新日常はパステルカラーの病みと共に(Rev.) 作:咲野 皐月
今回も此方の話の続きが出来ましたので、更新をして行こうと思います。この次か次々回にはまた別作品の更新を行おうと考えておりますので、更新通知をお待ちくださいます様お願い申し上げます。
それでは、本編スタートです。
最後までごゆっくりお楽しみ下さい。
「……たくさん、怒られちゃったな……」
千聖ちゃんと言い争いをしてから、数時間後。私は重たい足取りで廊下を歩いていた。
先程まではたくさんの人々でごった返してた校内が……今はそれが懐かしく感じる程に静まり返っていた。大体の場合だとこの後にキャンプファイヤーをしたり、その余韻に浸りたくなるのが常なんだと思うけど、撤収した後はすんなり切り替えてる人が多かった。
……でも、私としてはまだ納得がいかない。
これからの事に問題がある訳じゃないけど、先ず第一に気にしないといけないのは、千聖ちゃんの事だ。私が勢い良く引っ叩いた所為で、かなり痕が残ってるかもしれない。……それを素直に謝らないと。
「……ううん、もう帰ろうかな」
「おや、もうお帰りですか。丸山さん」
「ち、千歌……ちゃん…」
途端に出た後悔の気持ちを振り払って、速やかに下校しようとした私を引き留めたのは……千歌ちゃんだった。綺麗で皺一つ無い端正な顔立ちとは裏腹に、眉は逆ハの字を向いていて、私に対して良くない気持ちを抱いてるのだと理解出来た。
……心做しか、いつも千聖ちゃんや紗夜ちゃんに指導される時よりも、この時がかなり胃が痛く感じてしまう。
「千歌ちゃんは、今まで……」
「颯樹に会って来ましたよ。彼は白鷺さんや瀬田さん……それに大和さん達と一緒に、今回の公演の反省会をしていました。まあ、立ち去ろうとしたら第三者としての意見も欲しいと言われたので、中に入る様に勧められましたが……さすがに少ししか見ていないズブの素人が意見する訳にも行かず、こうして戻って来たんです」
「そ、そうなんだ……。お疲れ様」
「あら、貴女の口からそんな言葉が聞けるとは。舞台袖で白鷺さんの頬を
……悔しいけど、事実だ。
私としては、もう心がどうにかなってしまうくらいには危険な状態だ。罪悪感で押し潰されそうだし、何より……間接的とは言えど、颯樹くんに迷惑をかけてしまった、と言う後ろめたさが私の心の中に居座り続けてる。
「あ、あのね……っ、千歌ちゃん」
「何か」
「その……あの時は、本当に……」
「別に構いません。これくらいの些事など、吐いて捨てるほど経験して来ました。特にお礼を言われる様な事じゃありません」
……やっぱり千歌ちゃんは、私に対して相当な怒りを持っているはず。さっきから言葉の一つ一つが刃物みたいに鋭くて、私の磨り減った心に容赦無く傷痕を刻んで行く様だ。もし千歌ちゃんからも見捨てられたら、いよいよ私が颯樹くんと関わって行くにあたって最難関になってしまう……それだけは、何としてでも避けなきゃ。
そう思っていた、その時だった。
「貴女のその貪欲なまでの真っ直ぐさには、正直飽き飽きする程です。颯樹と貴女に何があったのか、本当はどれだけ時間を要したとしても問い詰めるつもりでは居ましたが……不思議と、嬉しいんです」
「……えっ」
「知っての通り、颯樹は裏方だったり汚れ仕事などを積極的に引き受ける傾向にあります。自分がその先どうなったとしても、貴女方が支障無く活躍できる様に」
……そうだった。パスパレのマネージャーとして就任した時から、颯樹くんはずっとそのスタイルだ。私たちがこの先の活動で困らない様に、色々手を尽くしてくれてる。そしてレッスンの時は誰よりも厳しい眼で見ているし、公私をきちんと使い分けて対応してる。
「そんな彼に
「……じゃあ「ですが」」
「だからこそ、貴女が先程取った行動に対して、私は看過出来ないのです。彼の事を想えばこそ、と思って行動したその結果が、こうして私に
