ペルソナ4 Another Story,Another Hero 作:芳野木
今日はやっと主要キャラが出せた気が……もう八話なのに。
2011年、3月8日
ってなわけでやってきました、稲羽署。今日は自主的に。
凛おばさんに言われた通り、堂島さんに挨拶をしに来た。
昨晩の疲れがまだ全然とれてないけれど、頑張って来た。
来たはいいが、やっぱり警察署は苦手だな。
制服に身を包んだ大人が厳しい顔でうろちょろしていて、悪いことなんてしてないのに、悪いことをした気分になる。
「わっ…」
立ち止まっていると、後ろからやってきた男性とぶつかってしまった。
ぶつかった拍子に、男性の持っていた紙が廊下にばらまかれる。ほとんどが俺のせいなので、急いで紙を拾って男性に渡す。
「あー、ごめん、ごめん。ありがとねー」
拾った紙を男性は頭をかいて受け取る。
失礼な話だけれど、あまり警察っぽくない人だな。
「こちらこそ、ボーってしてたんですいません」
ネクタイも曲がっているし、スーツもよれよれ、髪の毛も少し寝癖がついている。
いやいや、別に悪くない。俺としては、そっちのほうが親しみやすい。
「足立! なにボサッとしてんだ!」
聞こえてきた怒鳴り声に、俺と男性の体がそろってビクッとなる。
やっぱり、この人の怒鳴り声は慣れない。
「……ん? お前…」
「お久しぶりです。堂島さん」
訝しげに俺を見る堂島さんに頭を下げる。
「どうした? また何かしでかしたか?」
開口一番、気難しげな顔で言われてしまった。俺も思わず顔をしかめてしまう。自業自得であるが、ちょっと心外だな。
「そんなすぐ何かしちゃう危険人物みたいに言わないでください。引っ越してきたんで挨拶しに来たんですよ」
「ハハ…すまんな冗談だ。こっちにはいつ越してきた?」
「昨日です」
「おいおい…来た翌日に俺に会いに来たのか」
少し呆れたような顔をされた。
「凛おばさんから言われたんですよ」
言われなかったら、今日は来なかった自信がある。何度も言うが、堂島さんは苦手。
別に嫌いではない。マーガレットさんに対しての感覚と似たようなものだ。
嫌いじゃないけど、なんとなく苦手。
「いいか、くれぐれも問題は起こすなよ。前んときは……幸司さんのことがあったから、まだ情状酌量の余地はあったんだ」
釘を刺されてしまったな。
「わかってます」
頷いて、前のことを思い出す。
いやいや、前は本当にどうかしていた。何日も失踪するわ、問題起こすわ、挙げ句の果てに幼なじみに倒れてるとこを助けられるわ。
「反抗期」の一言じゃ、片付けられないよな。
「おう。わかってるなら問題ないな。じゃあな、今日は大人しく帰っとけ」
安心したように頷いて堂島さんは廊下の奥へと歩いて行った。
その後ろ姿を見送り、視線を感じたので顔を向けると、
「きみ、堂島さんの知り合い?」
今まで黙っていた男性─足立と呼ばれていた─が、どこか興味深そうに俺を見ていた。
「昔、お世話になって」
答えながら、疑問が浮かぶ。
この人、堂島さんを追いかけないでいいんだろうか。
「へぇ、何かやらかしちゃったとか? ダメだよー、学生のうちは真面目に過ごしとかないと」
いたずらっぽい表情を浮かべて足立さんは俺に笑いかけた。
「今は真面目ですよ」
「はははっ、学習したってこと?」
「そうですね」
結構楽しそうに話す足立さんに、俺も笑顔を浮かべる。
思ってた以上に接しやすい人だ。
……そろそろ、堂島さんとこに戻ったほうがいいと思うけど。
「おい! 足立! さっさと来い!」
案の定、堂島さんの怒鳴り声が廊下に響く。
大丈夫。今度は驚かなかったぞ。
「あっ! はいっ!」
慌てて返事をする足立さんを見て、いたずら心が湧いた俺は
「足立さんも学習ですよ」
そう堂島さんの方へと急いで向かう背に声をかける。
「言うね、きみ」
振り向いた足立さんの顔には、苦笑いが浮かんでいた。
稲羽署を出た俺は、町をぶらぶらする気もおきずに、ただもう一つ必ず挨拶を済ませておくべき場所へと足を運ぶ。
昼過ぎのその場所は誰もいない。同じような形ばかり並ぶ通路を進み、目的の場所に着いた。
最近、誰かが訪れたのか花が供えられている。……凛おばさんだろうか。
いや、どうでもいいかな。
深く考えそうになったのをあっさりやめ、手を合わせ視線を上げた。
