新日常はパステルカラーの病みと共に(Rev.) 作:咲野 皐月
今回は本編の続きをお届けします。
当初の予定では、このお話から文化祭本番の話をする予定でしたが、急遽趣向を変えまして……他のメンバーにもスポットを当てた話をしようと思います。
ただそこまで長くするつもりは無く、長くても今回と次回の2話で区切ろうかと考えています。
それでは、本編スタートです。
最後までごゆっくりお楽しみ下さいませ。
「んー、今日はどれを借りるかな……」
文化祭に向けての演劇の稽古を始めて数日後、僕は学校の図書室で本を物色していた。と言うのも、今日はお仕事のシフトが無い日だったので、空いている時間を使って読書用に使う本を探しているのだ。
……ここには結構な数があるな……。
基本的に読むのは日本文学とかその辺だったけど、それに限定してもかなりあるんだね……少し読むのが大変そうだ。
「お取り込み中の所、大変申し訳無いのだけれど……少し耳を貸してくれるかしら?」
「? え、ええ。構いませんよ」
「ありがとう、盛谷 颯樹さん」
「……っ!?」
な、なんで僕の事を……!?
いや、始業式の時に大々的に挨拶をしたから、知っててもおかしくないし、何だったら此処に転校して来てからもう2ヶ月は優に経つ……でも、それでもまだよく分かってない人が居るもんだと思ってたのに……!
「貴方の噂は私の耳にも届いていたのよ。時間はあまり取らないから、少し私に付き合って欲しいわ」
「は、はい……」
「そんなに身構え無くて大丈夫。ここで立ち話をするのも何だし、行きましょうか」
僕はその声を掛けて来た女性に連れられ、図書室を後にする事となった。移動してる途中、周りの人たちからボソボソと何か聞こえていたけど、それを気にするよりも先ず先に自分の心配をしなければ……。
そうして連れて来られた場所は、僕にとってあまり馴染みの無い場所だった。
「……生徒会室、ですか?」
「ええ、貴方と話をするには丁度良いと思ったの。さ、入って頂戴」
「で、では……失礼します」
うへぇ……生徒会室って中学の頃からたまにチラリと見かける程度で、その中に入った事は無かったんだけど、入った瞬間から気が引き締まる感じがするよ……。
その後僕は連れて来た人の指示を受けて、近くにあったパイプ椅子に腰を下ろす事にした。
「……」
「緊張する?」
そう言ってその人は此方に振り返り、軽くにこりと笑って見せた。……あれ? 確か、この人……以前何処かで……。
「まずは、改めて自己紹介を。私の名前は
「よ、よろしくお願いします」
「ええ、こちらこそ」
……やっぱり。何処かで見た事があると思ったら、確か数日前に【SPACE】でライブをしていた……。
「そうよ、私は
その言葉の後に、鰐部先輩は眼鏡を取って見せた。
……えぇぇ……こうやって話すのは初めてなのに、何でこうも心を読まれやすいのかな……。僕がわかりやすいだけ? 恐らくそんなのは希少種だろうけど。
そうして再度眼鏡を掛けた先輩は、僕の向かい側に座って話し始めた。
「貴方が此処に編入して来て2ヶ月が過ぎたけど、何か不便な事は無いかしら? どんな些細な事でも良いの」
「不便……。そう感じた事はあまり無いですね。昔馴染みも居ますし、それなりに以前通ってた所と変わり無く過ごせてます」
「そう、それなら良かった。既に知ってる事だろうけど、この花咲川は元々女子校……そこに男子生徒である貴方が編入して来た事で、多少なりとも変化はあったと思うの。でも、それを感じていないなら安心したわ」
そう言って先輩は一息吐いて落ち着けていた。
……まるで、僕を連れて来た本題はここから、とでも言いたい様な雰囲気だった。
「さて、本題に入るわね。盛谷 颯樹くん……私たち、生徒会のメンバーに加わる気はありませんか?」
「……えっ?」
「貴方以外の全校生徒を対象にした、アンケートを以前実施して居たの。勿論、貴方がお仕事で居ない日を狙ってね。内容は貴方についての事が主題だったけれど」
そう言われて僕は、自然と背筋が伸びてしまう感覚に見舞われた。幼少期から関わりのあるちーちゃんや千歌、紗夜は勿論にしても、その他の人たちとは今年から関わり始めた……そんな人たちからの意見は、良いのもあれば悪いのもあるだろう。
自分自身がそれなりの存在と自惚れる訳じゃないけど、元々の花咲川の立ち位置を考えたら、僕と言う存在は完全に異分子。何かしらの反発や憤りもあるのは当然の結果。
……鰐部先輩は一体何を言い出すつもりなんだ?
