新日常はパステルカラーの病みと共に(Rev.) 作:咲野 皐月
今回は以前投稿しました……幕間の2話目をお届けしたいと思います。前回に引き続いて、Roseliaのメンバーがメインを務めておりますので、最後まで楽しんで貰えたらと思っています。
それと……このお話投稿後の何処かにて、活動報告を使って次回更新予定作品のお知らせをしたいと思います。現時点ではまだ仮決定の段階ではあるのですが、近いうちにその作品の音沙汰があるかもしれない、と言う旨の報告ですので、ご参考までに見て貰えると嬉しいです。
それでは、本編スタートです。
最後までごゆっくりとお楽しみください。
「すみません……。突然一緒に帰りたい、なんて我儘を言って……」
「別に良いよ。今日この後の予定は無いし、帰っても一人だったから寧ろ願ったり叶ったりだよ」
「それなら、良かったです……」
紗夜と燐子と三人での昼食を終えたその日の放課後……僕は燐子と一緒に帰りの通学路を歩いていた。先にも言及された様に今回は燐子たっての希望だったので、それを最初に聞いた時は僕や千歌に花音は勿論の事……その時隣に居た紗夜ですら驚きを隠せなかった程だ。
まあ、僕としては帰り道を一人で帰るのも二人で一緒に行くのも変わらなかったので、燐子のお誘いを二つ返事で承諾する事にしたのだ。
……ただ、その後ニッコニコの笑顔(目は笑ってない)を浮かべた紗夜に千歌と花音は連行されたのだが、それはまた別の話と言う所だ。とは言えど……そのお話は僕の関連でもあったので、関わるべきかどうか最後まで迷ったが。
「ん、そう言えば燐子って」
「はい、何ですか…?」
「Roseliaの練習は良かったの? 昨日リサと会った時にギターケースを背負ってた所を見たから、多分今日もするんだろうなとは思ってたけど」
「大丈夫、ですよ…。友希那さんから、今日は確り休養を取るように、との連絡があったので……。ただ、また明日の放課後はいつも通りの練習、ですけど」
僕はふと気になった事を燐子に尋ねたのだが、それは多少途切れ途切れになりながらも、確りと回答を聞く事が出来た。
どうもリサが僕と初めて対面した時の事が、友希那──歌がとても上手く、彼女が
後者に関しては、キチンと説明する事でまだ良かったのだけれど……前者の方はと言うと、今回の戦犯であるリサとそれを聞いた立場である友希那は、双方が家が隣同士で幼少期からの幼馴染と言う事もあり、今の今まで知らぬ存ぜぬで通された事がかなり不快に感じたみたいで。
バンド全体を取り巻く士気が、この一件で下がる事を懸念した友希那からの突発的な提案により……今日の練習が無しになったと言う運びの様だ。これは日頃からメンバー全体の様子をよく見ている、
「そっか。それじゃあ今夜は確り休まないとね」
「も、もちろんですっ」
「そうだね。……っと、僕は燐子を家まで送って行ったらそのまま帰るけど……何処か寄りたい所はある?」
「えっと、寄りたい所……では、無いんですが……」
ん?
「今夜は……わたしの、家に……来てみませんか? 両親は共働きで、今日は家を一晩、留守にするって聞いてるので……」
「そ、それは良いけれど……燐子としては大丈夫なの? 男女ひとつ屋根の下って」
「確かに……他の人なら、そうですけど……颯樹さんが居てくれるなら、もし何が起きても、安心ですので…っ」
あー、これはもうほぼ全ての事を知られてるっぽい?
もし彩が不用意に口を滑らせて無ければ、あの時の事は黙ってやり過ごす事も出来るけど……さっきの燐子の発言を聞いていると、どうもその事まで知られている可能性が高い。そうで無かったなら、最後の言葉なんて要らないからね。
……うーん、家に緊急で帰らないと行けない用事が有る訳では無いし、戸締りは日頃から厳重にしているので問題は無い……なら、今晩は燐子のお言葉に甘えさせて貰おうかな。
それに、僕も彼女の事を少し深掘りして聞いてみたくなったしね。
「わかった。そうなると、夕飯の買い物をして……泊まり用の着替えとかを持ってから燐子の家に向かおうか」
「……っ、はいっ。今夜は、よろしくお願いしますっ」
「こちらこそ、よろしく頼むよ。後で燐子のご両親にはキチンと話を通さないと」
「そう、ですねっ。でも……颯樹さんなら、大丈夫だと、思いますので……」
「凄い自信だね……。さ、行こうか。日が暮れる」
そう言って僕は燐子の案内を受けながら、
「……デカッ」
「そ、そう…ですか?」
夕飯の買い物も済ませ、お泊まり用の諸道具等(通学鞄は明日も使うのでそのまま持参)も持って訪れた燐子の自宅は……まず感想を一言で述べるのなら、圧巻だった。見る物全てが普通に生きてたらお目にかかる事の出来ないものばかりで、何処か自分と住む世界が違うのでは、と不躾にもそう思ってしまった。
その後彼女の先導を受けて自宅の中に入ったのだが、入った後も驚きの連続だった。大人数が入っても問題無い程の部屋が幾つもあって、恐らく突き当たりに見える階段を昇った先にも同じ様な風景が広がっているのだろう。
……これ、今更ながら思うが……。
「ふふっ……颯樹さんなら、大丈夫ですよ…っ」
んなっ、なんで考えてる事が分かる!?
