ペルソナ4 Another Story,Another Hero   作:芳野木

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ぶっちゃけ、サブキャラ大好き。
愛家の中村おやっさんとか。
口調はテキトーですけどね。


-010- 愛家にて

 

 

 

「なんか、すんません。おやっさん」

 テーブルにぐったりとしたまま動かない女性を見て、厨房にいるおやっさんに軽く頭を下げた。

 

 

 

 お腹が減ったと言われても、背中に乗られた状態じゃどうしようもなかったのでそのまま移動した先が……

 

 

 ここ、中華料理屋の‘愛家’で。

 

 

 『準備中』と札がかかっていたのにそのまま入れてもらえた。

 

 

 店長のおやっさん曰く

「困ったときはお互い様」

 と、そんな助け合いの精神の一言。

 

 

 

 一番ありがたかったのは、背負っていた女性について何も訊いてこなかったこと。

 

 訊かれたら何と答えればいいのやらと悩んでいたから。

 素直に答えたら冗談だと思われる確率が高い。

 

 

 

「で、いつ帰ってきたの、日向ちゃん」

 この歳で「ちゃん」付けは恥ずかしい反面、やっぱり懐かしいと感じる。

 昔通りに接してくれるのが嬉しいな。

 

 

 ‘愛家’もよくおじさんと来てたから、すっかり顔馴染みの常連客だ。

 

 

 愛家の店主をおやっさんと呼ぶのも懐かしいね。

 

 

 

「一昨日です。おじさんの家に越してきたんで、また夕食とかお世話になります」

 一人で夕食は作れるわけだが、たまにはここの料理が食べたくなる。

 

 

 

「学校はどこ通う? 八十神高校?」

 ラーメンを茹でながら、おやっさんは次々と質問をしてきた。

 

「はい。明日から八十神高校に転校するつもりで」

 帰ったら制服を出しておかないとな。

 

 転校早々に遅刻はしたくない。

 

 

「へぇー、そうなの」

 さらにおやっさんの笑みが深くなる。眼鏡をかけた人の良さそうな表情だ。

 

「うちの娘もハチ高通っててねぇ」

 うちの娘。

 

 あれ? 中村家に娘さんっていただろうか。

 首を傾げる。

 

 

「ほら、日向ちゃんも会ったことあるよ」

 出来上がったラーメンを運んできたおやっさんは、一度引っ込むとアルバムを持って戻ってきた。

 

 

 

 渡されたアルバムを捲ると、俺とおじさんを見つけた。

 

 

 まだ小さい俺が写真の中で笑っていた。おじさんは空になったラーメン鉢の隣で青い顔でなんとか笑っている。

 

 

 この今にも吐いてしまいそうな顔。

 あぁ、思い出した。‘愛家特製雨の日限定メニュー’を完食したときのだ。

 

 

「肉は……せめて一ヶ月は見たくない」

 そう最後の言葉を言って、写真を撮った直後に床に倒れたおじさんの姿。

 

 あの雄姿は今でも目に焼き付いている。

 

 

 それにしても。

 何で中村家のアルバムにこんな写真が入ってるんだろう。記念だろうか。

 

 

 さらに捲ること、数ページ。

 

 

「あっ、この写真に映ってるねぇ」

 指差された一枚の写真に視線を落とす。

 

 

 店を背にして、記念撮影みたいな写真だ。おやっさんに奥さん(ちなみに俺の呼び方はおじさん譲りだ。)とおじさんと俺。

 

 またも、小さい俺の登場だ。

 

 

 一見、どこにもその娘さんはいない。けど、よくよく見てみると、おやっさんの足に半分隠れるようにして立っている女の子がいた。

 

 

 お次は俺とおじさんと……女の子。

 

 

 で、これもまた半分隠れてる。俺から隠れるように写っていることから考えると、

「……俺、嫌われてました?」

 そう地味にへこんでいる俺に、おやっさんは笑いながら首を横に振る。

 

 

「あの頃はこの子、人見知りだったから」

 だったら、いいんですけどね。

 

「けど、数回会っただけだからねぇ。日向ちゃんは覚えてないかもしれないねぇ」

 確かに覚えていない。そもそも話したことはあるのだろうか。

 

 髪が短い、大人しい印象の女の子。

 

 俺はこの子がいたことすらも忘れていた。名前も思い出せない。

 失礼な話だよな。写真に一緒に映っているくせにさ。

 

 

「すいません」

「いいよ、いいよ。それよりも日向ちゃん」

 おやっさんが俺の後ろに視線を向けた。

 

 

「お連れさん、起きてるみたいだよ」

「え?」

 後ろを振り向く。

 

 

 

「やーやー! 運んでくれてありがとね」

 もうすでに、そこにあった表情は寝呆けていなかった。

 

 あっけらかんとした笑顔。

 

 彼女を見て、目を丸くした。

 

 いや、正確には彼女の前に置かれたラーメン鉢の中。

 

 

 

 空っぽだった。

 

 

 

 いつのまに食べたのだろうか。あったよな、ラーメン。消えた……わけじゃないよな、ラーメン。

 

「もう眠くて眠くて、お腹もペコペコでさ」

 空腹と睡魔には勝てないよね、なんて笑い話を話してるような口振りだ。

 

 もう少し危機感を持ったほうがいい。女性なんだから。

 

