【完結】空の記憶   作:西条

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第2話 侵される日常

 白のクィーンをeの3に移すと、同じ場所にあった黒のナイトを盤から退場させた。黒のルークが、途端にeの6に滑り込んでくる。

 取ってもいいが、と、ぼくは頭を悩ませた。そしたら遅くても三手後には、クィーンがビショップの餌食だ。

 

「毎日毎日、そう簡単に人死に事件は起きんわい」

 

 プリベット通りの少し奥、マグノリア通りの公園のベンチで、チェス盤を挟んでぼくと向かい合っているのは、ペチュニアおばさんが見たら一瞬で記憶からも削除してしまいそうなくらいの浮浪者だ。

 何年も洗ってなさそうなボロボロのコートを身にまとい、足元にはサンダル。綺麗な建物が立ち並ぶ通りにはなんとも似合わない人だ。この人が、しかし五年前に英国ナンバーワンチェスプレイヤーの称号を得た人だと知る人は少ない。

 

「じゃあ行方不明とか。そうじゃなくても、何か不審な事件とか、ないの?」

「聞かんな」

 

 ルークがこちらの布陣に突っ込んでくる。

 しかしこちらも準備は万全だ。いつでも掛かってくるがよい。

 

「スペインの空港でストが起きてるくらいだ。後はこの日照りか」

「どっちも一昨日聞いた話だ」

「そうそう物珍しいニュースなど起きん」

「十四年前は起きただろう? 色々と」

 

 浮浪者のおじさんは、睨めつけるようにぼくを見た。

 

「坊主、幾つだって言った?」

「もうすぐ十五さ。いや、三十五だったかな?」

 

 肩を竦める。おじさんはフンと鼻を鳴らすと、ポーンを一歩進ませた。

 

「十四年前はそりゃあ酷かった。イギリス中で何かしら起こっていた。テロやら人死にやら行方不明やらが。政府も狼狽えるばかりだし、誰もが信用ならねぇし」

「もう一回そんな時代が来るとしたらさ、おじさん、どうする?」

 

 ナイトを摘むと、黒のルークを排除する。すぐさま、クィーンが飛んできた。

 あっさりとナイトは盤から取り上げられる。

 

「家に閉じこもって、一人でチェスをするしかねぇわな。その時は坊主、お前が来い」

「無理だよ。そのときはぼく、ここにはいないもの」

 

 満身創痍のクィーンを、やっとの思いで退避させながら、ぼくは言った。

 ぼくの指し手を見ながら、おじさんは呟く。

 

「お前は、一人のクィーンを捨て駒に出来ない奴だな。クィーンは確かに強い駒だが、所詮駒だ、兵士だ、頭じゃない」

「……なるほど。『王より飛車を可愛がり』ってやつか」

「なんだ、それは」

「日本の将棋でよく言われる文句さ」

 

 はぁあ、とぼくは息をついた。

 首をぐるりと回し、我が兄、ハリー・ポッターが公園に入ってきたのに気がついて、おっと目を瞠る。

 

「アキじゃないか」

 

 ハリーもぼくに気付くと、目を輝かせて走ってきた。髪に草がついていることを指摘すれば、「さっきまで芝生に寝転んでニュースを聞いてたから」とちょっと顔を赤らめる。

 

「そんなにニュースが見たいのか、お前ら。妙なガキどもだな」

「妙なガキどもの自覚はありますよ」

 

 ハリーは渋い顔でそう言うと、ぼくの隣に座った。

 ぼくとおじさんは、しばらく黙って駒を戦わせる。

 

 決着がついたのは、それからしばらく経ってからのことだった。「雑魚め」とおじさんは大人げなくもぼくを嘲笑うと、チェスの駒を仕舞い、来たときと同じようにふらりとその場を去っていく。

 公園にはぼくら二人だけが残された。

 

「誰かに監視されてるような気がするんだ」

 

 ハリーは眉を寄せると、そう呟いた。ぼくは軽く請け負う。

 

「そりゃ、そうだろ。監視くらいされてるに決まってる」

「……え?」

 

