真(チェンジ‼︎)インフィニット・ストラトス   作:布団叩き

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第5話

うーむ今日もいつもと変わらぬいい朝。食堂の隅で優雅にコーヒーを啜るこの時間は何にも代え難い。タブレットで適当にニュースを流し読みしつつカップの中のコーヒーを揺らす。この時間はいつも1人でのリラックスタイムなのだが…今日はどうもお客さんがいるようだ。

 

「おはよう。昨日はよく眠れた?」

 

「まあ、ぼちぼちって感じだ。鷹月さんも…元気そうだな」

 

鷹月さんだ。言っちゃあアレだが、俺に近づいてくる物好きはこの人ぐらいしか居ない。

 

「朝はいつもここにいるの?」

 

「おう。そこの柱のおかげで人目につきにくいからな」

 

「なるほど、そういうことね…」

 

俺の人混み嫌いな性分を知っている彼女は俺の指さした先にあるデカい柱を見て多少呆れたように納得した。それから、食堂のどのメニューが美味いだの学園の近所に新しいショッピングモールができるだのと他愛のない会話進めていた時ーーー

 

彼女の口から気になる話題が飛び出した。なんと隣のクラスに転校生が来るというのだ。詳しく聞いたところ、どうも中国の代表候補生で専用機も所持しているとのこと。近々行われる予定のクラス代表対抗戦には出ないだろうが、それでも専用機持ちという事は実力はかなりのものだろう。

…思わず話に聞き入ってしまい、その後遅刻しかけたのは秘密だ。

 

 

 

 

「…おい、白。転校生が鈴だってのはマジなのか」

 

「本当だよ。しかもクラス代表も前の人に頼んで代わってもらったんだってさ。だから対抗戦にも出るって言ってたぜ」

 

「は〜…わかった、サンキュー」

 

時は進み、昼休み。白に話を聞いてみたが…これも運命の悪戯だろうか、なんでここでセカンド幼馴染さんが出てくるのだろう。いや別に嫌いとかそういうのじゃないんだけどね?やっぱり白黒に分裂する以前の知り合いにはあまり会いたくないかなーって…思ったりするわけですよ!!個別に接触するならまだしも、俺たち2人が揃っているこの場所(IS学園)なんてややこしいにも程がある。

朝っぱらから何となく騒がしかったし、クラスの女子が話してるのはチラホラ聞こえていたが、相手が鈴なら容易に想像できる。あの小さい体のどこにそんなエネルギーがあるんだってぐらい元気な奴だ。噂にならんはずもない。同じ学園に…ましてや隣の教室にいる以上はそう遠くないうちに鉢合わせる事になるだろうが、それでもなるべく接触は避けたい。まあ儚い願いなんですけどね。

 

 

 

「疲れた…」

 

陽も落ちて真っ暗になった夕方、俺は1人こんな事を呟きながら寮への帰路に着いていた。普段はこんなに遅くなる事はないのだが、今日は専用機の調整があったのだ。この間と同じ技師が来て、初期化(パーソナライズ)最適化(フィッティング)を行った。白と違ってこの作業に以外と時間がかかってしまい、一次移行(ファースト・シフト)は日を置いて再度、ということでついさっき解放されたのだ。やっとの事だが、部活もなければ特別やる事もない。今日もこの後は何をしようかと思案していたところ…

 

ちょんちょん。

 

誰かに背中を突っつかれたような気がした。

 

「ん?」

 

振り返っても、誰もいない。ホラーかよ。ちょっと怖いから早めに帰ろ…

 

ちょんちょん。

 

再度振り返るが…

 

「誰もいねえもんなぁ…」

 

心霊現象なんて嫌いですことよ?帰ろ帰ろ。

 

「気付きなさいよバカー!!」

 

「あ痛ーっ!?」

 

背後から凄まじい衝撃を受けた俺は顔面から地面にダイブ。割と美しいダイブだったと思う。地面飛び込み選手権(種目:顔面)とかあったら優勝間違いなしのスーパープレイでしてよ!

冗談はおいといて、具体的にはドロップキックじみた一点集中な感じの衝撃が背中を襲ったのだ。痛ってーな、繊細な俺の顔が傷だらけになっちゃうだろうが!あ、もう傷跡でいっぱいでした。テヘペロ。いやしかし何者だ!?曲者か!?

