【一発ネタ】ラノベ風「八宮って絶対俺の事好きだよな…」【短編】   作:裏図書室

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 持杉先輩の玉砕がきっかけと言う訳ではないが、その日から八宮から目が離せなくなった。

 

「八宮……」

 

 自宅にいると、ほとんどの時間、あいつの事だけを考えている。

 もう何度開いたか分からない、【夏に恋するピチカート】という煽り文句がある八宮の水着グラビア。それを眺めながら、一人思考する。

 

 誰にでも話しかける事が出来て、すぐに仲良くなる八宮でも、やっぱりそういうの(・・・・・)は男からして欲しいんかな。でも、そうだと思う。そうじゃなかったら、八宮から告白してると思うし。

 

「意識したら、やっぱ勇気いんなぁ」

 

 八宮みたいに度胸があれば、こんなにも悩まずにいられるのかもしれない。

 でも、自信がない訳じゃない。あとはタイミングだ。

 

 時刻は既に0時を迎えていた。

 明日も学校だ。そろそろ床に就くとしよう。

 

 電気を消すと、余計なものが見えなくなって、より深い思考に嵌まってゆく。

 

 もし八宮と付き合ったら、いろんなところへデートに行こう。たくさん遊んで、たくさん思い出を作って、友達に自慢してマウント取ってやろう。

 えっちだってもちろんしたい。グラビアで何度も見た、あのエロすぎる身体を性欲のままに屈服させてやりたいってずっと思っていた。

 いつか、イルミネーションスターズのメンバー……櫻木真乃と風野灯織にだって会えるだろう。そうしたら、四人でハーレムデートとかもいいな。二人とも八宮に負けず劣らずの美人だし。象無象共には隣で歩く事なんて出来ないアイドルだけれど、俺には出来る。だって、そのアイドルの彼氏なんだから。

 そしていつか、アイの誓いも。やっぱりウエディングドレスが鉄板だけど、白無垢の八宮も見たいな……。

 

 あぁひかりよ。

 未来が幸せのトロイメライに溢れている。

 心から溢れそうなほどの多幸感に包まれて、その日は眠りに落ちた。

 

「おやすみ、八宮」

 

 穏やかな表情をして、眠りについた。

 

 

 

☆   ☆   ☆

 

 

 

 タイミングを探る日々が続いた。

 そう都合よくきっかけなんて来るものじゃないと、俺は焦らず機を待った。

 

 八宮は相変わらず男の影も見えなかった。俺を待ってくれているのだと、嬉しくなった。

 

 

 しかし、時は突然訪れた。

 

「しまった。ケータイ忘れた」

 

 帰宅してから、学校に携帯を置き忘れたのに気が付いた俺は、放課後の教室まで取りに向かった。

 夕暮れに染められて赤い教室は何だかノスタルジックで、特別な気分になる。部活もあるだろうに、不思議と残ってる生徒も少ない。いつも見ている景色が、違って見えた。

 そして、あいつはそこにいた。

 

「八宮……!」

「? あっ、茂武くん」

 

 教室の窓際で、黄昏を眺めていた八宮と鉢合わせした。

 特別な時間。二人きりの空間。意識せずとも鼓動が激しくなる。

 

「どうしたのこんな時間に?」

「あっ、あぁ……これ、忘れてさ」

 

 机の中にしまっていたケータイを見せると、『あぁ、そっか』と納得いったように頷いて、また窓の外に目を向けた。……何が見えるんだろうか。

 

「八宮こそ、こんな時間に何してんだ?」

「わたしは人待ち。そろそろ、来ると思って」

 

 夕日で頬を赤く染め、そういう八宮の雰囲気にドキリとした。

 あまりにも美しくて、愛らしくて、理性が蕩ける心地がした。胸の中に押し込めていた愛情が、一瞬のうちに熱され、膨らんで弾ける。……やっぱり、待ってたんだ。八宮……っ!

 

「それって俺の――」

「あっ、来たっ! じゃあね茂武くん! また明日っ!」

 

 ――――――――え?

