新日常はパステルカラーの病みと共に(Rev.)   作:咲野 皐月

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 皆さま、おはこんばんにちは。


 今回は前回のお話の続きとなります。


 それでは、本編スタートです。


第六話

「え、な……なんで、右手を大きく振りかぶっているのかな? しかも……掛けまで外して……」

「今まで私が、どれほど……! アナタの事を心配したと思っているのよ、颯樹!!!!!」

「い、いったぁぁあぁ!?!?!?!?!?!?!?」

 

 

 太陽も真上に昇ったばかりの天気の良い日に……弓道場の中から、僕の頬が叩かれる小気味良い音が響き渡った。その音は練習中の部員の人たちにも聞こえた様で、全員がこの音を立てた張本人へと視線を向けていた。

 

 そして当の本人はと言うと……まだ打ち足りない、と言った様子で、もう一度右手を振り上げていた。

 

 

「ま、待って紗夜ちゃん! これ以上やったらこの人の頬に痕が出来ちゃうよ!?」

「離してください、進導さん! 私は……この人を引っぱたかないと気が済まないのです!」

「だからって、そこまでするかなぁ!? さっきの様子を見てる限りだと、その子の意見を全部無視して私刑をした様な物じゃん!」

 

 

 先程僕を連れて来た女子部員──進導さんの一喝によって、今にも僕の頬をもう一回叩きかねなかった少女──紗夜は、何とか落ち着いた様子を見せた。その証拠に少々興奮していたのが間違いだったと気づいた様で……直ぐに表情が戻っていた。

 

 

「落ち着いた?」

「……ええ、落ち着きました。取り乱した挙句に人の頬をいきなり叩くなんて、我ながら恥ずかしいですね」

「そうだね。……でも、私の他にももう一人……それを言わないといけない人が居るんじゃない?」

 

 

 そう言われて紗夜は、自分の目の前に立っている僕へと目を向けた。

 

 

「ごめんなさい、颯樹。久しぶりにこうして会えたと言うのに、いきなり頬を叩くなんて……私、なんて事を……」

「別に気にしてないよ、紗夜。何も言わずに居なくなった僕のせいだから、紗夜が気にする必要は無い。それに……周りの人たちにも随分迷惑かけちゃったし」

 

 

 僕のその一言で、紗夜は自分のやってしまった事に気づいたのか……みるみる顔を紅くしてしまった。まあ、あんな様を見せられた上に人を叩くなんて行為を目撃してしまえば、それは誰でも放心状態になるわな。

 

 その後は早川先生から『少し二人で話でもして来たら?』と言う言葉を頂き、僕と紗夜は弓道場を一旦退出し……少し離れた中庭の所へと向かう事にした。

 

 

「……」

「……」

 

 

 中庭に向かう途中の道すがらで、僕と紗夜は二人っきりで移動をしては居たのだが……完璧に話しかけるタイミングを見失っていた。それもそのはずで、久しぶりに会った事にプラスして……先程思いっきり叩かれたのだから、話しかけようと思っても戸惑ってしまうのが常だった。

 

 たぶんこれは、僕じゃなくてもほとんどの人がこうなってしまうはずなので……そうならない方が異常だと思う。

 

 

 そして、中庭に着き。

 

 

「ここまで来れば、大丈夫かな」

「そうね。……改めて、久しぶりね……颯樹。元気そうでなによりだわ」

「僕の方こそ、久しぶり……紗夜。昔よりもキレイになったんじゃない? まあ、昔は……キレイって言うより、可愛いって印象の方が強いけど」

 

 

 僕がそんな風に言うと、彼女はわかりやすい程に顔を紅くして狼狽えてしまった。……まあ、いきなりそんな事を言われたら誰だって困惑するわな。だけれども、僕は思った事を言っただけなので、間違っては無いはずだ……たぶん。

 

 

「私と離れている間に、女性を口説くのが上手くなったのかしら、颯樹ったら……」

「大袈裟だって。それに、そんな誤解をされるとこっちが困るよ。現にそんな言い方をして無くても、勘違いしてる人だって約一名居る訳だし」

「『約一名』……聞かないでおくわ。概ねだけれど、誰かわかってるもの」

 

 

 そんなこんなで話を広げつつ、僕たちは満開になっている桜の木の下へと移動した。爽やかな風と共に舞い散る桜の花弁が、何処か心地好く感じられた。

 

 

「紗夜は花咲川に進んだんだね」

「ええ。元『花女』だけれど。颯樹の方は学業の方はどうだったの?」

「僕は順当に進学したよ。公立中学校から公立の高校に進んで。……そして、一人暮らしの為にここへ戻って来たんだ」

「そうなのね……」

 

 

 一つ一つの質問に答える僕の言葉に、紗夜が軽く相槌を打って返す。……これが僕と彼女の普段のコミュニケーションだ。お互いが気を遣いやすい性格なので、こう言う何気無い会話であったとしても、互いの事をよく知る事に繋がったりもするのだ(偶に日菜関連で話される事もあるが)。

 

 

「……日菜との関係は、今のところはどう?」

「……分からないわ。何故私のやる事を全て真似するのか、そして直ぐに追い抜いてしまうのか……。私の今までやって来た事全てが無駄の様な気がしてならないのよ」

「……」

 

 

 彼女から漏らされた言葉の数々に、僕は多少の覚えがあった。紗夜の妹である日菜は、俗に言う『天才』と言う種類に位置するらしく……彼女のやる事を全て真似して、その挙句に姉である紗夜を軽々と超えてしまう、と言う一面を持っている。

 

 何事もコツコツ真面目に熟す紗夜とは対称的で……感覚で物事を判断するのだから、彼女がそう零す意味もちょっとわかる気がしてしまった。

 

