ペルソナ4 Another Story,Another Hero 作:芳野木
いやぁ、うん。バックアップとってなかった自分を責めるわけです。
なもんで今回は二話しか投稿できません。
episode1はオリキャラ登場の話。
episode2はP4Gに登場したあの新キャラとの初対面
episode1:同居人が増えました
4月2日
春眠暁を覚えず。そんな言葉を実感する暇もなく、俺の春休みは過ぎていった。
ジュネスでバイト。愛家で手伝い。友達と遊ぶ。バイクの免許取得。
その他諸々と忙しい日が続き、今日は珍しく暇な日であった。
ってなわけで、午前中に各部屋の掃除を終わらせた俺は、縁側で日向ぼっこをしながら午後はゆっくり過ごすことにしたのだ。
暖かい日だまりの中、昼食として作ったサンドイッチを食べる。
うん、平和だな。
春休みに入ってベルベットルームに行く機会が増えた俺は、あの殺風景な場所でマーガレットさんに手合わせしてもらっている。
ペルソナ能力を使いこなせるように。という理由で何度も戦っているのだ。あのマーガレットさんと。
正直なところ。こう平和を改めて感じていると、実感することがある。
俺よく生きているな。
雲一つない青空。折れる木刀。迫り来るペルソナ全書。最後には、メギドラオン。
「平和っていいよな」
ふと遠い目をしてしまう。
や、だって。あの人絶対に楽しんでいるし。いつも通りのクールな表情の中に、嗜虐性とか様々な(俺にとってマイナスな)感情が含まれているのを俺は知っている。
いたぶられて喜ぶ趣味はもちろん俺にはない。今後間違っても、そんな趣味に目覚めることはないだろう。
「断ろうと思えば、断れるんだけどさ」
呟いて、サンドイッチを流し込むようにコーヒーを飲んだ。
俺が断っても、マーガレットさんは何も言わないし、思わない。そんな気がする。
「それが、できたら苦労はしないと言うか……」
飲み干したコーヒーのマグカップ、空になった皿を脇にのけた。
俺は絶対に断ることができない。肝心の記憶は思い出せないくせに、想いだけは体に染み付いているんだからな。
できないって言うよりも、したくないって思っている俺がいる。
自分の気持ちなのにわからないとは、これ如何に?
ため息がこぼれた。困った時や考え事をしている最中にため息が出るのは、どうも悪い癖だ。
ため息をつくと幸せが逃げると言うし。治すべきなんだろうか。
「はぁ……」
俺は慌てて、ついさっき出たため息を押し戻すように口に手をあてる。考えているそばからこれだ。
いっそのことため息の代わりに違う動作をしてみようか。
「…………」
どう考えても思いつかない。首を傾げるとかは微妙だし、舌打ちとかは論外だ。
もういいや。とにかく癖を治そう。それから、代わりの動作を考えればいいんだ。
~~♪
女性シンガーの軽快な英語の歌とともに、携帯が赤く点滅している。テーブルに持っていた皿とマグカップを置いて携帯を手にとった。
携帯の通話ボタンを押そうとした俺の耳に、
ピンポーン
チャイムの音が聞こえる。画面に表示された凛おばさんの名前を見つつ玄関へと急ぐ。
おばさんからの電話は、後にして扉を開けた。
「あっ、橘日向さんですか?」
満面の笑みに迎えられる。スマイル0円というより、スマイルだけでお金がとれそうな笑顔を浮かべた男性が立っていた。
エキゾチックな顔立ちから日本人ではないこと。そして、俺の知らない人であることがわかる。凄くフレンドリーな対応をされているのに全く見覚えがないのだ。
外国人と接した機会が、学校の英語教師と道を訊かれた時だけ。お世辞にも国際的ではない俺なのだ。
「私はウォルフと言います。ウォルって呼んでください」
くすんだ茶髪と同じ色の瞳。ウォルフさんの全身を見て、俺と同じウェストバッグをしていることに気付く。