……千歌ちゃんの言う事は、全部正しい。
寧ろ、彼女が間違ってるんじゃない……私が全部悪い。こんな事になってしまったのは、全部私の所為だから。
「……場所を変えましょう。付いて来てください」
「う、うん……」
そう言われて私が千歌ちゃんと訪れた場所は、この時間では空いているはずの無い……普段なら確実に入れない場所だった。
「お、屋上……っ!? な、なんで」
「鰐部会長に事情を説明して、最後に戸締りを確りする事を条件に承諾を頂きました。なので、心置き無く話し合いができますね」
「……そう、だね……」
私にそう言った千歌ちゃんは、鉄製の柵に少し身を凭れさせて私の方を向いた。雨が降っている時は出来ないけれど、今は夕陽が綺麗に見えてて……少し気持ちの良い風が吹いてるから、その行動にも納得が出来ていた。
「さて。先程と同じ事を聞かせて頂きます。貴女が颯樹の為なれば、と思って起こしたその行動の結果が、この様に私に詰問されている……そして、貴女は罪悪感を抱いている。なにか思う所があるのでは無いですか?」
「……」
「言葉でだけなら、どうとでも誤魔化せます。世間一般ではフェイクと言う言葉がある様に、表面上では嘘で自分を塗り固める事が出来ますし……容易に内面を悟られまいと、自らを誇張して虚勢を張る事も出来るでしょう。ですが、貴女は先程起こった一件に関して、少なからず罪悪感を心の内に抱いている……違いますか?」
……本当に千歌ちゃんは、人の表情をよく見てる。
私とはクラスが違うし、関わってきた歴だって長い訳じゃ無い筈なのに……心の中を読むのがすごく上手い。将来そう言う職業に就いてても違和感すら感じさせない位に。
でも、私は……そんな彼女に対して、自然と臆してしまっている。自分の気持ちを分かって貰えて、その上で諭してくれる事に対して……私自身は嬉しいはずなのに、素直にその言葉が出て来ない。
……分かってるんだ、自分でも余計な事をしたって。
この事をキチンと理解出来てるからこそ、今この状況で私の心中を寸分の狂いも無く言い当てられた事に……どうしようも無い程の焦りが出てる。分かっているから、素直に千歌ちゃんの眼を見る事が出来ない。
「……沈黙は肯定と受け取りますが、よろしいですね?」
「……うん」
「貴女は確かに、アイドルになるべく日々努力して来た側の人間なのでしょう。その持ち前の明るさと、人前にはなかなか見せない血の滲む様な努力……それが貴女を貴女たらしめている要素」
「……っ、それじゃあ「ですが」」
「それ故に脆い。目標に向かってただ真っ直ぐに突き進むだけでは、何れ壁にぶつかった時に大きな挫折を経験しかねない。今貴女が向き合わなければならないのは、自分の弱さです」
……本当に、全て……お見通しらしい。
まるで、颯樹くんと千聖ちゃんを足して2で割った様な言い方だ。……何でなんだろ、千歌ちゃんにここまで言い負かされるなんて。
私が少し黙っていると、千歌ちゃんは
「
「……え?」
「白鷺さんの事は、この数ヶ月でよくわかったでしょう。颯樹への異様な迄の
……確かに、颯樹くんの事が絡んだ千聖ちゃんは、私から見てもすごい洞察力の高さだし、何をするにしても的確で、非の打ち所が無いくらいだ。でも……私が千聖ちゃんに立ち向かうのなら、何をすれば……。
「今度は貴女が自分の弱さを知る番……ですが、それはもう貴女にとっては既に経験した領域。もう貴女が変わる為には、あと少しのひと押しだけで良いんです」
「……千歌、ちゃん……?」
「貴女が心の底から欲しい物は何ですか。そして……貴女はそれをどの様に、掴みたいですか?」
……私の欲しい物なんて、もう決まってる。
これは誰に聞かれたとて同じ事を言うし、横槍なんて挟ませたりしないッ!
