新日常はパステルカラーの病みと共に(Rev.)   作:咲野 皐月

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 皆様、おはこんにちばんは。咲野 皐月です。


 今回は本編の内容を進んでいきたいと思います!

 ……まあ、こんだけ甘々な展開が続くと、どうしてもよく思わない人ってやっぱり居ますよねぇ……ってのを簡単なあらすじとしてご紹介しまして。


 それでは本編、スタートです。

 最後までごゆっくりお楽しみ下さい。


第二十三話

 普段となんら変わらない並木道。

 

 昨日の行なわれたレッスンの影響からか、私の体はいつも以上に重く感じる。……いや、別に太った訳じゃないよ? その重いじゃないからね!? などと、ノリツッコミをしながらトボトボと一人寂しく歩いている。

 

 

「何か良い事起きないかなぁ……」

 

 

 ヒューっと風が吹いて、その風は朝早く起きてセットした髪を乱す。所々寝癖もピョンと跳ねていて、整えた意味がもう無くなってしまった。こんな状況を千聖ちゃんに見つかれば、大目玉間違い無しだろう。

 

 ここのところ、本当についていない。ストレスが溜まる一方だ。……そんな時だった。

 

 

「……あっ! 颯樹くん!」

 

 

 曲がり角で大好きな彼、颯樹くんの姿が目に映った。

 

 いつも通りの身だしなみで、太陽に照らされ風で髪が靡く今の姿は、カメラワークとしてすごく完璧だ。日菜ちゃん流でいう所の、『るんっ♪』という感情が私の沈んだ気持ちを高揚させる。

 

 

「颯樹く〜ん!」

 

 

 私が駆け寄ろうとしたタイミングで、トコトコと後ろから駆ける花音ちゃんが姿を現した。

 

 

「遅いよ。何してたの?」

「そこで可愛い猫ちゃんを見かけて、つい……」

「ただでさえ花音は迷子になりやすいんだから、勝手に一人にならない様にね?」

「ご、ごめんなさい」

「全く……ほらっ、これで迷子にならないでしょ?」

「うんっ♪」

 

 

 二人は確りと硬く手を繋ぎ、嬉しそうに足を進めた。その姿はまるで、お似合いのカップルの様に映る。……いつの間にあの二人が? いや、それ以前に花音ちゃんの家はここから全然違うところにあるはず。

 

 まさか、昨晩は颯樹くんの家で泊まってきた? それじゃあやっぱり……。ダメだ。今はもうそのことしか考えられない。これまで溜め込み独り抱えてきたストレスが許容量を超え、私の自制心を崩壊させた。

 

 

「確かめなくちゃ…………」

 

 

 空の瞳でそう呟いて、私は二人の後を追う。

 

 そうして学校に着き、一人になったタイミングを見計らって恋敵(かのんちゃん)に接近する。

 

 

「おはよう」

「おはよう……って、彩ちゃん?」

 

 

 傍から見れば何気ない挨拶。だけど、私の表情は完全に死んでいる。

 

 

「ちょっと聞きたい事があるんだけど……いいかな?」

「う、うん。大丈夫だよ」

「ここで話すのもなんだから、ついてきて」

 

 

 私は教室を後にし、屋上へと向かう。

 

 ここは普段、休み時間とかで談笑する時やお昼ご飯を食べる時によく人が訪れる場所だけど、朝礼間近のこの朝早い時間は誰もいない。

 

 二人きりになるにはぴったりの場所だ。

 

 

「あの、彩ちゃん……?」

 

 

 心配そうに私の事を見つめる恋敵。

 

 

「一つ教えて貰ってもいいかな」

「えっ?」

「颯樹くんとは、どういう関係?」

 

 

 恋敵は戸惑うような表情を浮かべる。

 

 私の考えなら二人はおそらく…………そして、ぐっと握った拳を胸に当て応える。

 

 

「颯樹くんは……私の彼氏(たいせつなヒト)だよ」

 

 

 聞きたくもなかったその言葉。

 

 視界が歪み、まるで渦潮の中にでもいるような感覚に堕とされる。これは夢だ、悪い夢なんだ。

 

 

 ……頼り甲斐があって、優しくて、笑顔が素敵で、私の大好きな彼が私以外に恋人を作るはずなんてない。私の脳内はこの現状を真っ向から否定する。

 

 ……だけど、現実は非情だ。一つ壁を越えたと思ったら、また一つ壁が出てくる……まるで無限地獄。

 

 

「颯樹くんと……昨日何があったの?」

「彩ちゃんがそれを知って、そしてどうするの?」

「どうするって、聞きに行くんだよ。何故私以外の女の子を選んだのか」

 

 

