ポケットモンスター カオス ~暗黒破壊神は陽の目を見たい~   作:ディヴァ子

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ダークザギ:「ニビジムのジムリーダー、タケシの切り札は?」
?????:「イワァアアアアアアアク!」


栄光は我の為に

 つぎのひっ!

 

『フッ……フッ……ハァ……!』

「……何してんの?」

『何って、筋トレに決まってんだろ』

「えぇ……」

 

 TLT時代からの朝の日課を熟していたら、何故かリリスにドン引きされた。きちんとスポーツブラにハーフパンツという、違和感の無い格好をしているというのに。

 

「いや、二階とは言え、ポケセンのど真ん中で女子が筋トレしてるのは、明らかにおかしいと思うんだけど……」

 

 リリスが周りの目を気にしながら、ボソボソと指摘する。

 そう、俺たちは今、ポケセンの二階にいる。ここに限らず、ポケセンの二階は旅のトレーナー(未成年)向けの宿泊施設になっているのだ。

 ただし、個室ではなくタコ部屋で、風呂とトイレに洗濯機は共用になっており、寝具は布団のみ。食堂があるだけまだマシだが、プライベートな場所は皆無と言っていいだろう。

 まぁ、根無し草に最低限度の生活空間を提供している時点で、大分良心的だが。普通は宿泊施設くらい自分で探す物だし、本来ならば野宿をする所だからな。

 

《嫌ぁああああっ! 腹筋バキバキのマッチョウーマンなんて嫌だぁ!》

『器よ、お前もか……』

 

 いや、裏切るも何もないんだけどさ。

 でもねぇ、身体は資本なのよ。幾ら俺が邪悪なる暗黒破壊神とは言え、器ボディはあくまで女子。か弱いままでは、ポケモンどころか悪い狼にすら負けてしまう。

 そんな事にならないよう、しっかり筋トレをしようと言うのに、アム○……何故それが分からん!

 

「《それはエゴだよ!》」

 

 煩いぞお前ら。と言うか、お互いに認知出来てない筈なのに、何で息ピッタリなんだよ。どうでもいいけど。

 

『さて、さっそくアーリーモーニングティーでも頂こうか』

「アーミーみたいなトレーニングしておいて、目覚ましも何もないでしょうに……」

 

 ブツブツと文句を言いつつ、紅茶を淹れるリリス。今朝はアッサムのミルクティーか。疲れた身体にピッタリである。分かってるじゃないか。

 ああ、そうそう、リリスの手持ちが増えたんだよ。増えたと言うか連れて来たと言うか……あのポットデス、自ら付いてきたのだ。紅茶を淹れて二百年の実力者である。これからも美味しいお茶が飲めるかと思うと、素直に嬉しい。

 他の面子は研究所(仮)の留守を守るそうな。それ、新たな心霊スポットになるんじゃないですかね?

 そんなこんなで、紅茶を楽しみ、軽く朝食を済ませ、俺たちはポケセンを後にした。

 本日はいよいよジムチャレンジだ。

 

『ところで、ミュートシティのジムってどこにあるんだ?』

「中心街の小高い山の上にある、「ミュート植物園」の中央にあるわ。ケーブルカーで行けるわよ」

『フーン……』

 

 植物園って事は、くさタイプのジムなのか?

 まぁいいや、行けば分かる事だ。すぐそこらしいし。という訳で、ケーブルカーに揺られながら山頂へ。

 

『ほぅ、なかなか奇麗な場所だな』

「ニュージーランティスが誇る、最大最高の植物園だからね。何でもオーガランドシティの次点になりがちなミュートシティでは唯一と言っていい、ナンバーワンの施設よ」

 

 車外に出てみると、そこは美しい花園だった。

 広さは約25ヘクタール。ガラル政府による開拓時代に建設された為、基本的に外来種の草木が花を咲かせているが、他にも世界有数の薔薇園「レディウッズ・ガーデン」や「イオルブ・メント」という日時計、数々の彫刻群にカントー&ジョウトを思わせる和式庭園、紳士淑女にとっては涎垂物の「ハーブガーデン」などなど、様々な見所が見渡す限りに広がっており、回るのに半日も掛かると言われている超人気スポットである。

 

『……で、ここがミュートジムか』

 

 そんな花園の真ん中でひっそりと佇む、貴族の別荘を思わせる建物。ここがニュージーランティス諸島第一のポケモンジム、ミュートジムだ。半分緑に埋もれているているが、大丈夫なんだろうか。ちゃんと機能してます?

