新日常はパステルカラーの病みと共に(Rev.) 作:咲野 皐月
前回の更新よりかなり日は空きましたが、パス病みは通常運転で投稿をして行きたいと思います。お盆の時に何か一話更新出来ればまだ良かったんですが、母親の実家に行ってお盆ならではのお務めをしてきた上で、遠方から里帰りに来ていた母の身内とも会っていたので、少し投稿が遅くなってしまいました……大変申し訳ないです。
今回は閑話休題Partの2話目です。
このお話は前回からの続きとなっていますので、この話を読む前に其方を先に読んで貰えるとわかりやすいかと思います。
それでは本編、スタートです。
最後までごゆっくりとお楽しみ下さいませ。
「……ここまで来れば流石に良いか」
リサからの誘いを断り、彼女が追って来れないであろう距離まで走り続けた僕は、額から出て来る汗を手の甲で拭いながら、その付近を歩き続けていた。一応バッグの中には汗ふきシートやタオルに水筒などが入っているので、汗が出たり喉が渇いた時に対応できるには出来るのだが。
「しかし、ここは何処だ……? 周囲がもう真っ暗だってのもあるかもしれないけど、街灯が点ってないと何処ら辺なのかわからないな」
そう呟きながら、僕は周囲を見渡した。
直ぐ目に入ったのは、小さい子供とかがよく遊んでいる滑り台やブランコで……その近くには1、2台程度ではあるものの、自動販売機も設置されていた。東京は日が沈んでも街灯の明かりが着いている事が多いので、迷ったりとかそう言う事はほとんど無い。
ただ、考え事をしながら歩いていたりすれば、見慣れた道でさえもあやふやになりかねない……と言う欠点があるにはあるけれど。
「……仕方ない。この分だと自宅に辿り着くのは、せいぜい甘く見積っても9時くらいかな……それまでの暇潰しに、何か音楽でも聴くか……ん?」
「……あれ、颯樹くん……?」
ズボンのポケットからスマホを取り出そうとした、僕の目の前に現れたのは……水色の髪をサイドテールにしている、僕やちーちゃんと同級生の女の子──
花音から詳しく話を聞いてみると、どうやらバイトからの帰り道だった所らしいのだが……
「本当にごめんね、颯樹くん……。いつもいつもお世話になっちゃって……」
「構わないよ。寧ろ、いつでも頼って。僕で力になれるなら協力するからさ」
「ふふっ、ありがとう…♪」
僕は花音とそんな言葉を交わしながら、近くにあった公園へと立ち寄る事にした。ただ座って談笑するだけだと味気無かったので、自販機で飲み物を買ってから、と言う流れになったのだ。
聞けば花音の好き嫌いはあまり無いのだが……どうしてもキノコだけは無理との事で。と言うのも、先日クラゲを見に水族館へ行った事があったのだが、その時に彼女の苦手な物も聞く事が出来た。
曰く『キノコとクラゲは全く違う』らしい。
本人が苦手とするならそれについて言及はしないが、この様子だとグラタン等に入っている椎茸や、秋の味覚に数えられる松茸とかは好んで食べないだろう。
……母は鰻が苦手だと言っていたけれど、それは小骨が多いからと言う至極単純な理由ではあったらしいが。
「はい、お汁粉で良いかな?」
「あ、ありがとう…っ。お金を渡さないと……」
「いや、良いよ。これは僕からほんの気持ちだよ」
「……良いの……っ? それじゃあ、お言葉に甘えて……ありがとう、颯樹くん…♪」
花音からのお礼に対して返答した僕は、彼女と一緒に近くのベンチに座って飲む事にした。ただ、時間も遅いので補導されない様に、飲んだら早めに帰る……と二人で約束をするのは忘れなかった。
「んっ、んっ……美味しい…♪」
「良かった。そう言って貰えると嬉しいよ」
「……私、いつも颯樹くんに何かを貰ってばかりだよね」
「そんな事無いよ。僕がやりたいと思ってやってるんだ、花音は気にしなくて良いから」
僕はそんな事を言いながら、自分のバッグの中に入れていた水筒を取り出して、お茶を飲んだ。先の練習である程度は飲んでいたので、ひと息で飲み干せるくらいしか無かったけれども。