「このご恩は出来る限り忘れません!」

 深々と頭を下げると、すぐに顔を上げて身を乗り出してきた。

 

「で、君は……」

 

 

 ピタッと動きが止まる。

 

 彼女は目を見開き、自分の髪をくしゃりと掴む。梳かすよう動いた指から、手入れの行き届いた綺麗な黒髪が零れる。

 

 

 後ろに何かあるのかと見れば、そこには鏡しかない。『祝 愛家十周年記念』と下に細かく彫られた鏡。

 

 

「うっ……うー……おのれぇ、乙女の命を……」

 椅子に腰を落とし、絶望しきった顔で彼女は誰かへの恨み言を呟く。

 

「はぁ……」

 頬にかかっている髪をいじってため息をついた。

 

「いきなりテンション下がりましたね」

 何かにショックを受けたのはわかる。

 

 でも、何にだ?

 

「まぁねー。この世の不条理さに嘆いちまってるのですよ」

「意味がわからないんですけど」

 鏡の中にこの世の不条理があったのだろうか。

 

 どんな鏡だ、それ。

 

「乙女心のわからないやつめっ!」

 ビシッと顔の前に指が指された。

 

 

 なぜか二本、人差し指と中指を揃えた状態で。

 

 

「いやいや……男なんで」

「わっ、面白くない答えだね」

 とにかく、彼女は表情がよく変わるな。さっきまで沈んでいた顔がもう明るい表情を浮かべている。

 

 

 打たれ強いというか、立ち直りが早いというか。

 

 

 

 

「でも、ホントに良かったよ。運んでくれたのが君で」

 上着を脱ぎ、彼女はコップの水を飲み干した。

 

「うんうん、良かったね」

 水で濡れた唇を舌が舐める。なぜか子供みたいな仕草だと思ってしまった。

 

 見た目は二十歳ぐらいの立派な大人だってのに。

 

「あっ、あたしのことは霧野お姉さんと呼んでちょうだいよ。それとも黒服お姉さん? どっちでもオッケー、オッケー!」

 霧野、というのが彼女の名前らしい。

 

「じゃあ、霧野さん」

 一番呼びやすい呼び方を選ぶ。無難な選択だ。

 

 やけに強調された‘お姉さん’は数秒だけ悩んだ末に付けなかった。

 

「んー、贅沢言うと、お姉さんって付けてほしいけど……まぁ、いっか」

 少し不満そうだけど納得してくれたようで助かった。

 

 

 

 

「霧野さんはここに観光で来たんですか?」

「んーんー」

 麺をすすり、霧野さんは首を横に振った。

 

 ちなみに二杯目のラーメンを食べている最中である。

 

 

 どのお腹にラーメン二杯分の量が入るのか。

 

 

 注文した麻婆豆腐をスプーンで掬い、失礼ながら霧野さんのお腹部分を見てしまう。

 

 舌がピリッとする懐かしい辛さ、具をしっかりと味わってスプーンを皿に入れた。

 

「じゃ、何のために?」

 詮索する気はない。ただの好奇心。

 

 気を悪くした様子もなく、逆に気を良くした雰囲気で

「気になる?」

 箸を置いた霧野さんの頬が、ニヤリと上がった。

 

「黒服だもんね~。スパイとか秘密結社だって思うよね、普通」

 スパイ、秘密結社。非現実な言葉が並べられる。

 

 不審者、酔っぱらいだと思ってしまったことは、胸にしまっておこうじゃないか。

 

「でもね。正解は、つまんないただの就職活動」

 雰囲気に似合わず、理由は現実的だった。

 

 

 就職活動。納得できるようなできないような理由だな。

 害はない人だというのは、確かだと思うけれど。

 

 

 

 

 

「おじちゃん! もう一杯お願い!」

「ごちそうさまです」

 三杯目のラーメンを注文する霧野さんの隣で、俺は普通に手を合わせて食事を終了させる。

 

 

 まだ、食べるのか。霧野さん。

 

 

「あっ! あと、デザートの杏仁豆腐も!」

 

 

 ラーメン三杯に杏仁豆腐。……いくらなんでも食べ過ぎじゃないでしょうか。

 

 

 

「じゃ、俺はもう行きますね。くれぐれも、もうあんな所で寝ないようにしてくださいよ」

 会計をすませ、釘を刺しておく。

 わかってるよん、と実にわかってなさそうな答えが返ってきた。

 

 

 

 また、外で寝ている霧野さんと出会わないことを祈るばかりだ。

 今度は他の人に愛家まで運んでくれますように。

 

 

 

 

 

「そうだ! 日向君!」

 

 

 

「最後に一つ質問いいかな?」

 

 

 

 

 そして俺は、愛家から出る前に妙な質問をされた。

 

 

 

 

 

 

――――――人物紹介――――――

・霧野さん

独自のテンションで話し相手を翻弄する女性。

綺麗よりも可愛らしいという言葉が似合う容姿で、短い黒髪が見る人に元気な印象を与える。

 

ここ八十稲羽には就職活動でやってきた。

 




ラーメン食べたいな、と思いながら書いた小説。

インスタントでもいいから、今度食べようか。




『ペルソナ手帳』というものを作ってみました。
場所は話数でいうと二話目。主人公設定の後です。

まだ、書かれているペルソナは少ないですが、話が進むにつれて増やしていくつもりです。



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