新日常はパステルカラーの病みと共に(Rev.) 作:咲野 皐月
今回は……前回のお話より、一日経った後のお話になります。主人公の身に何かあったのは確実なのですが、それはまた機会を改めまして書こうかと思っています。
さて、この第五話ですが……また新しくキャラが出て来ますので、ぜひぜひ楽しみにして貰えたら。
それでは、始まります。
「痛た……まだあの時の感覚が残ってるよ……」
僕は首の根っこへ軽く手を当てて、未だに伝わって来る痛みを和らげていた。全く耐えられない程では無いのだが……こうなってしまった経緯を思い出すだけでも、軽く頭痛がしてしまうくらいだった。
昨日は彩を助けた後に、直ぐ様ちーちゃんに凄い力で手を引かれて……夕飯を一緒に食べたのは覚えてる。けど、その後に何があったかな……。
「……とりあえず、まずは家の中を大まかに片付けをしてしまってから、編入先の高校に挨拶に行かなきゃ。無理を言ってお昼前の時間帯に取ってもらったから、遅れない様にしないと」
そんな事を思いながら、家の中にあるダンボールを少しずつ片付けて行った。ある程度の事は引っ越し屋さんがやってくれていたと言う事なので、僕は割れ物などを搬入して行くに留まっていた。
そして片付けを一通り終えて、僕は以前まで通っていた学校の制服を身に纏った。これは……これから向かう先の責任者である理事長からの指定であり、学生であるならそれなりの格好をして欲しいとの事だったのだ。
僕は念の為に……貴重品や着替えなどをバッグの中に詰め込んで、自宅を後にした。もちろん鍵をかけて施錠するのも忘れなかった。
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「私立花咲川学園……元々は女子校の学校で、次の4月からは段階的に男子を受け入れ、共学となる学校か」
花咲川学園へと向かう道の途中で、僕はそんな事を呟きながら先を進んでいた。今は春休み期間中な事もあり、制服を着ている学生も居れば……指定された運動着を着て、部活動へと向かっている人も何人か見かけていた。
「この辺りに来ると、本当に女子が多い……。まあ、ここら辺は女子校の多い地域だってのは知ってるから、あまり驚く事も無いんだけど……」
先程述べた様に、僕の家から少し歩いた区間は……と言うよりも、自宅がある周囲の地区は、歴史と伝統を重んじる花咲川学園と……ここ最近設立されたであろう進学校の羽丘学園と言う、二つの(元が着くけど)女子校がある為……道行く人等を遠目に見ても、男性よりも女性の方が圧倒的に多い事になる。
しかも……この学校近くまで来てしまったら、当然見慣れない格好の男子が歩いているのだから、こんな会話も聞こえてきたりする。
「あの人カッコイイ……何処の人だろう?」
「ねぇ、私声掛けて来よっかな……」
「あ、ズルいわよ。私が先よ」
……まぁ、これは物珍しさから来ているのだろう、と割り切れるのだが。そんな事を考えながら歩いていると……目的地である《私立花咲川学園》の校舎へと辿り着いた。
学校自体がとてもキレイで、築年数がそれなりに経っている事を感じさせない佇まいだった。
「ここが……花咲川学園か『盛谷くん、待っていましたよ』?」
そう言って僕の目の前に現れたのは、白のフォーマルスーツを来た女性だった。目元は優しそうな感じではあるのだが……その纏っている風格は、学内でもかなりの権限を持つ存在なのだと認識できるほどに強かった。
「あ、あなたは……」
「私は、花咲川学園の理事長をしている……姫野 蒼依と言います。よろしくお願いします」
「よろしくお願いします……。えっと……以前、花咲川学園編入の件でお電話させて頂いた盛谷 颯樹です」
「ええ、話は聞いてますよ。お待ちしていました。それでは中へどうぞ」
僕は姫野理事長に連れられて、花咲川学園の校舎へと入って行った。校舎は先程も述べた様に綺麗で、傷一つ見当たらなさそうなのが正直な感想だった。
