新日常はパステルカラーの病みと共に(Rev.) 作:咲野 皐月
この度は大変更新が遅くなりまして、誠に申し訳ございませんでした。新作である『仮面と彩りの狂騒曲』を執筆していたら、ズルズルと既存作品の執筆ペースが遅くなってしまうと言う言語道断な事態に見舞われてしまいました……( ̄▽ ̄;)
これからは年に一回を最低ラインとして、此方も更新して行きたい所存ですので、更新をお待ち頂けると幸いです。
それでは、本編スタートです。
最後までごゆっくりとお楽しみ下さい。
「「ふぁぁぁ……」」
「やっぱ温泉に入ると気持ちいいな……」
「そうだね。自然と心がリラックスしてしまうよ」
宿泊する部屋で布団決めをした後、箱根市内を観光した俺たちは、夕食の前に温泉に入る事となった。彩と千聖さんに花音さんが女湯へ向かい、俺と颯樹が男湯に入ると言った具合だ。
この一文だけを見ていると至極当たり前だと思われるのだが、実は入浴前に一悶着あったのだ。その時の颯樹の表情の沈み具合と言ったら……。
「颯樹、あんまり無理はしないでよ?」
「気を付ける。今ここで確り休養をとらないと、またあのペースに乗せられちゃ堪らないからね」
その様な事を話しながら、俺たちは温泉の湯に浸かっていた。いやー、本当に一時はどうなるかと思った……温泉に入る話をしたら、花音さんは顔を真っ赤にして少しの間固まっちゃったし、彩は彩で鼻血を出してて……千聖さんに至っては颯樹と混浴する方法を模索し始める始末だし……。
……千聖さんに好きな人が出来たら、その人の事を尻に引いてるとか思ったけど、意外とマジな話だったりして。
「……ッッッ!?!?!?」
「ん? どうかしたの、イサム」
「……いや、何でも無いよ颯樹。気を遣わせてしまってごめん」
「そっか、それなら良いんだけど」
男湯と女湯は竹で出来た壁を通して隔てられている為、この場に男以外の誰も居ないはずなのだが……背筋に妙な違和感と言うか寒気を感じてしまった。温泉に入っているのに寒気とは何事だと言われかねないけど、感じた物は仕方ない。
「そう言えばさ、千聖から聞いたんだけど」
「ん?」
そう思いながらも堪能していると、今度は颯樹から声を掛けられた。千聖さん関連の話が出て来る辺り、やっぱり千聖さんと颯樹は幼馴染なんだな……と思っていると、突然こんな事を颯樹から言われる事になった。
……は? え、おいちょっと待て……?
何でその事を颯樹が知っている……? もしかして千聖さんから聞いた? 一応どの程度なのか確認するために、どこまで聞いたか少し確認してみようかな。
「……ちなみに、どこまで聞いた?」
「ん? 知りたい?」
俺が颯樹に質問を投げ掛けると、颯樹は清々しいくらいの爽やかな笑顔で返答をして来た。……だが、その眼は全く笑っておらず、何処か千聖さんを彷彿とさせる様な姿だった。
「まあ、それはあれだよ。……ほら、俺たちまだ高校生じゃん?」
「うん、そうだね」
「それに彩はアイドルだし、あんまりそう言うスキャンダルになりかねない事は控えた方が良いんじゃ無いのかな〜って思うんだよね、ウン」
「成程。それなら仕方ないね」
俺の返答を聞いた颯樹は、何処か納得した様な顔をすると再び温泉を楽しみ始めた。……あー、良かった……マジで心臓に悪いよあれは……。今のこの感じだと、何とかこの場は丸く収まったかな。
「……セーフ」
「ん、イサム。なんか言った?」
「
「そっか」
「(この人、千聖さんと同じで食えないタイプだ……。類は友を呼ぶって言葉があるけど、もしかしてそう言う事だったりするのかな……?)」
俺は先程颯樹から感じた背筋が凍る程の寒気をそう解釈しながら、温泉に浸かっている一時を楽しむことにした。そして暫く時間が経ち、二人揃って湯船から出て男湯を後にしようとした……その直後だった。
「はぁ……気持ち良かったね」
「そうだな……ヴェッ、千聖s……ヒッ!」
男湯から出て来た俺と颯樹を待っていたのは、如何にも怒り心頭な面持ちの演技派元天才子役だった。更に言うなら彩と花音さんは、その怒り様に恐怖を感じたのか、彼女から少し離れた自販機で飲み物を買っていた。
……いやいや、マジで助けて! 怖い! あの千聖さんは相当怒ってるってアレ!