 私は自分の思ったまま全部を伝えた。言いたい事は全部伝わってるはずだし、私の思う所は全てわかっている。……なのに、恋敵が私に向ける表情は……酷く冷徹だった。

 

 

「颯樹くんが、どうして彩ちゃんを選ばずに私を選んだか……分かる?」

「えっ、何でそれを……?」

「颯樹くんはね、彩ちゃんでは想像も出来ないくらいの闇を背負ってる。彩ちゃんが今まで経験してきた苦しみとは、明らかに訳が違う」

 

 

 それは千聖ちゃんから聞いていた通りだ。私なら全てをわかってあげられる……颯樹くんの悲しみに、寄り添ってあげられるのは、私だけだから。

 

 

「……じゃあ、何も知らない方が良いよ」

「えっ……」

「理解してどうするの? わかってそこから何をしてあげられる? 私と同じ様に迫ってみる?」

「な、何で……そんな事……」

 

 

 私の考えていた事が筒抜けなのか、恋敵の表情は依然として怒りから変わっていなかった。むしろそれは酷さを増していて、颯樹くんの黒い部分に触れようとした時の千聖ちゃんと同じだった。

 

 

「……ごめんね、彩ちゃん。勝手に颯樹くんを奪っちゃう様な真似をして。でも、私は千聖ちゃんの事も颯樹くんの事も大切……そのうえで、颯樹くんは私を受け入れてくれた……」

「だから……私に、諦めて……って……?」

「そうは言ってないよ。だけど、今の彩ちゃんが颯樹くんの全てを背負おうとしても、何処かで押し潰されちゃう……いつかその重圧に負け、彩ちゃんの今まで築き上げて来た全てが砕けてしまうかもしれない……」

 

 

 恋敵からの拒絶の言葉……それは、私の心を抉るには充分すぎた。見えない何かが私の心臓を握り潰すかの様に、私は苦しくなってしまった。

 

 

 でも、私にだって譲れない理由がある。

 

 ましてや、関わり始めてそこまでしか経ってない花音ちゃんに奪われる筋合いなんて、私には無い。

 

 

「私が颯樹くんと出会った理由、話したよね? 私はもうあの瞬間から、彼しか居ない……そう思って」

「……颯樹くんに必要なのは、盲目な恋心じゃないよ。厳密に言えば、それだけじゃ足りない。わかってあげようとしても、結局認めて貰わないと意味が無いの」

「えっ……」

「お願い、彩ちゃん。諦めて?」

 

 

 その言葉で私は絶望の谷から突き落とされる。

 

 勢いよく背中を押し出される、そんな感じ。優しさなんてそこにはない。谷に堕ちながらも必死に手を伸ばすけど、頂上にいる恋敵はそのまま重力に逆らわず空を舞う私を嘲笑うかのような笑みを浮かべ、高笑いする。

 

 

 穏やかでふわふわした子だと思ってたけど、やはり千聖ちゃんの友達というだけはある。……とんでもない悪女だ。私の思いなんて知らず、颯樹くんと悪女二人だけの世界を形成する。

 

 そこに私が踏み入れるところはない。

 

 ……はなから勝負にすらならないのだ。

 

 

「諦め、られないよ……」

「それでもダメ。これは彩ちゃんのためでもあるんだよ?」

「私のため?」

「さっき話した通り、颯樹くんの抱えている闇はあまりにも深い。私は、それを受け入れる覚悟あるし、自信もある」

「それなら、私も……!」

 

 

 私も覚悟は出来てるし、自信もある……そう続けようとした言葉は、花音ちゃんからの言葉と行動で遮られた。

 

 

「彩ちゃんは自分の現状を理解してない。見てみて、今の自分を」

 

 

 恋敵は自分の制服のポッケから手鏡を取り出し、その鏡で私姿を映す。瞳からは光が失われ、憎悪が顔に滲み出ていて酷い有様だ。演技でもこんな表情はできない、素の自分。

 

 実に醜く、汚らしい。

 

 こんな事は考えたくないけれど、今の私が彼の傍にいる資格なんてない。

 

 

「……ねえ。千聖ちゃんは、この事をどう思ってるの?」

「少なくとも、私は信頼して貰ってる。だからこそ話してくれたんだと思うよ」

「そっか……」

 

 

 ……私じゃなくて、花音ちゃんなんだ。それだけ、千聖ちゃんから私は信頼されていないって事。花音ちゃんが知っていて、私は知らない……私と恋敵の間に出来た、大きな溝。それは私の気付かない間にどんどん広がっていたのかもしれない。

 

 