暫く歩いて校舎の中へと入り、入館証を受け取ってから理事長室へと向かう事にした。今日はそこで編入に際しての説明と、必要な書類などを受け取る予定になっていた。
理事長が所定の席に座ったのを見た僕は、近くにあったソファーへと彼女の促しを受けて座る事にした。
「さて……先ずは改めて自己紹介を。私は……ここ、花咲川学園で理事長をしています、姫野 蒼依です。よろしくお願いします」
「は、はい。こちらこそよろしくお願いします」
「私は貴方がここに編入して来る事を、ずっと待っていました。学内の一部の生徒から……貴方についてかなり好評を聞いていましたので、実際にお会い出来てとても嬉しいです」
姫野理事長はそんな前置きと共に、ゆっくりと口を開いて話し始めた。声音は全てを包むかの様に優しいのだが、彼女から漂う風格がインパクトの強さを与えていた。
そしてその後に話されたのは……編入にあたっての諸事項や、これから通学する際に必要になる持ち物などの説明……あとは何処のクラスに編入するのか、そして担任は誰になるのか……と言う所だった。
「こんな感じなのですが、今の説明の中でご質問などはありますか?」
「いいえ、大丈夫です。ありがとうございます」
「では、次に登校される日からは、今お伝えした……指定された制服を規定通りに着用し、花咲川学園の生徒として登校すると言う事でお願いします。学年は2年ですので、後輩たちの見本となる様な行動をお願いしますね」
「はい」
その話が終わった後、退出しても良い旨の指示が出たので……僕は入って来た時と同じ様に、扉を開けて軽く一礼をしてから理事長室を出る事にした。
「さて、挨拶を済ませたは良いけど……これからどうしようか」
理事長からのお話を受けた僕は、校舎の外に出た後に少し敷地内を探索していた。これからお世話になる所だし、隈無く見回っておかないとね。
そう思いながら歩みを進めていると、何処からか聞き慣れた音が聞こえて来た。……この音は。
「この音は……もしかして」
僕は突如として聞こえて来た音を頼りに、それが聞こえて来た場所へと向かう事にした。……僕の記憶が正しければ、さっきのは矢が的に当たった音のはず……としたら。
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音が聞こえて来た方向に足を進めてみると、そこには瓦屋根の建物が一軒見えて来た。外見は白と黒が基調の真新しい物である事が分かり、安土に設置されている的まで確りと確認する事が出来た。
「さっきの音はここから……」
僕がそう呟いた瞬間、先程聴いた物と同じ音が聴こえてきたので……ここでその音が鳴っていたのだと、確信を得る事が出来た。
「よし、邪魔にならない様に気を配りながら……練習を少し見学させて貰おうかな『あのー、すみません』ん?」
道場に向かって動き出そうとした所を、僕は誰かに呼び止められた。恰好は弓道の試合などで使われる袴を身に付けていて、紫色の腰までありそうな長髪を後ろでひとつに纏めており……ルビーの様な赤い眼が特徴だった。
「もしかして、見学の方ですか? それとも……私たちの誰か、とかに何か御用でしょうか?」
「あ、えっと……今度この学校に編入する事になったんだけど、弓を引いている音が聞こえて来たから、ちょっとその様子を見に来たんだ」
「なるほど……では、道場の方に案内します。今は練習中ですので、あまりお声はかけられない方が良いかもしれません」
僕はその女子部員に先導されながら、弓道場へと歩みを進めて行く。その途中ではチラチラと此方を伺う部員たちの視線に晒される事になったが、あまり気にはしていない様で、直ぐに自分たちの練習へと戻って行った。
少しして道場へと辿り着き、下足箱の近くで靴を脱いでその中へ入ると……射場に入っている8人全員が引き分けに入っていて、まさに《練習中》と言う光景が広がっていた。