『監視されているような気がする』と言ったのはハリーなのに、ハリーは目を瞬かせた。

 

「あんなことが起きたばっかなのに、君を監視しないわけがないじゃん? 二年前の夏休みを思い出しなよ。君のそれは被害妄想じゃない、れっきとした監視だよ」

 

 それにしても、今度は一体誰だろう。

 ハリーが鋭いのか、それとも監視が下手くそなのか。闇祓いの隠密試験だったら落第してるぞ。

 

 そろそろ日が落ちてきた折、公園にダドリー軍団がやってきた。やがてダドリーは皆と別れると、一人になって公園を出て行く。

 ダドリーよりも遅く家に帰りついたら、何を言われるか分かったもんじゃない。ぼくとハリーは、共にダドリーの後を追いかけた。

 

「やぁ、ビックD」

 

 ハリーは不自然なくらい明るく挨拶をした。ギョッとしたようにダドリーは振り返ると、ぼくとハリーを落ち着きなく見る。

 最近のハリーは気が滅入っているのか、隙あらばダドリーを挑発しようとする。今回は、ぼくがいるからハリーが荒れることはないと思ったらしい、ダドリーの緊張が少し緩むのが分かった。

 

 しばらくぼくら三人は無言で、家路を急いだ。

 ちらりと背後を振り返る。ハリーの監視をしているだろう人は、ついて来ているのだろうか。気配がないのは、上手く姿を隠しているだけだろうか。

 

 急に、冷蔵庫の中に身体を突っ込んでしまったのかと、そう思った。

 先ほどまで星が瞬いていた空は、何故か真っ暗闇だ。路地の街灯までも明かりが消え去る。辺りはシンと静まり返り、驚くほどに寒い。

 

「え、ぼ、僕――」

「黙って!」

 

 ハリーが思わず声を上げるのを、諌めた。杖を抜き、周囲に目を配る。

 

 この寒気には、覚えがあった。

 

「何をするつもりだ? やめろ!」

「ダドリー、動くな!」

「見えない! 目が見えなくなったんだ!」

「黙ってろって――」

 

 ダドリーがやたらめったら振り回した腕が、ぼくに直撃した。真っ暗闇の中だったので、全く気付かなかった。

 体重差か体格差か、何にせよやすやすと吹き飛ばされる。そのついでに杖が手から離れ、どこかに転がった。

 

「ダドリーのバカ野郎! 大丈夫、アキ――」

 

 ハリーの言葉は、後半掻き消えた。

 

 ――これは一体、どんな悪夢なのか。もしくは、どんな喜劇なのだろうか。

 こんなマグルだらけの町に、吸魂鬼が二体、立っているなんて。

 

 胸がざわめく。身体の中が、冷たさで満たされる。同時に、記憶が雪崩れてくる。

 

 ――また、あの感覚だ。

 アキと秋が混じり合う。明確な境目を見失う。

 ぼくの記憶。秋の記憶。

 いや――脳みそを共有しているのに、記憶に違いなんてあるのだろうか。

 

 秋が、死体の山の正面で、ぼくに微笑み掛けてくる。左手を伸ばしている。

 

『一緒に死のう、アキ』

 

 その手を取らなければ。ぼくは――

 

 ――ぼくは、誰だ。アキか、秋か。

 

 

 ――父さん、母さん。

 

 

「や、やめろ! こんなことやめろ、殴るぞ!」

「ダドリー、だま――」

 

 鈍い音。ドサッと何かが倒れる音。ハリーも流れ弾に当たったようだ。

 

「ダドリーの大バカ!」

 

 ダドリーは走り回っているようだ。慌ててぼくは「アクシオ、ダドリー!」と叫び、左の指を振る。

 

 ダドリーがぼくに体当たりしてきたかと思った。気付けば、ぼくはダドリーの下敷きになってきた。

 杖なしだと、魔力が上手く制御出来ないのが難点だ。

 

「ルーモス!」

 

