2月14日───
それは神々が気まぐれに決めたバレンタインと呼ばれる日である。
バレンタインとは、女性が親しい男性、或いは慕っている相手へチョコを送る日。すなわち、ある意味では乙女達の乙女達による乙女達の戦争である
そして、そんな戦争に巻き込まれたいるのは───
「ど、どうぞリータスさん。喜んでもらえればいいのですが................//////」
「え、えっと............」
そう、巻き込まれているのはアルテミス・ファミリアのノクス・リータス。ただいま彼は、行きつけのお店の店員であるリューにバレンタインチョコを受け取るとしているわけだが...........
（なんか箱からうめき声みたいなのが..........てか、動いてるんですけど？）
リューさんはどこか恥ずかしそうに渡す姿はいじらしくあるのだが、その差し出しているものがその............いささか危なそうに見えるのは果たして錯覚なのだろうか？
「.............やはり、私のようなものの贈り物など嬉しくないですよね..........失礼しました」
自身を卑下する彼女にハッとし、すぐさま弁解する
「え？あっ、いやその.........リューさんからの贈り物なら何でも嬉しいですよ！？だから.......その.......そう！ちょっと照れてしまったというか............」
「そ、そうですか！........あ、いえ.........ではその受け取っていただけますか？」
とは言ったものの俺は内心恐る恐るではあるがそれを受け取ると............
「できれば...........その...........感想をいただけないでしょうか？」
「ア、ハイ」
勿論食べるつもりではいた。流石にもらったものを不穏な気がするからという理由で無下にする気はないが、そのあれな反応をして彼女を悲しませることはしたくないわけで..............
（だ、だだだ、大丈夫...........俺には毒耐性？がある。リューさんも流石に食べられないものは入れないだろうし.............）
箱を開けると、そこにはおおよそチョコとは思えないナニカが詰められていた。何せ色は紫がかっており、それらには顔のようなものがあり、やはりと言うべきかなにやらうめき声を上げながら震えている
「そ、その............どうですか？」
「ア、エット.........ドクソウテキデイイノデハナイデショウカ？」
そう言えば前にミアさんがリューさんは料理ができないと言っていたのを思い出す。その時は精々砂糖と塩を間違えるとか等のベタな奴だとは思っていたが..............
（かかかか、覚悟を決めろ！リューさんだぞ？あの高潔で、気高く、優しいリューさんの手作りだぞ！？嬉しいよな俺！？）
俺は自分に全力で言い聞かせて、ナニカを一つつかみ取ると若干触れた指先が痛む気がする。だが、そんなことは些細な事で勢い良く俺は口に含む。すると───
「～～～～～～～～！？！？！？！？！？」（声にならない悲鳴）
「ど、どうしたんですか？リータスさん？」
口に含んだ瞬間、なんとも形容しがたい味わいが口を蹂躙する。何もかもを破壊し尽くす様なそんな凄まじい味覚だ。端的に換言すれば..................いや、よそう。仮にも貰い物だ。そして相手は尊敬している相手だ。何より───
「............美味しく..............ない、ですか？」
不安そうに見つめる彼女に口が裂けてもおいしくないとは言えない.......なので───
「お............おい..........おいしいです............」
どうにでもなれ、とノクスは一気に残りのチョコも平ら上げるという
「ッ////////そ、そうですか............また、いつか私の手料理をご馳走しますね？」
「ハイ.............」
俺がおいしいというと伝えると普段とは真反対のような様子で嬉しそうにするリューさんを見てしまえばとてもやめて欲しいなんて言えるわけもなかったのであった..............