「ただいま、おじさん」
そして、伯父の名が彫られた墓石に笑顔を向けた。
「──と、まぁ何だか帰って早々凄く疲れた」
昨日、今日の出来事を出来る限り分かりやすく簡潔に墓石に向かって話す。
意味はない。誰かに自分のことを話したいわけでも、淋しさを紛らわせているわけでもない。
ただの習慣だ。
おじさんが生きていた頃にやっていた報告を続けているだけ。
「一応、今のところは大丈夫だよ」
両親とは相変わらずだけど、と言葉にせず心中で付け加える。
余計なことは口にしない。これが常識。と言うよりも、決め事かな。
「また四月になったら報告するからさ」
ポケットから星のピンバッチを取り出して、花の隣に置いた。
手の中には、同じピンバッチが二つある。
昔、誕生日プレゼントに貰ったそのピンバッチは、星好きで天体観測が趣味のおじさんらしい贈り物だ。
残念なことに置いたばかりのピンバッチも、残りの物も所々色が薄くなってしまっているけど。
「一つは返しとくよ」
元々はおじさんにあげるつもりだったし。
一つはそのままバッグの中に。もう一つは……制服の襟にでも付けておこうか。
◇◆◇◆◇◆◇
「おっ…」
家に帰るため、鮫川の土手を歩いていた俺はある人の後ろ姿を見つける。
思わず口角が上がったのがわかった。
緑のジャージ。短い栗色の髪の毛。昨日からずっと会いたかった人の姿だ。
…………サプライズ、だよな。
駆け寄りたくなるのを堪え、ゆっくりと息を殺して目標へ近付いた。
一歩、二歩と慎重に慎重に……よし、今だ。
意気込んで最後の一歩と駈けるように、体を前へ。手を伸ばし、その小さな背中に、
「千枝っ!!」
名前を呼んだ。
さっと、少女の体は俺の腕をかすめる。
ひどいな。避けられてしまった。
ドッキリ作戦として考えた再会の抱擁を諦める。相手が悪かったとしか。
普通だったら、そのまま成功していたのに。
「よっ、お久しぶり」
すぐ気を取り直した俺は、振り返って手をあげ挨拶をする。
「え……あ…あ、あれ?」
カンフーの構えで、今にも蹴りの一つでもいれそうな状態のまま少女──里中千枝は目を丸くした。
なぜここに俺がいるのかわからない、そんな表情である。
目を擦ってるけど、夢じゃないんだな。
「休みを利用して遊びに来たんだ」
深く追及されないようになるべく早く言葉を続ける。
そして、千枝の両手を握った。避けられることはなかったけど、サッと頬に朱がさす。
「ただいま」
「あ…うん。おかえり、日向君!」
少し照れたような笑顔を俺に千枝は向けた。
千枝とは昔から遊んでいた友達で、二年前には雪に埋もれていた俺を助けだしてくれた命の恩人その1でもある。
その2はまぁ、近々会うことになるもう一人の俺の友達。千枝の親友で、見ているだけでその関係が羨ましくなるほどだ。
そういや、天城屋旅館の露天風呂も入りに行かないとな。あそこは星も綺麗に見えるし、今くらいの寒くもなく暑くもない季節だったら逆上せる心配もないだろう。
「肉食べてる?」
そう聞くと、千枝はガクッとなる。
「や、食べてるけどさ。なんでその話題?」
少し不満気に見上げられ、やっぱり挨拶後に肉の話はチョイスをミスったかと思ってしまう。
「あっ! でもね、最近‘肉ガム’って見つけてさ!」
いや、どうもセーフか。これは。
「肉味のガム? おいしいのか?」
おやつなのか食べ物なのか、どっちだろう。非常食っぽい気もする。
「もちろん! 食べてみる?」
そう言って、千枝はポケットの中をごそごそと。
「あー……ないや」
ごそごそした結果なかったらしい。
少しだけホッとする。‘肉ガム’じゃないけど‘肉アイス’とやらを千枝に勧められ食べたことがある。
どうなったかは言わずもがな。そもそも、肉とアイスを一緒にすることが開発者側のミスだと思う。
千枝のような無類の肉好きでなければ「おいしい! オススメ!」なんて絶賛しないであろう一品だ。
「じゃあ、明日持ってくるね。その時は雪子も呼ぶから、一緒に案内してあげる。必要ないかもだけど一応ね」
どうも、今日回避できた物は明日へと持ちこされるみたいだ。
一緒に過ごせるのは嬉しい。嬉しいんだけど、何だか素直には喜べない自分がいた。
千枝のポジションは幼馴染です。
あ、あと難攻不落なあのお方も。