「イサムくん。貴方……私の愛おしい颯樹の前で、私の悪口を言うだなんて、随分と偉くなったわね?」
あー、これはガチおこだね……なんとかしないと。
「いや、悪口を言った覚えは無いんだけど!? 本当に誤解だって! ほら、颯樹からもなんか言ってやってよ!」
「うん、まあ確かに言っては無かったね」
「でしょっ、そうだよね!?」
「うん、そうだね」
ホッと一安心だよ……。この状況でバラされたら、どんなにメンタルが磨り減る事か……。しかし、ホッとしたのもその一瞬だけだと、俺は次に颯樹から告げられた一言で悟る事になった。
「でも、なんだか僕の尊厳が危なくなりそうな予感がするからノーコメントしとくね」
「さてはアンタ、俺を売ったな!!!!」
「はいはい、僕にクレーム付ける前に正面をご注目」
「人の話を聞け『イサムくん……?』……あっ」
俺としては、この弄ばれたかの様な怒りをぶつけたかったのだが、颯樹のその一言で現実に引き戻された。そしてさっき言われた通り……完璧に笑顔を浮かべながら、本気で俺に向かって怒っている千聖さんの姿が見えてしまった。
うわぁ……どうすんのこれ……。
かくなる上は、逃げる事も視野に!
「ち、千聖……ちゃん?」
「あら、彩ちゃん何かしら? 私は今からイサムくんにたっぷりとお説教を」
「ま、周りの人たちの視線が……」
彩からそう言われて、俺たちは自分たちの置かれている状況を漸く理解した。確かに大浴場のあるフロアで、贔屓目に見なくても見目麗しいアイドルや美少女と、その傍らで野郎二人が必死になって口論をしているともなれば……その後は想像に難く無いだろう。
「……まずいな。ここは一旦安全な場所に移動するよ」
「う、うんっ!」
颯樹からの一言で、俺たちはその場を連れ立って駆け出す事で去り、移動している途中で見つけたプレイルームへと入ってやり過ごす事にした。幸いにもこの時間はまだ誰も使っておらず、簡単な貸切状態だと思わせる程だった。
「ちょっと周囲の音が騒がしいけど……落ち着いたかな、二人とも?」
「はぁっ…はぁっ…。少し息を整えさせてくれ……」
「私も、少し深呼吸して良いかしら……?」
「良いよ。ご飯の時間まではまだ少しあるし、ゆっくりしながら行こうか」
そう言われて俺と千聖さんは深呼吸をして、上がってしまった息を落ち着かせる事にした。
「……イサムくん。さっきはあの場で怒ってしまってごめんなさい。周囲の状況も考えずに怒るなんて、私らしくなかったわ」
「……俺の方こそ、すみませんでした。誤解させる様な事をしたのは、俺のミスです」
「はい、これでこの件は終わり。折角の旅行なんだから、楽しまなきゃ損でしょ?」
……確かに、今回ここに居るのは颯樹と千聖さんのおかげだし、何よりこんな機会なんて滅多に無いくらいだ。そう考えたら、いつまでも喧嘩してるままじゃ居られないよな。
その後、彩と花音さんにも謝った所で時間が夕食の時間に近い頃合になっていたので……俺たちは夕食会場に足を進める事にした。その際に見えた光景はと言うと、彩が美味しそうな料理諸々に目を奪われていて、それを千聖さんが目の笑っていない笑みで窘めたり……まあ、何と言うか……安定の光景だった事をここに残しておこう。
そんな傍らで俺や颯樹に花音さんはと言うと、仲良く談笑をしながら料理に舌鼓を打っていたのだった。
「夕食後の散歩は気持ち良いな」
「うんっ、こんな機会を作ってくれた颯樹くんや千聖ちゃんにお礼を言わなきゃ」
「だな。あの二人には本当に感謝してもしきれないよ」
普段では味わえない豪勢な夕食を堪能し終えた後、俺と彩は旅館の中庭を散策しに出ていた。事前にあの三人には話を通してあるので、暫くはお互い水入らずの状況になっている。彩には今後の事で話しておきたい事もあったし、彼女の想いの強さを疑う訳じゃないけど……それを確認したくなったのも事実だった。
