ペルソナ4 Another Story,Another Hero 作:芳野木
フラグ? 立った方がいいのでしょうか。
おばさんが適当に買ってきた食材で軽く夕食をすませた俺は、何をすることもなくぼんやりとソファーに背を預けた。天井を仰ぎ見て目を瞑る。
二年前、俺には二つの出来事があった。
夏、二人の男女と出会いペルソナ能力を使った。冬、おじさんが亡くなった。
どちらも俺にとって大きな出来事なんだが、今は夏の話が重要か。
目を開けて、腰のバッグのファスナーも開けた。
「……ペルソナ、召喚器、シャドウに…」
思いつく言葉を指折り数えていく。テーブルの上にはその時に渡された拳銃型の召喚器。召喚器は常にポーチの中に入れてある。
何かあった時、というより持っていることが当たり前になっていた。使ったことは多分あの時だけ。
なんせあの時はがむしゃらだった。シャドウに襲われかけた恐怖から案の定何も覚えてないし。
試しに召喚器をこめかみに当て引き金を引いてみた。
カチッと音が鳴るだけで、もちろん
「出るわけないか…」
息を吐いて、召喚器をポーチになおす。
一番手っ取り早いやり方は、自己と向き合うか極限状態まで追い詰められるかだ。
どうしても知りたいなら。あの場にいた朱音さんか彼方さんに詳細を訊くとか。ペルソナ使いの先輩でもあるし…でもな…
浮かんだ問題に頭を抱えてため息をつく。
もう根本的な問題を言っちゃえば…俺、あの人たちの連絡先を知らない。こっちが知らないのにあっちが知っているわけもない。
ホント、どうしようもなかった。
◇◆◇◆◇◆◇
「――起きなさい」
目覚めは突然。言葉では表せない本能による恐怖によって起こった。
目を開けて早々、見知った顔と出会う。寝起きの頭で必死に今の状況を考えてみた。
夕食のあと、おそらく考え事をしていた最中に寝た。その後起きてみると、なぜかその場にいるはずのない人が。以上のことを踏まえて。
…………あぁ、なるほど夢か。
「夢ですか? これ」
「残念だけど。夢ではないわ」
マーガレットさんはそう否定すると、俺の頬を引っ張った。痛い。
「痛いですよ…引っ張らないでください。夢じゃないって分かりましたから」
起き上がり頬をさすって文句を言う俺に、
「貴方が前、今度からは目を覚ますときはこうしなさいと言ったのよ」
…本当だろうか。
顔を見ても相変わらずのポーカーフェイスで、真偽はわからなかった。
「いったい前はどんな目覚まし方を…」
マーガレットさんは何も言わなかったが、僅かに視線が持っている本―ペルソナ全書だったか―へと移っている。
言わずもがな。ってか、事実を知るのが怖い。あんな辞書みたいな厚さの本で、なんて考えたくはない。
記憶を失った原因もそんなことだったり…いや、冗談だけどな。いくらなんでも古典的だ。
ため息をついて、俺は自分がいる場所を確認した。
幾何学的な模様が描かれた石畳に、頭上には雲一つない青空が広がっている。見方によると、どこか殺風景だ。
とにかく、ベルベットルームではない。
「イゴールさんはどうしたんです? ってか、ここって?」
ベルベットルームでないのだから、その場にはあの鼻の長いイゴールさんもいなかった。
「主には外してもらっているわ」
イゴールさんにはいてほしかったな。ストッパー役として。
「そして、ここは……覚えがないかしら?」
覚え、ねぇ。首をかしげてよく見渡してみる。
懐かしい感じはしていた。だが…………やはりと言うか何と言うか、ぼんやりとした感覚だけで特に覚えは…
『メギドラオン』
あぁ、何だか不吉な単語を思い出してしまった気がする。
俺は否定の意味と、不吉さを振り払うのも含めて首を横に振った。
「……そう」
気のせいか、マーガレットさんの表情が一瞬寂しげに見えた。
ここに俺の忘れた想い出でもあるのだろうか。その表情に罪悪感を感じる。
「ここで散々、ボロボロに負かしてあげたのだけれど……覚えてないのね」
………………。
「はい、全くもって」
むしろ覚えてなくて良かった。俺の罪悪感はいったい何だったんだ。
※以下の説明は自分の考えに基づいて書いています。
P3の細かな設定をP4しか知らないという人もいらっしゃると思うので簡単に書いておきます。
・拳銃型の召喚器
P4とは違いP3のペルソナ召喚者が、ペルソナを召喚する際に使う道具。
自らに向け引き金を引くことによって、ペルソナ召喚が可能。
しかし、召喚器を使わずに召喚はできるらしい。
簡単にまとめちゃえば「ペルソナを安定して召喚させる為の道具」。