「ほぇー、みんな集中してますね……」
「ええ、今は試合に向けての射詰めをしていますからね。一つ一つの射型を確り部員内で確認しないと、試合で勝つ事なんて出来ませんからね」
「そうですよね。こっちまでピリピリとした緊張感が伝わって来ます」
そう伝えられた後に、僕を連れて来た部員は顧問と思われる先生の所に駆け寄っていた。……どうやら僕の事を説明しに行っているみたいだ。
そう思っている間に、一人ずつ矢を放った音が聞こえ始め……ある者は的に的中し、また他の者は安土などに当たっていた。弓を下ろして弓倒しの態勢を取った後、射場から一人一人退場して来た。
「看的、確認をお願いします」
その様な言葉が伝えられた後、看的場に入っていたであろう部員が一人ずつ安土へと姿を見せ、矢が的へと当たっているかどうかを確認し始めた。そして全ての矢を確認し終えた後、矢取りとして他の部員が入り始め……放たれた矢が回収されて行った。
「次は30分後に試合形式にて行ないます。それまで追い込みをお願いします」
『はい!』
そう指示が出されると、部員の人たちは各々の課題へと取り組み始めた。射型の確認や……ひたすら矢を放って自身を追い込む人など、その形は様々だった。
それを見ていた僕の方に、誰かが歩いて来ていた。
「盛谷 颯樹さん……で、間違い無いですか?」
「あ、はいそうです。えっと……」
「私はこの花咲川学園弓道部で顧問をしています、早川と言います。よろしくお願いします。見学の件でしたら……どうぞこちらへ」
僕は早川先生の指示に従って、椅子が置かれたスペースへと歩いて、その椅子へと腰掛ける事にした。
「あの、どうして僕の事を」
「……理事長からお話は聞いていました。と言うより《偶然聞こえて来た》と言うのが、的を得ているかもしれません」
先生から告げられた言葉は、まあ概ね有り得そうな答えだった。理事長からのお話の中では、一部の教職員と生徒しか知らない……とあったので、たぶん(失礼だけど)この先生は知らなかったパターンの人だなと思えた。
「そうなんですか……」
「はい。盛谷くんはどうしてここに?」
「えっと、元々ここに住んでまして……それでついこの間帰って来まして。編入先の高校は幼馴染に勧められてって形ですね」
「《幼馴染》、ですか」
「はい。ただ、あまりこの事は公に出来ないので……僕からは発言を控えさせて下さい」
僕がそう説明をすると、早川先生は概ねの事情を察してくれたのか……黙って首を縦に降ってくれた。そんな事もありつつ、目の前で行なわれている練習へと目を向けようとした……の、だが。
「……颯樹、なの?」
「……え」
僕の名前を呼ぶ声が聞こえたので……僕はその方向へと目を向けた。するとそこには、驚いた様な表情で琥珀色の瞳をこちらに向ける……青みがかった翡翠色の髪を伸ばした少女が居た。
彼女の様子は今にも涙が零れそうな程であり、この瞬間がどれだけ衝撃的な事かが容易に想像できた。
「そ、そうだけど……」
「やっぱり……!」
そう言ってその女の子は、僕の方へと歩みを進めて来た……と思っていたら。
「え、な……なんで、右手を大きく振りかぶっているのかな? しかも……掛けまで外して……」
「今まで私が、どれほど……! アナタの事を心配したと思っているのよ、颯樹!!!!!」
「い、いったぁぁあぁ!?!?!?!?!?!?!?」
太陽も真上に昇ったばかりの天気の良い日に……弓道場の中から、僕の頬が叩かれる小気味良い音が響き渡った。
今回はここまでです。如何でしたか?
次回は今回の続きとなります(颯樹くん……思いっきり打たれてましたが、大丈夫だったのだろうか……?)。
それでは次回に……待て、しかして希望せよ。
【追記】
このお話が深夜0時に投稿されている、本日……5月19日はPoppin'Partyのドラム担当、山吹沙綾ちゃんのお誕生日です!Happy birthday!!!!!