新日常はパステルカラーの病みと共に(Rev.) 作:咲野 皐月
世間はクリスマスムードとなっている中、自宅に引き篭って小説の最新話執筆やゲーム三昧な咲野 皐月です(ちなみにゲーム方面では予想外な流れ弾が飛んで来たので気が気ではありません)。
今回は本編の第十四話をお届けします。
それでは……今年最後(?)のパス病み、最後までごゆっくりとお楽しみ下さいませ。
「……よし、これで準備はバッチリかな」
そう一言呟いた僕は、もう一度身の回りにある物の確認をした。今テーブルに置いてあるのは、バンド練習が終わった後の軽食である。全員に行き渡る様に一つずつ作っていて、炊きたてのご飯を握って塩を振り、その上から簡単に味付け海苔で巻いている物だ。
練習中はなるべく体調を崩さない様に見張るつもりなのだが、万が一の事を考えてポケリも用意している。ただでさえ熱の篭った室内での練習なので、喉が渇いたら遠慮無く水分補給を行なって欲しいと思ったりする。
それにボーカルを担当する彩は喉も酷使するので、気休め程度にしかならないが……レモンを薄切りにして蜂蜜に付けた物も準備したのだ。
傍から見れば用意周到と思われる光景だが……実の事を言えば、学校が終わって帰宅して直後から数十分かけて行なった事である。まあ、少しやり過ぎた感は否めないのだが。
「さて、後はみんなが来るのを待って」
「誰だろう、はーい!」
準備を終えてほっとしたのも束の間、自宅のインターホンが鳴らされた。開始時間は18時を指定しているので、何事も無ければ全員揃っている頃合いだ。
「はい、何方様ですか〜。あっ、全員来てるね」
「えへへっ、こんばんは!」
「今日もよろしくお願いします!」
「こちらこそよろしくね」
ドアの前に立っていたのはと言うと……リーダーの彩を始めとした、パスパレメンバー5人全員の姿だった。各々思い思いの私服姿となって居て、日菜とちーちゃんに至ってはギターケースを背負っていた。
最も、これから練習をする際は事務所か僕の自宅かの何れかになるので、そこまで移動の頻度は多くないだろうと踏んでいたりする。
「さっ、どうぞどうぞ。入って」
『お邪魔しま〜す!』
全員が靴を脱いで自宅に入ったのを見た僕は、ドアを閉めて施錠を行なった。
「さて、先ずはみんな着替えて来て。練習をするよ」
「場所はどうしますか? ここは普段使用するスペースだと思うので、それに適した部屋があると有難いんですが……」
「家の構造なら私が知ってるわ。二階の奥側が簡単な物置になっているの。引っ越して来たばかりで荷物もそこまで無いし、着替えるならうってつけの場所よ」
「ありがとうございます、千聖さん。それじゃあ、すみませんがお借りします」
僕にそう断りを入れた麻弥は、他の3人と一緒にちーちゃんの先導の下、階段を使って2階へと登って行った。途中で日菜がテーブルの上に置いてあった物に気がついたのだが、それに関しては首根っこを掴んで大人しくさせる事で未然に防ぐ事が出来た。
……さて、事務所でのレッスンが多かったここ最近だけれど、場所を変えても同じ様に熟せるかな?
