新日常はパステルカラーの病みと共に(Rev.) 作:咲野 皐月
今回はいよいよ文化祭本番Partに入ろうと思います。
仕事の休憩時間中に最終校閲までしたので、若干お目汚しになるかもしれない……と言うのは少し勘弁して欲しいのですが、それ以外はそれなりに楽しめる物になっていると思います。
それでは、本編スタートです。
最後までごゆっくりお楽しみくださいませ。
『わたし……、颯樹くんが大好き……っ。だから、そんな悲しい言葉……できる事なら、もう、聞きたくないよ……』
『か、花音……』
『……颯樹くん……わたし、貴方の事が……好きですっ。愛してる……』
千聖ちゃんに冷たく突き放され、帰宅後の布団で思いっきり泣きじゃくったあの日から数日後……いつも通りに起床と朝食を済ませ、更衣をしていた私の頭の中で反芻されたのは、一昨日の
つい1、2ヶ月前に花音ちゃんから聞いた時は、その真意が読めなかったけど……先日の会話を聞いて、全て理解出来てしまった。
……花音ちゃんも、颯樹くんの事が好きなんだ、と。
彼は今の状況下で最善の言葉を使い、それと無く回避しようとしていたけれど、花音ちゃんはそれすら意に介していなかった。はっきり言って非常識にも程が有る……颯樹くんがどんな気持ちで花音ちゃんを説得していたのか、知りもしない癖に。
「私にはあんな酷い事を言っておいて、自分だけ颯樹くんと良い事しようとしてたんだ……しかも、逃げ道を塞ぐかの様に泣き真似までして。本当に花音ちゃんって
セーラー服のスカーフを巻く手が、一瞬だけ止まる。
多分……今の私の顔は憎悪に塗れていて、とてもじゃないけどアイドルって胸を張って言える状態じゃない。少なくとも、傍から見れば別の何かに見えてしまうかもしれない。
でも……私をこんな風にしてしまったのは、他でも無い
私も颯樹くんの事が大好きで大好きで仕方ないのに……出て来る言葉と言えば、私に対しての拒絶。ハナから私に勝ち目など無いと言わんばかりの、自分中心で
……許せない。私の颯樹くんにベタベタして……剰え、私に厳しい事を言った傍で彼とイチャイチャしようなんて。
「(絶対に二人を見返してやる。恋する乙女を怒らせたら怖いって事、その身を以て思い知らせるんだ)」
私はそんな事を思いながらも、制服への着替えを済ませて鞄を持って自宅を後にする。時間帯としては人も疎らになって来て、少しずつ賑やかになっていく時だけど、私の心の中では未だにあの時の光景が焼き付いて離れなかった。
こんな時に誰かに頼る事が出来ない、と言う今の状態が凄くもどかしい。せめてこの気持ちを誰かにぶつけられたら、少し心が幾分かマシになると思っていたのだが。
「はぁ……どうしよう。今日はせっかくの文化祭本番だって言うのに、気分が乗らないよぉ……」
ふとした拍子に零れた独り言も、抵抗虚しく虚空へ消え去って行く。……そんな時だった。
「ん、どうした? そんなに暗い顔をして」
「……えっ?」
私の背後から声が聞こえたので、ゆっくりと声がした方を振り向く事にした。……すると、そこに立っていたのは。
「おはよう、彩。こんな時間にバッタリ通学路で会えるなんて、奇遇だね」
黒髪を短く切り揃えてて整った顔立ち、そして聴く者全てを安心させる様な優しい声色……私はこの持ち主を聞き間違えるはずが無かった。
「……さ、颯樹……くん……っ」
「うん。おはよう……って、どしたの急に……えぇっ!?」
「うわぁぁぁんっ! 颯樹くん、颯樹く〜んっ!」
「ちょっ、彩……泣くのは一旦待って! 一体全体何があったのさ、説明してよ!?」
私は目の前の彼に思いっきり抱き着き、時間の許す限り泣き喚いた。その声を聞いた人たちが私たちの方を見始めたので、彼の先導を受けて場所を移動する事になった。
……私の涙の所為で、颯樹くんのカッターシャツが濡れてしまったのは申し訳無いけど、これから話す事を考えたら……これくらい安い物だよ、ね。
「……なるほど、あの時の会話を聞いてた訳ね」
「ごめんなさい……バイトからの帰り道で、二人の声が聞こえて来たから気になっちゃって……」
私は颯樹くんの誘導の下、通学路の途中にある自販機の近くに移動していた。最もこれから学校に向かうので、滞在時間は極力短めにするのを前提条件になったけれど。
「あの話で彩に誤解を与えてしまったならすまない。花音とは何も無いよ。ただその時は流れで泊めたんだ。あのまま一人で家に帰すのは忍びなかったしね」
「そ、そうだったんだ……ごめんねっ、変な事を聞いて」
「謝る必要は無いよ。これは僕の問題だし、彩が気にしなくて良い事だから」
そう言って彼は私の頭を撫でて来た。その手は私よりも大きくて優しくて……でも、その動作には少しぎこちなさも混じっていた。颯樹くんの中では、私に対しての申し訳なさも含まれてる上でのこの行動なんだと思う。私が余計な事を考えない様に、宥めて尚且つ落ち着かせる意味合いを持ってる……はず。
だけど、私は颯樹くんに対して怒ってる訳じゃない。
寧ろ……今私が真っ先に怒りたいのは、千聖ちゃんと花音ちゃんの方だ。彼が断れないって性格をわかっていながら、敢えて私の神経を逆撫でする振る舞いをしてる。こう言うのが一番タチが悪いし、絶対に許せない。
……私はそんな事絶対にしない。他人を弄んで、自分だけ甘い蜜を吸って見下す様な真似なんて、絶対。
「さ、これ以上遅くなるといけない。時間的にも紗夜が校門の所で服装検査に出てる頃だろう」
「……あっ、本当だ! 急がなきゃっ! ……えっ、どうしたの颯樹く……ちょっ!?」
私が何か言いかけるのも構わず、彼は私を軽々と持ち上げておんぶの態勢に切り替えた……えぇっ!? さ、颯樹くんにそんな事されるなんて、嬉しいんだけど……嬉しいんだけどっ!
