『織斑くん、クラス代表就任おめでと〜〜〜っ!!』
女子たちの元気な声が食堂の一角に響く。華やかな雰囲気のテーブルにはお菓子やジュースが大量に並んでいた。
「みんな、ありがとな!どこまでできるかわからないけど精一杯やるつもりだから、よろしく!」
そう、今は織斑一夏(白)のクラス代表就任記念パーティだ。要は騒ぎたいだけだろうけど、こういうのも悪くはないと思う。千冬姉も「門限までには寮に帰ってこい」と軽く釘を刺すだけだったし、なんだかんだ弟の活躍が嬉しかったんだろう。一応監督役として山田先生がついているが、一部の女子から質問攻めにされて早々に監督役としての役目がお釈迦になりつつあった。なむあみなむあみ。箒は白が多くの女子に囲まれているのが気に入らないようで、微妙にヘソを曲げていた。乙女やなぁ。そんでもって俺はーーー
「こんな所にいたんだ、黒織斑くん。みんな探してたよ?」
パーティを抜け出し、寮の屋上で星を見ながらひとり考え事に
「鷹月静寐だよ、同じクラスの。覚えてくれてる?」
あ全然違ったわ。
「…すまん。人の顔覚えるの、苦手なんだ」
だって面倒なんだもん。
「人の顔覚えるの面倒くさいって感じ?」
エスパー!?いや、ニュー○イプか!?ワーニンワーニン、俺の心が読まれちゃう!誰か大至急N○-D持ってきて!
「どうしてわかるのって感じだね。黒織斑くん、結構わかりやすく顔に出てるよ?」
知らなかった…これからは気をつけよう。表情で相手に嫌な思いさせてもアレだしね。
「隣、いい?」
「ご自由に」
そう返した俺の隣に彼女は座り込んだ。特に何か話しかけてくることもなく、じっとこちらを見ている。どちらかが会話を切り出すまでずっとこんな時間が続くのだろうか。気まずい。非常に気まずい。
「…みんなまだ食堂で騒いでるんだろ?戻った方がいいんじゃないか?」
「私は君がどこにいるか気になって抜けてきたの。割と序盤の方にいなくなってたでしょ?」
質問に質問で返すとは…まあ別に隠すような事はないし全然いいんだけど。
「ああいう騒がしいのは苦手だからな。…まだ顔と名前覚えてない人もいるし」
「ふーん、なんだからしい答えね。ところでさ、聞きたいことがあるんだけどいいかな?」
この俺に聞きたいことがあるとはまた酔狂な。
「答えられる範囲だったら別にいいぞ」
「私の思い過ごしならいいんだけどね、クラス代表を決める試合の日、わざと敗けたりしなかった?」
「…何でそう思うんだ?」
鋭いなこの子。そう、白がクラス代表になったのは俺が白との試合で敗けたから。詳しい事の経緯はこうだーーー
「あれ…おかしいですね。もう片方のゲッターロボはちゃんと反応したんですけどね」
「どっか調子悪いんです?」
「PICが正常に作動していないようです。事前チェックでは何も問題なかったはずですが…」
白との試合まで少し時間の余裕があった俺はピットで
「簡易チェック…は問題なし。これはもう一度バラす必要がありそうですね…」
「あー、なら俺は打鉄で出ますよ。ちょいと先生に連絡入れてきます」
ゲッターロボから降りてピットの片隅に設置されている内線電話に向かう。急に打鉄用意してくれっていうのも申し訳ないけど、しょうがない。えーと番号は…あった、これか。
「もしもーし?織斑先生、聞こえてます?」
『っ、ああ黒織斑か…どうした?』
千冬姉が一瞬言葉に詰まったのが聞こえた。まあ弟のクローンとかどう接すればいいか分からんよな。それに俺自身、千冬姉や箒との距離感は図りかねている。
「いやーどうもこっちのゲッターロボの調子が悪いみたいで、すぐには直せそうもないらしいんですよ。なので打鉄を用意してもらえるとありがたいかなーって」
『わかった…すぐに用意させよう』