 とりあえず、お邪魔しまーす。

 

『外が外なら、中も中だな』

 

 ジム内は外と同じくガーデニングが成されており、無数の花々が七色に咲き乱れ、それがそのまま壁となっている。タマムシジムとよく似た、謂わば“花園の迷宮”である。

 

「やぁやぁ、未来のチャンピオン。ここは外観通りくさタイプ――――――と見せ掛けて、実はいわタイプのジムなんだ。だけど、最初のジムだからって油断しちゃいけない。ここはティアーザ地方に住む人間にとっては登竜門。“人気だから”といわタイプばかり使いたがる新人を試す、巨大な一枚岩だ。しっかりとタイプ相性を確認し、準備を怠らずに挑むといいよ」

 

 で、さっそく門前の解説さんから説明を受けたのだが……。

 

『いわタイプジムなのかよ!』

 

 こんな如何にもくさタイプですって感じなのに!?

 これ、解説さんに話し掛けずにズンズン進んでったら、確実に返り討ちに遭うだろ。何その初見殺し。

 でもまぁ、ティアーザ地方はいわタイプの研究が盛んに行われているので、ある意味で当然の結果と言えるかもしれない。解説さんの言う通り、ミーハーな奴に使い熟せる程、いわタイプは強くないからな。硬いイメージとは裏腹に弱点が多く、攻撃の命中率がビックリするぐらい低いので、使役するにはかなりピーキーな性能なのだ。

 だからこそ、最初の関門に選ばれた。トレーナーに現実を教え、いわタイプのポケモンを無用に傷付けないが為に。

 とにかく、そんなミュートジムに、俺は足を踏み入れた。同じいわタイプ使いとして、負ける訳にはいかない。

 むしろ、圧倒的な有終の美を飾ってやる!

 ……って事で、ジムチャレンジ開始ィイイイイイッ!

 

「あら、貴女も日向ぼっこですか? それともポケモン勝負?」

『ポケモン勝負に決まってんだろうが!』

 

 最初のトレーナーは舞妓はんのアミダラ。明らかにガラル式の花園に舞妓って……。

 ただし、何処となく洋風にアレンジされており、彼女の名前も相俟って、そこ傍となくナブー人っぽく見える。ひょっとして影武者さんですか?

 

「お行きなさい、ウソハチ!」『ウッソ~!』

 

 アミダラはんが繰り出したのは、ぼんさいポケモンのウソハチ(Lv6)。木に擬態するいわタイプのポケモンで、見た目こそ緩いが「鈍足物理耐久アタッカー」としてステータスが完成しており、割と侮れない相手である。

 

『今度は役に立てよ、クラトン!』『クラァ~ン!』

 

 逆に言えば、特殊技で弱点を突かれると弱いのだが。ついでに言えば、クラトンの方が僅かながらに速い。後は分かるな?

 

『クラトン、「みずでっぽう」からの「アクアジェット」!』『クラッシャーッ!』

『ウッソォ~!?』「きゃああああああ!」

 

 クラトン(Lv9)の水鉄砲が炸裂し、ウソハチは倒れた。やっぱり特性:頑丈はウザいな。

 ……えっ、何故そんなにレベルが上がってるのかって?