「わたし……颯樹さんと同じ様に、貴方の事……もっと知りたいって、そう思いましたから…。これじゃあ、ダメ……ですか? ……って、ひゃっ!? い、いきなり……どうしたんですか?」
「……可愛い」
「ふぇあああっ!? か、可愛い……な、なんて…っ!」
ヤバい、知らず知らずのうちに燐子を抱き締めてた……そしてサラッと危ない事言ってるぞ僕ってば! 先ずは荷物を置いて夕飯を作らないといけないのに、このままだと燐子を堪能して時間が過ぎてしまう!
早く離れないと……!
そして顔が真っ赤になって、今にも身体から力が抜けかけている燐子を何とかしないと!
「燐子、確り……確りして! 燐子!」
「か、可愛い……わたしが、可愛い……」
「おーい、戻ってこーい! 燐子ー!」
そう呼びかけた僕の努力も虚しく、燐子は目を回して気絶してしまった。この家には今現在僕と燐子の二人しか居ないので、誰かに見られている心配は無かったのが救いだが……これは優先事項が変わりそうだ。
……そして、燐子が気絶してから少しした頃。
「……ん、んぁっ…?」
「やっと起きたね。こんな状態にした立場で言える事じゃないけど、大丈夫? 立てる?」
「は、はい……お気遣い、ありがとうございます…」
そう言って燐子は僕の右手を取って、その場にすくっと立ってみせた。顔はまだ赤みが引いていない様だが、どうやら動いても問題無い位には回復したみたいだ。
「ごめんなさい、颯樹さん……。わたしの為に、お手数をお掛けしてしまって……」
「構わないよ。先ずは着替えて夕飯にしようか。麻婆豆腐と一緒に餃子も作ろうかと思うんだけど、それで大丈夫?」
「は、はい……大丈夫ですっ」
「よし。それじゃあ、手伝って」
僕は回復したばかりの燐子に申し訳なさを感じつつも、彼女にサポートを依頼して夕食の準備に取り掛かった。燐子には餃子の皮に餡を包む作業をお願いしたのだが……その時に見えた手の白さと指の細さを見て、彼女も立派な女性なんだと痛感するのと同時に、バンド全体の音楽をその手で奏でているのだと思い知らされる事となった。
僕はその傍らでお豆腐を切って麻婆豆腐の準備をした。時折燐子から手順等で聞かれる事があったが、その疑問には自分の経験談を交えて説明する事で何とか乗り切れていた。……まあ、その時にチラチラと見えてしまうアレに関しては、言わない様にしたのだが。
そして暫くした頃に夕飯も作り終わり、二人でそれらに舌鼓を打っていた最中……ふととある所からこんな一言が。
「颯樹さん……少し、良い…ですか?」
「……んぐっ。大丈夫だよ、どうしたの?」
「……颯樹さんのご両親って……今は……どう、なさっているんですか?」
何気無い疑問から出て来た、わたしの一言。
それは彼の食事する手が止まり、暫し硬直状態になる程の物だったとわたしは後に悟る事になった。颯樹さんの事はここ最近になってからしか知らないので、彼の事はまだ知らないも同然。
だからこそ、わたしは先程の疑問を颯樹さんに投げかけたけれど……。
「……両親、か」
「は、話しにくい事だったら……別に」
「……そうだね。燐子とは今後も長く付き合って行く事になるんだ、一人だけ何も知りませんでしたは絶対に笑い事じゃないだろうからね。話すよ、僕の両親の事」
思わぬ事を聞いたわたしを窘める事無く、颯樹さんは自らの身の上を話し始めた。本人にとってはすごく言い難い事のはずなのに……そんな感情を振り払ってわたしだけに話してくれる、それにわたしが確り向き合わないで、どう彼を支えると言うんだろうか。
そして話された事は……衝撃の連続だった。
氷川さんから事前に聞いていた情報と、寸分の違いも無く合っている。颯樹さんが現在の様な性格や行動指針になったのも、この話を聞けば全て頷ける。起こり得て当然……まさになるべくしてなったと言うのが正しいだろうか。
その齎された情報の数々に、わたしは息を呑む事しかできなかった。あまりにも衝撃的な物だったから、と言うのも確かにあるけれど……本音はもっと奥にあった。
自分から聞いておいてこんな発言をするのは、あまりにも褒められた物じゃないし、目の前の彼にとって彼自身を否定し、侮辱する様な物だ。でもそう思えてしまうくらい……颯樹さんの今に至るまでが、壮絶だったのだ。
「そ、そんな事が……。それじゃあ……颯樹さんのお父さんと、お母さん、は……?」