 ハリーが叫ぶと、ハリーの杖がボヤッと灯りを灯した。ハリーは慌てて立ち上がると、杖を引っ掴み、ぼくとダドリーの前に立ちふさがると、吸魂鬼に対して杖を向ける。

 

「エクスペクト・パトローナム!」

 

 銀色の牡鹿が、ハリーの杖から飛び出した。吸魂鬼は吹き飛ばされ、逃げて行く。

 守護霊が暗闇に溶けてなくなった瞬間、ハリーはふらりと座り込んだ。

 

「ハリー、大丈夫!?」

 

 やっとこさダドリーの下から抜け出したぼくは、ハリーの元に駆け寄った。両手を取ると、驚くほどに冷たい。

 気付けば、夜空の月や星の瞬きや街灯は普段通りに光っていた。

 

 ダドリーはしばらく気を失っていたようだが、やがて目を覚ますとヒンヒン泣きながら震えていた。ぼくとハリーは目配せしあうと、それぞれダドリーの両脇を抱えようと身を屈めた。

 

 その時、誰かが駆け出してくる音がした。ハリーは慌てて杖を持ち直すと、振り返る。

 しかしその誰かがフィッグばあさんだと分かると、ハリーは素早く後ろ手に杖を隠した。

 しかし、フィッグばあさんが叫んだ言葉に、ぼくらは頭をガンと強く殴られたような衝撃を受けた。

 

「バカ、そいつをしまうんじゃない! まだ他にもそのへんに残ってたらどうするんだね? ――アイタッ、アキ、杖をそのへんに転がらせたままにしておくんじゃないよ!」

 

 フィッグばあさんがぼくの杖に躓きそうになって、ぼくは慌てて駆け寄ると杖を回収した。危ない、折れたら大変だ。オリバンダーさんの家をまた半壊させなければならない。

 

「アキ、絶対に油断するんじゃないよ! あぁ、マンダンガス・フレッチャーのやつめ、殺してやる! ちょろまかした大鍋があるとかで――言わんこっちゃない、吸魂鬼! ぐずぐずしてる間はないよ! 急いで、家に帰してやんなきゃ! あぁ、あいつめ、殺してやる!!」

「お、おばあさんが――あなたが魔女?」

 

 ハリーは呆然とした表情で呟いた。

 フィッグばあさんは苦々しげな顔で言う。

 

「あたしゃ、出来損ないのスクイブだよ。あんたらのことをずっと見てたんだ。さぁ、早く――」

 

 ダドリーの腕の下にハリーは素早く潜り込む。ぼくもダドリーを支えようとしたが、フィッグばあさんに「あんたはちゃんと見張ってな!」と叫ばれてしまった。

 ここはマグルの街中だ、ぷかぷか浮く担架を出す訳にもいかない。ぼくは杖から守護霊であるふくろうを生み出すと、周囲に本当にもういないのかどうかを確認させる。

 

 その時、マンダンガス・フレッチャーが、バシッという音とともに『姿あらわし』した。瞬時にフィッグばあさんが口汚く彼を罵る。

 マンダンガスはダンブルドアに知らせに『姿くらまし』して、ぼくらはやっと家に辿り着いた。

 

 バーノンおじさんが怒髪天を衝く勢いで怒り狂う中、ふくろうが開いていた窓からすぃっと入り、そしてハリーの足元に羊皮紙の封筒を放り投げた。ぼくとハリーは目配せをし合う。

 ハリーは息を呑むと、羊皮紙を広げた。慌てて目を走らせる。

 

「僕宛てだ、魔法省からだ――『未成年魔法使いの妥当な制限に関する法令』――退学処分!?」

 

 ハリーは胃がひっくり返ったような絶望的な顔をした。

 ぼくは目を剥いて、見間違いではないかと二度ほど文言を読み返す。

 

「ふざけてる……そんなはずはない」

 

 やっと出てきたのは、そんな言葉だった。

 

「ありえない……この法令は、自分の身体に危険が及んだ時止むを得ず、の場合は除外されるはずだ……三年の夏休みの時みたいに」

 

