シャングリラ・フロンティア 赤猫亭の冒険   作:タマヤ与太郎

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気が付いたらドハマリしていた名作、シャングリラ・フロンティアで何か書いてみたく、久しぶりに二次創作SSなぞを描いてみた次第。呼んでいただければ幸いです。


1:始まりは磯の香り

 

 

「…………」

 

新大陸は前線拠点近海、小舟の上には1人の女性開拓者(プレイヤー)の姿があった。

赤い髪にむすっとした気難しそうな顔、小柄な体躯に白い料理人然とした恰好だが、

肩当やガントレット、それだけで武器になりそうなブーツ、

そして背に吊るした明らかに料理用ではない長大な包丁が、

彼女がただの生産職ではないことを示している。

そんな彼女が先程から何をしているのかといえば――――――ただ無心に網を引き揚げていた。

 

「…………!」

 

何か手ごたえを感じたのか、先程より速いペースで一心不乱に網を揚げる。

網の中に魚や貝が混じり始め、増え、ついに魚のたっぷり詰まった網の端が水上に出る。

が、その瞬間、彼女の視界に何かが映った。魚介類ではない何かが。少女の口がへの字に曲がる。

網を船に乗せ、魚を傷つけないように慎重に搔き分け、その『何か』が手に触れる。

 

「……魚、ではない? なんだこれ」

 

魚に隠れて全体像は見えないが、つるつるしている何かが手に触れる。

上の方に程よいくびれがあったのでそこを掴んで引き上げてみれば――――――

 

「――――――ひっ」

 

少女は息を吞んだ。

それは人型をしていた。まるで左腕以外の四肢がもげたマネキンのような。

ではマネキンか。否、それには青みがかった黒の頭髪があり、

顔があり、襤褸切れのようになった服の名残があった。

では人か。否、人、NPC(1号人類)プレイヤー(2号人類)であるなら

四肢の断面からポリゴンが漏れているはずであり、

この『何か』の四肢の断面は青いラインが幾重にも走り、

ただのマネキンでもないことを示している。

 

だが少女が息を呑んだのはそれではなく、

ちょうどよいと掴んだくびれが『何か』の首であったこと。

つまりほぼ人型の物体をネックハンギングツリーの形にしているという事であり、

その『何か』の眼がぐるりと動き、少女の眼を見据えたという事を認識した瞬間その手は離れ、

『何か』が船の上落ちたと同時に反射的に後ろに後ずさり、

 

どぼん。

 

海に落ちた。

 

 

 

 

 

質問(あのー):大丈夫ですか?」

 

「暫定水死体と唐突に視線が合ったら誰でもああなる」

 

あれから少しして。小舟に戻ってきた少女と『何か』は言葉を交わしていた。

 

否定(ノンノン)睡眠状態(スリープモード)は機能停止状態とは大きく異なり――――」

 

「長話は後で聞いてやる。お前は誰だ。どうしてああなっていた」

 

御託は結構とばかりにばっさり切り捨てた少女に、若干肩を落としながら『何か』は口を開く。

 

了解(わっかりました!):マナ型征服人形(コンキスタドール)製造番号289、機体名称[マナ=289]です!

 あなたのお名前をお聞きしても?」

 

「ミオだ。征服人形というとあれか、神代の連中が作ったとかいう。

 そういえばツチノコさんが連れてたな……

 その後何人か来たりしたりしてたはずだが。お前もその口か?」

 

ツチノコ、正式名称サンラク。初のユニークモンスター討伐を成し遂げたプレイヤーであり、

ツチノコと渾名される通りの神出鬼没ぶりで知られる。

ミオも参加したユニークモンスター『天覇のジークヴルム』戦において、

トッププレイヤー達すら見た事のない多種多様な武器、時には性別すら切り替え、

シャングリラ・フロンティア開始以来誰も取得したことのない称号、

『最大速度』を掻っ攫っていったことは記憶に新しい。

 

否定(ああいえ):ワタシは別口です。マナ型征服人形は海洋調査タイプでして、

 しばらく前にこの辺りの海を調査中海底で戦闘に巻き込まれて四肢と各種装備を喪失、

 その後海流に流されるままにこの辺りをぐるぐるしていた所……」

 

「……私が引き上げたと」

 

肯定(おっしゃる通りで):その節は本当にありがとうございました……」

 

「礼には及ばんさ。……で、直す当てはあるのか?」

 

ミオの問いにマナ=289は少し考え込み、

 

部分的肯定(多分大丈夫だと思いますが):同型から装備や予備部品の提供を受ければ……

 あるいは他の征服人形とコンタクトが取れれば可能かと」

 

「どっちにしろ仲間に会えないと無理なわけだな。

 まあいい。前線拠点に戻れば誰かしらいるだろう。

 同型がいるかは怪しいが……そうだな、魚人族にでも聞けばいいか?

