新日常はパステルカラーの病みと共に(Rev.)   作:咲野 皐月

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 皆様、おはこんばんにちは。咲野 皐月です。


 今回は第三十一話のその後、主人公とは別の所で何が起こっていたのかをお届けしようと思います。ちなみに今回は主人公の名前だけしか出て来ず、メインとなるのは原作キャラのみとなりますので、予めご了承ください。


 それでは、本編スタートです。

 最後までごゆっくりとお楽しみ下さいませ。


第三十三話

「……さて、どうしようかしら」

 

 

 Roseliaのバンド練習が終わり、自宅に帰って夕飯まで済ませた私は、一人自室の机に向かって考え事をしていた。そそくさと部屋に入ったのを日菜や兄さんに心配されたけれど……そんな事は今の私にとって、気にするべき事では無かった。

 

 目の前には自分の使ってる教科書等の教材が並んでて、その傍らに息抜きとして使用しているノートパソコンや、スマホを充電する為の充電器が置かれていた。

 

 

「颯樹の事についてはある程度知識があるけれど、白鷺さんは私以上にある上で、彼にかなりの好意を寄せている……。それに松原さんや丸山さんの事も考慮するとなると、何処かで私もそれなりの覚悟を持たないといけない……」

 

 

 これが妹の日菜だったら、後先考えずに捨て身特攻みたいな策も取れるかもしれないし、何だったら彼をその気にさせる事だって出来ない訳では無い(ただ、その後どうなるかはお察しにはなるけれど)。

 

 

 でも、私は日菜とは違う。

 

 私は私なりのやり方で、これからあの三人の対処をしないといけない。白金さんと一緒にと言う救いこそあれど、いざその時になれば……対応できるのは、私一人だけ。

 

 

「どうしようかしら……。無理矢理彼を引き剥がしても良いのだけれど、それだと益々三人の怒りを買いかねない……でも、そのまま放置しておくのは、私としては絶対に許容できない。それを前提に考えるなら、私はどうすれば……」

「おねーちゃん、入るよー」

「こら、日菜っ! 他人の部屋に入る時にはノックをする様にとあれほど言ったでしょう!」

 

 

 そんな私の気も知らず、いきなり日菜が私の部屋にノックもせずに入って来た。今まで何度かその行動に対して苦言を呈したけれど、本人にとっては何のその。勝手に入って勝手に寛いで、満足したら勝手に出て行く……まるで猫そのものだった。

 

 ただ……この時の日菜は、違った。

 

 

「おねーちゃん、今日は家に帰って来てからず〜っと唸ってるけど、どうしたのー?」

「貴女には関係の無い事よ、放っておいて頂戴」

「これはさっくんにも言ったけどさー、そうやって考え込み過ぎるのは良くないと思うよー? 少しくらい頭空っぽにして、何も考えない日が一日くらいあっても」

「日菜ッ!!!!!!」

 

 

 ……あぁ、またやってしまった。

 

 本当は悩んでいる事があるのに、それを誰かに聞いて欲しいと思うのに……私は、また日菜に当たった。しかも、考えている事を見抜かれた上でのその一言だから、余計に不満が出て来たのかもしれない。

 

 

「……ごめんね、おねーちゃん。あたし……もう自分の部屋に戻るね」

「……そう、わかったわ。おやすみ、日菜」

 

 

 私は日菜の言葉にそう答えて、彼女を自分の部屋から送り出した。兄さんにこの言葉が聞こえていないか不安だったけれど、自室で集中しているのか、何も声が聞こえる事は無かった。

 

 

「……ギターを弾きたいけれど、今の状態だとちょっと気分が乗らないわ。もう歯を磨いて寝ましょう」

 

 

 そう呟いた私は、歯磨きをする為に自分の椅子から立ち上がった。……けれど、その時だった。

 

 

\プルルルル…/

 

 

「……ん、誰かしら。こんな夜更けに」

 

 

 私はそんな思いを頭に浮かべながら、スマホに表示されている着信に応答した。するとそこから聞こえて来たのは……。

 

 

『も、もしもし……氷川さん、ですか?』

「はい、そうですが。どうかしましたか、白金さん」

『友希那さんから、伝えられた件……に、ついて。少し話がしたいと思ってまして……』

「……分かりました。私も寝るまでの時間には多少時間がありますし、この時間を使って話し合いましょう」

 

 

 私に電話をかけて来たのは、白金さんだった。

 

 話を聞いてみると、彼女も湊さんから練習中に言われた事案について考えていた所だった様で。そしてその考えが纏まらず、こうして私に電話をしたと言う次第らしい。

 

