【完結】空の記憶   作:西条

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第25話 誰が為に君はいる

「今夜だ」

 

 ハリーは、声を潜めてロンとハーマイオニーに告げた。

 

「スネイプが仕掛け扉を破るなら今夜だ。必要なことは全部わかったし、ダンブルドアも追い払ったし。スネイプが手紙を送ったんだ。ダンブルドア先生が顔を出したら、きっと魔法省じゃキョトンとするに違いない」

「でも私たちに何ができるって……」

 

 ハーマイオニーが眉を寄せる。ハリーを気遣うように首を傾げ、躊躇いがちに聞いた。

 

「……ハリー、アキに協力を頼むことは出来ないの? アキは私たちよりも相当知識もあるし魔力もあるわ、一緒に行けば……」

「駄目だ」

 

 ハリーはにべもなく即答する。

 

「アキを巻き込みたくない。あいつを、危険な目に合わせたくないんだ」

「……そう言うと思ったわ」

 

 ハーマイオニーは嘆息した。ロンがおずおずと口を開く。

 

「でも、この前、その……アキとアリスに、洗いざらいしゃべっちゃったけど、大丈夫?」

「……でも二人は、スネイプが石を狙っていることは知らないよ。……きっと、大丈夫だ」

 

 最後は自身に言い聞かせるように、ハリーは呟いた。拳をぎゅっと握り締める。

 

 出来るだろうか、僕に、ヴォルデモートの企みを挫くことなんて。

 

 やっぱりアキも一緒に――そう思いかけた自身の弱い心を、ハリーは慌てて押し止めた。

 

 兄として、弟を危険に連れ込む訳にはいかない。

 だって僕は、アキのお兄ちゃんなんだから。

 

 アキを守る。絶対に。自身の命に換えても。

 

 静かに決意したハリーの肩越しを、ロンが顔に僅かに怯えの色を浮かべて見つめた。え、とハリーは振り返り――

 

「なぁ、アキって何処にいるか、知らねぇ?」

 

 アリス・フィスナーが、目を細めて仏頂面で立っていた。人相の悪さに、三人揃って硬直する。真っ先に金縛りから抜け出したのは、ハリーだった。

 

「み、見てないけど」

「あー、そうか……参ったな……」

 

 小さく舌打ちをし、アリスは乱暴に髪を掻いた。弾みで、雪印ピアスが揺れる。

 

「アキがどうかしたの? 何か急用?」

「いや、用という程の用じゃねぇんだけど。ちょっと胸騒ぎっつーか、妙な予感がしてな。何かやらかしてんじゃねぇのかって。最近何か考え込んでる様子だったし」

「考え込んでる? 一体何を?」

「それが分かりゃ苦労してねぇよ。言いたくねぇのならなって放っておいたけど、これなら無理矢理聞き出しておけば良かった」

「ら、乱暴なことはしないでね……」

 

 彼に殴られたら、華奢なアキなどひとたまりもないのではないだろうか。いや、アキは結構豪胆なところがあるから、一度口を噤むと決めたことはどんな手段でも喋らない奴だし……と考えたところで、背後から妙に愛想の良い声が聞こえた。

 

「やあ、こんにちは」

 

 慌てて振り返る。スネイプが、薄っすらと笑顔を浮かべて立っていた。思わず一歩後ずさる。初夏の日差しとスネイプ、こんな合わない組み合わせは、きっとどこを探してもないにちがいない。

 

「諸君、こんな日には室内にいるもんじゃない。もっと慎重に願いたいものですな。こんなふうにウロウロしているところを人が見たら……」

「先生。アキ、見てませんか?」

 

 アリスがスネイプの言葉を遮ったのに、ハリーは驚いた。自分よりも高い場所にあるアリスの顔を見つめる。まさか、よりにもよってスネイプに尋ねるなんて。スネイプも虚を突かれたように目を見開いてアリスを見ていたが、やがて口を開いた。

 

