【完結】空の記憶   作:西条

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第31話 9.8m/s^2

 寒々しく広い、十号法廷。超がつくほどの大罪を犯した人物を裁く場所。

 神秘部に位置する其処に足を踏み入れたのは、生涯で二度。共に、良い思い出であるとは言い難い。

 

 ロドルファス・レストレンジ。ラバスタン・レストレンジ。ベラトリクス・レストレンジ。バーティミウス・クラウチ・ジュニア。四人の死喰い人の判決を言い渡す裁判は、つい先ほど終わった。

 自分の家に何とか帰り着くと、ソファに沈み込む。

 

 身体も頭も、死にそうなほどに重たい。

 理由は分かり切っている。クラウチ・ジュニアに、正面切って叫ばれたあの言葉。

 

『見ていたぞ、俺たちは、お前を! 幣原秋よ、お前はここにいる誰よりも罪深い!! 『黒衣の天才』よ、お前はその手で何人殺した、何人壊した、何人の未来を奪った、言ってみろ!! お前の暗闇の前では、俺たちの罪など片腹痛い!!』

 

「…………」

 

『殺してやる、殺してやる、殺してやる、殺してやる、殺してやる、殺してやる、殺してやる、殺してやる、殺してやる、殺してやる、殺してやる、殺してやる、殺してやる、殺してやる、殺してやる、殺してやる、俺たちが、お前を、絶対に殺してやる!! お前に殺された仲間の無念を! あの方が再び蘇ったとき、お前の首が手土産だ!! 我らの憎しみを、我らの恨みを、絶対に、絶対に、絶対に、絶対に、絶対に忘れるな!! それだけのことをお前はやったのだ!! お前の罪深さを、しっかりと思い知るがいい!! 死ね、幣原秋!! 同胞を数多殺したお前の罪は、地獄の業火に焼かれてもなお有り余る!! アハハハハハハハハハッ、アハハハハハハハハハハハハハハハ!!!!』

 

 大きく、息を吐いた。両手の指を合わせ、項垂れると目を瞑る。

 

 よく、まだ狂っていないなと、我ながら思う。ひょっとしたら、狂っていることにぼく自身が気付いていないだけなのかもしれない。まぁ狂人というのは得てして人が下す評価であるので、ならば自己評価も不要だろう。

 

 どっちでもいいや、狂っていても、狂っていなくとも。どうでもいい。こんな奴でも使わざるを得ない闇祓いこそ、同情に値する。可哀想に。

 

 まぁ、それでも。

 

 もう闇祓いにも不死鳥の騎士団にも、ぼくは必要ない――ぼくの魔力は、必要ない。

『不死鳥の騎士団』は、そもそも少し前になぁなぁの解散を見せていた。生き残った者は一握りだけど、平和な世の中を彼らは生きて行くのだろう。

 

「…………」

 

 結局のところ、ぼくの与り知らぬところで全てが終わってしまった。

 偶像の英雄は、生き残った男の子、ハリー・ポッターに移った。ぼくの名前が日刊預言者新聞の記事を賑わすことは、もうないに違いない。

 

 黒衣の天才の役目は、終わったのだ。

 

「……よし」

 

 もうぼくは、必要とされない。新しい世の中に、ぼくの存在は必要ない。

 下手に目立てば、今度は『第二のヴォルデモートの台頭』だと思われるかもしれない――ヴォルデモートと同じように、ぼくが大虐殺を行った張本人であることは間違いないのだ。

 

 裁かれないだけで。司法が、ぼくに完全に味方をしているだけで。

 ぼくだって大罪人だ。

 そんな大罪人が、平和な世の中にのうのうと生きていていいはずがない。

 

「そろそろ死のうかな」

 

 お腹が空いた、と呟くのと変わらぬテンションで、ぼくは口ずさんだ。

 

 

 ◇ ◆ ◇

 

 

 目の前で、頑張ってしたためた手紙があっという間に細かい紙屑になった。

 パラパラとデスクの上に落ちる紙屑、しかしそれでも飽き足りなかったのか、ぼくの直属の上司たるアラスター・ムーディの手によってそれらは全てインセンディオされた挙句デリトリウスされてしまった。一生懸命書いた辞表は、もう影も形も残っていない。

 

「……ダメ、ですか」

「ダメに決まっている」

 

 眉間に強烈なシワをつけたムーディ先生は、じろりとぼくを睨めつけて「余計なことを考えておるのだろう」と唸るように言った。

 余計なこと、だろうか。ぼくは同意も否定もせず、僅かに首を傾げた。

 

