新日常はパステルカラーの病みと共に(Rev.)   作:咲野 皐月

21 / 50
 皆さん、おはこんにちばんわ。咲野 皐月です。


 今回は本編第二十話をお届けします。

 いよいよPastel*Palettes(パステルパレット)のファーストライブ本番ですよ(何事も無く終われば良いが、そうはいかないのが常なんだろうな……と思っている自分が居る)!


 それでは、本編スタートです!


第二十話

「……さて、皆んな行ったかな」

 

 

 パスパレの円陣に突如混ざる事になり、つい先程までメンバー達と一緒に気合い入れをしていた僕は、一人になってしまった前室の中でそう一言零したのだった。

 

 やはり僕がアイドルの輪に加わるのは、烏滸がましい上に間違いだっただろうか……と頭の中でふと考えたが、そんな事を少しでも口に出そうものなら、確実に彩と千聖から大指摘を受けかねないので、その言葉は言わずに取っておく事にした。

 

 

「僕もこうしては居られない。自分に与えられた役割を全うしないと」

 

 

 前室で一人感傷に耽けるのも時間が勿体無いので、僕はくるっと扉の方に向かって、この部屋を出ようと足を踏み出した。あの5人だって自分たちのお披露目ライブを頑張ってるんだ……僕もやるべき事をやらないとね。

 

 

 そう思っていた……その時だった。

 

 

【TEL:非通知】

 

 

「ん、誰だろうこんな時に」

 

 

 僕の歩みを止めるかの様に、薄手の生地でグレーを基調としたジャケットにあるポケットから聞こえて来たのは……着信を知らせるアラームだった。スマホを取り出してディスプレイを確認すると、そこには短く非通知となっていて、少なくとも僕の見知っている人からの着信では無い事が容易に想像出来た。

 

 最初はプツリと切ってしまおうかとも考えたが、万が一それが自分に関係する事だったら後々怖いので、僕は渋々とその電話に応答する事にした。

 

 

「はい、もしもし。何方でしょうか」

『えーっと、貴方が盛谷 颯樹くん……かしら?』

「ええ、そうですが」

『やっぱりそうだわ! ごめんなさいね、お仕事中だったのに急にかけてしまって……。私は丸山 彩の母で由美と言います。貴方の電話番号は社長さんからお聞きしたんです。なんでも「連絡手段は多い方が良いから」と言う事でしたので』

 

 

 社長……。言わんとしてる事は概ね分かりますが、まずその当人に説明をするのが筋でしょうに……。

 

 

「……なるほど、そうでしたか。彩ならいつもと変わらず元気ですよ。先程ステージの方に向かって、今は演奏中です」

『そう、良かったわ……。あの娘ったら、昔から興味を持った物には全力だから、何か迷惑をかけていないかと思ったのだけれど、この分だと心配には及ばなさそうね』

「ええ。ですが、何かありましたら此方も確り対応致しますので」

『それを聞いて安心したわ。彩の事はビシバシよろしくお願いしますね♪ 私が許可しますっ』

 

 

 あはは……。ホント、何でこうも何処の馬の骨とも知れない野郎に期待大なのさ誰も彼も……。何かやらかすとも限らないって言うのに、いざと言う時が恐ろしく見えてしまうよ。

 

 

「分かりました。それで、ご要件はそれだけですか?」

『あ、ううん。実は颯樹くん……と、呼ばせて貰うわね。私が将来の貴方の義母になるかもしれない人だから。それで、その要件なのだけれど』

 

 

 ……彩。お前さ、僕の知らない所で何を喋ったの?

 

 そんな気持ちに少しずつなりながらも、僕は由美さんからの話を聞く事にした。彩が話しそうな事については概ね察する事は出来るのだが、生憎とそこからどうなるのかと言う事に関しては、少し僕では予想がしにくい所だ。

 

 

『颯樹くんさえ良ければ……彩と同棲して欲しいの』

「……え、あっ。は、はい……?」

『その事に関してなのだけれど、既に旦那とも話し合って決めているわよ。後は颯樹くんの了解次第にはなるのだけれど……』

「いやいやいや、待って下さい。僕と彩が……同棲?」

『ええ、そうよ。彩が選んだ人なら問題無い、私たちはそう思っているの』

 

 

 あのー、本当に一体全体僕の居ない所で何口滑らせたんですかねあのふわふわピンク担当は!?

