【完結】空の記憶   作:西条

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第30話 薄氷の上に立つような

「もう限界だわ」

 

 リリーはそう言うと、くるりとセブルスに向き直った。

 

「エイブリーやマルシベールらと手を切りなさい、セブ」

 

 四月。寒さがだんだんと和らぎ、草木が萌え出すこの頃。

 リリーは中庭で、セブルスに向き直った。リリーの表情は今まで見たことがないくらい真剣で、嫌悪感を表すように形のよい眉を顰めていた。

 

「……僕たちは友達じゃなかったのか? 親友だろう?」

「そうよ、セブ。でも、あなたが付き合っている人たちの何人かが嫌いなの! 悪いけど、エイブリーやマルシベール……マルシベール! 一体どこがいいの? あの人がこの前、メリー・マクドナルドに何しようとしたか、知ってる?」

 

 リリーは柱に寄りかかると、セブルスの顔を覗き込んだ。

 この一年で、ぐんとセブルスは背が伸びた。リリーはそれに悔しがっていたっけ……。

 

「あんなこと、何でもない。冗談、そう――」

 

 セブルスとリリーの会話に入れぬまま、ぼくは黙って空を見上げていたが、リリーの言った『闇の魔術』という言葉に目を向けた。

 

「あれがただの冗談? セブ、あなた本気で言ってるの?」

「じゃあポッターらがやっていることはどうなんだ? 夜にこっそり出歩いて、毎月満月の日に――」

 

 ぼくの視線に気付いたか、セブルスはそこで言葉を止めた。

 リリーが「あなたが何を考えているかは分かってるわ」と、静かな、ともすれば冷たい声で言い放つ。

 

「でも、あの人たちは闇の魔術を使わないわ。この前の晩に何があったか、聞いたわよ。ジェームズ・ポッターが、あなたを救ったと――」

「救った? 救った!? 君はあいつが英雄だと思っているのか? あいつは――僕は君に――許さない」

「私に何を許さないの?」

 

 リリーの瞳がきゅっと細くなる。

 セブルスは何を言ったらいいのかも分からず、でも言葉を止める訳にもいかずに、無理矢理言葉を紡いだ。

 

「そういうつもりじゃなくって……ただ僕は、君があいつに騙されるのを見たくなくって……ジェームズ・ポッターは君のことが好きなんだ!」

 

 なぁんだ、と言わんばかりに、リリーは鼻を鳴らした。

 

「私がポッターに騙される? 騙せるものなら騙してみなさいよ。ポッターが私に気があることなんて、今じゃ学校の半分が知ってるのよ。ねぇ秋?」

 

 どうしてそこでぼくに振るのだ、リリーは。

 曖昧に笑顔を浮かべると、にっこり笑顔が返ってきた。しかしすぐさまリリーは表情を引き締めると、セブルスを見上げる。

 

「ジェームズ・ポッターは傲慢で嫌な奴よ。でも、マルシベールやエイブリーが冗談のつもりでしていることは、邪悪そのものだわ。セブ、邪悪なことなのよ。どうしてあんな人たちと友達になれるのか、私には分からないわ」

 

 セブルスの友人を強く非難するリリーの言葉を、ぼくは少し遠くで聞いていた。

 セブルスの友人関係についてどうこう言う権利を、ぼくは持っていない――だってセブルスは、ぼくと仲良く『してくれている』んだもの。

 

 ……でも。だとしても。

 

「……でも、ヴォルデモートの意見に賛成している君は、ぼくも嫌いだ。『闇の魔術』だって。あんなもの、誰も幸せになんてしない。相手を傷つけるためだけの魔力なんて――」

「君には分かるまい!」

 

 セブルスに、叩きつけるように叫ばれた。はっとぼくは目を見開く。

 セブルスは頭を振って、ぼくを睨みつけた。心の中がぐちゃぐちゃで、どうしようもない、そんな眼差しだった。

 

「力を持っている君には、強い君らには、僕の気持ちなど分かるものか!」

 

 そんなことを叫ばれて、なおも心を落ち着かせて平常心でいることは、まだまだガキンチョのぼくには無理なことだった。

 カッと頭に血が昇る。

 

