【完結】空の記憶   作:西条

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 短編 遺書

 親愛なる我らが息子、幣原秋へ。

 

 やぁ秋、元気かな? 風邪は引いてないかい? 

 お前は案外身体が丈夫だからあまり心配はしていないけど、でもそれにかまけて乱れた生活を送っちゃ駄目だからね。

 

 まぁ、秋は分かってるか。

 

 さてさて、こうして手紙を書こうと思ったはいいものの、何から書けばいいのかよく分からない。難しいものだね、手紙というのは。

 

 これをお前が読んでいるということは、お父さんとお母さんはもう死んじゃったのかな。

 それについては謝るよ。本当にごめん。

 お前を残して逝くことが、お父さんとお母さんは何よりも辛いんだ。

 

 分かってくれ、とは言わないよ。これは全部、秋の意志を無視した行為でしかないからね。存分に、秋は怒っていい。

 何でぼくを置いて死んだんだ、勝手な真似しやがって、って、怒っていい。泣いていい。

 

 でもね、秋。それでも、前を向いて欲しいんだ。

 立ち止まってうずくまってもいい。

 でも、いつかは立ち上がって、歩き出して欲しいんだ。

 

 秋。最愛なる我らが息子。

 

 大好きだよ。

 お父さんとお母さんは、お前のことが世界で一番、宇宙で一番大好きだ。

 

 その気持ちは、たとえお父さんとお母さんがいなくなってしまっても変わらない。

 雲の上で、お前をずっと見守っている。

 

 ただ、会えなくなるだけだ。

 

 寂しいだろうね。

 本当に申し訳ない。お前を一人にしてしまった。

 

 でも、秋。いくら寂しいからって、お父さんとお母さんに会いに来ちゃあ駄目だよ。

 それは、遠い未来の話だ。

 お前が誰かを好きになって、その子と結婚して、子供を育てて、子供の成長を見届けて、好きな子と一緒に歳を取って、それから……お前が存分に幸せを堪能してからだ。

 

 約束だよ、秋。

 絶対絶対、死んじゃ駄目だ。お前は生きるんだ。

 

 さもないと、お父さんもお母さんも、意味がなくなっちゃう。

 

 秋、お前は幸せになるんだよ。

 

 これから先、お前の前にはかなり多くの障害が待っている。

 その障害はきっと、普通の人より何倍も過酷だ。父さんと母さんは、お前にそんな業を背負わせてしまった。

 

 でも、どうにか乗り越えて欲しい。

 

 お前はとっても強くて優しい子だ。

 父さんと母さんは、お前のような息子を持てて誇りに思う。

 

 辛かったら、泣いていい。

 苦しかったら、立ち止まっていい。

 立ち向かえなかったら、逃げていい。

 

 一人じゃどうにもならなかったら、誰かに頼るんだよ。秋は一人で抱え込んじゃう子だから、父さんと母さんはそこが心配だ。

 

 これからのことは、全部ダンブルドアに頼んでいるから、心配しないで。不安に思うことは何一つない。

 ダンブルドアはいけ好かない腹黒爺さんだけど(おっと失言、見なかったことにしてね)、誰よりも安心して信用できる人物だ。

 

 秋……お前には生きにくい時代になってしまった。

 ただ優しいだけじゃ、生きていけない時代になってしまった。

 

 これからお前は、辛い経験をたくさんする。

 そのたびにお前は躓いて、転んで泣くだろう。立ち上がれないくらい痛いかもしれない。

 

 でも、立ち上がるんだ。

 生きるんだ。何があっても、生き延びるんだ。

 

 父さんと母さんと、約束してくれるよね? 

 

 大好きだよ、秋。

 お前のことを、父さんと母さんは、世界で一番愛している。

 

「お帰り」って言ってあげられなくて、ごめんね。

 

 

 お前のことが誰よりも大好きな父さんと母さんより

 

 

 ◇ ◆ ◇

 

 

「……バカ……っ」

 

 両親の葬儀が終わり、一週間が過ぎた。バタバタした日々ではあったが、それでも段々と落ち着きを取り戻してきている。

 そんな中、仮住まいのホテルに届いた『遺書』に、ぼくは奥歯を噛み締めた。

 

「本当、バカだよ……父さんも、母さんも」

 

 何、呑気に手紙なんて書いているんだ。何、息子に向けて謝ってるんだよ。

 何、自分が死ぬことに対して、すまないなんて書いているんだよ。

 

 どうしてぼくの幸せなんて、願っているんだよ。

 ぼくが――したも、同然なのに。

 

「……っ、う……」

 

 泣くものか。絶対絶対、泣いてなんかやるものか。

 こんなどうしようもない両親のためになんて、泣いてなんかやらない。絶対に。

 

 ぼくを残して、二人だけで逝ってしまった両親なんかに手向ける涙なんて、ない。

 

 こんな、どうしようもない両親になんて――

 

「泣かない、泣かない、泣かない――っ!」

 

 両の拳を、強く握り締めた。強く、強く。

 爪が手のひらに食い込む。じんわりと痛い。痛い。

 ――生きているから、痛い。

 

 顔を、しっかりと上げた。

 俯いていると、ぼくの意に反した水が、溢れてしまいそうだったから。

 

 本当に、ぼくの両親は勝手だ。ぼくに、一言も相談なしで、いつでも何だってやってしまう。

 いつだって強引に、ぼくの手を引っ張ってくれていたのに――放り出すなんて。

 

「絶対、立ち止まらない。絶対に」

 

 喉の奥から、声を絞り出す。

 

「絶対に、仇を討つまで、たちどまらない」

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