直と別れ、十年余りの月日が過ぎた。直は子供を授かったらしい。初めの子は流れたと聞いていたから、その知らせは喜ばしいものだった。『秋』と名付けたその子を、直はきっと日本魔法界には触れさせない。梓のみに届いた書簡は、梓が目を通すとすぐに燃え、灰となった。
直とは、あの日を最後に会っていない。自分が常人とは少し違う人間だということは、承知していた。自身の持つ狂気に、直の家庭を巻き込む訳にはいかない。年に数通の書簡を行き来させるだけの希薄な関係に、それでも縋った。
梓も妻を娶り、子を授かった。と言っても恋愛婚ではない。相手は従姉妹であり幼馴染の幣原凛だった。直はきっと、子供に当主権を渡さない。ならば、じきに当主は梓へ渡る。そう見越しての政略婚であることは間違いなかったが、凛はしあわせそうだった。
「梓さんは危なっかしいので、誰かが付いてあげなければと思っていたんです。凛で良ければ、お相手仕ります」
「……うん、よろしく」
凛の兄である従兄弟は、親族の中で『いないもの』として扱われた。その位置に従兄弟を押しやった要因の一つは、梓だ。きっと凛は気付いていただろう、梓の仕出かしたことに。それでも何一つ聞いてこない凛に、梓も甘えたのだった。
やがて授かった一人息子に『桜』と名付けた。秋より二つほど歳下となる子だ――その筈だ。胸に宿る暖かさが、親が子を想う情であるかは梓には判らない。思えば、父母からは情らしい情を掛けては貰えなかった。それでも、生まれて来た子に罪はない。幣原の淀みは、この子にまで受け継がせたくはない。
その日は、憎たらしいほどに空が透き通る日のことだった。カタン、と音を立て、梓の文机に一つの小包が『出現』した。送り主は幣原直、兄からだった。
いつも書簡の兄が、小包とは珍しい。一体どういう心境の変化だろう。そう楽天的に思っていたのも、包みを開くまでの間だった。
中には、次期幣原家当主を梓に認めるという当主の認印と、数束の書類、幾ばくかの手紙と、幣原家当主の指輪が入っていた。
「…………」
震える手で手紙を漁る。そこには兄の流麗な字で、梓に宛てた文が綴られていた。
『僕の弟、梓へ
きっとお前は驚いていることだろう。お前の驚く顔の記憶が薄い。昔から、あまり驚かない子だった。いつも、周りとは一段違う場所から、世界を見渡している奴だった。
今手紙を読んでいる頃、僕は死んでいるだろう。この包みが届いてから、十日。十日は待ってくれないだろうか。何、僕を殺した奴とお前が対面することを避けるためさ。お前の命をみすみす摘み取られる様を見過ごすのは、僕だって嫌だ。一応忠告しておくが、絶対に僕の仇を取りに行こうなんて考えるなよ。そのためにお前に当主を投げ渡すんだから。まだ小さい桜を、何も判らぬまま幣原の真っ暗な部分に放り込むのは、お前だって忍びないだろう。
僕とアキナの死を、どうか秋に伝えてやってはくれないか。僕らの住処は、秋にしか辿れない。そして、秋をどうかあの両親から守ってやってはくれないか。秋の才は僕より強大だ。知れば両親はきっと秋を欲しがる。もう秋も十五だ、英国に足場はあるし、日本のことなど知らずに秋はあちらで生きて行くだろう。生きる理由も作ってあげたことだしね。
梓。最後にもう一つ、頼みがある。一冊の本を探してくれ。僕の家にあるはずだ、
ねぇ、梓。僕は結局、最期までお前のことを理解は出来なかった。弟なのにね。ずっとお前は、僕の中の『よく判らない』という場所に居座り続けた。
それでも、僕はお前のことが――――』
最後まで読むことなしに、文を閉じた。文と、幣原当主の指輪を懐に放り込むと、ふらふらと部屋を出る。おぼつかない足取りに、少し驚いた。自分でも、動揺することがあるのか。
「どうかされました、梓さん? ……大丈夫です?」