 そりゃお前、俺がオルタリカの森で死闘を演じたからだよ。俺の本体はあくまでポケモン。敵を倒せば経験値が入るし、手持ちにも(・・・・・)分配される(・・・・・)

 だので、ドロッセアを倒した時の経験値によってクラトンたちはそこそこレベルが上がっているのである。

 ちなみに、今はこんな感じ。

 

《俺様の手持ち》

 

◆ウルフル Lv12:「すなかけ」「ひのこ」「えんまく」「いわおとし」

◆クラトン Lv9:「からにこもる」「みずでっぽう」「アクアジェット」

◆ハウボル Lv10:「ころがる」「このは」「すなかけ」「どろかけ」

 

 ウルフルは何だかんだで一番前線に出ていたのでレベルが一番高く、逆に臆病者のクラトンは一番レベルが低い上に技もみずタイプの物しかない。もう少し上がるといわ技を覚えられるらしいので、一先ずはレベルアップに専念しよう。前回のお仕置きも兼ねてね。

 

「やりますね! では、この子に全てを託しましょう! 出番よ、トゲダシイワ!」『ピキュゥン!』

 

 お次はとげさしポケモンのトゲダシイワ(Lv7)。いわ/むしの複合タイプで、特性は、がんじょう/マイペース/あまのじゃく(隠れ特性)のいずれか。見た目はナマコブシそっくりで、背中の突起物が鋭利な棘に変わっている以外、大差はない。ステータスも似たような感じ。

 ゲンガー図鑑曰く、ティアーザの化石ポケモンの一種で、背中の棘を盾にしながら、海の底で微生物を食べて生きていたそうな。

 モデルはおそらく、バージェス生物群のウィワクシアだろう。生態的な特徴が酷似している。

 さて、それはそれとして、どう攻めようか。とは言え、さっきと同じでいいような気がする。抜群取れるし、仮に頑丈持ちでもアクアジェットで落とせる筈だ。

 という事で、水鉄砲からのアクアジェット!

 

『キュァアアアッ!』「ア~ン♪」

 

 おい、どうした雌豚。マゾだったのか、お前は。

 トゲダシイワ……耐久力は確かに高いけど、レベル差でそれなりにゴリ押し出来るんだよね。攻撃技が一切ないし。何しに出て来たんだ、こいつ?

 

「フフフ……私の本名はドーメ、影武者よ! 本物のアミダラではないわ!」

『だから何だよ』

 

 やっぱり影武者なんかい。お疲れ様です。

 さぁ、次だ次。花咲く迷路を進んでいると、第二のトレーナーが現れた。こいつもまた舞妓はんだった。

 

「あららら~? どちらさんどすえ?」

『挑戦者のザギだ』

「そうどすか。私はアミダラ。良しなに良しなに……」

 

 あ、これまた影武者な奴だ。

 

「おいでませ、ウソッキー!」『ウッソソォ~ン!』

 

 今度はウソッキー(Lv8)か。ウソハチの進化形で、より精錬された重戦車型のポケモンである。緑の手は伊達ではなく、いわタイプの癖にくさ技が使えるなどレパートリーが広く、なかなか厄介な奴だ。地味に攻撃力高いし。

 だが、結局はさっきの二の舞よぉ!

 

『クラトン、「みずでっぽう」!』『クラッシュ!』

「くっ……ウソッキー、「アームハンマー」!」『ウソォーン!』

『あっぶな! 避けて「アクアジェット」!』『クラッシャー!』

 

 ちょっと危なかったけど、どうにか仕留める事には成功した。

 

「キィイイイッ! 敵討ちでっせ、ゲニアンカー!」『ゲニァアアアッ!』

 

 繰り出された次鋒はゲニアンカー(Lv8)。タイプはいわ/エスパーの複合で、トゲダシイワと同期の化石ポケモンである。特性は、とびだすなかみ/てつのトゲ/てんねん(隠れ特性)の三つ。容姿はハルキゲニアそっくりで、顔はツボツボ、尻尾は電球に似ている。ステータスはかなり横並びだ。

 ゲンガー図鑑によると、トゲダシイワと同じく背中の棘で身を守り、それでも退かない相手には尻尾の電球で目晦ましを食らわせていたらしい。特性といい丸い尻尾といい、確実に史実ネタだな。