「あぁ分かるわけないだろうが! 分かりたくもないね、人殺し野郎を是として崇め奉るような意味不明な宗教団体にはね!」

「あの人のことを悪く言うな、何も知らない癖に!」

「盲目過ぎるのも困りものだな! 何も知らないのはそっちだろう!」

 

 セブルスに胸倉を掴まれた。背後の柱に押し付けられ、たまらずカバンを離す。

「秋!」と、リリーの悲鳴のような叫び声が聞こえるのも構わず、ぼくとセブルスは睨み合った。

 

「……秋。君とは分かり合えると思っていたのだが」

「奇遇だね、ぼくもだよ。……いや、ぼくも『だった』よ」

 

 過去形で言えば、セブルスの眉が寄った。

 

「訂正しろ、幣原秋。そうすれば見逃してやる」

「もうやめて! 秋も、セブも!!」

 

 リリーの声を無視して、ぼくは言葉を発した。

 

「いつの間にそんなに従順になったの? ……絶対認めてなるものか。あんな殺人鬼野郎に従うなんて」

「あの人の高尚な思想を、君なら理解出来ると思ったんだがな。見込み違いだったようだ」

「それはこっちのセリフだ、セブルス・スネイプ。ヴォルデモートは間違っている」

「あの方を否定するな!」

 

 強く揺さぶられた。

 右手でセブルスの左腕を掴むと、セブルスはハッとしたようにぼくから手を離した。その不自然な動きに、思わず目が止まる。

 柱にもたれかかったぼくは、そのまま座り込んだ。ケホケホとえずくぼくに、リリーは駆け寄ると「セブ!」と非難する眼差しをセブルスに向けた。

 

「……リリー、君はやっぱり、秋の味方をするんだな」

「馬鹿なこと言わないでよ!? セブ、秋、あなたたち二人とも今日はおかしいわ! 頭を冷やしなさい!」

 

 リリーがぼくの前に立ち塞がる。その言葉にぼくらは口を噤んだが、熱が冷めやらぬまま、憎々しい目つきで互いを見遣った。

 

「左腕、どうかしたの? 変に庇ってた」

「……君には関係ない」

「あぁ、そうかい」

 

 一瞬、セブルスは何か言おうと口を開きかけた。

 しかしぎゅっと唇を引き結ぶと、落とした自分のカバンを拾い上げ、黙ってぼくとリリーに背を向ける。

 

「ちょっと、セブ!」

 

 リリーの声にも耳を傾けることなく、足音荒く立ち去っていくセブルスに、ぼくはイライラと前髪を引っ張った。そしてカバンを肩に引っ掛けつつ立ち上がると、小さな声で「ごめん、ぼくもイラついてるみたいだ。……君の言う通り、頭冷やすよ」とリリーに呟き、セブルスが消えた方向とは全く逆の方へと足を向ける。

 

「秋! ……後から、ちゃんと仲直りするんでしょうね!?」

 

 背後から掛けられた、そんなリリーの言葉に、ぼくは返事をしなかった。

 

 この時は思いもしなかった。

 これが、ぼくら三人の、最後の会話になるなんて。

 

 ――もし、時間が戻せたなら。

 ――もし、違う決断をしていたなら。

 

 

 結末は、変わったのだろうか。

 

 

 ◇ ◆ ◇

 

 

「えっ――ドビーが?」

 

 兄、ハリー・ポッターから思いも寄らぬ名前が飛び出してきたのに、ぼくは動揺した。

 

 第二の課題で、ハリーに鰓昆布を入れ知恵したのは一体誰なのか。それを尋ねると、ハリーはあっさりと、元マルフォイ家、現ホグワーツに仕える屋敷しもべ妖精、ドビーの名前を口にした。

 

「そんな……そんなはずはない」

「どうしてそう思うの?」

 

 ぼくの口から漏れた言葉に、ハリーは訝しげに眉を寄せた。

 

「ドビーはいい奴だよ、君も知っているだろう? いつでもぼくを助けようとしてくれる。まぁ、少々その手段がいつも手荒なのは否めないけど……」

 

 二年生の時、クィディッチの試合でブラッジャーに魔法を掛けたときのことを言っているのか。

 

 ハリーに何と言えばいいだろう。ぼくは考え考え、口を開いた。

 