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（あ、ヤバい.............死にそう）
ノクスはある場所へふらふらと歩みを進める。
劇薬相当の代物を食したノクスに救いをもたらす可能性があるとすればそれはただ一つ...........治療院である。スキルで毒無効があるというのに、リューさんの料理はどうやら毒ではなく新たな何かなのだろう。だが、そんなことよりも早く───
「アレは..........ノクスさん！？どうしたんですか！？酷い顔色ですよ！」
治療院近くの角を曲がるとそこには文字通り〝聖女〟がいた
「アミッドさん......よかった.............」ｶﾞｸｯ
「ノクスさん！？////////////...........ってノクスさん？し、しっかり！」
目的の人物を見つけた安心からか、気の抜けたノクスはそのままアミッドに抱き着く形で意識を失った。そして、アミッドは予想だにもしないことにまるでリンゴのように顔を赤らめた後、冷静になりすぐに治療院へと運ぶのであった
「───と、言う事がありまして」
あの後、アミッドの治療の後に意識を取り戻したノクスはことの顛末を語った。するとアミッドの様子はと言うと───
「...................へぇ、そこまでしてその女性店員を悲しませたくなかった、と？」
「な、なんか怒ってますアミッドさん？」
「いえ、ノクスさんは随分女性に甘いのだなと」
明らかに不機嫌そうに、冷たい目でノクスを睨みつける。
「そ、そんなこと..........」
「ありますよね？ないとは言いませんよね？」
「..........えっと、その.....すいません」
「謝って欲しい訳ではありません。所かまわず、誰彼構わず、女性であればだれであろうといい顔をするその行いを正すべきだと言っているんです」
（め、滅茶苦茶不機嫌だ..........俺何かしたかな？）
アミッドはかつてない位に不機嫌で、視線もそれはそれは冷たい。何もかもを凍り尽くさんばかりの力を感じる。
「そんな俺は誰でもとかではないですって............アミッドさんみたいに〝大切にしたい〟と思った人たちだけにしか優しくなんてできないですから」
「ッ～～～～～/////////」
「あ、アミッドさん！？............またなんか怒らせたかな？」
ノクスの言葉にアミッドは機嫌を損ねたのか部屋を飛び出ていってしまった。顔が真っ赤になっていたのでそうに違いない。
そして、しばらくして──
「あ、あの.......先程はその.......取り乱してすいません////」
「い、いえ........俺も何か気に障るようなことをしたみたいなようですし、すいません」
突然飛び出していったアミッドさんはいつかの日に一緒に買い物をした際に勝った服を着て戻ってきた。その時も思ったがやはり似合っているなどと考えていると..........
「い、いえ.........決してそのようなことは...........それと、これを受け取っていただけませんか？」
「これは.....もしかして？」
丁寧に包装された箱をどこか気恥ずかしそうに差し出される。今日という日を考えれば恐らく.........
「はい。実はこれを渡そうと思いノクスさんを探しに街に出ようとしていたところでして.............お身体の方が大丈夫なら感想を聞いてもよろしいですか？」
「もしかして手作りですか？」
「はい。初めて作ったので不格好だとは思いますが...........味の方は大丈夫だとは思うのですが.........」
不安そうに言う彼女を前に果たして、さっきのことがあるから怖いだなんて言えるだろうか？いや言えまい。それにあのアミッドさんのことだ。きっと、今度こそ大丈夫だろう。
「有難くいたただきます」
丁寧に包装を開けると、確かにやや形が不格好とも言えるが、明らかにチョコそのものだ。たしかチョコレートトリュフと言う奴だっただろうか？うめき声も動きも当然ない。
一つ、取り出し口に含むと俺は気がつけば涙を流していた
「っ！美味しぃ.........チョコ美味しい.........」ｸﾞｽｯ
「そ、それはよかったのですが..........泣くほどですか？」
「だって.......こんな優しい味........あぁ、身に沁みます...........アミッドさんのあたたかな優しさそのものが詰まってると言っても過言ではありません」
「そ、そんな恥ずかしいことは言わないでください！？//////」
一個目の超強烈味覚から、この王道を行くチョコの味に涙を流さずにはいられない。あぁ、美味しい。
「.......とはいえ、喜んでもらえたのなら私も嬉しいです。ありがとうございますノクスさん」
やはり聖女とはアミッドさんのことを指すのだろう。何せ、こんな慈愛の籠った微笑ができる人が聖女じゃなければ何とする？
「美味しいチョコも食べれて、アミッドさんの笑顔まで見れて自分は幸せ者ですね」
＊この時のノクスは色々とおかしくなってます＊
「っっ！？！？！？！/////////」
何やら変な声が聞こえた気がしたが.........あぁ、本当に美味しいなこのチョコ
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あの後、胃薬を処方してもらい治療院を後にすると又しても知人女性と出会った。
「あっ、ノクス此処にいた」
「アイズさん～！ノクスさんは..............って、此処にいたんですね！」
「アイズにレフィーヤか。俺のこと探してたのか？」
今度はダンジョンや色々な件で協力してきたロキ・ファミリア団員のアイズにレフィーヤと出会う。
「はい。団長にノクスさんのホームを訪ねたんですが誰もいなかったので」
「そっか、悪いな。アルテミスに夜まで帰って来るなって言われててな」
そう、今朝いきなり夜まで帰宅するなと家からほおりだされてしまったのだ。とは言え武器は偶々メンテに出していたため、ダンジョンにこもる気にもならず、ぶらついていたらリューさんに出会いチョコを貰い、倒れた後にアミッドさんからチョコを貰い此処に至るわけだが............