「……アキ、というのは、ポッターの……」

「あぁ、そうっす。ハリー・ポッターの弟の。あいつ、ちょっと今見当たらなくなっちゃって。先生なら知ってるかな、って」

「……いや、知らないな。……そもそも、我輩とアキ・ポッターに接点など、」

「ないって言うんすか? 最初の授業であんな啖呵切った奴と、そいつに最初に罰則申しつけた奴――失礼、先生との間で? それ以来お互いガン無視って、何かあったなって勘繰るのが普通でしょう」

「……貴様には何の関係もないことだ、フィスナー。……そもそも、アキ・ポッターは我輩のことを嫌っているだろう」

 

 アリスがスネイプの気を惹いている今のうちにと、ハリー達三人はそっとその場を離れた。

 

「いや、最初はそうだったんですがね。今は違うみたいっすよ」

 

 アリスの声が遠くで聞こえた。ハリー達は先を急ぐ。

 

「この前なんて、明け方に俺叩き起こすなり『セブルスだよ! スネイプ教授が幣原秋を救ってくれたんだ!』なんて言って……」

 

「……え? 幣原のことっすか?知ってますよ、アキの夢の話でしょう?」

 

「あいつ、朝はいっつも不機嫌なんですけどね……。まるで」

 

 

「悪い夢でも見てるように」

 

 

  ◇  ◆  ◇

 

 

 目が覚めたのは、何処かの一室だった。全体的に薄暗く、目が闇に慣れていなかったら殆ど何も見えなかっただろう。

 

「いっ……」

 

 身体を捩ると、手首に鋭い痛みが走った。どうやら、後ろ手に縛られているようだ。筋を違えたような手首の痛みにつられたか、思い出したように後頭部に鈍痛がやって来た。

 

 じんじんと熱を持つ頭の痛みを堪えながらも、ここに至るまでの経緯を思い出し、とりあえず(縛られているという絶対絶命な状況ながらも)まだ命があることに安堵する。

 

「……ここで死んだら、ハリーに相当怨まれるしな……」

 

 呟いて、ひとまず頭が通常通りの働きをしているであろうことを確認し(意識失う程強く殴られたし。これ以上阿呆になったらどうしてくれる)、現在の状況を把握。

 

 身体は、手首を縛られている以外は大丈夫なようだ。何やら椅子っぽいものに括り付けられている。しかし、手を縛られている以外は至って通常通り。足は動くし目隠しもされてないし猿轡も嵌められていない。

 

 ふと嫌な予感がした。慌てて確認すれば、やはりというべきか何と言うか、いつもローブに入れている筈の硬い杖の感触が感じられない。取り上げられたのか、抜目ないな。ぼくから魔力を取ったらただのクソガキしか残らないというのに。ぼくのアイデンティティーを取り上げやがって。

 

 ……なーんて、呑気なこと考えているけど、状況は随分切羽詰まっている。今までのおちゃらけは全て現実逃避に近い。

 

 そもそも――今、この状態になってみて分かる。先ほどのクィレルは、わざとぼくに後を追わせたのだ。

 

「初めの部屋の扉が一人でに開いたときに、気付いておくべきだったなぁ……」

 

 しかし、今更悔やんでも後の祭りだ。

 

「どーしたもんかねぇ……」

 

 生きてここを出られるパターンが見当たらないのだが。死亡フラグが直視するのも嫌なくらいに乱立している。

 

 ええいまだまだティーンエイジャー、彼女もいないのに死ねるか! まだ告白もしてないのに死ねるか!! と、可能性を暗中模索し――

 

「目が覚めたか、ポッター」

「…………」

 

 クィレルが靴音を響かせながら部屋に入って来た。鋭い瞳に負けないようにぎっと睨みつけ――クィレルの手にぼくの杖が握られていることに気付く。

 

「さて、お前にはいくつか質問に答えてもらわねばならない。全て正直に答えろ、お前の命は風前の灯であることを忘れるな」

「……どうせ正直に答えても、全て聞き出した後に殺すつもりでしょう? なら、素直に答える訳ないじゃないですか」

「幣原秋とお前の関係について、洗いざらい話せ」

 

 ぼくの言葉を無視し、クィレルは冷たい声を発した。思わず息を呑む。

 

「顔色が変わったな。何を知っている?」

 