「……ドビーはそのことをどこから聞いたんだろう? つまりだ、課題の内容なんて、代表選手ならばともかく、普通の生徒は知るはずがない、そうだろう? なのにドビーが課題の内容を知っていて、しかもその対策までも持ってきてくれた。一体どうして?」

「うーん……そう言われちゃ、僕も分かんないよ。あの時は無我夢中で、ドビーの助けが天からの救いに見えたんだ。アキは全く力を貸してくんないしさ」

 

 ハリーは半眼でぼくを見ながら最後の一言を呟いた。

 はは、とぼくは力無い笑い声を上げると「ごめんね」と息をついた。

 

「なにか理由があるの? 僕を手伝ってくれないことについて」

「…………」

 

 そう尋ねられ、ぼくは黙った。ハリーはそんなぼくの様子をじっと見つめていたが、やがて「……なるほどね。答えられない事情があるんだ」と肩を竦める。

 

「……ごめん」

 

 何を言っていいのか、何を言ってはいけないのか、だんだんとよく分からなくなってくる。

 ハリーに嘘や隠し事をするのは、他の人に対するものとは訳が違う。心が圧迫され、何もかもを喋ってしまいたい衝動に駆られるのだ。

 

「でも、これだけは……これだけは知っていて欲しい。ぼくは絶対に、君を裏切るような真似はしない。ぼくは絶対に君の味方だ。『破れぬ誓い』を結んだっていい――」

 

 ぼくの言葉を、ハリーは笑顔で止めた。

 

「知ってるよ、アキ。僕は君のことを、世界で一番よく知ってる。僕らの間に、たくさんの言葉は必要ない。そうだろう?」

 

 ハリーはぼくの両手をぎゅっと握った。ハリーの袖元から、銀のブレスレットが見える。

 

「僕は君のことを信じ続ける。何があっても、どんなときでも。絶対的な信頼を僕は君に置いているし、君も僕に同じ気持ちを抱いていることくらい知っている。……分かってるよ、アキ」

 

 トン、と背中を優しく叩かれた。

 

「君が、僕を守ってくれるんだろう?」

 

 

 ◇ ◆ ◇

 

 

「ドビー!」

 

 勢いよく厨房に現れたぼくに驚いたように、しもべ妖精たちの目が一斉に集まった。ぐるりと見回しドビーの姿を発見すると、ドビーに駆け寄る。

 ドビーはいきなり現れたぼくに度肝を抜かれたようで、その場に硬直していた。悪いことをしたな、と反省し、ドビーのフリーズが溶けるまで待つことにする。

 

「な……なんでございましょう、アキ・ポッター様? ドビーめはあなた様に何かなさいましたでしょうか……」

 

 オドオドとぼくの目を見返すドビーの目線に合わせると、ぼくは出来るだけ優しく言葉を掛けるよう心がけた。

 

「ううん、ドビーが何かをした訳じゃあないんだ。今日は君に、一つ聞きたいことがあって。この前の対抗試合の課題を――」

 

 ぼくが言い終わる前に、ドビーはすぐ横のキャビネットに頭を打ち付けていた。

 慌てて「責めてるわけじゃないんだ!」とドビーの手を掴んでキャビネットから遠ざける。

 

「ハリーを助けてくれたんだろう? それについて、今日はお礼を言いに来たんだ」

「お礼……?」

 

 ドビーは大きな瞳にぼくを映して、訊き返した。そう、とぼくは大きく頷いてみせる。

 

「ハリーを助けてくれて本当にありがとう……君がいなかったら、ハリーは課題をこなせなかった。心から感謝の意を君に示すよ」

 

 そう言って深々と黙礼したぼくに慌てたように、ドビーはぼくの肩を揺さぶった。

 

「アキ様、アキ・ポッター様。どうか顔をお上げになってください、ドビーめには過ぎた礼です……」

「ドビー」

 

 顔を上げた。

 ドビーの両手を掴むと、ぼくはまっすぐにドビーを見つめる。

 

「ハリーを助けるためなんだ。教えてくれ。君は一体()()()()()()()()()()()()?」

 

 ドビーはぼくの言葉にぶるりと身震いした。

 

「ドビーめは言えません……ドビーめはたまたま聞いたのです……」

 

