【完結】空の記憶   作:西条

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第24話 月白色の決意

「本当お前……っ、おンまえ……!」

「ごめんっ、ごめんなさい!! なんでもするから許してください!!」

「許せるかボケェ!!」

 

 とりあえず、先ほど脳内シミュレーションしていた通りに身体が動いた。と言っても、そう複雑なものではない。『胸倉を掴んで、殴る』ただそれだけだ。

 あぁ、それにしても随分と腕の筋肉が落ちている。腕だけじゃない、全身も、鍛え直さなければ。

 聖マンゴじゃ必要最低限のリハビリだけしてとっとと退散したから、力が完全に戻っていないのは仕方がない。それでも、目の前のピーターをよろめかせ尻餅をつかせる程度の威力は発揮出来たようだ。

 一発じゃ怒りが収まらないと再びピーターを引っ張り起こそうとした時、周圍のざわめきが耳に入る。

 

 騒ぎを聞きつけ、いつの間に集まってきたのか。子供たちは遊びの手を休め目を大きく開いてこちらを見ているし、大人たちはこちらを見てヒソヒソと話している。こりゃ通報されるのも時間の問題だった。

 

「……行くぞ」

 

 ピーターの腕を掴むと、そそくさとその場を去る。

 ピーターは頬を抑えながらも立ち上がると「ど、どこに?」と尋ねた。正直なところ、場所のアテは一切ない。しかしここにはいられないということは確かだった。

 

 物陰で『姿くらまし』する。集中し切れていなかったからか、今どこに自分が立っているのかを把握するのに時間が掛かった。

 潮風香る丘の上だ。ホグワーツに入学するずっと以前、家族四人でピクニックに訪れた場所だと、遅れて思い出す。少しノスタルジックに浸っていたのか。

 辺りを見回しても、人は誰もいない。ならまぁ構わないか、と判断し、ピーターと向かい合った。

 

「……お前さぁ」

 

 本当は、もっと違う言葉を言うつもりだったのに。

 ピーターの姿を見たら、思わず本音が零れた。

 

「……禿げたなぁ」

「なっっ!?」

 

 てっきり責められると思っていたのだろう、ピーターは思わぬところを突かれ愕然とした表情を浮かべた。

 いや実際シリウスも()()()()責めるつもりだったのだが、ピーターの頭を見ると気が抜けた。四年前にも一度『叫びの屋敷』で会いはしたのだけれど、その時は暗かったことと雰囲気も相まって、そちらには一切指摘しなかったのだ。

 

「いや……なんか、悪かったよ……」

「その反応やめてくれない!? 傷つくから!! というかシリウスたちが変わらなさすぎるんだい!!」

 

 そっとかつての友の頭から目を逸らす。ピーターは薄くなった頭に手を遣ると、うぅ、と小さく呻いた。

 

「仕方ないじゃないか……いい年なんだ」

「その『いい年』すら迎えることが出来なかった奴らのことをお忘れじゃねぇの」

 

 冷たい口調で言い放つ。

 ビクリとピーターは肩を揺らして、伺う瞳でこちらを見上げた。その卑屈な態度に、思わず舌打ちをした。

 

「お前のことは、ジェームズとリリーの墓前で土下座させてやんねぇと気が済まねぇが……それは後だ。とりあえず、アキについて知っていることを全部話せ」

 

 ピーターは目を瞬かせたが、一睨みしてやるとすぐさま口を開いた。自身の持つ情報と組み合わせ、推論を多分に混ぜ込みながらも、恐らくこういうことだろうと背景を組み立てる。いくつか疑問点を述べ、それに返ってきた話で、推論を補強した。

 

「……しっかしまぁ、いくらかつての友だからって、よく親友裏切った奴を使う気になるよなぁ、あいつも……」

 

 頭をガシガシと掻く。その辺りは、流石レイブンクロー生らしいというか、使えるものは何だって使うという考えの表れか。グリフィンドールである自分にはない考えだ。

 

『グリフィンドールもスリザリンも、どちらも黒は黒、白は白だとしか見られない奴らだ――でもさ、君なら。グリフィンドールでもスリザリンでもない、君ならば。黒と白の間の、何千、何万とある色から、ちょうどいい色を見つけることが出来るんだと、俺はそう思いたいよ』

 

 ふと、かつての自分の言を思い出した。

 これは確か、自分が幣原秋に対して語ったものだ。もうあれから十年以上経っているというのに、案外覚えているものだ。

 

 ――これが、君の選んだ色だというのか。秋……いや、アキ。

 心の中で呟くと、立ち上がった。

 

「……これから、どうするの?」

 

 途方に暮れた瞳で、ピーターがシリウスを見上げる。学生時代、よくこの瞳を見ていた。こんなに時が経っても、ピーターが自分に向ける眼差しは変わらないのか。

 

 つくづく、いろんなことが嫌になる。

 

 許した訳ではない。許せはしない。しかし、一時の間だけでも受け入れることくらいは、ジェームズも許してくれるだろう。

 いや、もうジェームズは何もかも「仕方なかった」と笑って受け入れて、自分たちを見下ろしているのかもしれない。昔っから、いつもどこか達観した、物を上から見下ろすタイプの奴だった。

 

「リーマスを探して合流したい。お前リーマスん家に遊びに行ったりしてただろ、かつての実家とか……まぁ、そんな分かりやすいところにいるとは思えないけどさ。でも何かの手掛かりがあるんじゃないかと思う。片っ端から、そういうところを虱潰しに回って行く――お前も着いて来るんだからな、分かってるか?」

「わ、分かってる! 分かってるよ。……そうだ、シリウス……」

 

 ふとピーターは首元をゴソゴソと探った。そして出てきたのは、チェーンがついた水晶が三つ。

 どこか見覚えがある気がしなくもないが、既視感の出処は分からなかった。

 

「秋が……あの『黒衣の天才』幣原秋が『絶対』の単語を使い保証した御守りだ。一度だけ、持ち主を災厄から守ってくれるのだと言う……持っていて」

「……お前から受け取るというのは、気に入らないが」

 

 ピーターの手から水晶をぶん取ると、首に掛け、シャツの下にしまい込みながら口を開いた。

 

「秋の言葉だと言うのなら、それを信じよう……折角、あいつから貰った命なんだ」

 

 服の上から、軽く水晶を叩いた。

 

「今更砕くのは、あまりに勿体ない」

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