ウェストバッグに手を触れた。ヒヤリとした革の質感が伝わってくる。
「凛子さんから聞いていると思いますが、今日から居候としてこの家にご厄介になる者です」
居候? 俺は凛おばさんから何も聞いていない。頭痛がしてきた。
未だ小刻みに震えている携帯。俺はウォルフさんに了承をとってから通話ボタンを押した。
『遅い』
第一声に不機嫌な声が聞こえてくる。眉を寄せたおばさんの表情が想像できた。
「ちょうど来客が来てたから」
説教が始まりそうな雰囲気を察知し、すぐに遅れた原因を話す。
来客と聞いて、電話向こうの雰囲気がやわらいだ。
『もしかしてウォル君? 良かった。無事に到着したんね』
「そのウォルフさんのことで、まず詳しい話を聞きたいんだけど」
『…………』
そのまま、無言で数秒が過ぎる。
「凛おばさん?」
都合の悪い話題だから、もしや切られたか。
『ありゃ? 言ってなかった?』
とぼけた声が返ってきた。俺はため息をぐっと我慢する。
「これっぽっちも聞いてない」
『あはは、細かいこと気にしてたらモテないさね』
「はぁ……」
やっぱり、癖はそう簡単に治らないみたいだな。もうここまできたら治す気も起こらなくなってきた。
結局、凛おばさんに上手く言い包められてしまった。いや、わかってたんだけどな。
昔からあっちの意見を押し付けられてきたから、今回もそうなるだろうってこと。
「コーヒーいれますね。インスタントですけど」
家の前で立ち話もなんだと言うことで、ウォルフさんを中へと招き入れた。
リビングに自分の荷物を置くと、きょろきょろと彼は辺りを見渡す。
「懐かしいですか?」
おじさんが住んでいた頃と家具の配置はかえていない。
良くも悪くも、俺がおじさん離れできていない証だ。
「ええ。懐かしいです」
昔を思い出すかのようにウォルフさんは目を閉じた。
おじさんと知り合いだったこと。大学で日本の神話や土地神などの研究をしていること。こう見えて日本語しか話せないこと。
簡単な情報はおばさんから聞いた。
「では、本題なんですが」
テーブルにマグカップを置いて、ウォルフさんの対面に座る。
「その前に少しいいですか?」
申し訳なさそうにウォルフさんが手を上げた。
「何か質問でも?」
「ええ、ちょっと…質問というよりもお願いなんですけどね」
コーヒーの香りが二人の間に漂う。
「私に敬語は使わないでください」
ミルクをもう少しとか砂糖多めでとか、予想していたお願いは外れていた。
敬語を使わないでか。予想できるわけないな。
「もっとくだけた感じで接してください」
「や、でも、ウォルフさんは…」
年上ですし、と続くはずだった言葉が途切れる。
「ウォルって呼んでください」
言い方も表情も柔らかいはずなのに、妙なプレッシャーを感じた。
「ウォルフさんは…」
「ウォルです」
有無を言わせぬ迫力。笑顔なのに、なぜだ。
「…………わかった。敬語はやめるから」
自分より年上の人に敬語を使わないのは身内ぐらいで、そう簡単に慣れそうにないが本人の希望だ。
「ありがとうございます。日向さん」
「日向で」
きょとんとした表情が向けられた。
「日向さんじゃなく日向。あと敬語もナシで」
「それはダメですよ」
いや、何で? 普通はウォルがくだけた口調でよくて、俺が敬語であるべきだろう。
「私は大人ですからね」
なるほど、大人だから礼儀作法は正しくなくてはならないのか。
いやいやいや、それはおかしいだろ。理由になってない。大人だから俺に敬語を使うなんて「くだけた感じで接して」と言った張本人なのに。
「日向」
「日向さん」
……何かズルいな。ってか、強引だ。
◆◇◆◇◆◇◆
「星を見に行くぞ!!」
おじさんはそう高らかに宣言すると、望遠鏡を担いで立ち上がった。
