新日常はパステルカラーの病みと共に(Rev.)   作:咲野 皐月

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 皆様、おはこんにちばんは。咲野 皐月です。


 今回は少し趣向を変えまして……前日譚に位置します、第零話を投稿しようと思います。このお話しには主人公が名前でしか出て来ない代わりに、ある二人がメインとなっております。

 いつものテイストのお話からはあまりにも逸れていて、尚且つ暗い話題がありますが、最後まで読んで頂けると嬉しいです。


 それでは、本編スタートです。


序章
第零話


 ……これは、愛しの彼が東京に帰って来る前の一幕。

 

 

「千聖ちゃんっ、こんにちは〜」

「あら、花音。待っていたわよ。あ、すみません。私の連れの者です」

「分かりました。では、此方へどうぞ」

 

 

 次第に桜の開花場所が増えて来て、如何にも春本番を思わせる陽気の続く三月の中頃、私はようやく出来たオフの日を使って、駅前に出来た新しいカフェへと訪れていたわ。

 

 まあ、落ち着いた場所で優雅にお茶会をする……と言うのも良かったけれど、私としてはもう一つだけ別の目的もあったり。それに花音を巻き込んでしまう事には、最初こそ躊躇いもあったけど、今はもう吹っ切れてる。

 

 

 ……手遅れになってしまわない、今のうちに。

 

 

「お待たせ〜。千聖ちゃん、待たせちゃったかなぁ」

「いいえ、私も今来た所よ。気にしないで」

「ふふっ、ありがとう…♪」

「それじゃあ、注文しましょうか」

 

 

 花音が席に着いたのを見た私は、メニュー表を広げて注文を取る事にしたわ。今から話す事は必ず長丁場になってしまう……適度に休憩を入れなければね。そして、二人とも注文を終えた後、少ししてから私は花音に声をかけられた。

 

 

「ねぇ、千聖ちゃん。今日私を誘ってくれたのは、何か理由があったの?」

「……どうして、そう思ったのかしら?」

「確かにここのカフェは落ち着いてて、私も何度か足を運んで見たいねーとは言ったよ。でも、その当日になって後から来てって電話で言われたから……何か他にも理由があるんじゃないかって思ったんだ」

 

 

 

 ……本当に、花音は私の事をよく見てるわ。

 

 普段はあまりにも危なっかしくて、見ているこっちもハラハラしそうなくらいなのに……こう言う時は確り人の気持ちに寄り添える子。そんな花音が親友で良かったと思える私は、今……自分が抱えている事を果たして真っ正直に言えるのかしら。

 

 

 ……いえ、ここで悩んでいても仕方がない。

 

 他のメンバーには黙っていると決めたけれど、やっぱり親友にまで黙りなんて、そんなの私のプライドが許さないわ。

 

 

「……ええ、そうよ。私が今から話す事は、単なる独り言と解釈してくれて結構。それを聞いて貴女がどう思ったのか、その心境と気持ちだけ聞かせて欲しいの。わかった?」

「……う、うん」

「じゃあ、話すわね」

 

 

 私は花音の瞳を真っ直ぐに見つめながら、その重たい口を開いて話し始めた。本当はこの話然り……彼──颯樹に関わる全ての事に対して、今までと全く同じ様に、私の心の中でだけ覚えておきたかった事。

 

 

 もちろん、その話を他の人にしても良いけれど、それを聞いたが最後……その人が無事で居られる保証までは出来ない。それくらい、彼は辛い事を経験して来たの。そして、それを私は見て来た。その直ぐ近くで。

 

 見ているだけしかできない自分が、すごく悔しかった。ただ泣きじゃくっている彼を、慰めてあげる事しか私は出来なかった。今も思い出すだけで嫌になってしまう……もし許されるのなら、自分と言う存在を、この手で今すぐこの世から消したくなる程に。

 

 

「へぇ……千聖ちゃんと、その颯樹くんって男の子は小さい頃からずっと一緒だったんだね」

「ええ。産まれた日は私の方が彼より半年早かったもの……もし家族の中に居たのなら、すごく可愛い弟が出来たような気分だったわ。それくらい、私にとって颯樹は大きな存在なのよ」