「貴様の辞表は受け取れない。分かっているだろう」

「もう『黒衣の天才』の役目は終わったと思いましたけど」

 

 魔法界を支える偶像は、既にハリー・ポッターへと変化した。ぼくの存在はもう見向きもされない。平和な世の中に、戦争の中で際立ったぼくは、必要とされない。

 

「貴様が生きている理由は、ただ貴様に通り名があって、それを世間から必要とされているから、ではないだろう」

 

 ムーディ先生は歯を剥き出しにした。

 

「貴様みたいな奴は、せめて『闇祓い』の役職でもって縛り付けておかないと――手放したら手放したで、自死に走るだろうくらい予想済みだ」

 

 

 ◇ ◆ ◇

 

 

 まぁ、ムーディ先生が言うことも、分からないではない。

 多分ぼくは、目的を失ってふらふらしているだけなのだ。

 

 ずっと『両親の復讐のためヴォルデモートを倒す』という思いの元、生きてきた。その目的が呆気なく取り上げられて、今のぼくは途方に暮れている。

 

 そんな、迷子の子供のようなものなんだろう、今のぼくは。

 

「……まぁ、死ねば目的も何もあったもんじゃないな」

 

 死後の世界でまで、そんな瑣末な意識に振り回されはしないだろう。しない、はずだ。

 

 だから、ひとまずの目的である『自殺』というものに縋っている、という現状だ。おおよそ褒められたものではないけれど、そもそもぼくの生き様自体、褒められたものでは決してない。

 

 褒められたものなら、人なんて殺していない。もうちょっとマシな道を選んでいる。

 

「……さて」

 

 時刻は深夜。月の明かりは見当たらない。月齢はどうだっただろう、覚えていない。

 天文学を取っていた学生の頃はともかく、今もなお夜空のことに構っていられるほど、ぼくの身の回りは平穏ではなかった。

 

「バカと煙は高いところが好き、とはよく言ったもんですが」

 

 場所はロンドンの中心街。摩天楼とも呼ばれる、超高層ビルと定義されるであろう建物の屋上。

 確かに、嫌いではない。高所恐怖症とは無縁だった。日本に飛行機で帰るたび、飽きることなく窓の外を眺めていたものだ――もっとも、雲より高く飛んでしまえば、変わらぬ風景に飽きて本を手に取っていたものだけれど。

 

 高所恐怖症は患っていないとはいえ、さすがにこの高さから地上を見下ろしたら身が竦む。生物の、命あるものの本能のようだ。

 

 今から、その本能を無視した行動を取ろうとしているというのに。

 

 屋上をぐるりと囲むおざなりなフェンスを乗り越え、降り立つ。足場は一メートルそこらか。

 コンクリート張りの足元は味気ないが、しかし見下ろした夜景は思いの他美しかった。地下や路地に潜む魔法使いの街とは違う、マグルの街灯り。

 

 夜景に見惚れたのは何年振りだろうか。自分の命に区切りをつけた今となっては、目に映る全てが美しい。

 

 受け取ってもらえなかった辞表と遺書、それに杖は、寮の自分の部屋、机の上に置いてきた。

 おそらく、ぼくの死体を発見するのはマグルだろう。彼らに不審がられないように、魔法使いのローブは脱いで、トレンチコートにシャツ、ボトムスと、装いは普通に。

 そういうところで妙に気を回してしまうのは、まぁ何と言うか、ぼくの生まれ持った性質故だ。

 

 自分自身で、人生に終止符を打つなんて、なんと贅沢なことなのだろう。

 ぼくが今まで殺した人たちは、そんなぼくに対し何と恨み言を吐くだろうか。

 

 でも、まぁ――こんなぼくに、生きてくれなんて思う人はいないから。

 

 目を細めた。夜風が頬を撫で、髪を揺らす。

 

 この世界に、ぼくは必要ない。

 そのことに、もっと早く気付くべきだった。

 

「馬鹿だなぁ、本当……」

 

 ごめんなさい。

 生まれてきて、ごめんなさい。

 

 空気に、一歩を踏み出した。

 

 

 大好きな人達は、ぼくを迎え入れてくれるだろうか。

 

 

 ◇ ◆ ◇

 

 

「ドラコ!」

 

 自らの袖を掴んだ腕に、ドラコ・マルフォイはギクリとした。全く気が付かなかったのだ。

 

 八階の『必要の部屋』に向かっていた途中だった。ドラコのローブの袖を掴んだ、ドラコの元婚約者で幼馴染の少女、アクアマリン・ベルフェゴールは、その整った表情を僅かに崩し、ドラコを見上げていた。