そう考えていた僕の思考は、先輩の次に放った一言で遮られる事になった。
「集計をしてみたら、あら不思議。貴方の生徒会加入希望者が半数以上を占めていたの。……いえ、もうここまで来ると、其方の返答の善し悪しに関わらず、私は貴方をスカウトする必要があるわね」
そう言われた後に、僕はそのアンケートを集計した結果が記された用紙を先輩から受け取った。そしてそこに記されていたのは……殆どが好印象だと言う旨の記載であり、異論反論を申し立てている生徒を探すのが逆に難しいくらいだった。
ここまで集まるとは……人生生きてたら何があるか分からない、とはよく言うけど、これは過去に類を見ない始末だよ。いっそ清々しいまであるね。
「これで理解できたかしら?」
「ええ、まあ」
無表情を徹しているつもりだけど、自然と口角が上がっていたようで僕の反応を見て生徒会長も楽しげな様子だ。しばらく話をしていると、こんこんと扉がノックされ、一人の女生徒が生徒会室へと入ってきた。
「し、失礼……します……」
深々と此方に向かって頭を下げる猫背のその生徒に、僕は見覚えがある。……確か、そう。白金さんだ。
「いらっしゃい。待ってたわ」
どうやら彼女を呼んだのは生徒会長だったらしい。ゆっくりとこちらに近づき、僕にも一礼したあと会長と向き合う。
「その、お話って……」
「単刀直入に言うわ。貴女には私の後継、つまり生徒会長になって欲しいの」
「え、ええ!?」
会長から齎された言葉に、僕も白金さんも開いた口が塞がらない。言わんとしている事は理解出来るが、何故そうなるに至ったのかが分からなさ過ぎたからだ。
「会長、差し支え無ければ、白金さんを生徒会長に指名したその理由をお聞きしても構いませんか?」
「もちろん構いません。ですが……ふふっ」
「なんですか」
生徒会長がこちらを見ながらクスクスと笑う。
「あなたがそこまで必死になるのが不思議で」
「そ、それは確かにその通りですが」
「もしかして、二人はお付き合いをされてる仲だったりするのですか?」
「ち、違い……ます!」
「そうですよ、勘違いも甚だしいです!」
冗談だというのならやめて欲しい。そう願って強く言葉にする。
「……ふふっ、冗談よ。貴方の反応が面白いから、つい。ごめんなさい」
全く……こっちは肝が冷えましたよ!
この分じゃ、隣に居る白金さんは相当だろうな……。今の様子を見てる限りでも、彼女は人に自分の気持ちを伝えるのが苦手だろうと言う見方ができる。
……先輩、もしかしてグリグリでもそんな感じなんですか……?
「違うわ。私はひな子と比べたらまだマシよ」
「そ、そうなんですか……」
どうやら先輩はエスパーだったようだ。この流れだとテレポートだとか、物体浮遊なんていう超能力も使えるのかな? さすがに今挙げた二つは憶測に過ぎないし、そんなのは手品師くらいな物だろうけど。
だけど、先程の言動と行動が完全に別アニメの世界の住人のそれ。そんな人がうちの生徒会長だったなんて、驚きだ。
「それで白金さん。返答は?」
和かに問い掛ける先輩に対して、白金さんはやや暗い表情を浮かべる。
「…………」
閉ざした口はまだ悩んでいるのか……はたまた、否定を意味しているのか。どちらにせよ、本人が語らぬ以上これより先の進展はない。
「話を戻しますけど、会長はどうして白金さんを後継に?」
「以前、彼女から相談されたことがあってね。『もっと人前で話せるようになりたい!』って。それで今回の生徒会の座を彼女に譲ってみようと思ってたの。まあ、こんな大変なポジションを自ら望んでやりたがる人なんて、相当な物好き以外いないのだけれど」
要はその重役を押し付けてる、とでも言いたいのか?