「望遠鏡を持って?」
「あぁ! もちろん!」
堂々としたその頷きに、思わず俺のほうがおかしいのかと錯覚に陥る。
「一応聞くけど、どこで星を?」
山や高台まで行って星を見るのなら、俺はこうも疑問を出さない。
「露天風呂でだ!」
そう場所が問題だったのだ。問題というより、大問題である。
そもそも天城屋の露天風呂は望遠鏡なんて持ち込み禁止じゃないのか。
ってか、下手したら覗きだと誤解される。
好奇心の塊の子供みたいな表情をおじさんは浮かべていた。こうなるとおじさんの耳には『常識』という人間が決して忘れてはならない言葉は届かない。
普段は冷静な人なのに、どうして強引に考えたことを実行へと移そうとするのか。俺にはまだわかりそうになかった。
◆◇◆◇◆◇◆
ウォルの強引さにおじさんの強引さを思い出してしまった。
あの後、男湯の前でおじさんを説得してみるものの聞く耳を持たず、合宿で天城屋に泊りに来ていた彼方さんの「レンズが曇って見えなくなりますよ」という一言で望遠鏡を持って露天風呂に入るのは未遂に終わった。
彼方さんがあの場にいなければ、おじさんがどうなっていたのか……想像したくない。
「じゃ、本題に入るな。ウォルとここで一緒に住むことだけど」
おばさんが言っていた通り、ウォルは少し強引なとこもあるが悪い人ではない。話していても不快に感じることもなかった。
「俺は大丈夫。いいよ、ウォルと一緒に住んで」
「本当ですか!?」
「ただし、お互いのプライバシーを尊重すること」
身を乗り出すウォルを落ち着けるように手で制した。
「もちろんです」
コクコクと勢い良く首が縦に振られる。
まぁ、ウォルの態度からしてそういうのはあまり心配はしていない。念のためだ。
「凛子さんからマニュアルを貰いましたから、バッチリですよ!!」
「任せてください」と言わんばかりに立てられた親指と自信満々なウォルの表情。
「マニュアル?」
妙な単語を俺は聞き逃すことができなかった。少しばかり不安を覚えるのは一体なぜだ?
「はい。見ますか?」
どこにでもある旅行用サイズのカバンから取り出された冊子。
プリントアウトした紙をホッチキスでとめた手作り感満載のマニュアル冊子だ。旅行のしおりじゃあるまいし、と苦笑しながら紙を捲った。
一ページ、二ページと読み進めるうちに、不安の正体が徐々に明らかになってくる。
「……何のマニュアルだよ、これ」
最後まで読み終え、俺は今すぐこの冊子をゴミ箱に投げ込みたくなった。
『日向が家に女の子を連れて帰った時は、何も言わずにその夜は部屋に籠もっておくこと』
『シャツに口紅がついていても動揺しないこと』
最初から最後まで、そんなどうでもいい気配りばっかだった。ってか、よくこんな冊子にするぐらいの量を考えたもんだ。
俺のおばさんは、変なところが几帳面でバカだった。
きょとんとするウォルに向かって、俺は笑顔を返す。何とか笑顔は作れた。
「これ、全然参考にならないから」
とりあえず、凛おばさんには今度会ったら文句の一つでも言っておこう。俺にはその権利があるはずなのだから。
・ウォルフ
愛称「ウォル」
くすんだ茶色の髪と瞳、エキゾチックな顔立ちが特徴的な美青年。
常に物腰は柔らかく、誰に対しても敬語を使う。
少し抜けたとこや世間知らずな一面も見せるが、家事全般を難なくこなせる家庭的なところもある。
episode2:記憶のない来訪者
「…………どうも、慣れすぎてるな」
開いていた本を閉じ、俺はソファの背もたれにもたれる。
今、ベルベットルームには誰もいない。俺一人だけだ。
息を吐いて、装飾の施された天井を見上げた。
このベルベットルームに誰も人がいない珍しい、というかおかしいとも言える状況に、誰かが戻ってくるまで本を読んでおくか……なんて思っている俺は少し感覚が麻痺してるんじゃないだろうか。