『貴女に颯樹の過去を知る権利は無い』

『どうして!? ファーストライブは成功したのに!』

『彩ちゃん……私は事前に言ったはずよ? ライブで一度でも噛んだり、ミスをしたり、機材トラブル等でそれ自体が中止になったら、彼については教えないと。だから、潔く諦めて頂戴』

『そ、そんな……』

 

 

 ライブ後に伝えられた、拒絶の一言。

 

 それが今も私の心に影を差していて、立ち直るのに時間がかかってる。そんな中で伝えられた、花音ちゃんからの言葉。認めたくない現実が、私の喉を刺し貫こうと刃となって突き付けられている。

 

 

 ……花音ちゃんに質問するのは、これが最後。

 

 そう考えた私は、まず彼女に確認をする事にした。自分の置かれた状況を再認識する為に。

 

 

「ねぇ、花音ちゃん。二人はもうしたんだよね?」

「うん」

「花音ちゃんと体を交えて、彼の闇は少しでも和らいだ?」

「……うん。颯樹くんは、私に全てぶつけてくれたよ」

「そっか、そうなんだ……」

 

 

 深い絶望の底に背中から堕ちた。ドンッ、と鈍い音が響きぴくりとも動かなくなる。そんな悲しみに暮れた私を救ってくれるのは、きっと……。

 

 そして始業のチャイムが鳴り響いた。

 

 

「もう時間だね。話があるならまた後で」

 

 

 恋敵は私を置き去りにし、屋上を後にした。

 

 たった一人取り残された屋上で立ち尽くす……敗北者と化した私。その瞳は未だに暗く、希望への道筋なんて見えはしない。勝てない。今の二人には、どんな事をしても。

 

 

 私は嫉妬深くて、とことん諦めが悪くて……同級生やバンドメンバーとの恋愛戦争に負け、深い谷底へ堕ちた哀れな女。救いの糸が降りてくる事は決して無く、この先の人生を悲観する醜い女。

 

 

 彼も、きっとそんな気持ちを抱えて生きてきたんだろう。

 

 ……私との決定的な違いは、救いの手が差し伸べられたということ。慈愛の女神に等しい二人から祝福を受け、少しずつではあるけど希望の空へ向かい羽ばたいてるのだろう。

 

 

「……情けないよね、私。これじゃアイドル失格だよ」

 

 

 照り付ける太陽を少し遮る様に雲が隠し、過ごしやすい爽やかな空気とは違って、私の心は今にも暗雲が立ち込めてしまいそうな程に暗く深い。それは、今まで夢に向かって一直線に進んでいた過去の私と、決定的に違う物。

 

 過去の私なら、何て言ったかな。今の私を見て、あの時の私は何と声をかけたのかな……。

 

 

 トップアイドルを目指す為に事務所に入って、何度も何度も諦めずにただひたすらに努力し続けた過去の私……あの時の私は、間違い無く立ち止まらずに進み続けていた。どんな苦しい事があっても、絶対に諦めたりなんかしなかった。

 

 自分の憧れたトップアイドルを目指して、我武者羅に真っ直ぐに。でも、今の私は違う。同級生からの言葉で簡単に壊れかけてしまう……脆くて儚い存在。

 

 

 颯樹くんの事について、知りたいと思う気持ちは誰にも負けたりしない。その気になればトップアイドルの座も、颯樹くんの隣の椅子すらも取りに行く事だって、出来ない訳じゃ無かった。

 

 

「……でも、悔しいなぁ……。私が颯樹くんの事を好きな気持ちは、誰にも負けてないはずなのに……。花音ちゃんや千聖ちゃんには、絶対に遅れを取らないって、そう思ってたのに…っ!」

 

 

 私はたった一人残された屋上で、声の限り泣き叫んだ。

 

 今のこのどうしようも無い気持ちを、どうにかして表に出してしまわないと、もう心が潰れてしまいそうだった。それくらい私にとっては、さっきの話は衝撃が強かった。痛くて、辛かった。

 

 

 そして暫くした後、いつになっても戻って来ない私を心配したのか、慌てた様子の紗夜ちゃんが屋上に現れた。泣き止んだ後で彼女からたっぷり怒られたし、燐子ちゃんからはかなり心配されてしまった。

 

 クラスメイトにまで心配をかけるなんて、私……自分じゃ気づかない間に、弱くなっちゃったな……。それだけ、颯樹くんが私の中で大きな存在になったって事だろうけど。

 

 

「(私はもう……手加減なんてしない。颯樹くんと未来を歩むのは、この私しか居ない。絶対に奪ってみせるよ、例えどんな事をしても)」




 今回はここまでです。如何でしたか?


 次の更新時期は未定となっておりますので、更新予告の程をお待ち頂けますと幸いです。


 それではまた次回の更新にて。
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