ここでもダイマックス出来るんだな』
「系統が違うから、私たちは「レボリアル」って呼んでるけどね。他にもメガシンカやZ技もあるわよ」
『ほぅ……』
さすがは観光の国。地域限定のバトルシステムを積極的に取り入れている。どういう仕組みなのかはさっぱりだが、バトルを楽しむ分には問題ないだろう。どこぞの元キング曰く、勝負事はエンターテイメントでなければならないからな。
――――――チン。
「あ、最後の子が出来たわね」
とか何とか言っていたら、最後の一匹が完成した。入れ物はフレンドボールか。キミは何のフレンズ?
「ほら、出ておいで、ハウボル」
『ボル~ン!』
答えは、しんりょくポケモンのハウボル。
腹部が枯れたタンポポの葉っぱのようになった、ユウレイヒレアシナナフシを思わせる姿をしており、顔はデフォルメされた蟻か蟷螂に似ている。どう見ても虫なのだが、タイプはまさかのいわ/くさの複合で、ステータス的には耐久力のある特殊アタッカーである。あと、ナナフシだからか、実はクラトンより鈍足だったりする。
「ハウボルが絶滅した理由はよく分らないの。ただ、昔はもっと侵略的な生態を持っていたみたいね。今は鈍間な草食ポケモンだけど」
『フーン……』
図鑑によると、種子によく似た耐久卵を産むらしいので、環境が合わなくなって休眠していだだけなのかもしれない。
しかし、この見た目で侵略者とか言われても、全然想像が付かないんだけど。ヨシモトムチッ子物語に出ても、あんまり違和感ないし。
ただし、進化形はそれっぽい見た目をしているようだから、ギャラドスみたいに成長するに従って凶暴性が増すタイプなのかも。後で苦労する事になりそうだが、それでもユレイドルと同じタイプ構成のポケモンを手放すのは惜しい。
ともかく、これでティアーザ御三家が出揃った。過程が工程その物だったから、何の感慨も湧かないけど。
『――――――つーか、見事に岩タイプばっかりだな』
しかも、全員が一度は絶滅している。それを合計1500円で買えるとか、自然第一が聞いて呆れるな。少なくとも、どっかのプラズマな王様が見たらブチ切れそう。
「ティアーザ地方はいわタイプが隆盛してるからね。現チャンピオンも、いわタイプ使いみたいよ」
『必然的に御三家もいわタイプになる訳か』
タケシが来たら泣いて喜びそうだな。こっちに引っ越せばいいのに。
『ウルル~♪』『クラクラァ~♪』『ボルゥ~♪』
お、さっそく三匹が寄り添ってきた。前々から思ってたけど、ボールの刷り込み効果凄いな。
まぁ、懐かれたからと言って、甘やかしたりはしないけどね。こいつらは俺の野望を叶える為の道具なのだから。
「……それで、これからどうするの?」
『もちろん、チャンピオンを目指すさ。それがポケモントレーナーだろう?』
「………………」
どうした、何か言いた気じゃないか。
「……なら、私も一緒に連れて行って」
『その心は?』
「私の代わりにバトルでお金を稼いで欲しいのよ。自慢じゃないけど、トレーナーとしてはクソ雑魚だからね、私。ついでに“チャンピオンのパートナー”っていうブランドも欲しい所だわ。その方が儲かるし、有名になれる。世の中、富と名声が全てよ」
自分の短所を相手に押し付け、美味しい所だけを持って行く。実にクズな発想だな。
だが、合理的なのも事実。この世界はポケモン在りきだし、学会を追放されているこいつが資金を得るには、誰かに寄生するしかない。
『いいだろう。その代わり、バックアップはちゃんとしてもらうぞ』
どちらにしろ、置いていく気は更々無かったしね。こんな便利な道具、使わない手は無かろう。
「それはモチのロンよ」
『なら決まりだな。付いて来るがいい、奴隷一号』
こうして、俺は旅の仲間を一人手に入れた。精々働いてもらうとしようか。
◆アマリリス
カントー地方出身の天才少女で、父親はグレンラボトリーのエラーイ博士。研究テーマは「人とポケモンの境界線」……なのだが、最終目標は「ポケモンの擬人化」。思いっきり趣味である。
将来を期待された神童だったが、自分の趣味で犠牲者を出してしまい、学会を追放されて国外へ逃亡した。マサキとは幼馴染の間柄だが、お互いに意識し合った事は全く無い。
現在はニュージーランティスのミュートシティで細々と活動しているが、国際指名手配されている上に殺し屋にも狙われている為、研究が実を結ぶ兆しは見られない。