 ぼくの声に、ハリーは少しだけ我に返ったようだった。それにしたって、蒼白な顔は変わりはしないが。

 

 その時、バーンッと大きな音がしてぼくらは目をやった。メンフクロウだ、透明な窓ガラスというものがこの世にあるということを知らなかったのだろう、目を回している。

 ハリーは走って窓をこじ開けると、フクロウから手紙を受け取った。震える手で開くと、目を通す。

 

「アーサーおじさんからだ――ダンブルドアが収拾を付けようとしてくれているらしい――この家を離れるなと」

 

 さっとハリーはぼくを見た。信じていいのか分からない、とその目は訴えかけていた。

 バーノンおじさんは怒りにわななく目でぼくらを見ると叫んだ。

 

「さてはお前ら、息子にへんてこりんな呪文をかけて、ダドリーをこうしたんだ、そうだな!?」

「僕らじゃない!! 吸魂鬼がいたんだ、二人も!」

 

 ハリーが叫び返す。

 

「キューコンキとか言うのは一体全体なんなんだ?」

「魔法使いの監獄の看守だわ。アズカバンの」

 

 誰もが息を呑んで、今の言葉を発した人物を――ペチュニアおばさんを見つめた。

 しん、と、部屋中が静まり返る。

 

「どうして知ってるの?」

 

 静寂を切り裂いたのは、ハリーの唖然とした声だった。

 

「……聞こえたのよ、ずっと昔――あのとんでもない若造が――あの妹にそいつらのことを話しているのを」

「僕の父さんと母さんのことを言っているのなら、どうして名前で呼ばないの?」

 

 ペチュニアおばさんはハリーの言葉を黙殺した。

 バーノンおじさんは、まさか自分の妻からそんな言葉が出てくるとはと驚愕に口をパクパクさせていた。

 

「――それじゃ――そいつらは――本当にいるのだな? キューコンなんとかは?」

 

 ペチュニアおばさんが頷く。その時再びふくろうが、今度は窓ガラスにぶち当たることなく部屋のテーブルの上に降り立った。

 魔法省の公式文書だ、封蝋がさっきと同じだ――ハリーは慌ててその封筒を開封する。

 

「……杖を破壊する決定を変更――懲戒尋問まで持ってていい……退学も当日決定」

 

 掠れる声で、ハリーは文書を途切れ途切れに読んだ。ハリーの肩が安堵に小さく揺れる。

 

 再び現れたふくろうに、バーノンおじさんはやってられないとばかりに怒鳴った。ハリーの代わりにふくろうから手紙を受け取ると、ふくろうはぼくを品定めするような目で見て、ぱっと帰っていった。動物には相変わらず嫌われる。

 

 手紙はシリウスからだった。

 

『アーサーが、何が起こったのかを、今、皆に話してくれた。何があろうとも、決して家を離れてはいけない。アキ、決してハリーを家から出すな』

 

 この手紙じゃ、ハリーは決して納得しないだろうな、と思いつつも、手紙をハリーに渡した。

 予想通り、ハリーは眉を寄せて手紙を見ると、羊皮紙を裏返し落胆した表情を見せる。

 

「今夜何が起こったのか、本当のことを言え! キューコンダーとかがダドリーを傷つけたのなら、なんでお前が退学になる?」

「僕が吸魂鬼を追い払うのに守護霊の呪文を使ったからだ。あいつらに対しては、それしか効かない」

「キューコントイドとかは、なんでまたリトル・ウィンジングにいた?」

「知らない」

 

 ハリーはうんざりした声で呟いた。顔色が悪い。

 

「おじさん。ぼくが説明しよう――」

「お前らに関係があるんだ。それ以外ここに現れる理由があるか? お前らだ、全部お前らのせいだ」

 

 バーノンおじさんはぼくの声を遮って、口角泡を飛ばした。

 

「妙ちきりんな監獄とやらをガードしとるそいつらが現れたのは何故だ!?」

「ヴォルデモートが送り込んだに違いない」

 

 ハリーが硬い声で呟いた。

 