 ぼくの表情を敏感に読み取ったか、クィレルが眉を上げた。ぼくは黙り込むことで、完全抵抗の意を示す。

 

「……ふ、だんまりか。お前、幣原の子供か? あいつは結婚してなかったが……まぁいい、忘れ形見ということか。ポッターの家に転がり込んだのも、全部幣原の策略だろう? 幣原は……」

「っ、ちょっ、ちょっと待って!?」

 

 クィレルの言葉を遮るように慌てて声を上げた。クィレルはその反応を待っていたかのように、薄く笑ってぼくを見つめる。

 

「何だ」

 

 思わず歯噛みする。今のはぼくから情報を引き出すための布石だった、そう気付きながらもその布石に乗らざるを得ない自分が悔しくてならない。

 

「……ぼくは、ハリーの双子の弟、ですよ。いくら似てなくても、ぼくとハリーはちゃんと血が繋がっていて、同じ両親から生まれた存在で、だからっ……」

「じゃあ何故、幣原秋を知っている?」

 

 鋭い声に、思わず詰まった。

 

 何故か? それは夢で、なんて、余りにもお粗末な答えじゃないか?

 

「お前が幣原秋を知っているのは『有り得ない』ことだ。幣原はもういない、あいつのことを語りたがる奴もいない。なのにお前と幣原は似過ぎている、他人の空似だとしても有り得ないレベルにな! お前も考えたことはないか? どうして自身の国籍は英国なのに顔立ちは東洋系――日本人なのかと! それにその髪型、幣原と同じ結び方! 幣原と同じ、呪文学に飛び抜けた才能!!」

「……だからって、ぼくが幣原秋の子供であるという馬鹿げた空想に根拠はない! ぼくがハリーの双子の兄弟であるという事実は揺らがない!!」

 

『根拠ならある。貴様がハリー・ポッターの弟ではないという、な』

 

 突然、ぼくのものでもクィレルのものでもない声が響いた。クィレルを追っていた時に聞こえていた、あの声だ。ぼくは思わず肩を震わせ、辺りを見渡す。

 

「ご主人様! あなたはまだ弱っていらっしゃいます、こんなところで力を使うのは……」

『クィレル、俺様はこいつと、アキ・ポッターと話をしたいがために、彼奴を生かしたのだ。今がその時だ……』

 

 クィレルは眉を寄せて俯くと、小さく「分かりました」と呟いた。

 

 そして――しゅるしゅると音を立て、ターバンを解いていく。解いた布を床に落とすと、くるりとぼくに背を向けた。

 

 クィレルの後頭部にはもう一つ、人の顔が存在していた。ヴォルデモートだ、と直感し、彼女がこの姿を『寄生』と表現したことに納得する。朱い目に鼻、口を持ったその顔は、ぼくを認めるとにやりと笑った。

 

『成る程、クィレルが言うのも頷ける……幣原秋に瓜二つの顔だ。クィレル、もっとアキ・ポッターに近付け』

 

 言われた通りにクィレルが――ヴォルデモートが近付いてくる。手を伸ばせば届きそうな距離で、ヴォルデモートはぼくを見下ろした。顔を背けたくなる欲求を堪えながらも、しっかと睨む。

 

『その目つき……思い出すねぇ。勇敢な奴だった、幣原秋は。認めようじゃないか、そう、幣原秋は、ダンブルドアの次に俺様が恐れた人間だった……よりによって闇祓いになるとはな。幣原秋のせいで、何人もの部下が捕らえられ、殺されたたことか……。さて、貴様は奴とほぼ同じレベルの能力を有していると聞く。奴の二の舞にならぬよう、先に勧誘しておこう』

 ヴォルデモートは、その顔に笑みを湛え、ぼくを見つめた。そして、言う。

 

『闇側につけ、アキ・ポッター。貴様と俺様が組めば、世界を征服するのだって容易いことよ。我等で、魔法使いにとっての理想の世界を築き上げようではないか』

「……馬鹿言わないでよ、ふざけてんの?」

 

 ぼくは吐き捨てるように言い放った。

 