梓に気がついて、凛がぱたぱたと走り寄ってきた。顔を覗き込んでそう尋ねた凛に、一目で心配されるほど顔色が悪いことに気がつく。
「……今すぐ幣原本家に行く。準備をして」
「えっ?」
「桜も連れて行く。早く」
「ちょっと! 一体何の話です? 急に――」
「直兄が死んだ」
自分の声は、何処か遠くから聞こえて来たようにも感じられた。
◇ ◆ ◇
直の死の知らせは、狭い日本魔法界ではすぐさま回った。その翌日、従兄弟の死も『ついで』で回って来た。直の死を聞き、止める間もなく飛び降りたのだと聞く。直の死が、十三階段の最後の一段を上らせたのだ。あの人は本当に最期まで、直に振り回され続けた、かわいそうな人だった。
幣原直の住処には、幾重にも結界が巻かれている。一番強大であったのが『二人の血を引く子しか辿り着けない』そういう類の結界だった。その後、秋が足を踏み入れたことにより、梓たちもその地に訪れることが出来た。光景に、思わず息を呑んだ。
かつて家があった場所で、瓦礫に囲まれながらも両親に縋って慟哭していた小さな少年。その家を粉々にしたのが少年自身であったということを聞いて、また驚いた。
日を改め見た秋は、意気消沈し、顔は青褪めてはいたが、雑事を淡々とこなす細い後ろ姿に、危うげなものを感じ取った。今の状態のこの子から、仕事を取り上げ一人にするのは酷くまずい。
気を抜けば、梓の知らぬところで秋に擦り寄ろうとする両親も、梓の悩みの種だった。何度か無理矢理割って入ったこともある。秋が聡い子であったのは幸いした。引き取ろうと誘いを掛ける両親に一言「どうして父はあなた方と一切の交流を持とうとしなかったんですか?」と言い放った秋。あの時の両親の顔は、なかなか愉快で忘れられそうにない。
葬儀が終わり、当主継承の儀も恙無く済ませ、幣原家本家の一室で、梓はやっと息を吐いた。今までのらくらと生きてきたツケか、忙殺されるのは苦手だった。
ふと思い出し、指輪を懐から取り出した。行灯に照らす。父が、そして従兄弟が、あれほどに欲しがっていた当主の座。こんなところに座ったところで、人は何一つ変わらないというのに。指輪はやっぱり、ただの指輪だった。苦笑しながら指輪を嵌め――
世界が変わった。
視界が塗り潰される。自宅の居間から、見知らぬ家へ。此処は何処だ? 身をぐるりと囲む、高い高い焦げ茶の本棚。空はただ青く、澄んでいる。焦点が合わぬ視界はぼやけ、判別が出来ない。その中、無邪気な少年の声だけがはっきりと輪郭を伴う。
『凄いね、魔法って! 何でも出来ちゃうみたい!』
誰の声だ? 聞き覚えがあるような声。ふと乱暴に風景は拭い取られ、気付けば一人の少年が自身の前に正座をしていた。一瞬合ったピントに、ハッと息を呑む。その少年は、幼い頃の直だった。
『幣原直。この九月から英国魔法界随一の魔法学校『ホグワーツ』に行け』
その視界がひび割れる。ぐしゃぐしゃに破り取られた世界が、新たな風景を構築する。見下ろす
『……あの従兄弟をあそこまで狂わせたのは、お前だな』
――嗚呼。
そうだよ、直兄。
「――梓さんッ!!」
身体を強く揺すられ、我に返った。視界一杯に広がる、凛の顔。慌てて右中指に嵌まる指輪に目を遣った。指輪はただ、そこに在った。
「大丈夫ですか!?」
「あぁ――大丈夫、僕は」
「嘘、嘘……お医者様をお呼びしましょう。きっとお疲れなんです。直様も、お兄様も立て続けに亡くなられたのよ。当然です……」
「そういう凛こそ、疲れている。僕は平気だから、君こそ休んで」
行灯に照らされた凛の顔は、橙の光を浴びているというのに青白い。彼女の両頬にそっと手を触れ「僕は大丈夫」と言うと、立ち上がった。
「少し、夜風を浴びたい気分なんだ」
◇ ◆ ◇