 

 八宮は突然、花笑うような笑顔を見せるとそのまま、風に乗るような勢いで教室を出ていってしまった。

 

「……………………、は、ぁ?」

 

 呆気に取られて、言葉が出ない。なん、で……? 待ってたんじゃない、のか。おれを……。

 

 どうして、なぜ、分からない。

 混乱した頭で、さっきまで八宮がいた場所から、俺も同じように窓の外を眺める。

 

「あれは……」

 

 特に珍しくもない正門の風景が見えて、そこの前に乗用車が停まっていた。

 普段はないそれが違和感になって気が付いた。それから、その車の前で白いコートを着た、かなり長身の大人の男が佇んでいる姿も見えた。

 

「八宮……!」

 

 間もなく、校舎から飛び出してきた八宮の姿も見えて、ぱたぱたと愛らしい姿で駆けてゆく。

 

「っ――――!」

 

 そして、手を振っている白コートの男へ、飛び込むように抱きついた――!

 

「っ……ぁ……」

 

 信じられない光景に、窓に両手をついて、眼球を引っ付かせるほどの勢いで食い見る。

 嘘だ……八宮はボディタッチはたまにするけれど、ハグなんて本当に親しい女友達にしかしてない。そもそも俺だって数えるぐらいにしか見た事ない。それを、しかも、男に……!

 

「ぁぁ…………」

 

 心が砕ける音が喉から漏れる。ぐらりと視界が歪む。

 違うと信じたい。あれは八宮じゃないって誰かに言って欲しい。

 

「ぁぁぁぁ…………!」

 

 けれども、あいつはこんな時でもはっきりと輝いて見えて。

 白コートの男と何事か話した後、頭を撫でられて照れくさそうにはにかむ姿が言葉に出来ないほど可愛いくて、でも、その顔を向けているのが俺じゃなくて。

 

「やめろ……! やめてくれ…………!」

 

 そんな顔をしないでくれ……!

 あんなにも好きだった八宮の笑顔が、今は視界に入れるのも嫌だった。あんな笑顔、俺は知らない。そんな表情、俺は見た事ない。

 

「なんで……なんでだ……?」

 

 嫉妬と絶望が逆巻いて、ぐちゃぐちゃに引き裂かれた心の隙間から、今までの八宮との思い出がこぼれ落ちていく。八宮と付き合いがそこそこあったからこそ、白コートの男に向けていた笑顔が本物だって分かってしまった。あの男が、八宮にとって特別なんだと嫌でも理解させられてしまった。

 

 絶望に歪む視界から、八宮が白コートの男と連れ立って車に乗り込むのが見える。

 そのまま車は発進して、段々と小さくなって見えなくなっていった。

 

 全身から力を失い、膝から崩れ落ちる。

 

「俺じゃ、なかった……」

 

 絶望のインヴェルノが、身体の芯から熱が奪う。血の気が引いて指先が震える。歪んでいた視界は次第にぼやけて、涙が床に滴り落ちた。

 告白すらも出来なかった。ワンチャンスすらも与えてくれなかった。持杉先輩の足元にも届いていない。こんなの、あんまりだ。残酷にも程がある。

 

 初めから男としてすら見られていなかった。俺は特別には程遠い存在だった。

 俺は八宮にとって数多くいる友達の一つで、それ以上でもそれ以下でもなかった。八宮が俺に見せてくれた笑顔は、そういう表情だったと、皮肉にもあの白コートの男のおかげで気がついた。

 

「…………っ!」

 

 ガン、と全力で床に両握り拳を叩きつけた。

 

 俺が先に好きだったのに! 俺が先に出会ったのに! 俺が! 俺が俺が! 俺が俺が俺が俺が俺が俺が!

 

「俺が……ぁ……!」

 

 嫉妬が徐々に怒りに変換されて、何度も何度も床を殴打する。けれども、その度に衝撃が拳に返ってきて。

 

「えほっ、けほっ」

 

 床の塵埃を舞い上げて、せき込む。

 

「ひ――ひひっ……! いひひひひひっ……!」

 

 全てが無駄だった。最初から勝負にすらなっていなかった。

 だのに俺だけ、無駄に一人相撲をやっていた訳だ。これほどおかしな事はない。どうして勘違いしちまったんだろう。自分があんなにも輝く星に寄り添える男なんだって。そんなはずがないだろうに。

 

 結局。

 そこには自分で自分の手を痛みつけて。挙句に自業自得でむせる哀れな男がいるだけで。

 

 自分も有象無象と蔑んできた男子のうちの一人と同じだと、痛いほど分からせられて。

 

 勝手に恋して、勝手にフられて、勝手に絶望して。

 

 泣きながら空笑いしている、なんとも下らない男がいただけだ。

 

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