「ぼくが、ジェームズ・ポッターとリリー・ポッターを殺しハリーを殺しかけた奴に下る? 馬鹿げてる! 『例のあの人』なんて恐れられていい気になってんの? 自分に逆らう人を殺して誰もいなくなった世界で神様気取ってそんなに楽しい!?」

「……そこまで啖呵を切ったのならば、殺される心の準備が出来ているということだな?」

 

 クィレルが憎々しげに呟く。無視して、ぼくはヴォルデモートを睨みつけた。

 

「純血史上主義? そんなもの馬鹿馬鹿しい!! マグル生まれの者を見下してマグルを人以下の者だと嘲笑い、自身に逆らう者は力でもって屈服させる、そんな門下に誰が望んで入るもんか! そもそもなぁっ……」

 

 大きく息を吸い込んだ。

 

 

「罪のない人々の命を犠牲にしての理想の世界なんて、ぼくは欲しくないっ!!」

 

 

 それは、完全なる、ぼくの。

 拒絶の言葉だった。

 

 あ、やべ、と、言ってしまってから後悔する。これは死ぬなぼく、殺されるなぼく。なんでこうぼくは短気なんだろうな、なんでみすみす命を投げ出すような真似しちゃうんだろうな! ごめんハリー、不甲斐ない弟はここで死にます! かっこよく啖呵切った挙げ句失言して殺されます!

 

 思わずぎゅっと目を瞑った。

 

『…………く』

 

 く? Crucioだろうか。恐怖に身を強張らせ――

 

『くくく……くはははははははは!! ははははははは!!!!』

 

 聞こえたのは、哄笑だった。驚いて目を開ける。

 

 蛇のような細い朱い瞳を見開いて、ヴォルデモートは笑っていた。その瞳に映る感情に、ぞくりと皮膚が粟立つ。

 

 ヴォルデモートがぼくを見る目は、先程までとはまるっきり違っていた。

 

 例えるならば――そう。

 

 まるで、サンタクロースが待ち侘びていたものを持ってきたような喜びと驚き。

 

 まるで、長年焦がれた人に出会ったような興奮と執着。

 

 まるで、お気に入りのおもちゃを叩き壊すかのような憐憫と愛惜。

 

 この目を、この感情を、ぼくは最近見たことがある。

 

 スネイプ教授が――幣原秋に向けた瞳と。

 まるっきり――同じもの。

 

『貴様が――貴様が!! 考えたな幣原秋!! 面白い、そう打ってきたか! くはははは!!』

「ご……ご主人様?」

 

 クィレルが怯えたように怖ず怖ずと尋ねるが、ヴォルデモートは答えない。代わりに、燃えるような感情をその瞳に存分に滾らせぼくを見据えた。

 

『貴様と杖を交えることを楽しみにしているぞ! 俺様がもう一度自身の身体を取り戻し、貴様がその能力を万全に奮える日を!! 全力の貴様と直接対決し、完膚なきままに叩きのめし、地に膝を尽かせその瞳に涙を浮かばせてやろう!!』

「なっ……」

 

 気付いた。

 

 ヴォルデモートは確かにぼくを見てはいるが、アキ・ポッターを見ている訳ではないことに。

 

 恐らく、これらの言葉を送られた相手は、ぼくではなく。

 

『なぁ? 幣原秋、貴様に言いたいことが一つある』

 

 ――幣原秋に向けての、言葉。

 

 ヴォルデモートは、嘲るような笑みを浮かべた。そして、あくまでも冷淡に言葉を紡ぐ。

 

『幣原秋。貴様がいなければ』

 

 聞いてはいけないと、直感が危険信号を光らせる。

 

 しかし手が使えない状態で、それを聞かないでいることなど、出来そうにはなかった。

 

『貴様がその身に強大な魔力を有していなかったら』

 

 その声は、甘美な毒のようにするりと心の中へと染み渡る。

 

『貴様さえ、いなければ』

 

 静かな声。聞いてはいけないと脳が判断を下す。

 

 その声に、先程までは感じ取れなかった悔恨の念が読み取れる。

 

 はたして――彼は、言った。

 

『俺様は、貴様の両親を殺すことはなかったのに』

 

 

『幣原秋。貴様のせいで、貴様の両親は死んだのだ』

 

 

 声に微かな皮肉を交えながら。

 ヴォルデモートは囁いた。

 

「……どうして、ぼくにそんなこと、言うんですか」

 

 ぼくは呟いた。

 声が震えないように腹に力を込めて。

 動揺を悟られないように虚勢を張って。

 

 動揺。

 ぼくの中の何かが――みぞの鏡を覗いた時に揺らいだ何かと同じものが。

 

 今のヴォルデモートの言葉に、酷く動揺している。

 

 なんだよこれ。

 なんだよこれ!