「私は……アイドルスターになる! そして、颯樹くんも手に入れてみせる! 今はまだ想いが届かないかもしれないけど……でも、私は……颯樹くんの事、諦めたりなんてしないから!」
「……言えるではありませんか。全く、貴女と言う人は」
「え?」
私の言葉を聞いた千歌ちゃんが、何か心底
「もうっ、笑わないでよ〜! これでも私本気で気にしてたんだからね!?」
「ふふっ、ごめんなさい……つい。ですが、これで吹っ切れたんじゃないですか?」
「……うん、そうだね。……っ、ちょっ!?」
「ここまでよく耐えましたね、お疲れ様です。今この時くらいは自分に素直になっても良いのですよ?」
そんな彼女の言葉を聞いた私は、自然と千歌ちゃんを抱き締めていた。そして思いっきり泣き叫んだ。……今までの悔しさと、これからの飛躍の為に。
そして私は千歌ちゃんと一緒に下校し、彼女の付き添いを受けて自宅まで帰り着く事が出来た。千歌ちゃんと別れる時に、お母さんから制服が濡れてるとの指摘を貰ってしまったけど、それに関しては千歌ちゃんと私で誠心誠意謝る事で、何とか理解して貰えたのだった。
「(……これで仕込みは
「今日は本当にありがとう、おかげで助かったわ」
「こんな事態にしたのはちーちゃんでしょ……全く。他人事みたいに言っちゃってさ」
「ごめんなさいね。でも、私が貴方と演技をしたいと思ったのは本当よ? 今までは女子校だった事が理由で、薫と共演する機会が多かったけれど……これからは貴方が居る。それだけでもやる意味はあるわ」
「そんな物なのかな……まあ、良いけど」
先程数分前に文化祭にて行なった、記念公演の反省会を終えた僕とちーちゃんは、そそくさと校舎の外に出ていた。控え室を出る前は薫にも少し絡まれこそしたけど、彼女が軽く笑ったのをきっかけにその場が軽く凍りつき、何とか退出できたのだった。
本当は薫とも積もる話があったけれど、ちーちゃんがあまりそれを良しとしていなかったのもあり、短く一言断りの返事を返して出る事になったのだ。
……ほんと、僕が離れてる間、かおちゃんの身に何があったのやら。背が高くなったねーとは何となく思ってたけど、立ち振る舞いや言葉遣いまで変わってるだなんて、流石に色々予想外でしか無いよ。
「……そうね。颯樹にとっては、あの薫を見るのは初めてだから戸惑うわよね」
「そう、だね。あとシレッと心読まないで?」
「ふふっ、何年私が貴方の幼馴染をしていると思っているのかしら……考えている事なんて直ぐにわかるのよ?」
「全くもう。ちーちゃんには敵わないね、ほんと」
そんな事を話しながら歩き続け、街中に出ると。
「……誰かしら」
「ごめん、僕の携帯からだ。もしもし」
突如として僕のポケットに入れたスマホが鳴り出して、誰かからの着信が届いた事を知らせた。僕はちーちゃんに軽く断りを入れて、その電話に応答する事にした(ちなみに彼女の方はと言うと、僕の傍で軽く聴き耳を立てていたのだが)。
『あっ、颯樹くん? 良かったぁ……文化祭お疲れ様〜』
「そっちこそお疲れ様、花音。今バイト中でしょ? 電話をして大丈夫だったの?」
『う、うんっ。私は今から上がる所で着替えをする前だったから、颯樹くんに一言労いの言葉を言いたくて』
「そっか。ごめんね、そんな手間をかけさせて」
『ううん、大丈夫だよ。そっちの方は?』
「ええ、此方も順調に終わったわ。何処かの誰かさんが私とのお喋りをしたがってた物だから、断ってきた所よ」
電話の相手である花音に、僕とちーちゃんはそれぞれ答えて行った。先程の彼女の話から察するに、もうその場を出発するまでそう掛かる様子は無さそうだった。
『そうなんだ、千聖ちゃんもお疲れ様』
「ありがとう花音」
「そうだ。今から僕たちは夕飯の買い物をしてから帰るつもりなんだけど、花音はどうする?」
『うーん……じゃあ、迎えに来て欲しいなっ。明日は振替休日でお休みだし、私もその中に混ざりたいな』
……なるほどね。それなら、大丈夫そうかな。
「わかったわ。それじゃあ、今からそっちに颯樹と一緒に行くわね。その時にお夕飯の買い物もして、颯樹の家に向かえば問題ないかしら?」
『うんっ、その方が嬉しいなっ』
「じゃあ、それで決まりだね。先に親御さんには連絡を入れておいてね。ウチには結構な頻度で来てるんだ……多少なりとも心配してるだろうから」
そんな事を花音に伝えて、僕たちは花音のバイト先であるファストフード店へと向かう事になった。そこでは彩と同じ色合いの髪をした少女……上原 ひまりも共に居た様で、入った直後からあらぬ誤解を受けてしまったのはまた別の話だ(後にひまりとは関わる事があるのだが、それは別の機会に)。
今回はここまでです。如何でしたか?
前書きにも書きました通り、次か次々回の更新はこれとは別作品の方を進めたいと思いますので、続報をお待ちくださいませ。
それでは、また次回の更新にてお会いしましょう。