 

「誰だぁ!?」

 

そう言って振り返った先にはーーー

 

「…鈴!」

 

「そうよ、あたしよ!さっきはよくも無視してくれたわね!」

 

さっき?あ、もしかして…

 

「背中をつっついてたのお前だったのか?」

 

「やっと気づいたのね?振り向いたのになんの反応も無いんだから無視されてんのかと思ったわよ」

 

「え?」

 

「え?」

 

2人して微妙な顔。鈴の不可解そうな顔は相変わらず見てて面白い。そして一つ察した…身長差が意外とある。まさかとは思ったが俺はその場で立ち上がり…

 

あっ…

 

「うん。鈴、すまん。お前が小さすぎて視界に入らなかったみたいだ」

 

「うっさいわね!ちょっと背が高いからって!ちょっと背が高いからって!!」

 

鈴は腕をぐるぐると回してこちらに突撃してくるが俺が腕を伸ばして頭をガシッと掴むだけでリーチの差は歴然だった…ナムサン!

 

「むぎー!」

 

「どうしたどうした!お前の力はそんなものか!」

 

うはははははと高笑いを上げながら俺は昔のことを思い出した。鈴とは何度も一緒にバカをやった仲だ。2人で焼き芋をしようとした時は軽いボヤ騒ぎになったりもしたし、こいつは幼馴染というよりも、悪友といった感じの間柄と表現した方がしっくりくる。もう少し大きくなってからは男友達2人も加えて4人でつるんでたっけ。懐かしいなぁ。

 

…なーんて考え事をしてたら鈴は俺の腕をわしっと掴み、そのまま身体をしならせて俺の土手っ腹に強力な蹴りを入れてきた。ヨソウガイ!アイエエ?!身体能力高すぎんかコヤツ。猿か?猿なのか?もちろん俺は後ろにぶっ倒れた。痛すぎます。

 

「痛ってぇ…」

 

「ふん、代表候補生舐めないでよね!」

 

キラーンと効果音がなってそうなポーズを決めた鈴は俺の記憶にいる彼女そのものだ。鈴が差し出してきた手を掴んで起き上がり、互いににっと笑った俺たちは昔と全く変わらないやりとりを交わす。

あーでもないこーでもないと思い出話に花を咲かすのはどこまでやっても終わらない。気づいた頃には寮の自分の部屋を通り過ぎかけていた。いやー、昔の事って話出すと止まらないよね。うん。

 

 

 

 

 

わあああっとあちこちから歓声が上がる。俺は運良く人の空いている所に座れたがアリーナの観客席は9割がた埋まっており、皆の視線の先ではIS同士が派手にぶつかり合っていた。打鉄とラファール。共に第二世代の汎用機で目立ったチューンなどは特に施されていないが、それでも2機のマシンがぶつかり合う様は中々の迫力だ。今はおおよそ打鉄の方が優勢か。

 

積極的に近接戦を仕掛け、相手の反撃を許さない。ラファールも負けじとショットガンとナイフで応戦するがいかんせんリーチの差が圧倒的だ。その上打鉄はシールドを器用に使って射撃もちゃんと防いでいる。このまま押し切るかと思われたがーーー功を焦ったな、踏み込んだ先に仕掛けてあった地雷に気付かずそのままボカン。砂煙を煙幕代わりに離脱したラファールによる、上空からの一斉掃射でシールド・エネルギーを一気に0にされた。ラファールの見事な作戦勝ちだ。じりじりと後退するフリをして相手を陣地に引き摺り込むとは中々の策士よのう。

 

そして次は…来た、白と鈴の試合だ。中国の第3世代IS、甲龍(シェンロン)。国外での運用は今回が初という事で前情報がほとんど無い。一体どんな戦い方をしてくるのか非常に楽しみだ。

 

 

 

『よし、鈴、準備はいいな?』

 

『あったりまえよ!この甲龍の力、存分に見せてやるわ!』

 

赤いボディをぎらつかせるゲッター1はトマホークを両手に構え、真っ直ぐに突進した。アホみてーに愚直な策…策と言うのもおこがましい程だが、ゲッター1はバランスの取れたスピードとパワーが強みだ。それを生かすにはこちらの間合いで殴り合うのが1番手っ取り早い。まあそれが簡単にできれば苦労なんてないんですけどね。

 

今回は甲龍の青龍刀にリーチで大きく負けているので『こちらの間合い』といえば完全に鈴の懐になる。具体的に言うとキスする3秒前くらいの距離感だ。我ながらめっちゃわかりやすい表現、惚れ惚れする。

しかも体躯も甲龍に負けている。というかゲッターが全体的にコンパクトすぎると言った方が正しいか。そのため上から得物を振り下ろすという動作において鈴は大きなアドバンテージを持っている。白はこれにどう対処するのかーーー見ものだな。

 

 

 

(避けるので精一杯だ…!なんとか懐に潜り込まねーと!)