そうして少し歩いていると、近くに屋根のある歓談スペースが見えて来た(確か颯樹から聞いた話だと、あそこは東屋って言うみたいだが)ので、俺は彩の手を軽く引いてその場所に向かった。
その中は少し風景を眺めて話をするには最適な空間で、今は俺たち以外の客が居ないのかとても静かだった。
「座ろうか、せっかく空いてる事だし」
「良いよっ」
二人揃ってベンチに腰を下ろして、軽く身を乗り出す形で景色を眺めていた。宿の場所はそこまで標高が高い所に有る訳じゃなく、何方かと言えば山岳地帯の麓にある場所の為……寒さはあまり感じられなかったが、入浴後の身体を程よく冷ましてくれる涼しい風が吹いていた。
「う~んっ、すっごく気持ちいいね〜♪ 何だか気分が軽くなってきちゃう」
「ハハハ、それは良かった。……ねぇ、彩」
「え? いきなりどうしたの、イサムくんっ」
俺が彩にそう問いかけた時、彼女はキョトンとした顔を浮かべながらこちらを見て来た。彩の着ている浴衣は……恐らく千聖さんの手直しがわかるくらい、凄く綺麗に整っていた。宿泊部屋に常備されている浴衣なのだが、想い人が着るだけで破壊力がぐんと増していた。
「……彩は、さ。俺と……」
「?」
「……俺となら、スキャンダルになっても良いって、思ってたりするのかな?」
……我ながら恥ずかしい質問だと思う。
でも、颯樹の言葉を聞く限りだと……どうもアイツはまるでその経験がある、とでも言いたそうな雰囲気だった。颯樹の方が余っ程スキャンダルになったらマズイ相手と付き合っているにも関わらず、あそこまで余裕で居られるのが不思議だったからだ。
「え、えーっと……私は……」
「……」
先程の俺の質問には、少し間を空けた後に……返答が返って来た。
「私は……イサムくんとだったら、スキャンダルになっても良いよっ。それくらい、イサムくんの事が好きだもん」
その言葉を聞いた俺は、いつの間にか彩の事を優しく抱き締めていた。いきなりそんな事をされたもんだから、彩の方はオロオロとし始めていた。
……本当に
こんな存在が今までフリーだったのが驚かれるけれど、俺はそんな彼女が好きだ。誰もが羨んだって絶対に譲る気は無い。
「……俺も、彩が好きだ」
「……うんっ。じゃあ……しよっ」
彩はそう言って、何かを待つ様に少しずつゆっくりと目を閉じた。……勇気を出せ、一歩踏み出すんだ! そうして俺と彼女の唇が漸く触れようとした……その時だった。
「ふぇぇっ!?」
「あら」
「全く……散歩にしてはやけに長いな、と思ったら」
そんな声が聞こえたので、俺と彩はその方角を見たのだが……花音さんは顔を真っ赤にしていて、颯樹と千聖さんに関しては、二人とも同じ様な威圧で俺たちの事を見ていた。
心做しか千聖さんの威圧が、さっきお風呂場の前で受けた時よりも強くなってる様な……いや、颯樹も大概だった怖い!
「……とりあえず、花音は見ないでね」
「ふぇっ、それってどう言う……キャッ!?」
「さて、二人とも? こんな人目に着きやすい場所で、口付けをしようだなんて……」
颯樹は花音さんの視界を片手で覆って見えない様にし、千聖さんはジリジリと俺たちの方へと歩み寄って来ていた。その様子に彩はびっくりしたのか、はたまたパスパレのレッスンやお仕事等で経験したのかは定かじゃないが……恐怖を感じた様に震えていた。
……うん、これは俺でもわかる。
そんな言葉と共に、俺と彩は千聖さん先導の元……花音さんは颯樹に連れられて、今回宿泊している部屋へと帰還する事になった。と言うより単純な疑問なんだけど、何でこの二人は俺らが中庭に居るって分かったん? エスパーなの? もしかして超能力使った?
「ん、部屋から様子がチラッと見えたからなんだよね」
……あっ。
こりゃ言い逃れも何も出来ませんわー。
今回はここまでです。如何でしたか?
次回は本作品の本編か……またはこの続きか、またまた仮面の方か……を投稿したいと考えておりますので、更新通知をお待ち頂けると嬉しいです。
それでは、また次回の更新にてお会いしましょう。