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「ここよ、入って」
『おぉ〜』
私は麻弥ちゃんたち4人を連れて、颯樹の家の2階にある物置部屋へと案内したわ。部屋の間取りは彼の部屋と同じ広さで、荷物等を確り整理すれば、違和感無くもう一つのプライベート空間として活用できるほどに。
実の所……颯樹が東京に帰って来るまでに、私が軽くこの部屋の掃除をしたのだけれど、その時の荒れ様は今でも覚えてる。埃も溜まって蜘蛛の巣だって張ってる……6年間の汚れを取りきるのは、本当に大変だったわ。
仕舞いには両親や妹の力も借りて、何とか形だけ見ればキレイになったのだけど、あの状態には二度とさせたくないわね……。
「本当に、ダーリンが帰って来るまでに間に合って良かったわ。一人だけだったらどうしようかと思ってた」
「千聖ちゃん、さっきから何ブツブツ言ってるの?」
「……はっ、ごめんなさい。考え事をしてたの」
私の考えている事が伝わっていたのか、彩ちゃんが此方を覗き込む様に見て来た。そのパッチリとした桃色の瞳は純粋で穢れを知らず、何故私がここまで考えているのか不思議でならないと言った目線だった。
芸能界の先輩として、彩ちゃん達を影から支えないといけない立場なのに……私ったら、いつの間に腑抜けてしまったのかしら。
「千聖さん、早く着替えて下に行きましょう。颯樹さんの話では、もうそろそろ準備が出来るとの事でしたから」
「ええ、そうね」
麻弥ちゃんにそう窘められ、私は更衣を始めた。
他のみんなも順調に着替えが進んでいて、日菜ちゃんなんてもう着替え終わって、今にも走り出しそうな雰囲気だった。
「それにしても千聖ちゃんって、事務所で練習してた時から思っていたんだけど、すごくスタイル良いよね……何か秘訣とかあるの?」
「いいえ、特に無いわね。任された役柄の演技をするのならば、体調管理だけじゃなくて、それに合わせた体型維持も必須になってくる。だったら……どんな役を任されたとしても、そのイメージに合わせていくのがセオリーでしょう?」
「おぉ〜、さすが千聖ちゃん……抜け目無い」
「これくらい当然よ。衝動的な買い食いや間食に夜食などの不要な事を除いたのなら、貴女でもできるわ」
彩ちゃんから問い掛けられた質問に対して、私はキッパリと自分の意見を添えてそう答えた。事実、決められた時間以外の間食を多くすると……余分なカロリーが消化予定の物にプラスされる為、たくさん運動をしてもなかなか減っていないと言う事態になってしまいかねない。
……彩ちゃん達には言わないけれど、これは想い人である颯樹に見て貰う為に始めた事。もし具体的なメニューを伝えれば、確実に何か良くない事を企てるに違いないわ……それが理由で私が責められるのはお門違いだし、彼には何の責任も無いの。……そう、何の責任も。
なら……私が彼の負担にならない様に、強かにやり通すのよ。『模範的なアイドルとしての』私を。
(彼の抱いている気持ちも知らないで……社長に堂々とそんな恥ずかしい事をよく言えたわね、彩ちゃん。貴女のその計画性の無さには呆れてしまう……)
「ふふっ、今日のレッスンも頑張らなきゃ!」
「そうですね。ですが、お披露目ライブまではあと少ししかありません……やれる事は全部やりましょう!」
「アヤさん、気合を入れて頑張りましょう!」
貴女がパスパレで、プライベートで、例え何をしたとしても私の関する所じゃない……それは貴女の自由。恋愛に趣味に部活にと多感な時期ですもの、そこは目を瞑りましょう。
……でも。
「よーし、それじゃ颯樹くんの所に行こう! 今日もビッシリ鍛えてもらわなきゃ!」
「はいッス!」
「ブシドー!」
「じゃあ、行こっかー!」
私の愛しい彼に手を出すつもりならば、私は貴女に情けをかけない。もし私に泣いて許しを乞うたとしても、一切の遠慮や躊躇も無く切り捨てる。
……今に分からせてあげるわ。颯樹と結ばれるに相応しいのはこの私よ、絶対にね。
「千聖ちゃん、行くよー?」
「……ごめんなさい、日菜ちゃん。行きましょうか」
「こっちだよー!」
私は、一度決めた事は何があろうと果たすわ。
そんな事を考えながらも、私は日菜ちゃんの後に続いて部屋を退出した。心の奥底に譲れない想いを深く刻んで。
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パスパレのレッスンは、私たちが降りて来て直ぐに開始された。世間一般のバンド練習だと、先ずは軽く楽器を弾いてチューニング等を行なうのが常だけれど、私たちの場合は違った。
「はい、腹筋15回! それが終わったら背筋!」
『はい!』
彼考案の体力トレーニングから始まる。