 

『交代だ、クラトン! 行け、ハウボル!』『ボルボルゥッ!』

 

 ともかく、俺はクラトンを引っ込めてハウボルを出した。海産ポケモンって事はみず技を使ってくるかもしれないし、そろそろクラトンも辛くなって来ただろうから、ここらでハウボルにも活躍させてあげよう。

 

「ゲニアンカー、「ねんりき」!」『ビカカカァン!』

 

 尻尾の電球を輝かせながら、ゲニアンカーが念力を放ってくる。

 

『「ころがる」で距離を取りながら「どろかけ」を食らわせろ!』『ハウボルゥン!』

 

 素の状態では常に先手を取られてしまう為、俺はいつもの如く転がるで逃げ回りつつ、泥を掛けてやった。念力はそこそこ痛いが、動きが止まる程ではない。このまま逃げ回りながら命中率を下げて、木の葉で仕留めてやる。

 

「ゲニアンカー、「フラッシュ」!」『アンカァアアアアッ!』

『ボルゥッ!?』『ぬぉっ!?』

 

 しかし、剣盾で廃止されて久しい技、フラッシュによって目潰しされてしまう。あ、これはヤバい。

 

「「ニードルガード」!」『トゲァアアン!』

『ボォアアアッ!』『くそっ……!』

 

 目が眩んでコントロールを失ったハウボルの行く先に回り込んだゲニアンカーが、ニードルガードでカウンターを食らわせて来た。これによりハウボルの動きが完全に止まる。

 

「トドメの「ねんりき」どす!」『キョォオオオッ!』

『戻れ、ハウボル! 頼むぞ、クラトン!』

 

 俺は念力が飛んでくる前に、ハウボルを引っ込めた。あのまま食らっていたら、確実に落ちていただろう。代わりにクラトンを繰り出す。現状、非接触技で弱点を突けるのがこいつしかいないからな。

 

「関係あらへん! 「ねんりき」!」『ゲニィ……ン!?』

『おっと、外れだ。「みずでっぽう」!』『クラァン!』

 

 素早さでは負けているので、先にゲニアンカーの念力が飛んできたが、ハウボルの泥掛けが良い仕事をしてくれた。おかげでクラトンは無傷のまま水鉄砲で反撃出来る。

 

『「みずでっぽう」!』

「「ニードルガード」!」

『「みずでっぽう」!』

「「ニードルガード」……くっ、失敗したわ!」

『クラッシュバンバン!』『ゲァアアアアン!』

 

 二発目は防がれたが、三発目は直撃。ようやく倒す事が出来た。守る系の技は連続で使うと失敗率が上がるからな。

 

「フフフ、負けました。ですが、私は本物ではありんせん。コーデどす」

『ナンダッテー』

 

 そして、この種明かしである。ムカつくわぁ、このノリ……。

 はい、次々ぃ!

 

「ザギ、ちょっと待って」

『あん?』

「そろそろ回復しましょ? 傷薬は持ってるから」

『おお、そうだな』

 

 危ない危ない。頭に血が上って短絡的に突き進む所だった。これも奴らの作戦……な訳ないか。さっさと回復しよう。

 

「……これでよし」

『それじゃあ、三人目と行くか』

 

 ポケモンたちを全快した俺たちは、恐らく最後の一人と思われる舞妓はんに勝負を挑む事にした。

 

「あら? 貴女は誰です?」

『挑戦者だ』

「あらあら、そうですか。私はアミダラ。……挑んで来るというのなら、全力でお相手致しましょう!」

 

 あーら、そうですか。いい加減にしろアミダラ。

 

「お行きなさい、ウソッキー!」『ウソォオン!』

『行けっ、クラトン』『クラ~ン!』

 

 アミダラ(仮)が繰り出したのは、ウソッキー(Lv10)。本当にウソッキー好きだなお前ら。イシツブテみたいなノリでバンバン使ってきやがって。

 対するこちらはクラトン(Lv12)。この勝負、貰った。

 

『クラトン、「みずのはどう」!』『クラッシュゥウウトッ!』

 

 ハイ、水の波動を覚えました。いわ技が来るかと思ったら、普通にみず技だった。嬉しくはあるんだけどね……。

 

『ウソォォ……!』「「アームハンマー」!」『ウソァッ!』

『クラァッ!?』『くっ、戻れ!』

 

 くそっ、本当に苛々するな、頑丈持ちは!