 

「もうあの子に追い抜かされる自分が、いよいよ我慢ならないの……。だから、私は数年前からギターを始めたわ。あの子が追いつけなくなるくらいに、たくさん……たくさん練習して……!」

「……紗夜は、怖いんだね。自らを脅かしかねない、(日菜)って言う……身近に居る他人の存在が」

「……え、えぇ……そうよ……」

 

 

 僕が短くその言葉を告げた瞬間、紗夜の眼がかなり開かれた様に感じた。これは『図星』と言う事で良いのかな。

 

 

「確かに、それは怖いと思う。何をやっても軽々と超えられたんじゃ、自分が何をやったとしても……日菜と言う存在が全て超えていく。それは他の人からしたら恐怖でしか無いのは、本当によくわかるよ」

「……!『でもね』」

「何事であっても『怖い』と思うのは、誰にでもある事だと思う。けど、大事なのはそれを理解して受け入れる事だと思うんだよ」

 

 

 僕から紡がれる言葉の数々を、紗夜はただただ聞くしか出来なかった。……まあ、ここで反論しようなら、日菜との関係はまだ修復の兆しが見えないだろうけど。

 

 

「怖いと思うのは自然。その気持ちを抱くのは、何も間違って居ない……間違いであるはずが無いんだよ。けど、大事なのはそれを理解して受け入れて……お互いに歩み寄って行く事だと思うんだ。だって、紗夜と日菜って所詮『身近に居る他人』だからね。自分と違うなんて……そんなの、当たり前すぎると思わない?」

「……」

「だからさ、ゆっくりでも良い。日菜と少しずつ分かり合えたら良いんじゃないのかなって思うよ。その為なら、僕は喜んで協力するよ。……だって、幼馴染だもん」

 

 

 その言葉を聞いた紗夜の表情が、何処か優しい物になって行くのがわかった。自分の悩みをわかってくれたのが嬉しかったのか……はたまた、心の支えが出来た事に喜んでいるのかは定かでは無かったが。

 

 

「ありがとう、颯樹。アナタと話していると、不思議と心が軽くなって来るわね……言いたい事が全部言えてしまうの」

「そう? それなら僕は全然良いけど……あまり無理はしないでね」

「ええ、もちろんよ。こんな無様な姿はこれっきりにした、い……もの……って、何かしらこの音」

 

 

 紗夜が言葉を言い切ろうとしたその時、何処かから音が聞こえて来た。その音はどうやら……こちらの方へと向かって来ているみたいだ。

 

 

「な、何事……『さっく〜ん!』ぐほぁ!?!?!?」

「大丈夫なの、颯樹!?!?!?」

 

 

 僕の懐へと目掛けて飛び込んで来た少女を受け止めた……は良いのだが、その勢いがあまりにも強すぎたので、後ろにあった桜の木に激突してしまう羽目になった。

 

 

「い、たたたた……な、何すんだよお前! 急に飛び込んで来るなんて危ないじゃないか……って」

「久しぶり〜! 元気にしてた〜?」

「「ひ、日菜!?!?!?!?!?!?!?」」

 

 

 ……なんと、いきなり飛びついて来た少女は……紗夜と同じ青みがかった翡翠色の髪をショートヘアで三つ編みにしていて、目元が少し吊り上がっているのが特徴の……紗夜の妹である、日菜だった。

 

 綺麗な琥珀色の瞳はキラキラと輝いていて、至極満足そうな様子が見て取れた。

 

 

「ん〜、久しぶりのさっくんの匂いだ〜♡ やっぱり良い匂いでるんっ♪てしちゃうな〜☆」

「こら、日菜! いきなり颯樹に抱き着くなんて、本人もビックリするし失礼じゃないの!」

「え〜? なんでそんな事に気を遣わなくちゃいけないの〜? あたしとさっくんの親しい仲じゃん……そんなの必要無いって〜☆」

 

 

 いつもの調子を取り戻した紗夜が、日菜へキツい注意をしたのだが……それを何処吹く風と言った様子で日菜は聞き流し、僕へと頬擦りをしていた。

 

 

「あ、そうだー! さっくんには今から来て欲しい所があったんだよ!」

「え、それは一体どこなんだ『ほら早く行くよー! 話は別に移動中でも構わないからさー!』いや、ちょっと待ってってばぁ!?!?!?」

 

 

 彼女は一頻り頬擦りをしたかと思えば、僕の右手を握って何処かへと連れて行こうとした。僕はそれに為す術無く引っ張られてしまう事となり、紗夜が仲裁に入ろうとする間も無く……僕は花咲川学園の校舎を後にすることになった。

 

 

「全くもう、日菜ったら……後でたっぷりオハナシが必要かしらねあの子には

 

 

 そう呟いた彼女の独り言には、誰ひとりとして答える者が居らず……儚くも散ってしまうのだった。そしてその場には、フツフツと怒りを燻らせている紗夜が取り残された。




 今回はここまでです。如何でしたか?


 前回よりも短めに済ませてしまい、大変申し訳ありません。リアルの方では梅雨の時期に入り……お仕事やソシャゲなどをやっていたら、刻一刻と時間は過ぎてしまう一方であり、こうやって筆を執る事が難しい現在です。

 そんな中でも描き続けられているのは、一重に……応援してくださる皆様のお陰である、と思っております。


 本当にありがとうございます。

 最後にはなりますが、これからも亀更新となっている僕の小説を……今後ともよろしくお願い致します。


 それではまた次回。今回も感想を是非。

 次のお話では……パスパレを全員集合させる予定にしていますので、どうぞお楽しみに。
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