「……颯樹くんって、誰かに対してすごく優しいよね。千聖ちゃんは元からそうだけど、会って間もない私や彩ちゃんに対してもそんな感じで……。何だか、あの二人が羨ましくなって来ちゃうなぁ……」
「大袈裟だって。少なくとも、僕は誰彼構わず優しくできる様な聖人じゃない……怒る時は怒るし、嫌と言う時は断固として断るよ」
「そう……だよね、うん」
花音は僕からの答えに対してそう相槌を打つと、両手でお汁粉の入ったアルミ缶を持ったまま俯いてしまった。その様は自分にできない事が僕は出来る、と言う事への羨望とそれが出来ない自分に対しての自虐の意味があったのだろう……と察する事が出来たが。
「……颯樹くんって」
「ん?」
「どうして、そんなに優しく出来るの? 千聖ちゃんになら兎も角として、まだそんなに関わってない私とか彩ちゃんとか……なんで、そこまで優しく接する事ができるのかな……なんて」
……確かに。言われてみれば、何か行動を起こす時に、そこまで深く考えた事は無かった気がするな。日菜みたいな突発的に何かをしよう、やってみようよ、じゃなくて、これをしたら相手はどう思うのか……また、それを受けて自分はどうすればいいのかと言うのが前提にあったはずだ。
彩に関しては、突然の出来事とは言え、その瞬間を見かけていたからこそ対処も出来たし、今もこうして彼女は無事に高校生活を過ごせている。花音に関して言うなら、ちーちゃんとの縁から繋がって関わり始めたのが理由だ。
……でも、本当だったら赤の他人にここまでする理由は僕としては無いはず。そこを突き詰めれば、花音の考える事は至極当たり前の事だろう。
「さっきも言ったけど、僕がやりたいからやってる。ただそれだけだよ。花音が気にする必要は無いんだ」
「で、でも……」
「でもも何も無いでしょ。余計な理由を付ければ、自分のやってる事に正当性を持てると思ったのかもしれないけど、それは単なる言い訳。その場を上手く誤魔化す為の愚策でしか無いんだ」
僕はそこまで言うと、座っていたベンチから立ち上がって花音の方を見る。彼女にはすごく心苦しい事を言うかもしれないが、今はそれしか方法が無い。
「だからさ、花音は気にしなくていい。僕を頼ったから自分が良くない事に巻き込まれるとか、誰かに相談したせいで周りに迷惑をかけてしまった、なんて……そんなの些細な事だよ」
「……えっ?」
「僕はね、自分の事はこの先どうなっても構わないとすら思ってる。寧ろ……僕の犠牲があって、それで実現出来る未来があるのなら、僕はそれでも良いと思うんだ」
僕の言葉を聞いた花音は、少しずつ自らの目許に涙を浮かべて行った。まるで『そんなのは信じられない』と言った様子だったが、声を出す事が出来ずに居た。
「だから、花音は今まで通りに僕を使えば良い。例えそれで僕が周囲から無理をしてるとか何やら言われても、僕はいつもの様にそれを隠しながら過ごすだけ。それで良いんだ」
「……じゃ、じゃあ……私は、どうすれば……」
「もう一度言うよ。僕の事は好きに使えば良い。頼られようが捨てられようが……僕としては本望さ。誰かの役に立てたなら」
花音にそう言った後、僕は自分の荷物を纏めてこう告げる事にした。……余計な誤解を産んでも困るから、最後にこれだけは伝えておこうかな。
「今回の事で花音が気に病む必要は無いよ。これは未熟な僕の方に全責任があるんだから。……少し話し過ぎたかな。家まで送るよ。さ、手を取って」
その言葉を伝えた僕は、花音に自分の右手を差し出して取る様に促した。公園の時計はもう9時半を周る頃で、下手をしたら警察官が補導をし始める時間にも迫っていた。
……そして、花音の反応を僕が待っていると。
「……私、貴方と出会ってから、一度も颯樹くんをそんな風に見た事なんて無いよ」
「……花音?」
「颯樹くんは優しいし、考え方も立派で……私なんて、誰かから頼られるって少しの想像も出来ないよ。寧ろ、私なんかで良いのなら……と思っちゃう。だから、ね……っ」