今は街中だから、否が応でも周りの人からの視線が集まっちゃうよぉ……。
「ごめんね、こんな事をして。でも……これなら走れる。確り捕まってて」
「……っ、うんっ!」
私は颯樹くんに優しく背負われながら、学校までの道程を急ぐ事になった。運んで貰ってる途中で視線が集まり、思わず顔が真っ赤になって顔を彼の背中に埋めてしまったのは内緒の話。
「ふんふんふーん♪」
「丸山さん、朝から凄く嬉しそうだけど、何かあった?」
「ほら知らないの? 朝の登校時間の時……」
花咲川学園に無事到着した後、私は颯樹くんと分かれて自分の教室に入って準備をしている。私のクラスは喫茶店をするので、今の私は黒を基調としたエプロンに白いフリルの着いた……言ってしまえば、メイド服に近い格好をしている。
本当は颯樹くんに一番に見せたかったんだけど、一昨日の光景がまだ鮮明に残っていたから、止むを得ず見せられなかったんだよね……。これも全部あの二人の所為なんだ、と考えると、また心の中の怒りが込み上げて来ちゃう。
っと、行けない行けない……今は文化祭に集中!
あの二人への怒りはご最もだけど、やるべき事は忘れない様にしないと!
「それじゃあ、丸山さん。そろそろお客さんが入って来る頃だから、接客の方をお願いね」
「はーい!」
ふふっ、もしかしたら私に会いに颯樹くんが来てくれるかも……? そう考えたら、たくさん頑張れそうだよっ♪
そんな事を思いながら、私は花咲川学園に訪れたお客さんや他の対応へ取り掛かった。ファストフード店でのバイトで接客には自信があるつもりだったけど、肝心な場面で噛んじゃう辺り、まだまだ経験不足だな……。
こんなんじゃ、千聖ちゃんに何か言われても反論すらできないよ……もっともっと経験を積まなきゃ!
そうして時間もお昼くらいまで差し掛かった頃。
「あっ、丸山さん。次のお客さんが見えたから案内をお願い」
「はーい、今行きまーす!」
……大事なのは笑顔。アイドルも、お店の接客も……基礎は同じ!
「いらっしゃいませ! 何名様でしょうか?」
「おっ、やってるねー☆」
「リサちゃん! 来てくれたのっ!?」
「そうだよー♪ 今回は幼馴染も一緒にね、ねー
リサちゃんにそう言われた友希那ちゃんは、私の方を見て表情を変える事無く軽く会釈をして返した。ううっ、何だかこの視線を見てると、どうしても彼の事が過ぎっちゃうよ……練習の時やお仕事で付いて来てくれる時は、いっつもこんな顔だし……。
「ん、彩ー?」
「うひゃああっ!? ど、どうしたのリサちゃん!?」
「そろそろ、案内お願いできるー?」
「あ、は、はいっ!こちらへどうぞっ!」
い、いけないいけない……颯樹くんの事を思い出すと、何だかボーッとしちゃうよ……。でも、こんな風に誰かの事を想っちゃうなんて、今までだったら考えもしなかったと思う。寧ろ、そんなのとは無縁だとすら割り切ってた。
だけど、あの時の出来事が無ければ、颯樹くんと出会う事すら無かったんだと思うと、少し私としては複雑なんだよね。本当は胸がときめく最高の瞬間に出会いたかったんだけど……。
そんな事を考えながらも、私はリサちゃんと友希那ちゃんを席へと案内した。途中台詞を噛んでしまう所こそあったけど、それは何とかリサちゃんが笑ってフォローしてくれた事で、事無きを得ていた。
それからと言うものの……。
「丸山さん、3番テーブルの注文をお願いしまーす!」
「は、はい今行きまーす!」
「彩ちゃん、写真撮影良いですかー?!」
「うぇぇっ!? 今行きますので、少々お待ちくださーい!」
私は途端に忙しくなった注文や呼び出しに、休む暇も無く教室中を駆け回る事になった。その時うっかり転びそうになったけれど、颯樹くんに頑張ってる所を見て貰いたい……そう思ったら、転んでトチっちゃう訳には行かないよね。確りしなきゃ。
颯樹くん……まだかな。
千聖ちゃんと演劇に出ると言うのは聞いてるし、時間も午後からだって分かってはいるけれど、未だに彼の姿が見えないのは私としては少し寂しい所。日菜ちゃんやひまりちゃんに、たくさんの友達が来てくれたけれど……それでも、貴方が居ないと心配になっちゃう。
「(颯樹くん……早く来て欲しいな。演劇が始まる前の少しの時間でもいいから、私の前に姿を見せて欲しい……。私、颯樹くんが来るのを待ってるからね)」
今回はここまでです。如何でしたか?
次回はこのお話の続きからお届けする予定ですので、更新をお待ちください(なお最後の所で精神が抉れる可能性大なので、そこら辺はご了承くださいませ)。
それでは、また次回の更新にてお会いしましょう。