インフィニット・ストラトスーーー篠ノ之束が作り上げた、女性のみが扱えるパワードスーツ。
ゲッターロボーーー早乙女博士が作り上げた、ゲッター線を動力とするロボット。
この二つには共通点があった。人類の宇宙進出に向けて開発されたものであるという事だ。しかしながら、ISは世界のパワーバランスを無茶苦茶にした。各国はこぞって新たなISを開発する事に没頭し、本来の目的をいつの間にか見失っていた。新たなエネルギー資源と目されたゲッター線の存在もいつしか忘れ去られ、人々が宇宙へ上がるのは長い先の未来の事と思われていた。しかしその予想は最も簡単にひっくり返る事になる。ISを扱える男というイレギュラーの存在によって…。
IS学園は主にインフィニット・ストラトスを扱う未来のパイロットや整備士を育成する機関であり、世界で唯一のIS関連に特化した高等学校である。ビジネス系やスポーツ系など、他の様々な分野にも多くの逸材を輩出してきた。そんなエリート校に入学できるのは高い倍率の受験を勝ち抜いた一握り…の筈なのだが、今年はなんと2人の男が入学した。織斑一夏。
姉の決勝戦の応援のため、一夏は日本からドイツまでやってきた。会場に入ろうと街中を移動している際に誘拐され、山奥の研究施設らしき場所に移送された。一夏本人が覚えているのはここまでである。決勝戦を棄権した姉とドイツ軍に助け出されるまで意識を失っており、目が覚めたのはドイツの病院だった。逮捕された誘拐の実行犯の証言をもとに捜査を行なったものの、最終的に主犯の足取りは掴めずじまいとなり、事件は多くの謎を残して幕を閉じた。事件後、千冬は1年間ドイツに残って軍の教導にあたり、一夏は日本に帰国して以前と変わらない生活を送るーーーはずだった。しかし中学3年の冬、高校受験で向かった先の受験会場で迷い込んだ。そしてISに触れた、衝動的に触れてしまった。本来反応しないはずのISは一夏を搭乗者として認め、起動した。これが、全ての始まりだった。
時を同じくして、ドイツ。
「異常はないか、クラリッサ」
「はい。特に変わった様子はありません。…しかし隊長、教官の弟さんが捕らえられていた場所とはいえここまでの警備を敷く必要はあるのでしょうか。あれから数年、何もありません。はっきり言って人員の無駄に思えるのです」
「私も同感だ。しかし、上層部はここに関して箝口令を敷いているそうだ。警備にあたっている我々でさえ知らされていない何かを上は知っているのだろう…正直な所、私も得体の知れない任務に部下を従事させたくはない」
ここは一夏が発見された研究施設である。今ではもぬけの殻となったこの場所は、ドイツ軍IS部隊である黒ウサギ隊の厳重な警備態勢と周囲の規制線によって徹底的な人払いが為されていた。施設の中はすでに調査が済んでおり、資料や実験器具など数点を軍で回収したのみで他に怪しいものは何もなかった。
「上層部は何を隠してーーー!?」
黒ウサギ隊の副隊長、クラリッサ・ハルフォーフ大尉が疑問を口にしかけた時、施設全体を大きな揺れが襲った。警報が鳴り、照明も非常灯に切り替わった。
「地震…ではないようですね」
「クラリッサ、私は奥の様子を確認してくる。お前は外の様子を見てからISを扱えるものを数名、連れてきてくれ」
「了解しました。お気をつけて」
クラリッサと別れた黒ウサギ隊の隊長ーーーラウラ・ボーデヴィッヒ少佐は施設の奥を目指して走り出した。見取り図は頭に叩き込んでいるし、ここの調査には参加していたから内部構造は覚えている。ざっと見たところ入り口とその周辺のあたりに異常はない。そして施設の最奥へとたどり着いたラウラはあるものを発見した。
「壁が崩れているだと?」
この建物は有事の際にも研究資料が失われないようにするためかかなり堅牢な作りになっており、そう易々と壊れるものではない。それが一部分だけ吹き飛んで瓦礫になっているのだ。しかもその奥には通路らしき空間が続いている。ISのハイパーセンサーで通路を探知するが、何らかのジャミングがかかっているのかうまく読み取れない。
「クラリッサ、外の様子はどうだ」
『特にそれらしい異常はありません。隊長の方は何かありましたか?』
「B6区画の通路の壁が崩れていた。中に通路らしきものがあるが、ハイパーセンサーを受けつけないせいで詳しい事が分からん。私はこれからこの先を調べる」
『危険です。我々ももうA3区画におりますので、少しお待ちください』
「どのみちこの狭さではISが複数いては満足に動けそうにない。それにこの奥にあるものが危険なものだった場合、一刻も早く処理しなければならないしな」
『っ…了解しました。どうか、くれぐれもお気をつけて』
ラウラの言っている事がもっともである事はクラリッサも理解していた。時限式の爆弾でもあろうものなら尚更だ。こういったケースならば、黒ウサギ隊の中で1番の実力者であるラウラに任せるのが最善と言えよう。
「さて…来い、
漆黒の専用ISを纏ったラウラはプラズマ手刀を展開して周囲の壁を照らす。特に汚れている様子はなく、小綺麗なままであった。そしてしばらく進むとーーー
「なんだ…これは…!?」
円柱状の水槽の中に、人がいた。身体中にコードを繋がれ、顔に複数の切り傷を持つ男。周囲には様々なデータが記された資料が散乱し、中には血液が付着しているものまであった。そして部屋の隅…壁にもたれかかる白衣の女の死体があった。既に腐敗しており人物の特定は難しそうだが、先程の血はこの女のものと思われる。この状況から見るに、人の手が入らなくなって久しいのだろうが機械はまだ生きていた。この男が培養液の中で生きていられるのもそのおかげだろう。しばらく資料を眺めていると後ろから幾人かの靴音が聞こえてきた。入り口でISの腕部を部分展開して構えるーーーが、それも杞憂に終わる。やってきたのはクラリッサ以下数名の隊員だった。
「クラリッサか、無事でよかった」
「隊長!ここは一体…」
「説明するよりもアレを見た方が手っ取り早い」
そう言ってラウラが指さした方向には先程の水槽があった。
「どういう事だ…どうして彼がここに」
「あの男を知っているのか」
部下の前ということもありなんとか平静を保ったクラリッサにラウラが訊く。
「知っているも何も…彼は織斑教官の弟…