「なるほど……で、その後はどうなったの?」

 

 

 花音に颯樹との関係を軽く明かすと、彼女はゆっくりと頷きながら私の話を聞いていた。その時々で相槌を打ちながら、返せる所は自分なりの気持ちを乗せて返答して……その顔に柔らかい笑みを浮かべて。

 

 その後は私と颯樹が小学生に上がった時の話をして、花音とは目の前にある紅茶が無くなるくらい……たわいも無い話で盛り上がっていた。

 

 

 ……ごめんなさい、花音。

 

 ここから話す事は、貴女の良心を深く抉ってしまうかもしれない……もし、それで私の事を恨んだとしても構わない。でも、彼に酷く追求するのはやめて欲しい……それが私の、願いだから。

 

 

「……う、嘘……。颯樹くんが、そんな事……」

「正確に言うと、それは颯樹のお父さんがした事だけれど。今思い出しても酷な話よね。自分とお母さんの間に産まれた子供に、そんな現場を目撃させた上で口封じをするなんて」

「……そうだよね……。じゃあ、その後颯樹くんはどうしたの? まさか、お父さんの言い付けを確り守って「ええ、その通りよ。彼は黙ってたの。お母さんに何か聞かれても何でも無いの一点張り……。本音をぶちまけて、楽になりたいと言う自分の本心を押し殺してね」そ、そんな……っ!」

 

 

 私がその話をすると、花音は今まで見た事無いくらいの驚きを見せていた。今にもそれは泣き出してしまいそうで、いつもの私ならそこで止めて彼女を慰めていた所。でも、話すって決めた以上、私も心を鬼にする必要があった。他でも無い……親友に対してでも。

 

 

「何でその時……颯樹くんは大声で言わなかったの? 素直に言ってしまえば、楽になれたかもしれないのに……」

「言えなかったのよ。自分のせいで両親が喧嘩をする羽目になったらどうしよう、もし自分が何か言ったせいで関係が益々悪くなるんじゃないか……そんな気持ちが彼にはあったのよ」

「でも! それでも言う事は出来たはずだよ! 何で自分から素直に言わなかった」

「言える訳無いじゃない!」

 

 

 花音から飛んで来た思いもよらない一言に、私はついカッとなって反論したわ。それを聞いたお客さんが吃驚していたので、私は席から立ち上がって頭を下げ、そしてお会計を済ませた後に花音を引き連れてカフェを後にしたわ。

 

 ……やっぱりダメね、この手の話をすると、私自身でも心のコントロールが利かなくなるみたい。冷静にならないといけないのに、彼の良き理解者であろうとしたいのに……!

 

 

 その後私たちは無我夢中で走り続けて、彼と小さい頃によく遊んだ公園へと来ていた。この時間帯では珍しくガランと空いていたけれど、私としてはまたと無い好都合。

 

 

「ど、どうしたの……? 急に走り出すなんて……」

「ごめんなさい……花音……。でも、あの場はもう既に人が集まり始めていた。その話をするべきでは無いと判断したからよ」

「……それだけ、大事な事なら、何で私に……?」

 

 

 花音が私の方を不思議そうな眼で見て来る。

 

 その瞳は純粋に何が起こったか分からない、と言った物だったけれど、少しその中に戸惑いも見えていた。この瞳を見る度に、どれだけ貴女を巻き込みたくない……と言う天使の心に苛まれた事か。

 

 

 でも、私は決めたのよ。彼の事を少しでも理解してくれる存在を用意するって。そして、その役割は自分が心から頼れる親友で無ければ話にならない。……それが、花音。貴女なの。

 

 

「花音。私から一生のお願いがあるの」

「……うん。私で良かったら」

 

 

 私の言葉を聞いた花音は、真っ直ぐ私の眼を見て来た。

 