「それは彼女に重責を押し付けてるのでは「いいえ、これは彼女自身が望んだ事なの」」
僕の言葉を遮るように先輩が割って入る。
「私だって無理矢理彼女に任せようとは思わないわ。あくまで白金さんの意思次第よ」
「それなら、いいのですが……」
先輩はズルい。そんな言い方をされてしまっては断りづらくなるだろうに、にっこりと笑みを浮かべる裏側には黒い何かを感じとった。
白金さんも、生徒会長なんてやらずとも、人前で話せるようになる方法なんていくらでもあるはずだ。
「わ、わたし、やります……!」
「その言葉を待っていたわ」
言わせた、といった方があってると思うけどね。
「せっかく生徒会長になってくれるんだもの。何か一つお願いを言って。それを叶えるぐらいの権限なら私にあるわ」
「お願い、ですか……」
そう言われた白金さんの表情が、またもや影を落とし始めていた。……ちょっと不躾かもしれないけど、これくらいのお節介は焼かせてもらおうかな。
「少しごめんね、白金さん」
「ひゃいっ! ……な、何ですか……?」
「自分の思った事、少しずつ話せば良いと思うよ。僕も会長に連れて来られた身だし、サポートするくらいならできるから」
「それは……助かり、ます………」
「先輩。構いませんね?」
「もちろん」
会長へのお願いはまた後日、ということで話を収めてこの場は解散となり、二人して生徒会室を後にする。
「すみません……先程は、ありがとうございました……」
「何の。別にそこまでお礼を言われる程じゃないよ」
「そ、そう……ですか?」
各々の教室に戻る道すがらで、僕の先程の行動に対して、白金さんが深々と頭を下げてお礼を言って来た。あの場はああする方が良いと思っただけなんであって、別に何か他意があった訳では無いからね……これくらい何とも無かったりする。
「あ、あの……」
「ん?」
「えっと……その……」
生徒会室でも見せていた様に、彼女はどうやら少し人と会話する事が苦手の様だった。僕も身内以外だとあまり得意では無いのだが、白金さんは特にそれが顕著に現れていた。
昔から人と接する機会が少なかったのか、はたまた別の何かが原因なのかは分からなかったが。
「どうしたの?」
「い、いえ……すみません……」
結局彼女の口から明かされる事無く、会話が途切れる。
今更だけど……この子が本当に生徒会長になってしまって大丈夫なんだろうか。今はその心配がどうしても勝ってしまう。今の所は鰐部先輩が会長職に在籍してるからまだ良いけど、来期になると、今度は白金さんが花咲川全体を牽引しなければ行けない事になる。
これが僕の余計な心配だったら良いんだろうけど、今のままだと最悪のケースも想定して動かないといけない。ここは僕が男らしく、白金さんでも話せそうな話題を振るしかないのかな……。
「白金さんって彩……丸山さんの事って、知ってる?」
「あ、はい……。知ってます……」
「クラスではどんな感じなの?」
「えっと、すごく明るくて……素敵な人、です……」
白金さんから見た彩は、クラスの中でかなり良い印象を持たれているみたいだ。……まあ、僕の事になると結構眼の色変わるんだけどね彩って。これは彼女には言わないとくか。余計な火種は撒かないが吉ってね。
「ふふっ……」
「どうかした?」
「顔に、全て出て……ますよ……」
「えっ!?」
彼女の言葉に僕は動揺する。
「もしかして、丸山さんの事……好き、なんですか……?」
無口な娘だな〜、とか思ってたらとんでもない事を告げてきたよこの子っ! 何、もしかして内弁慶タイプ? だとしても、僕たちって全然関わりが無かった気がするけどな……。
「そんなんじゃないからね!?」
「うふふ……」
どうやら完全に誤解されてしまったみたいだ。
これからどれほど否定しようと、彼女からそれを拭い去るのは不可能。もうこの場は潔く諦めて、彩に変な事を言わない様に祈るしかないかな。
「そう言う白金さんの方は、どうなの? 好きな人とか居たりするの?」
「えっ!? わ、私……ですか……?」
そう言って白金さんは、あたふたし始めた。僕から見た視点だと、彼女の瞳はぐるぐるしていて、身体中から汗が出ている様だった。
……僕自身、こんな柄じゃないんだけどな。
そんな事を思いながら白金さんに謝ると、彼女も少し言い過ぎたと感じたらしく、僕にぺこりと頭を下げて来た。まあ、お互いやり過ぎた部分があったし、痛み分けってところかな。
「白金さん、ゲームの中ではもっと話すのになんかもったいないね」
「そ、それをここで……いいますか……?」
「まぁ、現実と仮想世界では違う、って言うのはあるかもしれないけどね」