「母は今も元気にしてるよ。たまに連絡を取り合ってる」
「そう、なんですね……」
「父は……うん、何処かでのうのうと生きていると思う。自分の犯した罪の重さも知らず、平然な顔をしてまた形だけの家族を作ってるんじゃないかな」
酷い……颯樹さんやそのお母さんを不幸な目に遭わせておきながら、自分だけは素知らぬ顔で今も生活してるなんて……。わたしがその場に居ても何も出来なかっただろうけど、少なくともそんな最低な親の元で育った自分自身が許せないと思う。
子供は生まれて来る環境を選ぶ事が出来ない……だからこそ、平気で大人の都合の良い様に使われる事例が後を絶たない。子供の喜ぶ物で気を惹かせ、情報漏洩を防ぐなんて事もその一つ。全く以て褒められた物じゃないし……暖かい家庭と子宝に恵まれたそんな一家の長が、こんな事は犯してはならないはず。
……わたしのスカートを掴む両手が、ギュッと強く握られた様な気がした。それ程までに……颯樹さんの抱えた
「……本当に、大変な事が……なんて、慰めは要らない、ですよね」
「……そうだね「だけど」」
「わたしが……そんな事は、死んでもさせません…っ! 颯樹さんだけがその苦しみを、未来永劫背負い続ける必要は、無いんですから……!」
勢い良くわたしの口から飛び出た言葉に、颯樹さんは面食らった顔になってしまった。自分でももう後戻りはできない事を言っている事はわかっている……だけど、わたしと関わった人が、理不尽な絶望に押し潰され続けるなんて……そんなの、そんな報われない結末なんて……絶対、嫌だから。
「……燐子、引き返すなら今のうちだ」
「構いませんっ! わたし……本当は貴方の事、氷川さんから全部聞いていたんです。でも、それで関係が悪化してしまいかねないと考えると、恐ろしくて怖くて……」
「……」
「だけど、わたしは……放っておけないんです。颯樹さんの事が、気になってるから……」
他の人と話す勇気がなかなか出なくて、考えあぐねていた時に齎された……あこちゃんからのオフ会のお誘い。あの時のあこちゃんは、わたしの事を真っ直ぐに見て、少しも物怖じせずに声をかけてくれた……。
そして、今は
なら、今度は……わたしが! 道半ばで迷っている人がもし居たら……その手を取って、正しく光ある方角に導かなきゃ!
「わたしの事は、幾ら使い潰してくれても構いません……でも、これ以上貴方が苦しむ様は、もうたくさんです! だから……わたしと一緒に、これからも居てください! わたしは、貴方を……特別な人だと思っているから!」
……自分でも何を言ってるんだ、って言いたくなるくらい衝撃発言だ。でも、わたしは……見過ごせない。こんなに優しい人が、もし道を踏み外してしまったら……なんて考えたら、わたしは自分を許す事が出来ない。出来るはずが無い。
そして少しした後、今まで聞き手側に回っていた颯樹さんの口が……重々しく開き始めた。
「わかった。燐子の意志、聞き届けたよ」
「……っ、それじゃあ!」
「こんな僕が良いのなら、だけど。成る可く心配かけない様に努力する」
「努力するんじゃなくて……心配、させないで下さいっ」
「あはは、それはそうだね」
……やっと笑ってくれた。
彼の笑顔には、自然と人の本心を引き出してしまう……見えない魔法があるんだと思う。それくらい素直で、すごく繊細且つ脆いのだろう。颯樹さんの抱えて来た過去を考えれば、何らかの拍子で壊れてもおかしくなかった。
でも、それは今も壊れずに残ってる。彼自身の血の滲む様な努力の積み重ねが成せる技……そう言うのが妥当なくらいだ。
なら、わたしが守らなきゃ。
先は長くて
その後わたしたちは夕食を終えて、お互いの趣味等を話し続けて一夜を過ごして行った。本当の所はと言うと、もっとそう言う事もしていたのだけれど……それは、また別のお話。
今回はここまでです。如何でしたか?
次回此方を更新する時は、文化祭回の後編を予定しておりますので、更新通知をお待ち頂けると幸いです。
それでは、また次回の更新にてお会いしましょう。
……最後にはなりますが、今回のお話の投稿日である3月23日は、作中では出ておりませんが……Poppin'Partyのベース担当である、
このお話が彼女の誕生日をお祝いする物では無いのが、少し申し訳ない所ではありますが……折角の機会と言う事で、この場を借りてお祝いの言葉を贈らせて貰えたらと思います。