 ……ごめんなさい、花音。貴女にこの役割を背負わせる事は無いと思っていた。でも、もう構わない。貴女がそのつもりなら、私の重責の片棒を担って貰うわよ。

 

 

「……私と一緒に、颯樹の事を守って欲しいの。そして、彼に寄り添うと誓って」

「……それは、颯樹くんの過去にも結びつくんだよね?」

「ええ。そして、彼の過去を嘲笑ったり、土足で踏み荒らす様な人は絶対に許しては駄目。もちろん、彼に危害を加えようとする人やそれを傍観した人もね。……これは貴女にしか頼めないわ。お願い、花音」

 

 

 私からのお願いを聞いた花音は、少し視線を惑わせて考え始めたわ。その様は今にも壊れてしまいそうだった……少しの衝撃も許されない程に。でも、彼の心に植え付けられた黒い過去は、それとは比較にならない……だからこそ、協力が必要。

 

 親友を巻き込んででもしなければ行けないか、と言われればそうでは無いけれど、もししなかったらと言う事を考えたら、不測の事態を想定しておくべき。

 

 

 そして少し時間が経った頃、花音はもう一度私の方を向いた。

 

 

「……纏まったよ、千聖ちゃん」

「……聞かせて。花音の意思を」

 

 

 ……私の言葉を受けて、花音はその口を少しづつ開いて自分の気持ちを答え始めた。

 

 

「……私なんかがこれから出会う男の子の傍で寄り添っても良いのかな、なんて考えてた。だって、私とその颯樹くんはまだ関わってすら居ないし、もっと言えば繋がりも千聖ちゃんを通じてくらいしか無い……そんな私が関わるなんて、不躾だけど役不足なんじゃないか、って。でもね」

「……続けて頂戴」

「千聖ちゃんから話を聞いて、その颯樹くんは本当に大切な存在なんだって思ったし、千聖ちゃんが私以外に居ないって、そこまで必死に考えて話してくれた……なら、私がその千聖ちゃんの気持ちに応えないのは、絶対に失礼だと思うんだ」

 

 

 ……本当にごめんなさい、花音。私は……ただ……っ!

 

 

「……えっ……」

「震えてるよ、千聖ちゃん。この話を話すの、本当に辛かったんだよね。気づいてないかもしれないけど、泣いてるよ……?」

「……う、嘘……」

 

 

 花音からの指摘を受けて、私は右手を眼の近くに優しく当てたわ。すると彼女から言われた通り、何かが通り過ぎた様な痕が残っていて、自分は泣いていたのだと知る事になった。

 

 私自身の中ではもう何もかもキッパリと話すって決めたはずなのに、心の中ではそれを拒んでいた……情けないわね、私って。

 

 

「……もう一人で抱え込もうとしないで?」

「花音……」

「私も一緒に背負うよ……千聖ちゃんが今まで辛い思いをして来た分だけ、私も一緒に」

「花音……私は、ただ……!」

「颯樹くんの事は、私と千聖ちゃんで絶対に守ろう? 千聖ちゃんが今までやって来た事は、無駄なんかじゃないって。私も力を貸すよ……これからは、ひとりじゃないんだから」

 

 

 私は花音に抱き締められ、その胸の中で時間の許す限り泣き続けたわ。こんな姿が週刊誌にでも撮られたら、スキャンダルどころの話じゃない……下手をすれば女優として活動している私の経歴にも傷が付きかねない。

 

 でも、今は……頼れる友の温もりに浸らせて欲しい。それくらいは……どうか、許して……。

 

 

 その後私たちは一頻り話をした後、互いの自宅へと帰り着く事にしたわ。カフェでのゆったりとしたお茶会はまた日を改めてになり、お互いにタイミングを合わせてと言う事で話を纏める事となった。

 

 

「(颯樹くんも、千聖ちゃんも……私が守るよ。たとえ、誰から罵倒されても、見向きもされなくなったとしても……)」




 今回はここまでです。如何でしたか?


 次回の更新は番外編か本編のどちらかを更新しようと思いますので、気長にお待ちくださいませ。


 それでは、また次回の更新にて。
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