 額には汗が滲んでいる。見つけて、走ってきたのだろう――いくら思索に耽っていたからと言って、もう少し周囲に気を配らなければならなかった。

 

「やっと、捕まえた……」

 

 今、自分がすべきことは、この少女を撒いて一刻も早く『必要の部屋』へと向かうことだ。クラップとゴイルを待たせている。

 しかしどうしてだか、袖を掴む小さな手を振り払うことが出来なかった。

 

「ねぇ、ドラコ……教えて。一体あなた、どうしちゃったの? ……もう私に愛想尽かしたのかと、最初は思った。でも、違うわよね」

 

 灰色の瞳は、ドラコのものより少し色が濃い。

 幼い頃から、ずっとこの色を見続けていた。

 

「……お前には」

「『関係ない』? 心配することも、許してくれないの? ……ドラコ。私は」

 

 そこで、一度アクアは言葉を切った。再び顔を上げた時には、灰色の瞳に真摯な光が宿っていた。

 

「私はアクアマリン・ベルフェゴール。ベルフェゴール家の長女、アクアマリンよ。……関係なく、ない筈よ」

 

 離さぬよう、アクアはぎゅっとドラコの袖を掴む。

 

「……教えて、ドラコ。もしかして……」

「違う」

 

 はっきりとした声が出た。ピシャリと物言いを許さない声。そのことに、安堵した。

 

「お前には関係ない。本当の意味で、お前には一切関係ない。……いい加減鬱陶しいんだよ。もうお前が、僕の後ろをずっとついてくるような、そんな時期は過ぎたはずだ」

 

 袖を掴むアクアの指に触れた。アクアの手は冷たかったが、自分の手はそれ以上に冷たかった。ゆっくりと彼女の指を、外してゆく。

 

「いつまでも僕に頼っていないで、自立したらどうだ、アクア。もうお前の面倒を見るのは、疲れたんだよ」

 

 その言葉に、アクアは泣き出しそうに顔を歪めた。無表情を装い、背を向ける。

 

「……嘘。嘘、嘘! ドラコはそんなこと言う人じゃない!」

「じゃあ、それがお前の見込み違いだったんじゃないのか?」

 

 振り返って、冷笑を浮かべた。

 

「婚約者でもなけりゃあ、お前と一緒にいたいと思うはずがないだろう? ずっと、目障りだった。親にいつも歯向かう、家の思想を一切受け付けない問題児と、この僕、マルフォイ家の長男、ドラコ・マルフォイが、どうして一緒にいたいと思う? こちらから距離を取った時点で、少しは察してくれると思っていたんだが。そこまで頭が回ることを、お前に期待した僕が馬鹿だったようだ」

 

 ざっくりと傷ついた表情で立ち竦むアクアに、鋭い言葉を投げつける。どんどん暗くなっていくアクアの表情を見るのは、辛かった。

 

 でも、アクアは巻き込めない。こちらに来てはいけない。

 

 アクアには、光が当たるところで生きていて欲しかった。黒衣のマントを纏い仮面を被るのではなく、暖かな陽だまりで、いつまでも幸せでいて欲しかった。

 

 自分がいなければと、思っていた。凄く不器用で、随分と生き辛そうな奴だと。自分が手を引いてあげなければと、そう思っていた。

 

 今は違う。アクアの手を引いて、アクアを愛してくれる人がいる。

 長い黒髪の少年の隣にいるアクアは、ずっとずっと幸せそうだった。アクアの表情を豊かにしたのは、間違いなくアキ・ポッターだった。

 

 自分ではない。

 

「もう、僕に話しかけるな。婚約者でもないお前は、ただの他人だ」

 

 どうか、いつまでも幸せでいて。

 僕が、与り知らぬところで。

 

 左の前腕を、ぎゅっと掴んだ。

 

 

 ◇ ◆ ◇

 

 

 スラグホーンの記憶の中に入り込んだハリーは、キョロキョロと左右を見回した。

 スラグホーンの部屋だ。くつろぐスラグホーンの周囲に、十代の少年が六人ほど。その真ん中に、トム・リドルがいた。指に金と黒のマールヴォロの指輪が嵌っている。

 

「トム、それ悪趣味じゃないかい? 君には似合わないと思うよ」

 

 大きなため息と共に、リドルの隣にいた少年が一言呟いた。

 初めて見るはずなのに、ハリーには何故か見覚えがある気がした。艶やかな短い黒髪に、同じ色の瞳。黄色のハッフルパフのネクタイに――少し周囲の子と制服の形が違う。

 その違和感を掴むより、リドルが笑ってその少年を見る方が早かった。指輪が嵌った手をひらひらと振る。

 