「まあ……そう、ですね……」
……これは余談になるけど、白金さんとはNFOを通じて話した事があり、その時は呪文の詠唱の速さや、プレイヤーとしての熟練度の高さ等に驚かされる事が多いのが現状だ。
ただ、話し方の事に関して言うなら、ネットと現実ではどうやら異なるらしい。チャットの時は結構機転も利いてて、スラスラと発言をしていたのだが。
……もし、これから彼女と仕事をするのなら、基本のやり取りはメールになるのかな。
それなら話しやすいだろうけど、いちいち携帯を経由するなんて流石に面倒だ。ここは先輩に告げた通り、人前で話せるようになってもらわないといけない。サポートをすると言ってしまった建前、僕には彼女の仕事を支える義務があるからね。
「あ、それと……盛谷……さん」
「ああ、名前で良いよ。同い歳から苗字で呼ばれるの、結構こそばゆくてさ」
「じゃあ……わ、わたしの事も、名前で……。燐子……と呼んでください。それで、颯樹さんって……よく、図書室に本を借りに来てくれてます……よね」
あー、たしかに。
読書は専ら好きだし、何だったら会長に呼ばれる前までは読書用の本を探していたくらいだ。……ん? こんな話をするって事は……まさか、燐子って。
「もしかして……燐子、図書委員だったり?」
「あ、はい……わたしも、読書が好きなんです。だから、図書委員になりました……。颯樹さんがいつも本を借りに来てくれるので、とても嬉しいんです……」
燐子は僕に対してそう告げて来た。
そう言われた事は素直に嬉しいけど、もしかしたら。
「他にも本を借りに行く人結構いるんじゃない?」
「い、いいえ……。男の子、で……本を借りに来る人は、あんまり……いないんです……」
「そうなの?」
「はい……」
まあ高校生ともなれば、休み時間は友達と携帯ゲームをしていたり、SNSを眺めてたりして時間を潰す事が多いだろう。図書室という静かな空間で本を読むのは、世間一般の男子から見れば特殊なのかな。
……あまり文学青年ぶるのは嫌なんだけども。
「どんな本を借りてる、かも……知ってます……」
「え」
……それは初耳だ。
まあ、図書委員だからカウンターに座って貸出作業とかもする傍らで覚えたのかもしれないけど、それを鑑みたって今の発言は驚く物があった。
……ちなみに、何処まで覚えてたりするのかな……?
「この場で、特別に教えても良いんですが……もし、それが憚られる様でしたら…っ」
「ッッッ!?」
待てよ、僕ってそんな変な本借りた事あったっけか?
いやいや……そもそも学校に変な本、もとい卑猥な雑誌や漫画を置くはずも無いし、これは彼女なりのボケ……と言うべきなのか。
何にせよ、僕が害を成した事は間違いなくない。
「ま、まあ覚えてくれてたなら嬉しいよ」
「覚えてますよ……♪」
「照れるな」
オドオドとした印象が強い彼女だけれど、笑うとやはり可愛らしい。パッと見た感じで言えばスタイルも良さげだし、もっと自分から前へ出ていけば、男子生徒から引く手なんて数多になるだろうに……何処か勿体無さすら感じてしまう。
「……あっ」
「もう教室か。話せば早いね」
僕と燐子はもう各々の教室へと戻って来ていた。時間帯が放課後と言う事もあり、他の生徒は部活をするなり下校するなりで、校舎に残っている姿もまばらだった。
……生徒会長に呼ばれて、結構経ってたんだな……。時間の経過と言う物は、本当に末恐ろしい。
「燐子はこのまま帰る予定?」
「はい……。今日は、氷川さんや、今井さんが各々部活やバイトなので、個人練習をする様に……と言われているんです……。颯樹さんは、この後はどうするんですか…?」
「んー、僕もこの後の予定は無いし、自宅に帰ろうかな。メンバーには個人練習を忘れずに取り組む様に、と伝えてるから」
「……っ、それなら……!」
僕はすんでのところで燐子に呼び止められた。
荷物は未だに教室の中にあるので、校門が施錠される前に忘れ物が無いように鞄の中に直して、それを背負って帰りたい所ではあるのだが。
「もし、良かったら……ですけど、わたしと一緒に、帰りませんか……?」
「ああ。もちろんいいよ」
そう言われた僕は、この数十分で随分と打ち解けた女の子と帰る約束を取り付け、教室に自分の鞄を取りに戻った。そしてお互いに帰る準備を終えて合流した後、互いの家への帰り道を歩く事になったのだった。
今回はここまでです。如何でしたか?
次回はこの話の続きとなるか、コラボ回の続きになるか……はたまたそれとは別になるのかは、事前に今回の様な予告ツイートをあげようと思いますので、楽しみにお待ち頂ければと思います。
それでは、また次回の更新にてお会いしましょう。