 

 なんでぼくがその言葉に動揺しなきゃいけない? ぼくは幣原秋じゃないのに、なんでその言葉が胸に刺さるの?

 

 ぼくは幣原秋じゃないのに。

 自己が揺らぐ、定まらない、気持ち悪さ。

 

 ぼくは一体誰なんだ!?

 

 その時クィレルが、静かに来訪者の存在を告げた。

 

「……ご主人様。一人、客人が黒い炎を通り、みぞの鏡の間へと来ています。恐らく――ハリー・ポッターかと」

「ハリーが!?」

 

 思わず叫ぶ。クィレルは無感情にぼくをちらりと見ると、何も言わずに床に落ちているターバンを拾い、元のように巻き付け部屋から出て行った。ぼくはぽつんと一人残される。

 

「……ハリー」

 

 ひとまず命の危険が過ぎ去ったことに対する安堵よりも、ハリー・ポッターが危険だということに対する恐怖が、全身を包んだ。

 

「……な、んで、ハリーが……」

 

 持ち前の好奇心でもって色んなことに首突っ込んでたからか、と思い至る。冷や汗がこめかみから垂れ、頬を伝う感触がした。

 

 ハリーが死んだら、どうしよう。嫌な想像が頭の中を駆け巡る。誰よりも何よりも大切な大好きな唯一の家族が死んだら、ぼくはどうなってしまうのか。恐怖で、身体が震えた。気を抜くとカチカチ音が鳴りそうな歯を食いしばる。俯いて、目を固く閉じた。

 

 考えろ。考えろ。

 ハリーを助けるためには、どうすればいい?

 

 この状況で。

 杖もない、身動きも取れないこのシチュエーションで。

 

「……………………あれっ?」

 

 身動きが取れない?

 いや、ただ腕を縛られているだけじゃないか。

 

「杖がない、だから何だって言うの?」

 

 杖がなくなったからといって、魔力までもがなくなった訳ではない。杖は所詮、魔力を精製し使いやすくするための道具であって、

 

 ……ならば。

 杖がなくても魔法は使えるのではないか?

 

「…………」

 

 実際、ぼくは念じるだけで火花を散らすことが出来る。そこには杖なんて必要ない、完全にぼくだけの力。

 

 その、ぼくの力を、信じてみようか。

 

 国を滅ぼすとまで言われた力を。

 幣原秋とほぼ同レベルだと言われた力を、信じて、みようか。

 

「……暴走とかしちゃったら、怖いなぁ」

 

 呟いて、一人で笑った。左手の人差し指をピンと伸ばすと、残りの指をぎゅっと握り締める。右手を、左拳を包むように添えた。

 

 目を瞑り、念じる。

 

 魔力を指先に集めるイメージ。原始的な魔力のカタチではなく、もっと応用の利くものへと、精製し練り上げる。

 

「Relashio!」

 

 瞬間、まばゆい火花が飛び散った。しかし見た目は派手だが呪文の効果は今ひとつ。それでもまぁ手首が動くようになっただけよしとしよう。

 

「Relashio! ……こンのヤロ、どんだけきつく縛ってんだよっ! Relashio! Diffindo! Moramrare!」

 

 呪文が利いたのか、それともあまりに乱雑に膨大な魔力を撒き散らしたせいかは分からないが、パァンッ!! とド派手な音と火花を辺りに散らして手首の拘束は解けた。筋が妙な具合になっているらしい左手を摩りながら、ぼくは立ち上がる。

 

「今行くよ、ハリー」

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