 

 

「えっとですね、まずそもそも僕と彩はお互いに何も知らない状態でして」

『あら、同じバンド内で切磋琢磨しているじゃない。それで何も知らないは無理があると思うけれど?』

「……だとしてもです。それに、僕も彩ももう高校生……何かの間違いで変な噂でも立てば、僕たちだけじゃなくて貴女方まで巻き込む羽目になるんですよ?」

『その心配は無いわ。颯樹くんが彩の事、一生賭けて守ってくれるのでしょう?』

 

 

 ダメだ、この人と話してると全然会話にならない……!

 

 僕としては真っ当に包み隠さず本音を話しているつもりなのだが、どうも由美さんから見れば、僕が彩にその気があると思っている様で。これが向こうの一時の気の迷いなら僕は一向に構わないが、もし本気だったらと考えた場合、身の毛もよだつ感覚に浸ってしまう。

 

 

「あの、守る事に関しては全然良いんですけど。僕と彩はまだ関わり始めてそこまで月日も経ってないんですよ!? だから、彼女と同棲するだなんて……考えようにも考えられませんって!」

『……そうよねぇ。でも、どうしようかしら。あの子ったら一度決めた事は誰が何と言おうと変えた事が無いの……それに、私もそのつもりで彩に少し早いけれど花嫁修業の一環で少し手解きをしたんだけど……』

 

 

 ……彩、マジでこのライブが終わったら1回確りとオハナシしようか。彩がその気なら、僕にも考えがあるから。

 

 

「分かりました。では、こうしませんか」

『?』

「僕はあまりこう言う事を軽率に決めたくありませんし、何より其方も何も準備が出来ていないタイミングで決行する訳には行かない……違いますか?」

『そうね。こう言った物事は少しずつ段階を踏んでから、と言うのが通例だもの。それで……颯樹くんとしては、どうしたいのかしら?』

 

 

 僕は少し目を瞑ると、今考えられるだけの全てを由美さんに話す事にした。まだあの事について話せるだけの信頼は無いから、とりあえずここは無難に等価交換。そこまで達した上で、尚且つ気持ちが其方の思惑通りに傾いてたら、その話を受けよう。

 

 

「……早くて今年のクリスマスイブ、遅くとも来年三月の彩と出会った最初の日までには答えを出します。その時、僕が彩と共に寄り添うと気持ちを固めていたのならば……同棲の話を受けましょう。誰がなんと言おうと、異論は認めさせません」

『……ええ、それで良いわ。もし、貴方の気持ちが他の人に移っていたのなら、彩は颯樹くんを諦めないといけない、と言う事で構わないのよね?』

「はい。その時に僕がどんな選択をしてたとしても、彼女にはキッパリ諦めて貰います。これで大丈夫ですか?」

 

 

 これが僕の中でも譲れない、最低限のボーダーライン。

 

 彩が僕の事をそこまで気にかける理由は少しなら分からなくもないが、あそこまで行ってしまうのは、さすがにやりすぎだと思ってしまう。なら、この条件を課した上で今後の動向などを注視して選択すると言うのが一番無難かな。

 

 

『……わかったわ、その条件で手を打ちましょう。彩にも同じ事を説明するのよね? 私の方からもして良いかしら?』

「あ、お願いします。僕の方でもしますが、お母さんの方からもあるといざと言う時に忘れにくいでしょうから」

『……では、それで話を纏めるわね。それじゃ颯樹くん、彩の事をよろしくね?』

「はい。お任せ下さい」

『ふふっ、期待してるわよ』

 

 

 その言葉を最後に、彩のお母さんとの電話は切れた。

 

 ……全く。彩も何で関わり始めてそんなに経ってない僕の事を信用しきってるのかな……単に彩が警戒心が緩いだけ、ならそれまでで良いんだけど、そうで無かった時が本当に危険だったりするんだよね。

 

 

「さて、僕もお仕事を『皆さん、こんにちはー!』おっ、やってるやってる」

 

 

 控え室を出ようとしたその時、天井隅に設置してあるスピーカーから元気の良い声が聞こえて来た。どうやら、この感じだと1曲目は確り終わったみたいだ。

 

 

「急がなきゃね」

 

 

 スピーカーから聞こえて来た彩の声に元気を貰い、僕も控え室を後にした。僕が今回任されているのは、音響室に行っての調整との事なので、早めに向かって作業に取り掛からねば。

 


 

「皆さん、こんにちはー! 私たち」

『Pastel*Palettesですっ!』

 

 