そう言われた僕は、何かが自分に触れる感覚を覚えた。
その視線の先には目を閉じた花音が居て、僕と何かを重ね合わせている様な様子だった。……え、ちょっと待て……。今現在進行形で重なってるのって……。
そこまで思い至った僕の気持ちなどいざ知らず、花音は背伸びをした状態から元の姿勢に戻り、此方をじっと見つめて来た。心做しか目元には涙が溜まっていて、あと少しの衝撃さえあれば、もうどうにかなってしまいそうだった。
「わたし……、颯樹くんが大好き……っ。だから、そんな悲しい言葉……できる事なら、もう、聞きたくないよ……」
「か、花音……」
「……颯樹くん……わたし、貴方の事が……好きですっ。愛してる……」
……花音から齎された、愛の告白。完全に夜も更けて、更に言うなら街灯と自販機くらいしか明かりが無い、ほぼ暗闇のこの状況で……僕は、目の前の彼女から告白をされた。
これは弱ったな……。
まだ返事を返せてないメンバーも居る中で、おいそれと自分の将来を決めるなんて、それこそその人たちに申し訳無いし、そんな状況で花音を受け入れると言うのは、勇気を出して伝えてくれた彼女にとって最大の侮辱だ。
「花音……今の状況で答えを出す事は出来ない。こんな情けない僕ですまない」
「……そう、だよね……。颯樹くんの周りには、沢山貴方を想っている女の子が居る、から……」
「本当にごめん。だけど、わかって欲しい……って、これこそ言い訳か。僕から言った事なのにね」
僕は数分前の自分が言った言葉でハッと我に返り、花音に一言謝った。……やっぱり、僕に恋なんて……無理なのかもしれないな。
「ううん…。颯樹くんと初めて触れ合ったあの夜……私、言い様の無い位に鼓動が煩かったんだよ。下手したら心臓が張り裂けそうな位。そして、貴方に抱いて貰ったあの瞬間……私の心は、満たされたんだよ」
「……そうか」
「だからねっ、私の全て……颯樹くんに……余す事無く全部あげる……。この身体も、心も……全部……んんっ」
そう言って花音は、再び唇を合わせて来た。
最初の時とは違って、背伸びをして本気でキスをする態勢に入っていた。
「んんっ、んっ、んむっ、はぁ…んっ」
彼女とキスをする度に、未だに聞き慣れない音が耳朶に響き渡る。これが花音の気持ちの強さと捉えればまだわかるが、もうそこまで行ってしまえば、後はお察しだ。
「……私、颯樹くんの家に行きたい……」
「……えっ」
「今夜一晩だけで良い……。ううん、できる事ならもっともっとしたい……。貴方が欲しくて仕方が無いの…っ」
感覚として長めのキスを終えた後、僕は花音からそんな事を頼まれた。別に時間はもう遅くなってしまったので、このまま自宅に帰宅させるよりは僕の方で泊めて……明日帰す方が理に適っているだろう(一人で歩かせると迷子になるので)。
しかし……この状況を誰かに見られでもしたら、確実に翌日はある事無い事を言いふらされそうな気がしないでも無い。
どうしたものかなぁ……全く。
いや、ここは花音の気持ちを汲もう。折角こうして勇気を出して告白してくれたんだ……その気持ちには精一杯報いるのが常識だろう。
「……わかった。帰ったらまずお風呂を沸かさないとね。二人とも汗をかいてるだろうし」
「……っ! うんっ♪ 颯樹くん、今夜一晩だけ、よろしくお願いしますっ」
「こちらこそ。さ、お手をどうぞ。お姫様」
「……はいっ♡」
花音は僕からの問いにそう答えると、僕の左手を優しく握り返した。その後は無事に家まで帰り着いて、遅めの夕飯として冷やしうどんを食べてからお風呂を済ませて就寝した。
……だがこの際、僕たちを陰から見つめている謎の視線があった事には……僕も花音も気づく事は出来なかったのだった。
今回はここまでです。如何でしたか?
次回の更新は未定となっておりますが、なるべく遅くならない様に投稿したいと考えてますので、更新予告等のツイートなどを気長にお待ちいただけると嬉しいです。
それでは、また次回の更新にてお会いしましょう。