 

 私はそれに快く返答をして、白金さんとの相談を始める事にした。

 

 

『正直……どう、思いますか? あの三人について……』

「どう、と言われても……異常、としか言えません。白鷺さんは元よりその傾向がありましたが、松原さんと丸山さんに関して言わせて貰うなら、ハッキリ言って限度を越えています。現に颯樹の事に関してかなり言い争っていましたし、何より彼にかなりの執着を見せています。それを知ったうえでどうこうする、と言うのは至難の業かと」

『そう、ですよね……』

 

 

 ……白金さんの思いは、私と同じだったみたいね。

 

 颯樹の事に関して言うなら、あの三人がかなり目に余る行動をしているのは、もう傍から見ても既に分かりきっている。いつ何かの拍子でその緊張状態が解け、熾烈な正妻戦争が勃発するかなんて、もう私たちには予測不可能だ。

 

 

 それに一人だけならまだしも、三人も彼に執着心を見せているのだからタチが悪い。日菜も日菜で颯樹に好意を寄せているのは知っているし、彼もその件については理解しているだろう。

 

 けど、その糸が複雑に絡めば絡むほど、切れてしまった時の反動の強さが想像できない。私としては、何としてでも今の状態を何とかしないと行けない……でも、その後の始末を考えると、迂闊な行動は絶対に出来ない。

 

 

 何か無いの……私に出来る、何か良い方法は……っ!

 

 

『あ、あの……』

「? どうかしましたか、白金さん」

『いえ……。この前の話を聞いていた時に、颯樹さんの、重要な事について……言及があったんですけど……それって、何なんですか……?』

 

 

 ふとしたタイミングで齎されたのは、そんな言葉だった。

 

 

 確かに丸山さんや松原さんの話を聞いていたら、そこまで考えが至るのも納得出来る。それに白金さんは、来年度の生徒会で颯樹と一緒に行動する……その事を考慮に入れるなら、知っていれば後から説明する手間を省けるので、何も無ければ開示しても問題無い位だ。

 

 

 でも……彼の事を話すには、それなりの覚悟を持ってる人で無いと無理ね。現に丸山さんがこの事を知らないのは、白鷺さんから話を聞く為の誠意が見えない……と言う理由からだと聞いた事があるけれど。

 

 

「白金さん。彼の事について詳細に話をするのは一向に構いません、ですが……私と事前に一つだけ約束して頂きます」

『は、はい……。何でしょうか?』

「今から話す事は、彼の中にある闇です。禁忌と言っても差し支えない程には大きいんです」

『さ、颯樹さんの……闇……』

 

 

その言葉に白金さんが固まる。

 

 

「無理は言いません。少なくとも、彼には誰にも話せないナニカがあると理解していただければそれでいいんです」

 

 

 これは……言わば、忠告。

 

 この先は白金さんが彼と関わる事で、彼女自身を不幸にする訳にはいかない、というお互いに対しての警告でもある。

 

 

 気弱な白金さんなら決して……。

 

 

『……わかり、ました……』

「えっ?」

『聞かせてください……颯樹さんの、闇……』

 

 

 白金さんの返答を聞いた私は、そのままの状態で少し固まってしまった。彼女から返って来る答えが予想外だったのもあるけれど、私としては別種の驚きが脳内を渦巻いていた。

 

 ……けれど、白金さんが私に伝えた彼女自身の言葉は、尊重されるべきだ。私一人の感情でどうこう言えた物では無いし、それこそ無下に扱っては行けない。

 

 

「……分かりました。ですが、先も言ったように無理はしないで下さい。颯樹にはそれだけのナニカがあると理解して貰えたらそれで良いんですから」

『はい……わかり、ました……』

 

 

 覚悟を決めた白金さんに、私は彼の事を全て話す。

 

 これまでの経緯。そして……今の彼があの様な性格になった理由。全てを、事細やかに。

 

 

 白金さんは黙ったままそれら全てを聞き、私が話し終わった後に自らの思いを吐露する。

 

 

『少し、いいえ……少なくとも、普通の人には絶対に考えられない、ほどの……人生を……』

「ええ。私も初めて聞いた時は言葉を失ったわ」

 

 

 白金さんもまた同じ反応をする。それだけ彼が抱える闇は深いと言う事。私も兄さんや颯樹から聞かされた時は、今の彼女と同じ心境だった。……辛く苦しい日々。自分が慕っていた父親からそんな事をされていたと知れば、彼の事を非難する者など居はしないだろう。

 