「なんだ直、君の趣味じゃなかったか?」

「僕の趣味じゃないことは確かかな。アキナから貰ったとしたら、つけるにやぶさかではないけれど」

「君は本当にあの変人が好きだよなぁ。全く意味が分からない」

「分からなくって結構。君をライバルに回したくはないからね」

 

 肩を竦めながら、リドルは指輪を抜くとポケットの中に滑り落とす。

 リドルが案外素直に少年の言葉を聞いたことに、ハリーは多少なりとも驚いた。リドルは、もっとこう……他者からの言葉に耳を傾けない存在だと、思っていたから。

 

「かの者にも、友はいた。そういうことじゃよ、ハリー」

 

 気付けば、後ろにダンブルドアが立っていた。

 友。リドルに? ……似合わない、というのが正直な気持ちだ。しかし確かに、リドルが少年に向けた、心を許したような微笑みを見たことは事実だった。

 

 ダンブルドアは、静かにハリーに告げる。

 

「今、リドルが素直に聞き従った者。彼こそが、幣原直――名前を聞いたことくらいはあるじゃろうて。あの幣原秋の、父親じゃよ」

 

 息を呑んで、もう一度リドルと、その隣の少年を見た。

 幣原秋の――アキの、父親。道理で、見たことがあると思ったわけだ。目の前にいる日本人の少年と、血が繋がっている少年を、いつも近くで見てきたのだから。

 

 置き時計が十一時の鐘を鳴らしたことで、会話が途切れた。きっと、これが解散の合図なのだ。

 少年たちがそれぞれ腰を上げる。幣原直も素直に部屋を出て行きかけ――リドルに制服のフードを遠慮なしに掴まれた。

 ぐえ、と息の詰まった声を上げた幣原直は、抗議しようと眉を寄せて振り返る。直にシッと人差し指を立てたリドルが手を下ろしたのと、スラグホーンが振り返るのはほぼ同時だった。

 

「おや、トムに直、早くせんか。時間外にベッドを抜け出しているところを捕まりたくはないだろう? トム、君は特に監督生なのだし……」

「先生、お伺いしたいことがあるのです」

 

 直は、一体どうして自分がこんな目に、という苦々しい表情をしながらも、諦めたように息を吐いていた。恐らくはこれが日常だったのだろう。トム・リドルと幣原直の。

 

「それじゃ、遠慮なく聞きなさい。トム、遠慮なく」

「先生、ご存知でしょうか……ホークラックスのことですが?」

 

 直は興味なさげに空中に視線を彷徨わせていたが、リドルの言葉に目を瞠った。

 スラグホーンはじっとリドルを見つめていたが、やがて「『闇の魔術に対する防衛術』の課題かね?」と静かに尋ねた。

 

「いいえ、先生、そういうことでは。本を読んで見つけた言葉ですが、完全には分かりませんでした」

「ふむ……まぁ……トム、ホグワーツでホークラックスの詳細を書いた本を見つけるのは骨だろう。闇も闇、真っ暗闇の術だ」

「でも、先生は全てご存知なのでしょう? 先生ほどの魔法使いなら――すみません、つまり、先生が教えてくださらないなら、当然――誰かが教えてくれるとしたなら、先生しかないと思ったのです。ですから、とにかく伺ってみようと――」

 

 リドルよりも背が低い幣原直は、リドルに隠れるようにしながらもリドルの後頭部をじっと見据えていた。視線の鋭さは、アキが時折浮かべるものとよく似ていた。

 疑惑を含むその表情に、しかしリドルは気付かない。

 

「……さて、まぁ勿論、ざっとしたことを君に話しても別に構わないだろう。その言葉を理解するためだけになら。ホークラックスとは、人がその魂の一部を隠すために用いられる物を指す言葉で、分霊箱のことを言う」

「でも、先生、どうやってやるのか、僕にはよく分かりません」

 

 ハリーには、リドルが興奮していることを感じることが出来た。幣原直も、ピクリと片眉を上げる。

 

「それはだね、魂を分断する訳だ。そして、その部分を体の外にある物に隠す。すると、体が攻撃されたり破滅したりしても、死ぬことはない。なぜなら、魂の一部は滅びずに地上に残るからだ。しかし、勿論、そういう形での存在は……トム、それを望む物は滅多におるまい。滅多に。死の方が望ましいだろう」

「どうやって魂を分断するのですか?」

 

 リドルの食いつき様に、はっきりと幣原直は苦々しい顔つきをした。

 