 だが、ここまでだ。HP1の貴様に次は無い。

 

『ウルフル、「ひのこ」!』『ウルフゥッ!』

『ウソォ……』「ご苦労様です、ウソッキー」

 

 ウルフル(Lv15)の開幕火の粉で、ウソッキーは落ちた。

 

「頼みましたよ、ミツメムシ!」『シュシュゥッ!』

 

 次なる相手はミツメムシ(Lv11)。タイプはいわ/くさの複合。トゲダシイワやゲニアンカーと同時期の化石ポケモンで、特性はするどいめ/カブトアーマー(隠れ特性)の二つ。三葉虫によく似ており、名前通り第三の目があるのが特徴で、特性にもそれが現れている。

 コソクムシとも似ているが、ゲンガー図鑑曰く「他人の空似」らしく、こちらはどちらかと言うと防御寄りのステータスとなっている。素早さもいわタイプにしてはそこそこ程度で、そんなには速くない。

 実際、三葉虫とフナムシは形が似ているだけの他人同士であり、かなり縁遠い存在である。

 それにしても、見事にバージェス動物群の生物相が揃ったな。近くに博物館があるからか?

 

「ミツメムシ、「アクアジェット」!」『シュラァン!』

『ウルァッ……!』『くっ、戻れウルフル!』

 

 クソッタレが、海産物だからアクアジェットが使えるのか。くさタイプの癖に!

 

『頼むぞ、ハウボル!』『ボルボルゥッ!』

 

 俺は最後の一匹であるハウボル(Lv14)を繰り出した。完全に同じタイプ同士であり、お互いに有効打がない。こういう時は、

 

「「アクアジェット」!」『シュシュゥン!』

『「タネマシンガン」で迎撃しろ!』『ボボボォール!』

 

 手数で勝負だ。ドッシリと足を着けたハウボルのタネマシンガン(Lv12で覚えた技)が、ジェットの勢いで襲ってくるミツメムシを返り討ちにした。ダメージこそ大した事は無いが、見事に腹を見せて引っくり返っている。

 

『追撃の「ころがる」!』

「「アクアジェット」で逃げなさい!」

『無駄だ! 引っくり返った状態からでは逃げられん!』

 

 甲殻類を含む節足動物の弱点は、関節の自由度が低い事。引っくり返ってしまうと、単純に足が届かなくなるのだ。おまけに殻には柔軟性が無いので、脊椎動物のように外皮をきちんと接着する事も出来ない。ボールがコロコロ転がってしまうのと同じである。

 一応、触角が長いか腹部が良く動く系統は普通よりも起き上り易いが、それでもまだマシな程度。亀よりも起き上れない奴が、即座にアクアジェットで逃げるには無理があった。

 

『轢け! 撥ねろ! ぶっ飛ばせ!』『ブルァアアッ!』

『ミュラァーン!』「くっ……ご苦労様、戻って下さい」

 

 ふぅ、どうにか勝った。滅茶苦茶ヤバかったな。ミツメムシが引っくり返ってなかったら、押し負けてたのはこっちだったな。

 最初のジムなのに、モブ相手にここまで苦戦してて大丈夫か、俺?