 それに加え、他人は平気で縛るのに自分は何のその……今思い出すだけでも腸が煮えくり返る気持ちだ。そんな最低な男が、颯樹の父親だったなんて……私としては内心複雑ではあるが。

 

 

「……これが、颯樹の身に起こった事全てです。今お話した事は絶対に誰かに喋る事があってはなりません……それを頭の片隅に入れて置いて下さい」

『も、もちろんです…っ』

「それじゃあ、話を戻して今後の行動について」

『……え、えっと。その事、なんですけど……』

 

 

 白金さんからの了承を聞き届けた私は、話を本題の方に戻そうとした。けれどその言葉は、他でも無い白金さん自身から遮られた。

 

 

「何か策があるんですか?」

『い、いえ……。まだハッキリと、と言う訳ではありませんけど……ただ、頭の中で、少し思い付いた事が、あるんです』

「それでも構いません。ぜひ教えて下さい」

 

 

 私は白金さんからの提案を聞く事にした。

 

 いつまでも部屋の電気が着いてる事を心配されたのか、兄さんや両親に忠言を貰いこそしたが、私はそれに簡潔に答えてから白金さんの話を聞き続けた。

 

 

 ……この方法で颯樹が少しでも楽になれたなら、私としては好都合。だけど、彼に盲目的な愛を注いでいる三人にとっては、この策はかなりの激毒と化す可能性が高い。

 

 それでも……私は、颯樹を何とかしたい。

 

 これはただ単に昔馴染みだから、とか……日頃からよく気にかけてくれるから、と言ったそんな生易しいものでは無い。

 

 

 私は、彼の事が大切だから。一人の男性として。

 

 誰かに罵られようと構わない、もしそれで彼の中にある闇が少しでも和らいで、また昔の様に心から笑ってくれるなら……手段を選んでいる暇は無い。今の私と日菜みたいな関係になってしまう、その前に。

 

 

「……なるほど、それは良い提案です。ですが、この方法を取るとなると、白金さん自身にも危害が及ぶ可能性があります。ましてや、彼の事が絡んだ三人は異常なまでの行動力を発揮する……下手をすれば、実力行使すら厭わないでしょう」

『は、はい。だからこそ……わたしは、この方法を試してみたいんです。彼とは、少し話しただけ、ですけど……このまま何もしないで終わる、なんて……絶対に、嫌ですから……』

 

 

 ……なら、私も覚悟を決めないといけないわね。

 

 白金さんがやる気になっていると言うのに、私がその後に起こる被害等を考えて尻込みしてる訳には行かない。だったら、どんな事が起ころうとも……私は彼を支えなくてはいけないわよね。

 

 

「……分かりました。では、白金さんの提案したその手筈で行きましょう。ですが、呉々も三人に悟られる事の無い様に」

『は、はい……もちろんです…っ!』

 

 

 そんな話を交わした後、私は白金さんとの通話を終えて寝る支度をし始めた。その直後に間髪入れず通知が来たので、何事かと思って見てみると……今井さんから『颯樹に逃げられた』と言った旨のメッセージが飛んできたのだった。

 

 

 ……また貴女はそうやって強引に……!

 

 そう思った私は今井さんに電話をかけ、一頻りお説教をした後に就寝する事にした。日菜とは友達同士と聞いたので、似た様な感じなのだろうと割り切れこそしたが。

 

 

「(颯樹の周囲は、もう安全とは言い難い……下手をしたら私まで傷付く危険性がある。それでも、何か手を打たないと手遅れになってしまう)」

 

 

 私は左に寝返りを打ち、シーツを掴む力を強めた。

 

 

 ……颯樹の幼馴染として、私にできる事があるならば、私は何でもしたい。でも、彼の負担になる様な事態だけは何としてでも避けなければならない。そのせいで更に颯樹を傷付けてしまったなら、私は彼に合わせる顔すら無くなってしまう。

 

 

 ……なら、私は。

 

 

「(……白鷺さん、丸山さん、松原さん。貴女たちの好き勝手にはさせないわ。もし彼に手を出す様なら、私は一切情けも慈悲も与えない……覚悟しておく事ね)」

 

 

 そう心の中で誓いながら、私は自らに迫る睡魔に身を預けて行った。明日から我が身に迫る、苦難と災厄をその身で案じて。




 今回はここまでです。如何でしたか?


 次回の話からは、いよいよ文化祭本番の話をして行きたいと思います。ただそこまで長くする予定は無く、長くても二話程で終わらせようと考えておりますので、更新をお待ち頂けると幸いです。


 それでは、また次回の更新にてお会いしましょう。
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