「そうなんですか？あれ？でも何でホームいらっしゃらなかったんでしょうか？」
「さぁ？アルテミスにも何か用事があって外してたんじゃないか？」
「..........もしかして.........」
確かに家で何かするからほおりだされたのかと思ったがそうでないとすればなんだろうか？そう思っているとレフィーヤはぶつぶつと何か言っているようだが、何か心当たりでもあるのだろうか？
「なぁ、もしかして..........「ノクス」.........ん？どうしたアイズ？」
レフィーヤに心当たりがあるか尋ねようとしたところ服の裾を引かれる。どうしたのか尋ねると、小袋を差し出される
「レフィーヤとリヴェリアに手伝ってもらった.........食べて？」
「あぁ、探してたのはこれが理由か........それにしてもアイズの手作りか..........」
どこか感慨深いものを感じつつ、物欲しそうな目線を向けるアイズから恐らく感想が聞きたいのだろうと思い小袋を開けるとマドレーヌがあった。
少々歪だが、頑張ってくれただろうことがわかるそんなできである。ノクスはそんな事を考え、有難くいただくと..........
「うん、美味しいよアイズ。本当に美味しい.........ありがとうなアイズ」
「ん.........喜んでくれて私も嬉しい」
控えめに満足そうに微笑むアイズ。彼女も変わってきたものだと思っていると........
「あ、あにょ！///////////」
「ん？レフィーヤ？............それはもしかして？」
「は、はい...........私も手作りしてきました！よ、よければどうぞ！/////////////」
顔を赤くして恥ずかしそうにアイズの渡した小袋とは色違いの小袋を差し出してくる。アイズの口ぶりからして、レフィーヤはお菓子作りが上手いのだろう。
「ありがとうレフィーヤ。うれしいよ」
「あ、あの........できれば私も感想を...........」
不安そうにそう言う彼女に頷き、小袋を開けると小ぶりなカップケーキが入っていた。とても整った見た目で、その手の人が手掛けたようにさえ思える。
綺麗な見た目に少々すぐに食べるのはもったいない気もするが感謝していただくと.......
「ん～！うまいなレフィーヤ！これが手作りか～レフィーヤは料理が上手いんだな？」
「え、えへへへ....../////そうですか？それならよかったです」
恥ずかしそうにはにかむ彼女を見て温かくなるのを感じながら、さっきまではすぐに食べてしまうのはもったいないとか思っていたが気がつけばがつがつと食べてしまい、もう既に無くなってしまった。
「二人ともありがとうな？本当に美味しかったぞ」
感謝を伝えると二人とも嬉しそうにしており、来月は彼女達の為にも頑張らなければと思うのであった
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「さて、そろそろいいだろう」
あの後偶々あった、ヘファイストス様にもお菓子を貰い、エイナにも貰ったりして街を歩き回った。途中ベルがヘスティア様やその他女性陣に追い掛け回されてはいたが..............ベル生きてるだろうか？
そして、日は傾き、夕焼けが綺麗な時間帯になるまで街をぶらぶらしてそろそろいいだろうと思い帰宅すると───
「ただいま...........ん？この匂いは───」
食卓の方へ向かうとそこには、豪勢な料理が用意されていた
しかも───
「ふふ、お帰りノクス」
「あぁ、ただいま。それにしても凄いな.........チョコフォンデュにこのステーキってチョコソースだろ？」
果物やクッキーなどの具材が用意されたチョコフォンデュセットに、チョコソースの使われたステーキなど数々の品があり中々に圧巻だ。
「あぁ。今日はバレンタインだからな。チョコだらけでいってみようと思ったんだ.........ふふ、どうだ？驚いてくれただろうか？」
「あぁ、これはびっくりだよ」
それからすぐに、俺とアルテミスは向かい合って夕飯.......いや、ディナーを始めた
「へぇ..........ステーキにチョコソースって結構会うんだな」
「私も自分で作っておいて何だが、同感だ。書店でそういう食べ方があると知ったのだがここまで合うとは想像以上だったよ」
アルテミスの手料理とその相性に舌鼓をうち、ご馳走を楽しむ。それにしても本当にステーキもだが、チョコフォンデュもおいしい。チョコばかり食べている一日だが、飽きなどが全く来ないのはアルテミスを始め、彼女達だからこそなのかもしれない
「それにこのお酒もおいしい............料理によく合う」
「ふふ、普段はあまり飲まないがこういう時位は.........お酒があるほうがいい雰囲気になる」
アルテミスも俺も普段から飲む方ではない。決して弱いとかではないが、こういう特別な時間に2人で飲むのが一番気持ちいからだろう。
「確かに............二人でゆっくりお酒を楽しむのはやっぱりいいな」
「あぁ、だが同時にこうも思うんだ..........ノクスとお酒を飲みかわすほどまでに時がたったのだな、と」
出会いは森の奥深く...........赤ん坊の時の記憶なんてものはないし、俺にとっての親とは.........家族とはアルテミスや彼女達だ。あの頃はまだ酒なんてずっと先の事だとさえ思っていたのに.............