 つーか、技に容赦がねぇんだよ。いきなりアームハンマーねぇだろ。バランス考えろや。

 

「ウフフフ、お強いのですね。そんな貴女に教えてあげます。……私はアミダラだけど、本名はパドメって言うのよ♪」

『そうですか……』

 

 いや、その設定に何の意味があるんだよ……。

 

「ハイ、元気の欠片と傷薬」

『おう、お疲れさん』

 

 さぁて、蘇生と回復も済ませたし、ジムリーダー戦と行きますか。

 

「フ~ンフフフ~ン♪」

 

 ジムリーダーと思しき人物は、こちらの事など目もくれず、花の世話をしていた。

 タケシの妹であるムツコによく似た糸目顔で、プラチナブロンドの髪を後ろで短く纏めている。スタイルはリリス並みによろしい。

 服装はオーバーオールにチェックのポロシャツ、長靴と手袋&アームカバーという、如何にも園芸用といった格好で、今まで振袖続きだった事も相俟って、存在感がマシマシだった。

 

『ええっと?』

「……ん? あ、もしかして挑戦者の方ですか? すいません、手入れに夢中で……」

 

 糸目のままニコニコと振り返るジムリーダーっぽい人。

 何だろうね、この感じ。温和な糸目キャラって、実は強キャラだと思っちゃうのは、俺だけだろうか?

 

「――――――では、改めまして。わたくし、カラシと申します。ミュートジムのリーダーをさせて頂いておりますわ」

 

 優雅に一礼するカラシさんとやら。恰好こそあれだが、所作に高貴さが見て取れる。本当はいいとこのお嬢様、もしくはお忍びのお姫様なのかもしれない。

 

「ルールは簡単。わたくしの手持ち三体を倒す事。それ以上でもそれ以下でもそれ以外でもありませんわ」

『随分強気だな』

「それは勿論。岩は脆い。火に巻かれれば爆ぜてしまうし、雨風に当てられれば壊れてしまう。……しかし、熱で溶ければ溶岩となり、緩んだ地盤に乗れば土石流となる。落石だけでも、家や道路を簡単に圧し潰してしまいます」

 

 さらに、躍るような仕草でゴージャスボールを構え、

 

「そう、いわタイプの真価は攻めに有る。座して待つだけでは何の解決にもなりません。人も岩も、自ら動かねば、艱難辛苦を乗り越える事など出来ないのですよ。

 そして、わたくしはジムリーダー、トレーナーの壁。

 さぁ……壁そのものが襲い来る恐ろしさ、たっぷりと骨身に響かせてあげましょう」

 

 カッと目を見開いて、最初のポケモンを繰り出した。

 

 ――――――ジムリーダーのカラシが勝負を仕掛けて来たっ!

 

「お行きなさい、ウソフキン!」『ウソォォ……フッ!』

 

 カラシの一番手は、ウソッキーの進化形、ウソフキン(Lv15)。名前通り、ウソッキーとスナフキンを足して二で割ったような姿をしている。タイプはいわ/くさの複合で、特性はがんじょう/いしあたま/ぎたい(隠れ特性)。ステータスはギガイアス並みに上昇しており、並大抵の攻撃では落とせないだろう。

 ゲンガー図鑑曰く、オーロットの群生する森で長い年月を過ごす内に身体から草木が芽生え、本当にくさタイプを獲得するに至ったらしい。ただし、相変わらず水そのものは苦手らしく、季節に合わせて移動するのだとか。

 ちなみに、進化条件は「うそ」と名の付く技を二つ以上習得している状態で、くさタイプを手持ちに加えてレベルアップする事。嘘の嘘は真、という事だろうか。

 

『行けっ、ウルフル!』『ウルフォォォッ!』

 

 こちらの先鋒はウルフル。俺の手持ちにはウソフキンの弱点を突ける奴がいないので、ステータス的な穴を突く為にも、先発はウルフルに頼るしかない。クラトンなんて論外だ、論外。

 それでも、未進化と最終進化形では、ステータス的に勝ち目は無いだろう。

 しかし、ここが完全に(・・・・・・)ゲームの世界(・・・・・・)ではない(・・・・)としたら、まだ望みはある。

 

『ウルフル、「えんまく」!』『ウルゥッ!』

 

 まずは視界を奪い、命中率を下げる。技は相変わらず貧弱なので、この戦法を取るしかない。

 