「それは……魂は完全な一体であるはずだということを理解しなければならない。分断するのは暴力行為であり、自然に逆らう」

「でも、どうやるのですか?」

「邪悪な行為、悪の極みの行為による。殺人だ……殺人は魂を引き裂く行為だからだ。分霊箱を作ろうと意図する魔法使いは、破壊を自らのために利用する。引き裂かれた部分を物に閉じ込める……」

「閉じ込める? でも、どうやって?」

「トム」

 

 静かな声だった。全てを調伏出来てしまいそうな、鋭い声音だった。

 ハッと思い出したように、リドルは幣原直を振り返る。瞳に先ほどまで滾っていた炎は、漆黒によって瞬時に鎮火した。

 

「……失礼しました、スラグホーン先生。不躾でした」

「いや。気を悪くはしていない。こういうことにちょっと興味を持つのは自然なことだ……ある程度の才能を持った魔法使いは、常にその類の魔法に惹かれてきた。君たちもきっと、そうなのだろう」

「ですが、あと一つだけ……学問的な思索によることを前提に、ですが。魂は一度だけしか分断出来ないのでしょうか? 例えば、七という数字は一番強い魔法数ですよね。七個の場合は?」

「七個……とんでもないことを。……勿論、全て仮定の話だ。学問的な……」

「えぇ、その通りです。それでは、可能ではあるのですね?」

 

 その時、堪忍袋の尾が切れたように、直はリドルの腕をぐいっと掴んだ。そのまま部屋の出口に向かう。

 

「失礼をしました、先生」

「何をするんだ直、折角……」

「折角? 何だ言ってみろよ」

 

 怒りを滾らせ、幣原直は微笑んだ。ぐぅ、とリドルは黙り込む。

 

「ただの学問的興味さ、それだけ……」

 

 二人の少年が部屋から姿を消したことに、スラグホーンは心から安堵したようだった。大きく肩を落としている。

 

「ハリー、ありがとう。戻ろうぞ」

 

 その言葉に、ハリーは大きく頷いた。

 

 

 ◇ ◆ ◇

 

 

「あの、その……幣原直は、知っていたのでしょうか? その……トム・リドルがやろうとしていたこと、分霊箱について」

 

 ダンブルドアはハリーに挑むような視線を向けた。

 

「ある程度は本人から耳にし、そしてある程度は勘付いておったことじゃろう。あの場にわざわざ幣原直を同席させたことから、かの者は直を相当自らに近しい存在であると考えておった。しかし、じゃ。全てをつまびらかにしていた訳ではなかろう。その証拠が、あの短い記憶の中にあった」

 

 何のことだか、ハリーには予想がついていた。

 

「マールヴォロの指輪、ですね」

「左様。直は、トム・リドルがあの指輪をどこから手に入れたかを知らなかった。あの指輪を『悪趣味』と称したことからして」

「友達が……友達が秘密を抱いていたら、尋ねたくなるものでは? 指輪の入手方法だとか……」

「おうおう、君は随分と素晴らしい人間関係を築いてきたようじゃ。『友達なら秘密な物事などなくて当然』――本当かのう? 君がどのように考えるかはさておいて、直はそうは思っておらんかったのじゃろう。話したくないことならば、あえて聞こうとはしない、そういう人間じゃったよ、幣原直は。秘密であると明示したのであれば、その境界線を踏み越えてくることはしない人間じゃった。トム・リドルには、直のそんな人間性を好ましく思っていたよ……リドルがはっきりと『友達』と表現したのは、人生において幣原直、ただ一人、一人きりじゃ」

 

 ハリーはしばらく黙っていた。頭を整理出来たと確信してから、再び口を開いた。

 

「幣原直は、リドルが闇の魔術に関わることを好ましくは思っていなかった?」

「想像でしか言えんがのぉ。もう直とコンタクトを取る手段は失われてしまった。もはや彼の行動からしか、察することは出来ないが。しかしある程度は、彼が残した息子、幣原秋を見ると分かることじゃろう。あれほど心根がまっすぐな少年に育つには、しっかりとした善悪の区別を幼い頃から教え込む、きちんとした両親の元で育たぬ限り、難しいことじゃとわしは思う」

 

 半月型の眼鏡越しに、ダンブルドアはハリーをじっと見つめた。

 

「幣原直を誤解するではない、ハリー。彼もまた、ヴォルデモートに裏切られた憐れな犠牲者の一人なのじゃ」

魔法連載主人公、どちらが好き?

  • 親世代主人公(幣原秋)
  • 子世代主人公(アキ・ポッター)
  • その他(イチオシの子がいましたら……)
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