俺たちの間に出来ることなら彼女達全員で酒を飲みかわすことができていればという想いがよぎる。けれどそれは彼女達への冒涜だろう。だって、彼女たちは今も俺達の心の中にいる。いつも一緒に飲みかわしているのだから..........
「アルテミス」
「どうしたノクス？」
「本当に..........本当にありがとう。俺の家族になってくれて..........俺を家族にしてくれて」
「ふふ.......何だ急に？だが、そう言ってもらえて嬉しいよノクス」
感謝はいつもしている。けど、こんな時だからこそしっかりと伝えるべきだと思った
「所でノクス？今日は随分と楽しそうにしていたみたいだな？」
「..........なんで知ってるんだ？」
「私も街に食材の買い出しに出ていたからな。それで、誰のバレンタインが一番うれしかったんだ？」
悪戯を思いついた子供のような顔でそんな意地悪な質問をするアルテミスは、普段の凛とした様子から離れており、それでもやはりいつも通り綺麗だと思った。
（あぁ..........お互いこれは酔ってるな）
そんな感想や質問になるあたり酔っていると感じる
質問については誰が一番とかそんなものはきっと決められないし、決めてはいけないとも思う。それぞれにそれぞれの想いがあり、それを順位付けするのは何か違う気がした.........でも───
「全員が一番で嬉しいさ...........でも、そうだな............アルテミスといるこの時間が俺は好きだよ」
「っ.............そ、そうか...........ふふっ、そうか///////」
アルテミスは俺にとってなくてはならない大切な存在だ。勿論、今日あった彼女たちがそうじゃないわけじゃない。けれで、どうしても大切という言葉を使うと頭をよぎるのは.............
「どうした？アルテミス？悪酔いしたか？」
ふとアルテミスの顔がわかりやすく赤くなっていることに気が付く。ノクスは自身が原因とは露にも思わずそう尋ねる。
「いや.........確かに酔ってきてはいるが大丈夫だ。ノクス、もうすこしこの夜を二人で楽しまないか？」
「あぁ、好きなだけ.........気のすむままに」
落ち着いた、いわゆる大人の雰囲気にまた、アルテミスはノクスの成長を感じる。そして嘗ての家族に言われた言葉を思い出していた
（本当にカッコよくなったものだ...............あぁ、認めるよ........恋とはすばらしいものだな）
恋が如何に素晴らしいか語った家族がいた。その時は何がそんなにいのかと話半分にそう斬り捨てていた。だが今は違う。
森で捨てられていた所で出会ったころのノクスはかわいそうだと、義憤に駆られたのをよく覚えている。そこに男だとかは関係なく、助けなければと思った
月日は経ち、まだまだ幼い頃の彼は可愛くて仕方なかった
愛おしくてたまらなかった
でも、今の愛おしさはかつてのそれとは〝別〟だ
（愛している.........私の
ダンまちの更新は超久々になりすいません！今回は本編ではなくバレンタイン編と言うことですは楽しんでもらえたでしょうか？個人的なキャラに対するイメージに沿って書き上げてみたのですが楽しんでもらえていれば幸いです。また、春休みに入ったのでいろんな作品を進めていけるよう頑張りますのでこれからもよろしくお願いします！
それでは今回もここまで読んでくださりありがとうございます。コメント、お気に入り登録、評価をしてくださりありがとうございます！