 あいつら海底に住んでるらしいからな。見たことぐらいはあるだろ」

 

言いながら、ミオはぎいぎいと舵を切りながら陸へと向かい始める。

その様子を眺めながらマナ=289は何事か考えていた様子だったが、

少しして、ぽつりと口を開いた。

 

「……感謝(ありがとうございます):ミオ。あなたの網にかからなかったら、

 ワタシは未だ海を漂い、いずれ藻屑になっていました」

 

「なんだ藪から棒に、気にせんでいいと言うに。

 お前らはリスポーンできんのだろ、1号の奴らと同じく」

 

肯定(はい):ですが征服人形のそれはただの機能停止であり、

 いずれ同型機が生産されその穴を埋めるでしょう」

 

その言葉を受けて、ミオの気難しそうな顔が遠目にも分かるほどの渋面を形作った。

 

「そういうのはいい。どうでもな。そういう御託は聞き飽きている。

 たまたまでもなんでも、私はお前を助け、お前は助かった。そうだろう?」

 

そして深く、深くため息をついて、言葉を続ける。

 

「征服人形の同型機ならお前の代わりの仕事はできるだろうが、お前にはなれん。

 私とて憧れる相手に一人や二人いるがな、どれだけ憧れ腕を磨いても、

 その相手にはなれん。もどかしいことにな……いや、私の事はどうでもいいんだ。

 口が滑った、忘れろ。ともかくだ、お前という個体の代わりなどいない、ということだ。

 それにだ、助けられたことに礼を言うということはすなわち、

 死にたくなかったという事だろう」

 

「…………」

 

ミオは頬を薄く染めて黙り込み、あたりには波の音と舟をこぐ音だけが響く。

マナ=289もまた黙り込み、ミオが舟を漕ぐのを、ただじっと見つめていた。

 

 

 

「───精査完了」

 

舟を漕ぐことしばし。もうすぐ前線拠点に着く、という頃合いで、

最初に口を開いたのはマナ=289であった。

 

「次世代原始人類ミオ、よろしいですか」

 

「……言ってみろ」

 

「提案:ワタシとの契約を要請します」

 

「契約……?」

 

ミオはその言葉に眉を顰め、記憶を辿る。

そういえば征服人形というものが表舞台に現れて後、

ツチノコことサンラクの連れていた征服人形、サイナの様に開拓者と『契約』を行い、

そのパートナーとなった征服人形がいたはずだ。

神代以前に存在したらしいアイドルグループを模した彼女たちは当然美少女揃いであり、

彼女らと契約をしたいがために血道をあげる者もいると聞く。

いつだか覗いた検証掲示板はなんというか控えめに言って惨状だったな……

と余計なことも思い出しつつ、ミオはマナ=289からの提案を反芻する。

 

つまりこの提案は、自分がその契約相手として選ばれた、という事か。

ミオ個人としては美少女を連れまわしたい、という願望がないが、

いちプレイヤーとして他者の未だ持たないものを所有したいという気持ちはある。

各征服人形ごとに様々な条件があるらしく、遭遇できても契約できるとは限らない。

自分が契約を持ちかけられているということは、先程の救助か、

その後の会話のどちらか、あるいは両方によって条件を満たした、という事なのだろう。

 

「……ふむ、いいだろう。願ってもない話だ。私としては構わん。

 だが、お前は環境調査型なんだろう? それも海の。

 興味はあるが、私にはお前の調査に付き合うのは難しいぞ。装備もない。

 この近辺ならどうにかなるが、海底の化け物どもにはまだ歯が立たん」

 

了解(かまいません):次世代原始人類のサポートを行うのも征服人形の目的の一つです。

 そうですね……人類的に言うなら、私がそう望んだから、といったところでしょうか。

 あなたはワタシの『個』を認めてくれた。それではいけませんか?」

 

その返答に、ミオはわずかに目を見開き、直後にやりと笑う。

 

「それでいい。……で、契約はどうやるんだ」

 

感謝(ありがとうございます):私に近づいてもらえますか?

 承認:再征服計画……フェーズ1、フェーズ2スキップ。フェーズ3移行、

 「貴方の人形」(ユアドール)プロセスを開始。契約候補者ミオ、視線を合わせてください」

 

指示に従い視線を合わせる。マナ=289の瞳がカシャリと音を立て、

生物であればありえない動きでミオの網膜を捉える。

 

「網膜情報、登録。契約候補者ミオ、私の手にあなたの手を当ててください。

 ――――――指紋及び掌紋情報登録。これで最後です、手を口元に」

 

「……こうか?」

 

言われた通りに手を出せば、マナ=289がその手に噛みつく。

反射的に手を引きそうになるが、今まで登録してきた情報から最後に登録するものを察し、

発生したダメージエフェクトがマナ=289の口の中に吸い込まれていくのを見守る。

 

「血液情報、登録。「貴方の人形」(ユアドール)プロセス――――――完了。

 契約者ミオ、ワタシはあなただけの人形です。使い熟すも使い潰すもご随意に……」

 

「まあ使うも何もまず修理からだがな?」

 

消沈(しゅーん):せっかくかっこよく決めたのに……」

 

「何、人間そうやってバランスをとるものだ。――――――さて、そろそろ着くか」

 

ぎいこぎいこと音を立てながら、小舟が前線拠点の港へと入っていく。

この二人の出会いは、運命神も、創造神も気に留めない、ごくささやかなもの。

しかし、この2人にとっては……大いに意味のある事であった。

 




作中に登場する征服人形・マナ型の言動・外見に関しては与太郎の独自設定を大きく含んでおります。ご容赦ください。
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