本家に来たのは、久しぶりだった。鳥居が連なる山の上に居を構える此処は、どこに負けず劣らずの結界と対侵入者用攻撃呪術を敷いている。幣原家当主となった梓は、今後ここで執務を行わなくてはならない。直ほどの我侭は、梓では無理だ。
「直兄……」
呟いた。雪駄を履いて、庭に出る。玉砂利の敷き詰められた間を、飛び石を踏んで、当てもなく歩いた。夏の夜は寝苦しいのが常だが、山の上に位置するこの家は比較的涼しい。着流し一枚では、少し寒い程だった。
息を吐き、空を見上げる。雲が僅かにたなびく空では、淡く月が輝いていた。
かつて見た空は、酷く狭かった。それでは、今はどうなのだろう。
右手の中指に嵌まる指輪を、左手で覆った。目を閉じ意識すると、ふと想念が流れ込む。その声に、耳を澄ませた。
『――秋。お前は魔法使いなんだよ』
聞こえる直の声。間違いない。伝聞ではあるが、この能力は聞き知っている。『過去視』の能力。時を司る幣原の血が引く、異能力。目を開けると、ぼんやりと漂っていた風景は霧散した。
飛び石を辿っていくと、やがて池に着いた。ここが、終着点だ。水は澄んでいたが、生き物はいないようだった。揺らぐ水面には月の影が映っている。梓は足を止めると、その場に座り込んだ。頭を抱えて、息を吐く。
「直、兄……」
風に、庭の草木が音を鳴らす。
月の影が、揺らいだ気がした。
◇ ◆ ◇
行ってくるよ、と言って、家を出た。何処にです? と尋ねる凛に、微笑み告げる。
「直兄の墓」
梓の言葉に、凛は目を瞠ると「行ってらっしゃいませ」と深々と頭を下げた。
夏の強い日差しが、分厚い緑のトンネルに遮られて地面に木漏れ日を投影する。着流しの懐から扇子を取り出しながら、軽く呟いた。
「今日も暑いなあ」
◇ ◆ ◇
流石に意識が飛んだ時は自分の浅慮に呆れ果てたが、結果的に幣原秋に会えただけ良しとしよう。過去はあまり振り返らないのが、梓の主義だ。
幣原直の住処で、秋は少し困った表情を浮かべながらも梓に紅茶を出した。この子は目の前で困っている人を見捨てられないタイプの人間だ。直と同じく。紅茶を一息で飲み干して「ありがとう」と微笑んだ。
「それより、一体どうしてあんなところに?」
「なんとなく、君に会えるかなぁって思っていたんだよ」
秋の顔には、まだ色濃い戸惑いが見てとれた。それも無理はない。本来であれば、梓一人で終わらせたいことだったのだが、秋に案内されないとこの家自体に辿り着けないようになっているのだから仕方がない。
幣原家についていっさいを知らなかった秋に、少し呆れると共に、直の理想を感じ取った。直はきっと、何も知らぬ極普通の子供として生きたかったのだ。息子には決して、自分のようには生きて欲しくなかったのだ。
ほぼ言葉を飾ることなく告げたことに、秋は僅かに青褪めて目を瞠っていたが、それでも飲み込みはとても早かった。梓を一目で思い出したように、記憶力もとても良いのだろう。流石は、幣原直の血を引く子供だ。
数日間、当てもなく一冊の本を探して、やがて隠し部屋の存在に気が付いた。永遠とも言える長い階段を下った先は、恐らくあの小さな少年にとっては酷な惨状だっただろう。
足の踏み場もないほどに粉々になった小物。全てのページがバラバラになった大量の書物。本棚と机と椅子がそれぞれあったのだろうということは、かろうじて残骸の山から見て取れた。粉砕されたそれら全てに満遍なく降り掛かった、かつて液体であった赤黒いもの。足元に転がる小物に手を伸ばすと、目を閉じた。途端浮かび上がる、直の死の情景。一人納得して、目を開けると手を離す。
「秋くん、吐くならよそに行ってね」
嘔吐物で汚されては堪らない。ただでさえ酸化し切った血で塗れているというのに、更に汚されては堪ったものじゃない。梓の言葉に秋は「だ……いじょうぶです」と俯き呟いた。そう言うのなら、自分で何とかするだろう。もう子供ではないのだし。