 

今、俺は結構な窮地に立たされていた。鈴の振るう青龍刀(双天牙月というらしい)が予想以上に疾いのだ。パワーファイター然とした見た目からは想像もできないほどのスピードでこちらに向かってくる質量兵器は単純ながら、いや、単純ゆえに大きな破壊力を持つ。

 

「どうしたの?避けてるだけじゃアタシは倒せないわよ!」

 

「そんなこと言って攻撃させる気ないだろお前?!」

 

「あったりまえ!」

 

避けきれない!真正面から飛んできた刃を両手のトマホークでギリギリ受け止めたがーーー

 

「うおっ?!」

 

衝撃までは殺しきれずに大きく吹き飛んだ。世界がぐるりと回転して天地が逆になる。スガァンッ!と派手な音と共に背中からアリーナの壁に突っ込んだらしい。もうもうと砂煙が上がり、視界が0になる。今のでシールドエネルギーもいくらか持っていかれた。おそらく外では鈴が俺が出てくるのを待ち構えているだろうが…こっちにも手はある!

 

「オープン・ゲット!チェンジ!ゲッター3!」

 

分離と同時にゲットマシンのミサイルを放ち、上空へ飛び出す。ゲッター3に合体して鈴を見下ろす形となった。そのまま出てくると思っていたのだろうか、予想が外れたらしく驚いた顔をしていたが、この隙を逃すわけにはいかない!

 

「ゲッターミサイル!」

 

「龍砲!」

 

甲龍の非固定武装(アンロック・ユニット)の辺りの空間が一瞬歪んだ…?次の瞬間、空中のミサイルが突如大爆発を起こした!

 

「何だ!?」

 

「これが甲龍の最大にして最強の武装、『龍砲』よ!難しい機構はよく知らないけど、要は見えない砲弾を撃ち出せるの!」

 

「無茶苦茶だろ…!」

 

自慢げに語る鈴だが、その間も容赦なく龍砲とやらを連射してくる。これは軌道が読まれやすいゲッター3では部が悪い。しかし煙幕もない状態で分離合体は隙が大きい…ならば!

 

「ゲッターミサイル!」

 

「同じ手は効かないわよ!」

 

俺の放ったミサイルに鈴が再度砲口を向ける。次の瞬間ミサイルは撃墜されるが、ここまでは予想通り。問題はここからだ、いけるか…!?

 

「降参するなら今のうちよ!」

 

ゲッターの腕を鈴に向けて目一杯に伸ばし、ミサイルの爆炎を抜ける。ミサイルの迎撃に気を取られていた鈴に腕を接近させるのは容易だった。そして甲龍の周囲をぐるぐると回り複雑に絡みついた腕は、決して外れる事はない!

 

「ミサイルに集中してこっちに気づかなかっただろ!お前は昔から一点集中型だったもんなぁ!」

 

「なっ!?外れない!」

 

「ゲッター3のパワーを舐めんなよおぉぉっ!!」

 

甲龍の腕をガッチリと掴んだままアリーナ中を振り回す。本来は障害物の多い場所や狭いフィールドでその効果を発揮する技だが、ISのパワーがあればそれだけでも十分な脅威となり得る。

 

「ぎゃああぁぁぁっ!?」

 

「直伝!大雪山おろしぃぃぃ!!」

 

若干女子から聞こえてはいけない悲鳴が聞こえたような気もするが…ともかく壁に叩きつけつつ最後は大きく持ち上げ、地面に向けてフィニッシュ!轟音と共に沈む甲龍。立ち昇る砂煙と大きな亀裂の入ったフィールドが衝撃の大きさを物語っていた。

 

「やっ…てくれたわねっ!今度はこっちの番よ!」

 

ギギギ…と機体の関節を鳴らしながら鈴が起き上がってきた。結構良い感じにダメージを与えたと思ったんだが割と元気そうだ。

 

「相変わらずタフだな…!チェンジ!ゲッター2!」

 

「あんたいくつ形態あんのよ!?」

 

「これでラストだよっ!ゲッターマッハ!」

 

ゲッター2のスピードを最大限に発揮する技・ゲッターマッハで前方に突っ込むーーー!