その内容は颯樹が東京に帰って来る前に居た学校の体育教師直伝の物らしく、男性は私たちのやっているこの回数の倍を熟すのだとか。今まで演技を基本的に磨いてきた私としては、最初こそ息が切れていたけど、今は1セットなら余裕で出来る様になったわ。
……その間、彼から飛ぶ檄は事務所に所属してるトレーナーさんを思わせる程の覇気だったから、少しだけ泣きそうになったのはここだけの話ね。
「彩、態勢が違う! キチンとしたフォームで!」
「は、はいっ!」
「日菜、早く終わったなら次のメニューだ!」
そんな感じで私たちは、最初からトレーニングを徹底的に行ない、その後に二人一組でのストレッチを行なったわ。アイドルは自らの身体とやる気と実力で活動する……そう考えれば自然だけれど、早々にバテてる何名かは大丈夫なのかしら……。
そして10分間のトレーニングが終わると、次にボイストレーニング。ここは何とか全員が順調に終え、その後に各々のパートに着いて、軽く音合わせをしたわ。
(やっぱり、基礎がキチンと出来てたら演奏も問題なく出来るね。エアライブなんて馬鹿げた話……誰がそうさせてたまりますか)
私たちがここまで問題無く来られたのは、間違い無く颯樹の功績に拠るものが大きい。それは私も彩ちゃんたちも同じく感じているけれど……彼の事を考えると、自分の事を棚に上げてでも私たちの努力が理由だと言いそう。
……なら、私だけでも彼の傍に寄り添うわ。
例え身内を贔屓していると、買い被りすぎだと言われたとしても構わない……私が颯樹を支えるのよ。これだけは誰にも絶対に譲れないわ。
そして一通り演奏を最後まで通した後……。
「はい、OK! 今日はここまで!」
「はぁ……疲れた〜」
「皆さん、お疲れ様です! かく言うジブンもそうなんですけど……フヘヘ」
「麻弥ちゃん、その笑い方はどうにかならないの?」
颯樹から掛けられた言葉に拠り、演奏をやめて暫しの休憩に入った。私を含めた全員の顔には汗が浮かんでいて、このレッスンがかなりハードな物と思わせていたわ。
「はぁっ、はぁっ……私、もう……限界……」
「あたしも……疲れた……」
「そう言う事なら、今からお風呂を沸かすよ。汗をかいたままでじゃ家に帰れないと思うからね」
「お風呂っ!? 良いの、そこまでやって貰って!」
……彩ちゃんったら。汗をかいてしまって家に帰りにくいと言うのは私も同じだけれど、そこまで大袈裟に反応しなくても良いんじゃないかしら……?
「別に良いよ、僕一人だけじゃ元々余り過ぎるくらいの広さの家だし。遠慮無く使って」
「……やった〜!」
「さっくんの家のお風呂、久しぶりだな〜♪」
「そう言えば、日菜さんは颯樹さんと幼少期から幼馴染なんですよね。いつから知り合ったんですか?」
「あたしとおねーちゃんにおにーちゃんがさっくんと関わったのは、小学校の時からだよ〜。最も、数年程度しか一緒に居られなかったんだけどねー」
颯樹……私がお仕事に行っていて知らない間、日菜ちゃんたちとも関わっていたのね。これは全て終わった後に、貴方の自室のベッドで……電気も付けずに二人っきりで、確りと骨身に染みる位のお説教が必要かしらね♪
その後は誰がどの順番で入るのかを話し合い、颯樹からの報せを受けてペアになって入浴を済ませる事になったわ。テーブルの上にはおにぎりもあったし、長風呂は流石にしないと思うのだけれど……私も気をつけておかなきゃ。
……そうだわ。ペアになって入浴をするのなら♪
そう思い出した私は、手元のノートに書き込み作業をしている颯樹の元まで移動した。いつ見ても真剣な表情……ちょっとだけ、私に時間を頂戴ね♡
「ねぇ、ダーリン?」
「ん、どうしたのちーちゃん。今は麻弥とイヴがお風呂に入ってるから、少し待っててね」
「もし、貴方さえ良ければ……」
私はそこまで言葉を続けた後、颯樹に自らの身体を擦り寄せる事にしたわ。……やっぱり、私に擦り寄られると恥ずかしいのね。耳まで真っ赤になっちゃって、凄く可愛いわ♪
まあ、それをするのが彩ちゃんだったとしても同じ結果でしょうけれど……長年彼の幼馴染をして来た身としては、簡単にその座を渡す訳には行かないの♡
「私と一緒に……お風呂、入りましょう♪」
私が発したその言葉を聞いた途端、颯樹の顔がこれでもかと真っ赤に染まり、手に持っていたペンとノートが勢い良く床へと落ちた。
「……え?」
今回はここまでです。如何でしたか?
次回の更新は年明けの予定で進めているのですが、もしかしたら大晦日辺りに記念回か本編の何方かを投稿できる……かもしれないと言う事を、お先にお知らせしておきます。
本編の場合は今回の続き……記念回ならば、大晦日ならではの内容に仕上げようと思っていますので、その時の更新までお待ち頂けると幸いです。
それではまた次回の更新にて。
そして……最後にこの言葉を。