しかし、困った。頭を掻きながら秋に問いかける。
「んー……秋くん。これ、元通りに直せる? ひとまず、引き裂かれた本だけでも何とかしてくれたらいいんだけど」
「……全部戻せます、大丈夫です」
秋は小さく息を吐くと、杖を抜いた。左利きなのか、とふと目を瞠る。思いもよらぬ、秋と自身の共通項だった。直はきっと気が付いたことだろう。愛らしい息子と、どうしようもない弟との共通点を見つけて、直は一体どう思っただろうか。そう考えると、何だか可笑しかった。
秋が杖を振ると、全てがかつてあったように戻る。まるで逆再生を見ているようだな、なんて感想を抱いた。
「あぁ、血は仕方ないよ。そもそも血に魔力は宿るものだしね。しかも幣原直の血なんだし」
拭えぬ血に目を細めていた秋にそう言うと、本棚に近付き一冊の本を手に取った。秋がそろそろ臨界であろうことを察し、声を掛ける。
「君に手伝えというのはさすがに酷か。待っていてね、そう長くは掛からないと思うから」
ざっと見てもここにあるのは十五冊といったところか。目を通すくらいならばすぐに終わる。秋は頷くと、その場にうずくまった。身体を小さく丸め、頭を抱える。そうなるのも無理はない。梓ならたとえ実の親が殺され、死体が転がっている状況下でもほうじ茶を啜れるが、普通の人間の精神はもっとか細いものだ。梓の精神もか細いのだが、精神の在り処はきっと人と違っている。
六冊目に手を伸ばした時、ふと秋が階段を駆け上がって行った。限界だったのだろう。その後ろ姿を横目で追うと、手元の本を戻し、次の本を手に取る。何気なしに、周囲を見回した。乾いた血の痕が残る床に腰を下ろすと、そのまま寝転がる。
右手の甲を額に当て、梓は少しだけ目を閉じた。
◇ ◆ ◇
幣原秋が死んだという知らせは、数ヶ月遅れでこちらに届いた。へぇ、そうか。あの少年は死んだのか。直の血を引く者はもういなくなった。それどころか、幣原の名を引く者すら、残るは梓と凛、そして桜のみ。気がつけば、随分と減っていた。
墓は、英国の方で用意したのだという。ならばこちらでわざわざ葬儀を上げる必要もあるまい。そもそも頼まれてもいないのに、わざわざ墓に名を刻んでやる必要もないだろう。
幣原秋。彼も自身の内の才能に狂った、かわいそうな子だったのか。
才ある者の早逝は、世の定めなのだろうか。ならばダラダラと生き続けている自身は、心の底からの愚鈍であり、単なる昼行灯に過ぎなかったのだ。いっそ従兄弟のように狂って死んでも良かったのかもしれない。
右中指の指輪は、既にない。息子である桜に譲り渡した。隠居老人は表舞台からとっとと退いて消え去るべきだ、出来る限り跡を残さずに。
桜はもったいないほど良い子に育った。母親の名のように凛とした、静かな子だった。母親似で、心の底からホッとした。自身に似ては、目も当てられない。今はもう、才能で争う相手もいない。数年前とは打って変わり、静かに当主継承は終わった。五行家から二つ歳下の妻を娶り、やがて孫娘も授かった。
どうして、自分がこんな普通のしあわせを手に入れているのだろう。梓はふと、立ち返る。兄の直も、あの従兄弟も、甥の秋も、手に入れることが出来なかった、ごく普通のしあわせ。子を持ち、孫を抱くことの出来る、どこにでもあるしあわせは、自分よりも彼らこそ、受け取るに相応しい筈なのに。
直の本を、パタンと閉じる。直は一体何を思って、この本を書き記したのか。消し去って欲しいのならば、梓に一言「燃やせ」と言うだけで良かったはずだ。直に命令されたなら、梓は盲目的に従うのに。血の痕をそっとなぞり、息を吐いた。
「……直兄」
ふと、けたたましい警戒音が鳴り響いた。顔を上げる。直の本をいつもの場所に隠すと、立ち上がった。魔法処の守護結界が破られたのだ。そんなこと、今まで数百年起こったことがなかったのに。