「構いません! 「ウッドハンマー」を打ちまくりなさい!」『ウソッフゥッ!』

『避けろ!』『ウルゥッ!』

 

 ちっ、遮二無二に攻めて来たか。ウソッキーと違ってタイプ一致だから、当たれば確実に一撃必殺となる。それが連続で飛んでくるのだから、そう簡単には近付けない。

 フム、アームハンマーではなくウッドハンマーを連発するって事は、あいつの特性は石頭と見るべきだな。さすがに諸刃の頭突きは無いだろうが、威力120のタイプ一致技を反動無しで放たれるのはキツいな。

 

『ウルフル、距離を取ったまま、「ひのこ」!』『ウルッフゥッ!』

 

 だので、俺は決して近付かず、遠距離から火の粉をぶつけた。合間に煙幕を張り直す事も忘れない。

 実に姑息なやり方だが、少しでもミスれば一撃必殺がかっ飛んでくるのだから、慎重にもなるさな。

 

「……そこっ、「がんせきふうじ」!」『ウッソラァッ!』

『ウルゥッ!?』『くっ……!』

 

 途中から撃たれるままだったウソフキンが、突然岩石封じを放って来た。こいつ、軌道から居場所を割り出してやがったな!

 

「今よ、畳み掛けなさい! 「ウッドハンマー」!」『ウソフキィイイン!』

 

 ウソフキンのウッドハンマーが迫る。あれが当たれば、今までの苦労が水の泡。そんな事、

 

『認められねぇよなぁ!?』『ウルォオオッ!』

 

 と、ウルフルの身体を光が包み、精悍な姿――――――燃え上がる尻尾を振るうフクロオオカミに成長させた。戦闘中にレベルが16に達して、ウルファングに進化したのだ。更には進化ボーナスで弾ける炎をも習得した。

 そう、これこそが勝機。完全なデジタルではないが故に、こういう事だって起こり得る。俺はそれに賭けていたのである。

 そうしないと、絶対に勝てないからな。

 

『ウルファング、「はじけるほのお」で迎撃しろ!』『ウルファアアアングッ!』

『ウソァッ……!』「くっ……!」

 

 捉えたと思っていた相手が急に進化した上に、強烈なカウンターを放って来たので、ウソフキンは振り被った姿勢のまま仰天した。

 むろん、そんな隙だらけの姿勢を晒しておいて、俺が見逃す筈もない。

 

『こっちこそ畳み掛けてやる! もう一発、「はじけるほのお」だ!』『ヴォァアアッ!』

『ウソォォォーッ!』「……頑張りましたね、ウソフキン。戻って下さい」

 

 そして、ウルファングの弾ける炎が再び炸裂して、遂にウソフキンは倒れた。カラシは慈愛に満ちた笑みでウソフキンを労い、ボールに戻す。

 

「……やりますね。アノプス、頼みます!」『プキュゥウン!』

 

 次に彼女が繰り出したのは、アノプス(Lv13)だった。いわ/むし複合の、アノマノカリス型のポケモンだ。

 まぁ、今までバージェス動物群が続いていたから、出るとは思っていたけどね。

 

『戻れ、ウルファング! 行け、クラトン!』『クラァ~ッ!』

 

 さすがに海産物の相手をするのは厳しそうなので、ウルファングをクラトン(Lv14)と交代した。あいつ、海産物の癖にみず技が弱点だからな。

 

『クラトン、「アクアジェット」!』「アノプス、「アクアジェット」!」

 

 すると、向こうもそれは対策済みなのか、アノプスもアクアジェットを発動し、クラトンの攻撃を躱した。タマゴ技まで搭載してんのかよ!

 しかし、タマゴ技を含めても、レベル13では精々水の波動か叩き落とすくらいしか威力のある技はない筈。

 

「アノプス、「メタルクロー」!」『シャアアッ!』

『クラッ!』『あー、それがあったか……』

 

 とか何とか言っていたら、アノプスのメタルクローがクラトンを切り裂いた。持ってたなぁ、そう言えば。

 だが、さすがに一撃では落ちないし、このタイミングならアクアジェットも当てられる。食らいやがれぇ!