「ヴォルデ――待てよ。その名前は聞いたことがある。確か、そいつは」

「そう、僕の両親を殺した」

「しかし、そいつは死んだ。あの大男がそう言ったはずだ」

「戻ってきたんだ。ついこの前、蘇った」

 

 ハリーがしかめっ面をした。頭が痛むのか。

 

 しかしペチュニアおばさんは、今までとは全く違う表情でぼくとハリーを見つめていた。

 その表情は、幣原の記憶で一度見た、リリーに「私の姉よ」と紹介された頃のペチュニアおばさんに、ふと重なった。

 

「戻ってきた?」

 

 ハリーが目を瞬かせる。

 そして息を吸い込むと、ペチュニアおばさんを見て、ゆっくりと告げた。

 

 ――リリーと全く同じ瞳だ。

 ぼくはハリーを見て初めて、そう感じた。

 

「そうなんだ。一ヶ月前に戻ってきた。僕は見たんだ」

 

 バーノンおじさんは、今目の前で起きている光景が信じられないとばかりに呆然としていた。

 

「お前の両親を殺したヴォルデなんとかが戻ったと、そう言うのか? そいつが、お前らにキューコンバーをけしかけたと?」

「そうらしい」

「なるほど。――さて、これで決まりだ。小僧! この家を出て行ってもらうぞ!」

 

 バーノンおじさんの怒鳴り声に、全員が飛び上がった。

 

「聞こえただろう、出て行け! お前もだ、アキ! とっくの昔にそうすべきだった――出て行け、もうたくさんだ! お前らのせいでこの家は滅茶苦茶だ、もうこれ以上妻と息子を危険に晒させはせん! 出て行け!!」

 

 ハリーは愕然とした表情でバーノンおじさんを見ていた。

 瞬間、目も眩むような激しい頭痛が巻き起こり、思わず額を押さえた。膝をつく。

 

 ――お前か、秋。

 ――何を言いたい。

 

「……ハリーは出て行かせない。そう言ったはずだ」

 

 立ち上がると、()()はバーノン・ダーズリー氏に歩み寄った。

 変わった声音に、ダーズリー氏の瞳が驚きに見開かれる。

 

「……秋」

 

 囁くようなその声に、ぼくは笑顔を向けた。

 

「久しぶり……ペチュニア」

 

 彼女は、愕然とぼくをただ見つめていた。

 

 風が渦巻く。

 

「この家の守護の呪文のことも。ハリーに流れる血のことも。リリーと血縁であるペチュニアのことも、言ったはずだよ、ダーズリー。忘れたとは、言わせない」

 

 恐怖に、ダーズリー氏は目を見開いた。

 

「ハリーを放り出したなら、この家の守護は消えてなくなる。そうしたら一体どうなるだろうね? ……見たはずだ、あなたも。ジェームズ・ポッターとリリー・ポッターの生家が、どんな惨状になったかを。……今更放り出さないでくれ。断るなら、初めから――承諾しないでくれ。そうしたなら、ぼくらは、あなた方の平穏を犯しはしなかっただろうに」

 

 再び、部屋の中はシンと静まり返った。

 

「……この子は、バーノン、ここに置かないといけません」

 

 ペチュニアの、意志を伴った言葉に、ぼくは胸を撫で下ろした。

 

「な――なんと?」

「ここに置くのです」

「しかしペチュニアや……」

 

 ペチュニアは、ダーズリー氏を無視してハリーを見た。

 

「お前は自分の部屋にいなさい。外に出ては行けない。さあ、寝なさい」

 

 ハリーはぼくとペチュニアを口を開けて交互に見つめていたが、やがてぼくを見た。

 どういうことなのだ、と、強い眼差しが告げていた。

 

 ――参ったな。

 ぼくはあの目に弱いのに。

 

「……幣原秋。私はあなたを信じます。……私はあなたとの約束を守る。だからあなたも、約束を守りなさい」

「――仰せのままに」

 

 ぼくは静かに、ペチュニアに頭を垂れた。

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