 ドビーの目線が、ぼくから逃げるように彷徨った。キャビネットに、テーブルに、積まれた皿に、椅子に、せわしなく目を移すドビーの両手を、ぎゅっと掴む。

 

「たまたま、誰が君にこのことを聞かせたの? 君に課題の内容を聞かせ、鰓昆布のことを教えた人物は一体誰?」

「ドビーめは言ってはなりません……言ってはならないのです……」

「教えてくれ、ドビー。君しかいないんだ」

「ドビーめは喋ってはなりません!」

 

 そう言った瞬間、ドビーの目がふと虚ろになった。その様子に、ぼくは目を瞠る。

 その場に膝から崩折れるドビーを、支えた。止まっていた息を、意識して吐き出す。

 

 これは――。

 

「……ん? はれ? アキ・ポッター様ですか?」

 

 ドビーはぱっと目を開けると、ぼくを見てそう尋ねた。そしてぼくに抱えられている現状に気付くと、「も、申し訳ございません! アキ・ポッター様!」と言ってぼくの腕からぴょんと飛び跳ねると、地に頭がつくくらいのお辞儀をした。

 ぼくは呆然とドビーを見つめていたが、ゆっくりと口を開いた。

 

「……ドビー。ハリーを助けてくれてありがとう」

 

 ぼくの言葉に、ドビーはきょとんと目を瞬かせた。

 ぼくが何を言っているのか心底不思議に思っている、といった表情だった。

 

「何のことをおっしゃられているのですか、アキ・ポッター様?」

「…………」

 

 ぞわりとした寒気が、身体中を襲う。

 ぼくは自らをぎゅっと抱いた。

 

「寒いのですか? アキ・ポッター様。少々お待ちを、ドビーめが今毛布を持って参りましょう」

 

 ドビーは楽しそうに、ぼくの前から駆け出していった。すぐさま、毛布を持って戻ってくるだろう。

 

「…………」

 

 おそらくは、錯乱の呪文と忘却術の合わせ技だ。誰かが、ドビーに入れ知恵をした者について尋ねたとき、この呪文が発動するようになっていたのだ。

 

 ドビーが第二の課題でハリーを助けた記憶は、ドビーの中から永遠に失われてしまった。

 

 ぼくはそっと目を伏せると、指を組み合わせた。

 

 得体の知れぬ敵は、想像以上に強敵のようだった。

 

 

 ◇ ◆ ◇

 

 

 第三の課題は、六月二十四日。第二の課題で犯人を取り逃がしたからには、第三の課題で蹴りをつけるしかない。

 

 ハリーの名前をゴブレットに入れた犯人は、ハリーが課題に成功して欲しいようだった。しかし、第三の課題は、これをクリアしたから次の課題に進める、といったものではない。第三の課題がゴールなのだ。――仕掛けるのなら、ここしかない。

 

 しかし、第三の課題における事前のヒントは、今回ばかりは何もないようだった。第一の課題、ドラゴンと同じように、今回は初見でプレイするタイプの課題のようだ。これじゃあ、犯人の入れ知恵には期待出来ない。

 

 ――じゃあ、どうすればいい? 

 

 奥歯を噛み締める。

 

 考えろ、考えろ、考えるんだ。

 

 何かを見逃しているんじゃないか? 本当にもう手詰まりなのか? ぼくがやれることは、本当に何一つ残っていないのか? 

 

「……アキっ!」

 

 声に顔を上げると、アクアがこちらに走ってきていた。ぼくの前で立ち止まると、苦しげに息をつく。

 

「一体どうしたの? そんなに慌てて」

 

 そう首を傾げて尋ねると、アクアはぼくの袖をぐいっと引っ張り「こっち!」と廊下を曲がった。おっとっと、とアクアの後に続く。

 廊下に溢れる人々の波を掻き分け、出来るだけ人が少ない方へとアクアは歩いていく。その周囲の何割かが、ぼくに奇異な視線を向けていることに、ぼくはやっと気がついた。考え事をして歩いていたから、周囲の目なんて気にしてなかった。

 

「……あなたがこの前怒らせた、スキーターからの仕返し。それが載ってるわ」

 

