【完結】空の記憶   作:西条

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第31話 銀色の信念

 ハリーとロン、ハーマイオニーは『透明マント』を脱ぎ捨て、慌てて秋に駆け寄った。

 秋は呆然とその場に立ち竦み、倒れたセブルス・スネイプを見下ろしている。アクアは青ざめた表情で、秋の腕に縋って震えていた。

 

 ハリーはセブルスの前に跪く。セブルスの昏い瞳が、ハリーを見つめた。

 

「これを……これを、取れ」

 

 銀の霞が、口やら耳やら目やらから溢れ出る。ハーマイオニーがハリーにフラスコを押し付けた。ハリーは震える手で、その銀色を全て汲み入れる。

 

「僕を……見て……くれ……」

 

 セブルスがハリーに囁いた。そして重たい瞼が閉じられる。

 

「……っ、許すかよぉ……!!」

 

 悲鳴にも似た声だった。

 秋はセブルスに駆け寄ると、なりふり構わず杖を傷口に押し付けた。灼き焦がすような青白い光が、杖先から零れ出る。渦巻く風が、周囲の瓦礫をもカラカラと揺らした。

 浄化の魔法、と、ハーマイオニーは震える声で囁いた。

 

「誰一人失うことは許さない!! アキもそうだ……ぼくだってそうだ!!」

 

 パキリ、と軽い音が響く。音の源は、秋が手に持つ杖だった。パキパキピシリと、杖にヒビが入って行く。

 どれだけ膨大な魔力を、こんな細い杖に流し込んでいるのか。額に玉の汗を浮かべながらも、それでも秋は魔法を流し込むことを止めない。

 

 やがて――呆気ない音と共に、杖が砕け散った。破片が血の海へと降り注ぐ。

 しかし秋は何一つ構うことなく、そのまま左の人差し指と中指を傷口に当てた。

 

「生きて、生きて、生きてくれよ!! なぁっ、セブルスッッ!!」

 

 呆然と秋を見下ろしていたハリーの袖が引かれた。アクアだった。静かな決意を秘めた瞳で、ハリーを見つめている。

 

「……ハリー。あなたは行きなさい」

「……っ、でも」

「行くの!! 彼の思いを無駄にしたくなかったら、早く!!」

 

 アクアが叫ぶ。行きましょう、とハーマイオニーは決然とハリーを促した。

 このままセブルス・スネイプとアキを置いておくのは気が引けた。しかし、何一つ自分にはやれることがないということも、理解していた。

 

 そのとき、冷たい声が響き渡った。思わずビクリと周囲を見回す。ヴォルデモートの声だった。

 

「ハリー・ポッターよ。一時休戦、と行こうではないか。俺様はこれから一時間『禁じられた森』で待つ。もし一時間の後に貴様が俺様の元に来なかったならば、降参して出て来なかったならば、戦いを再開する。そのときは、俺様自身が戦闘に加わるぞ、ハリー・ポッター。そして貴様を見つけ出し、貴様を俺様から隠そうとした奴は、男も女も子供も、最後の一人まで罰してくれよう。――一時間だ」

 

 秋は、それらの声が一切耳に入っていないようだった。ただただ一心に、目の前のセブルス・スネイプを見据えている。

 

「……っ、アキを頼む」

 

 アクアは頷くと、躊躇いながらも口を開いた。

 

「……あなたが死ぬことを、アキは望まない。アキのためにも、あなたは生きて……アキを悲しませたくは、ないでしょう」

 

 頷くことは出来なかった。

 アクアの視線から逃げるように、ハリーはロンとハーマイオニーを促すと、その場に背を向けた。

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