…………ま、いっか。そんなの今、考えても仕方がないことだ。
『招かれざる客人がこの中にいるようだな』
開いたページでは、探偵が意味深なことを呟いていた。
考えるよりも先に続きを読んでしまおう。
「……ふぅ」
一息つく。まさか、序盤から探偵が被害者になるなんて。誰が謎を解き明かすんだろう。
不気味な館。その館の隠された過去。裏がありそうな客人達。
そして、招かれざる客人の存在。ミステリーの王道がとことん詰まった小説だと誤解していたな。
誰が第一の被害者が探偵だと予想できるだろう。さらに恐ろしいことに、この小説はシリーズなんだ。つまり探偵がいないまま物語は進むわけで……作者、賭けたな。
そんな感じで、小説を読んだ後の余韻に浸っている俺の耳に、
ギィと扉の開く音が聞こえてきた。誰かがベルベットルームに入ってきたのだ。
来訪者の姿を見て、思わず呟いてしまう。
「…………誰?」
入ってきたのは、イゴールさんでもマーガレットさんでもなかった。
二人とは全く違う、と思ってしまうのは雰囲気のせいか、その格好のせいだろうか。
開いた時とは違い、音もなく扉が閉まる。来訪者の少女は、ぼんやりとした様子で部屋を見渡した。
短い黒髪。整った顔立ち。小柄な体格。このどこか厳かな雰囲気のベルベットルームには違和感のあるパンク風な格好。
目が合った。今俺に気が付いたのか少女は少したじろいだ。
「誰、キミ」
警戒されて言われた言葉に苦笑を浮かべる。
それはこっちのセリフなんだけどさ。
「俺は橘日向だ」
誰か。そう問われたので馬鹿丁寧に名前を名乗ってみた。
「たちばな、ひなた」
少女は俺の名前を何度か呟く。そんなに連呼されると気恥ずかしくなるな。
「橘でも日向でも好きに呼んでくれ。で、そっちの名前は?」
気恥ずかしさを紛らわすために頬をかく。
「……なまえ?」
首を傾げて、その言葉の意味を理解したのか、少女は顔を曇らせた。
「そんなのわかんないよ」
沈黙が部屋を支配する。俺はどう声をかければいいのか迷った。
この子は俺と一緒なのだろうか。何かを忘れてここにいるのだろうか。
「あー、忘れたとか?」
少しだけ遅れた質問に少女は首を振った。
「わかんない」
少女の視線は地面へと落とされている。
「ここに来た理由は?」
「誰かに呼ばれた気がして……なんとなく」
誰かに呼ばれた、ね。俺はマーガレットさんに連れられてここに入ったんだよな。
その前はどうしたんだろう。まさか、道を歩いてたまたまた入ったのがベルベットルームだった、なんてことはないだろうけど。
「キミが呼んだの?」
顔を上げた少女と目が合った。その不安そうな表情を見ると、すぐに否定ができない。
否定することが悪いと感じてしまう。
「俺が呼んだ覚えはないんだが……でも、まぁ、無意識で望んだのかもしれないな」
話している途中、自分自身何を言っているのか不思議に思えてきた。
同情で嘘をついてるのか?
それは違う。
どこか冷静な部分で出された指摘に、俺はすぐに否定する。これは同情なんかじゃない。
俺がそう言いたいから言ってるんだ。
「俺が望んだからここにいる。今は深く考えないでそれでいいんじゃないか」
少女に対しての言葉が自分に向けられているように感じた。俺は安心させる為に微笑みを浮かべる。
「ま、とりあえずだ」
立ち上がって少女へと近づくと、屈んで視線を合わせる。
「ようこそ。ベルベットルームへ」
気が付くと手を差し出していた。
自分の無意識の行動に戸惑いながらも、こうすることに既視感を覚える。
夢で見た、のか?
手が触れ合った。その触れ合った小さな手を優しく握り締める。少しの間の後、僅かに少女の方からも握り返された。