 颯樹を交えての円陣を終えた後、私たちはお披露目ライブへと臨んでいた。私としては、女優にアイドルに……常人なら一日と経たずに弱音を吐きそうな内容だけれど、愛しの彼の為に全力でやり遂げてみせるわ。

 

 例え、そのお仕事がどんなに大変な物であっても、ね。

 

 

 今は彩ちゃんが先程披露した楽曲について説明してて、私はそれを傍から見守っている所。最初にカバー曲を持ってきたのは、見立てとしては間違ってなかった様ね。彩ちゃんとしては歌いやすかったと言ってたし、これくらいの事は難無くこなして貰わなければ。

 

 

「それでは、次に……メンバー紹介をしますっ! まずはギター担当の、氷川 日菜ちゃん!」

「はーい! ギター担当の日菜だよー、よろしくねー!」

「次に! ベース担当、白鷺 千聖ちゃん!」

 

 

 私の名前が彩ちゃんから呼ばれた時、お客さんの反応が少しざわついている様な感覚になったわ。……まあ、意外に思うのも無理無いかしら。普段の私を見てる人からすると、私がアイドルなんて、って思う人が殆どでしょうし。

 

 

「ベース担当、白鷺 千聖です。今日は私たちのライブに足を運んで下さり、誠にありがとうございます。最後まで楽しんで行ってくださいね♪」

「続きまして……ドラム担当、大和 麻弥ちゃん!」

「じ、ジブンですか!? え、えっと……ドラム担当の大和 麻弥です! よろしくお願いします!」

「続けて……キーボード担当、若宮 イヴちゃん!」

「キーボード担当、若宮 イヴです! アイドルとしての私もよろしくお願いしますっ!」

 

 

 私が自己紹介を終えた後、続けて麻弥ちゃんとイヴちゃんも自己紹介を終えたわ。麻弥ちゃんに関しては、まだまだ芸能界に入って少ししか経っていないから無理も無いけれど、イヴちゃんは流石と言う他無いわね。

 

 言葉の一つ一つが確り伝わっているし、きちんと笑顔も作れてる。モデルとしての経験がかなり活きてるわね。

 

 

 ……さて、あとは私の出番ね。

 

 

「そして。私たちPastel*Palettesを率いるリーダー兼ボーカル担当、丸山 彩ちゃん!」

「はーい! まん丸お山に彩りをっ♪ Pastel*Palettesふわふわピンク担当、みゃる山彩ですっ!」

「あははっ! 彩ちゃん噛んだー!」

「ちょっと、笑わないでよ日菜ちゃーん!」

 

 

 ……彩ちゃんったら、何をやってるのかしら……。

 

 この分じゃ、彼の過去は教えられない……資格無しね。

 

 

「ぅぅっ……。気を取り直して、2曲目に行きます!」

 

 

 日菜ちゃんと彩ちゃんのやり取りで会場から笑い声が聞こえて来た後、彩ちゃんは直ぐに立ち直って2曲目のコールをしたわ(ちなみにこの時の笑い声は、嘲りや失望等と言ったマイナスな物ではなかった)。物事の切り替えの速さに関しては、そこそこ及第点ね。

 

 ……でも、この分だと彼の事は教えられないわ。少し残念だけれど、颯樹の事は諦めて貰うしか無さそうね。だって私の定めた条件に反しているもの……異論は認めないわよ?

 

 

 そしてその後の「しゅわりん☆どり〜みん」も目立ったミスは見られず、私たちはお披露目ライブを大成功のままに終わる事が出来た。最初だからどうなるかヒヤヒヤしたけれど、無事に終えられてホッと一安心ね。

 

 

 ……だけど、貴女は私との約束を破った。

 

 その身で思い知るのね。颯樹の事を何も知らぬままこれから関わる事になる、貴女自身のこれからを。




 今回はここまでです。如何でしたか?


 ちなみにファーストライブにて披露した楽曲は、リスト順にすると…「ドリームパレード」「しゅわりん☆どり〜みん」「パスパレボリューションず☆」の3曲です。このリストの中で配信順にすると、カバー曲で「secret base 〜君がくれたもの〜」が最初になるのですが、最初のライブでしっとりとした曲は……と思い立ち、このような形になりました。


 ……まあ、選曲理由は兎も角としても。

 今回選曲した曲はどれも良い曲ばかりですので、お時間がある時に聞いて頂けると幸いです。


 それではまた次回の更新にて。

 次の更新は番外編の話か……それか、ちょっと書こうか迷っていたお話か、本編の続きとみておりますので、気長にお待ち下さいませ。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。