 

『クラトン、「アクアジェット」で跳ね飛ばしてから「みずのはどう」!』『クララァアアッ!』

『プシャアッ!』「アノプス……!」

 

 よし、上手く決まった。やっぱり序盤に水の波動があるのは便利だな。でも出来るならもっといわ伎ください。

 

「――――――「メタルクロー」!」『プシャアッ!』

『クラァン!』『クソがっ!』

 

 チクショウ、最後の力を振り絞って道連れにして来やがった。やってくれる。面倒な先制技持ちを潰しただけ、僥倖と見るべきか。

 ともかく、次で最後だ。一体何を繰り出して来る事やら……。

 

「あなたが砦よ! パイモンド!」『パァァァヴィモォォォンドォゥ!』

 

 召喚されたのは、全身がダイヤモンドで構成された岩の蛇。角の無いイワーク、もしくは鉱物染みたサイバー・ドラゴンのような姿をしており、体長約9メートルもある巨体である。

 

《『パイモンド:いわへびポケモン』。タイプはいわ/じめんの複合で、特性はがんじょう/くだけるよろい/ダイヤコーティング(隠れ特性)の三つ。全身がダイヤモンドで構成されていて、特殊攻撃に対しては強いけど、衝撃に対してはそこそこ脆いンガ。ティアーザにおけるイワークのニッチを占めるポケモンで、特殊な宝珠を摂取する事で四つの姿に進化すると言われてるンガよ》

『へぇ……』

 

 つまり、特殊寄りのイワークって事か。ようするにティアーザ地方の見掛け倒しじゃん。ここはハウボルで行こう。

 

『行って来い、ハウボル!』『ボルルゥン!』

 

 ここは素直にタネマシンガンで仕留めようか。

 

「パイモンド、「ジェムラッシュ」!」『ヴァアアアアアッ!』

『ズワォッ!?』『ボルァッ……!』

 

 なーんて油断してたら、パイモンドがいわ特殊版往復ビンタであるジェムラッシュを放って来た。その上、しっかり五発当てて来やがった。

 

「パイモンド、追撃の「パワージェム」!」『ヴォォォォ……』

 

 さらに、エネルギーの結晶体を生成し始めるパイモンド。やらせるかっ!

 

『ハウボル、「どろかけ」してから「タネマシンガン」!』『ボルボルボルボルボルゥ!』

『パイモォォォンドォ……!』「パイモンド……っ!」

 

 よしよし、特殊寄りって事は、物理面はおざなりって事だからな。あの図体で意外と素早いのには驚いたが、所詮はイワーク枠だ。例え頑丈持ちでも、連続技は防ぎようがあるまい。実はさっきのジェムラッシュでHPが半分持って行かれて大ピンチだったのは内緒。

 とにかく、これでカラシのポケモンは三匹とも倒した。

 二匹瀕死で一匹が重傷という中々の接戦だったが、勝ちは勝ちである。

 

「……負けました。鋭く重い怒涛の攻めをも受け流す、その柔軟さ。感服致しましたわ。……さぁ、このジルコニアバッチを受け取って下さい」

 

 そして、カラシからジルコニアバッチを受け取った事により、俺のミュートジムチャレンジはクリアとなったのだった。

 最初のジムなのに、滅茶苦茶疲れた……。




◆カラシ・アミダラ・アオテアロア(アオテアロアの女王カラシの意)

 ミュートシティのジムリーダー。趣味は園芸で、常に何かしらの草花を弄っては、良い汗を流している。好みのタイプは無骨な人らしい。いわタイプは攻めてこそ真価を発揮するという持論を持ち、今日もミーハーないわタイプ使いを笑顔で叩きのめしている。
 元々はニュージーランティスがガラルからの侵略を受ける前に栄えていたアオテアロア王朝の末裔らしいが、本人はその事を吹聴するような真似はせず、一人のミュート市民として暮らす事を望み、それを実行している。
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