 

『織斑、退がれ!』

 

通信越しに聞こえた声に体が反応した。両足でブレーキをかけ、その場に停止する。次の瞬間、数メートル前方に閃光が降り注いだ!なんだあれ…あのまま突っ込んでいればあれをモロにくらっていたはずだ。直前で警告してくれたのは声からして千冬姉だろう。マジで危なかった…

 

『ちょっと一夏!大丈夫なの!?』

 

「ああ、問題ない!でもなんなんだこいつは!?」

 

こいつ…そう、目の前に降り立った黒いIS。人の形を少しばかり逸脱したそれは無機質な目でこちらを見つめている。(フルフェイスだから正確にはわからないが)雰囲気でなんとなく、そう思った。

 

アリーナのシールド一撃で突き破る火力を持つこの機体を野放しにしておくわけにはいかない。意を決して踏み出そうとした瞬間、再度千冬姉の声が聞こえた。

 

『お前たちは撤退しろ!そいつは教員部隊で対処する!』

 

「皆の避難する時間を稼がなきゃならないんでしょう?あたしも一夏もまだエネルギーは残ってますから!でしょ!?」

 

「もちろんだ、やらせてくれ!千冬姉!」

 

『…わかった。10、いや、5分間だけ耐えてくれ。それと、織斑先生だ。馬鹿者』

 

無線を切れると同時に、目の前の敵に視線を向ける。相変わらず変な姿勢で直立しているが、その無骨な機体からは何が飛び出すかわからない。

 

「鈴、俺がスピードであいつを撹乱するからその隙に攻撃してくれ!」

 

「オッケー、任せときなさい!」

 

両脚に力を入れて前方に飛び出す!やはりゲッター2の加速力は尋常ではない。ISだからこそいいものの、この強すぎる負荷を生身で受け止めるなど生身であれば絶対にできない芸当だ。それ故に最高速度に達したゲッター2を捉えるのはISのハイパーセンサーをもってしても至難の技となる。更にそこから攻撃を当てるとなるともはや不可能に近い。セシリア相手に善戦できたのはそういう事だ。この場合は彼女がゲッター2のスピードを舐めていたからというのが大きいだろうが。

 

「ゲッタードリル!」

 

そして狙うはーーー相手の膝!剣道をやっていた頃、姿勢を崩すのに1番効果的な場所であると篠ノ之師範から軽く教わった事がある。何にせよ上半身はぶ厚い装甲に覆われているし、ドリルでは効果が薄そうだ。相手の後ろに回り込みーーーいける!そう思った矢先だった。

 

「グッ!?」

 

重厚な金属音とともに、体にとてつもない衝撃が走った。なんだ?殴られた?って事はあのスピードを見切られたってことか!?

 

「一夏!?」

 

何てパワーだ…というか今日の俺壁に叩きつけられすぎでは?そろそろ体が壊れそうなんですけど…

 

 

 

風を切る音と共に白のゲッター2がこちらに吹っ飛んできた。あの真っ黒いやつヤバすぎだろ。ただ、壁面におあつらえ向きの穴が開いたのは暁光だ。シールドの制御装置がイカれたのか知らんが、いつまで経ってもアリーナに入れなかったのでちょっとイラついていたのだ。

 

「さぁて、暴れようか。ゲッター!」

 

ゲッター1の姿で俺を包んだゲッターロボ。一次移行(ファースト・シフト)はまだの鉛色の形態だが、動ければ戦える。瓦礫の山を越えてアリーナに足を踏み入れた。すぐ横には白が転がっていたが、頭を強く打ったようでどうも意識が混濁している様子だ。しょーがない、俺の愛の鉄拳(笑)で目覚めさせてやろう。やれやれとゲッター2を殴ると、ゴォンと鈍い音が鳴った。意外といい音するな…

 

「なんだか楽しそうな事になってんじゃねぇか、白さんよぉ」

 

「黒か…お前、その状態で戦うなんて無謀だ…!」

 

無問題(モーマンタイ)。それこそお前さんに言われたからねーよ。それよか早く行ってやれ、鈴がタコ殴りにされるぞ?どうせ余裕も無いんだろ、加勢させろや」

 

白はだいぶ冷静になったようで、俺の言い分にも納得してくれた。そんな中、あちらでは鈴がひらりひらりと敵の攻撃を躱している。流石の身のこなしだ。しかしリズムが崩れればそれも危ういだろう。

 

「ゲッタートマホーク!」

 

「チェンジ・ゲッター1!」

 

「っしゃあ行くぞ!」

 

「おお!」

 

突進しながら思ったけど、共闘って初めてでしたね。周りまで破壊しないといいな。(願望)千冬姉に怒られるのはごめんです。だって怖いじゃん…


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