一般機の打鉄ではスピードもパワーもゲッターロボに劣る。そんなものが専用機に勝てるはずもなく、順当に敗退した。本気でやれば「いい試合」ぐらいにはなったかもしれない…が、しかし俺は試合開始も早々にダウンした。そのまま特に違和感を抱かれる事もなくクラス代表の競争から離脱できた…と思っていたのが、そうでもなかったようだ。ちなみにセシリアとの試合は本人が少しばかり目を回したのとブルー・ティアーズの補給にそこそこ時間がかかるとのことで彼女から棄権の申し入れがあった。あの様子を見ると何か他の理由もありそうだったけどね。知ーらね。
「元々ノリで推薦されたようなもんだったしな…やる気はなかったし、そんな奴がクラス代表になっても迷惑なだけだろ」
「へー、そういう理由なんだ。なんだか意外」
「どうしてそう思う」
「白織斑くんのクローンだっていうからさ、彼みたいな性格かと思ってた」
「俺の方がだいぶ捻くれてる。ああいう表に立つ役回りは全部白に任せればいいしな。皆も俺みたいのといるより良いだろ」
二人の間に静寂が流れる。質問攻めはひと段落したみたいだが…鷹月さん、結構グイグイ来るな。別にコミュ障じゃないけどちょっと辛いものがあるぞ。それに俺を探すたってここまで来るのもかなり手間だと思うが…不思議な子だ。それにまだ4月も前半だ、夜は冷える。女子が素肌を露出するには少し寒いだろう。
「脚にでもかけとけ。寒そうでこっちが見てられん」
「…ありがとう」
俺は自分の制服のジャケットを差し出した。冬用の制服は色を黒に変えるに留まらず、裏に厚めの生地を縫い付けてあるため保温性能は抜群なのだ。これも千冬姉がいなかったから身につけた裁縫スキルの
「ねぇ、織斑くんって…呼んでもいい?」
「白と混ざるだろ」
「じゃあ、2人の時だけでも」
「…勝手にしろ」
え、何この雰囲気!?こっちが恥ずかしいわ!まともに顔も見れねぇ、というか見せられねぇ。多分俺は今過去一赤面している。自分でもわかるぐらいに顔が熱い。話題よ逸れろ、逸れてくれ。
「なぁ、鷹月さんは…なんでIS学園に入学したんだ?」
「理由は…そうだなぁ、昔にテレビで見た織斑先生がかっこよかったから…かな?いつか自分もこういう舞台に立ってみたいなって。それが無理でもISに携わる仕事はできるでしょ?だからここに来たの」
「夢があっていいな。俺はただISが動かせるってだけでここに入れられただけ…やりたい事なんてこれっぽっちも無いし何かをやろうとも思えん」
なんとか話を逸らして顔が落ち着く時間を稼げた…ナイス俺のトーク力!中身が引くほどスカスカなのは気にしてはいけない。
「それでもいいんじゃないかな」
「え゛」
予想外の答えすぎるんだが。会話の広げにくさ100点満点だわこれ。そんな俺の困惑も気に留めず彼女は話を続けた。
「やりたい事なんてコロコロ変わるものだろうし、夢はその中の一つが定まっただけ。でも、夢でお金は稼げないし、夢がなくても生きていけるじゃない?」
「そりゃあまあ…そうだが」
「だから、いいんじゃないかなって」
こちらを見て、微笑んでそう言った。生きているからそれでいいだなんて、あまりにも簡単なことじゃないか。何も難しく考える必要はない。クローンだからとか、そんなことは些末事だと自分を見つめる彼女の瞳がそう言っているような気がした。本っ当に純粋だねぇ…俺がくよくよ悩んでいたことを当たり前のようにスパッと切り捨てやがった。
「って…なんかごめんね!知ったようなこと言っちゃって」
「いや…いい。ちょっと吹っ切れた」
彼女は恥ずかしがっているみたいだが、あの一言で少し頭がスッキリした。自分でも気づかないうちに色々と難しく考え、変に抱え込んでいたみたいだ。
「さ、この時間帯は冷える。戻ろうぜ」
「うん」
俺が差し出した手を、彼女は握った。