「どういう……っ」
慌てて監視画面を展開させる。モニターにカメラからの映像を同時に接続した途端、殺気を感じた。振り返ると同時に飛び退くも、肩を掠めたナイフの熱さに、思わず顔を顰める。
「……幣原本家には、許可された者か、あるいは幣原の血を引くものしか侵入出来ないはずなんだけどねぇ……?」
肩を抑えて、梓は侵入者に笑いかけた。
頭から黒衣を被ったその侵入者は、ケラケラと嗤いながら頭の装束を取る。梓よりも二十は年若いか。桜と同年代であろう青年の、黒髪に漆黒の瞳、そしてその目鼻立ちには、何処かで覚えがあった。
「判らないか? 幣原梓」
「僕は直兄のように、物覚えがよくなかったからねぇ……でも、んん、見覚えがあるような、ないような……桜や凛が君のような不審者然とした奴を入れる訳がないから、幣原の誰かかな……? 秋くんはもうちょっと大人しい顔立ちをしていたし、そもそも僕が直兄の息子を見間違える筈はないし……あぁ、ひょっとして」
誰かの隠し子か、そう思い至ってからは、早かった。
「僕のあの、どうしようもない痴れ者従兄弟の息子かな?」
「――その言は気に食わないが、如何にも。我が父の名は律。貴様に狂わされ殺された男の息子だ」
ザリ、と草履が畳を踏みつける。梓は軽く息を吐いた。
「日本家屋では、履物は脱いで欲しいものだねぇ。ま、あの痴れ者に当たり前の躾を望む方が無茶か。何、言ってくれればきちんと認知したのにさ。君のお父上、何も残さず飛び降りちゃうんだもの」
侵入者の瞳が細まる。梓は悠然と微笑んだ。
「――それが、死者に対する言葉か」
「痴れ者を痴れ者と言って何が悪い。あの従兄弟を痴れ者にしたのは紛れもなく僕だ。まぁなんと、人間の脆さ儚さ頼りなさを実感する――っと!」
眉間狙って直線に飛んできた小刀を、札を使ってすんでのところで叩き落す。広い幣原本家、侵入者には誰も気付いていないようだ。
「……いや、とするともしかして、今魔法処でドンパチやってくれている彼らはもしかしてお仲間さん?」
「是。『あの方』の望みと我の望みは合致する部分があったのでな。――幣原梓。我の主君が一冊の本をお求めだ。引き渡せば命は助けてやろうとの言――もっとも、我は貴様を殺すから、どっちみち貴様は死ぬのだがなぁ!」
哄笑する目の前の不審者に、肩を竦めた。随分と楽しそうなことで。
「あー、本、本ね……日本魔法界も幣原も、全部ぶっ壊してもらって構わないけど、本は困るんだよなぁ――直兄に頼まれたものだからね。直兄に『守って』と言われた本、だからねぇ……!」
扇子を開く。忍ばせていた札を数枚指に挟み込むと、鉄扇を相手に向け、対峙した。戦闘など、何年、何十年振りであろう。ひょっとしたらかつて魔法処で学習した切りであるのかもしれない。そんな内心を顔には出さない。ただただ静かに、嗤っていよう。
梓が嗤うそれだけで、人はそうっと狂うのだ。
「本はやれないけど、存分に戦ってあげよう。君のお父上を壊し尽くした男だ。相手には申し分ないだろう……あの従兄弟の狂った情念は、僕が仕立てた。――来いよ、若造」
静かな狂気のおそろしさを、とくとその身に知るが良い。
「思う存分、壊してやろうぞ」
魔法連載主人公、どちらが好き?
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親世代主人公(幣原秋)
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子世代主人公(アキ・ポッター)
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その他(イチオシの子がいましたら……)