 空き教室を探し当て、滑り込む。アクアから手渡された『週刊魔女』を開いて、目を走らせた。新聞や本は読むが、こう言った女性向けの週刊誌は初めてだ。

 中程のページに、ハリーのカラー写真と記事が載っている。ハーマイオニーを中傷する目的の記事に、思わず眉が寄った。

 

「……そこじゃないわ。いえ、そこも酷いけど……もうちょっと先よ」

 

 アクアがページを繰る。そんな場合じゃないのにも関わらず、白く細い指に目が行った。ぶんぶんと首を振る。何を考えているんだ、ぼくは。

 

 やがて、お目当てのページを探し当てたのだろう、アクアの手が止まった。ぼくはそれに目を通す。

 

 それは、普段文学的な表現を好んで使用するリータ・スキーターらしくなく、かっちりとした英文で書かれている記事だった。

 

 

『ハリー・ポッターの双子の弟、果たしてその実態は』

 

『かの有名なハリー・ポッターに双子の弟がいるという事実は、世間にはあまり知られていない。『名前を言ってはいけないあの人』の魔手から生き延びた、たった一人の子供、ハリー・ポッター。その双子の弟だと名乗るアキ・ポッターは、本当に血縁関係があるのかと疑いの目を向けざるを得ないほど、顔形が全く似ていない。

 

 本当に彼は、ハリー・ポッターの双子の弟なのだろうか。記者、リータ・スキーターは気になる情報を入手した。なんと彼は、一世代前にホグワーツに在籍し、魔法省所属の闇祓いであった幣原秋という人物と、まるで親子とも違わんばかりに瓜二つなのだという。

 

 記者の調べに対し、ホグワーツ魔法魔術学校校長アルバス・ダンブルドアは明言を避けた。ふくろう便の返事はまだ来ないが、しかし何の返答もないことこそが、大きな答えなのではないか。

 

 幣原秋という人物は、十一年前に自殺したことが報じられている。幣原秋の子供だとするならば、年齢も合う。幣原秋とアキ・ポッター、彼らは果たして『他人の空似』なのだろうか。まだまだ深い謎は残っている』

 

 

 ぼくは記事から顔を上げた。

 

「見直したよ。目の付け所も悪くない。一体よくこんな情報をもらってきたね、どこからだろう?」

「『どこからだろう』、じゃないわよ」

 

 アクアはむっと顔をしかめた。軽口を叩いていい雰囲気ではなさそうだ。

 

「でも、幣原秋の顔写真はそう出回ってないんだぜ。昔の新聞ざっとさらったけど、写真は載ってなかったもん。幣原の写真とぼくを見比べて、なるほどそっくりだ、というなら分かるけど、なかなかそうはいかないでしょ。一体誰が、この情報を流したんだろう」

「……それは知らないけれど、幣原秋の顔写真は今もまだ実在するわよ。私の家にもね」

「え」

 

 目を瞬かせてアクアを見ると、アクアは軽く肩を竦めた。

 

「死喰い人らにとって、幣原は強大な敵だったのよ。顔写真が出回るのは当然じゃないかしら。自衛のため、先制攻撃のため、今もまだ幣原の写真を持っている死喰い人――元死喰い人も、多いはずよ。私の両親のようにね」

「…………」

 

 なるほどなぁ、とぼくは息をついた。

 

 それにね、と前置いて、ふとアクアは教室のドアを振り返った。誰も辺りにはいない、ということを確認して、ぼくに囁く。

 

「……この前の魔法薬の授業でね、カルカロフがスネイプ教授に、左腕を見せてたの――『こんなにはっきりしたのは初めてだ』とか『君も気付いているはずだ』とかよ――何のことか、あなたは知っているかしら?」

 

 左腕を見せる? なんでカルカロフは、スネイプ教授にそんなことをしたのだろう。

「知らない」と、ぼくはかぶりを振った。

 

「……そうよね。幣原ならともかく、普通は、あなたは知らないわよね」

 

 そう言って、アクアはぐ、と息を呑み――

 

「『闇の帝王』の仲間、死喰い人の左腕にはね――『闇の印』と同じマークが刻まれているの。そのマークがはっきりしてきているというのはね――」

 

 

「闇の帝王が力を取り戻している、ということよ」

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