夏休み真っ只中。
朝からぼくは、幣原家で取っている新聞の一つ、イギリスのマグルの新聞を読んでいた。
何が楽しいかって、自分が2年前はさっぱり読めなかった、読もうとも思わなかった英字の新聞を、今のぼくはサラサラと読めてしまうことだよね。
こういうことに楽しみを感じるぼくは、中々どうして勉強というものが好きらしい。知識が増えていくことが快感と感じることはもちろん、勉強という行為自体が苦にならないんだから。
2学年が終わり、夏休み。何か新しいことでも始めてみようか、と思い開始した『新聞斜め読み』も、そろそろ一ヶ月が過ぎようとしている。
我が家の新聞は数が多く、普通の地域の新聞、経済新聞、日本の魔法使いや魔女向けの新聞である『魔導士通信』や、当然ながら日刊預言者新聞、そしてイギリスのマグルの新聞と、ざっと5種類もの新聞がある。
これだけに目を通すのは意外と大変だけれど、慣れてくると結構面白い。地域や文化ごとで、同じ出来事でも捉え方が全く違ったりする、それが興味深いのだ。
今日のイギリスのマグルの新聞は、センセーショナルなものだった。ぼくは何ともなしに、その見出しを呟く。
「『民間人八人惨殺、犯人の手がかりは未だ見つからず』――物騒な記事」
その記事に対する興味は、しかしそこまでだった。
少なくとも、この時は。
◇ ◆ ◇
友人と遊び疲れて、ベッドに入ったのは午後8時。いくら何でも早過ぎる。
ふと目が覚めた時、時計は午前1時を指していた。日付が変わるまで起きていた経験がないぼくにとって、この時間はまさに未知の時間帯だ。
トイレにでも行こうかとベッドから降り、部屋をそっと抜け出す。廊下を歩いてトイレに向かう途中、開いた扉の隙間から居間の電気が漏れているのが見えた。
閉めようと近付いた時、父親の深刻そうな声が聞こえ、思わず伸ばした手を引っ込める。
「……話し合ってみたい」
「何とかなる相手じゃないよ。分かってるでしょ?」
母が珍しく、きっぱりと反対した。
「話し合いなんかで何とか出来る人じゃない。多分、もうすぐ――『始まる』」
「それでも。……友達だ」
母は少しの間黙った後、「友達、ねぇ……」と含みを持たせて言った。
「向こうはきっと、直さんのこと、友達なんて思ってないと思うけど」
「…………」
聞いちゃ、ダメな話のようだ。そう思って回れ右しかけた時、ふと、父の言葉が耳に入った。
「ねぇアキナ。僕はね、こう思うんだ。魔法は、皆を笑顔にするためのものなんだって」
その言葉に――ジェームズを思い出した。
『魔法ってのは、皆を笑顔にするためのものだろ?』
なんてことないように、そう言い放ったジェームズ。その姿が、眩しくて、明るくて――
「それを、もう一度――あいつに、分からせてあげたいんだ」
ぼくは静かに、ドアから離れた。
イギリスに戻る日は、あと10日に迫っていた。
◇ ◆ ◇
「決闘クラブ?」
玄関ホールの掲示板の前で、ぼくは首を傾げた。
レイブンクロー生は、基本的に朝が早い。基本的に、規則正しい生活を送る優等生が集う寮なのだ。ぼくみたいな。
……じ、自分で言うくらいいいじゃないか。優等生だよ? ぼく。多分。
……まあ、いい。そんな訳で、朝大広間に最初に足を踏み入れるのは、大体レイブンクロー生だったりする。
早起きした、ゆっくりとした時間の中で、あと15分もしたら込み合う掲示板もゆっくりと見ることが出来る。
そこで、貼り出してあった一枚の羊皮紙を見つけたのだ。
「『決闘クラブ』の案内……決闘を教えてくれるんだ!」
「今夜8時が第一回目か。アキ、行く?」
「ぼくは行くよ。何かで役に立つかもだしね」
後ろの声に返事をして、ぼくは羊皮紙を再び見上げた。
ハリー達は来るのだろうか。あいつらのことだから、面白そうなものには大体首突っ込んでくるし、来てもおかしくない。なら、行くのもいいかもしれない。
気がかりなのは、アリスの方だ。めっきり顔を合わせる機会が減ってしまった。
まず、寮に帰ってこない。これは相当な問題で、一日二日程度ならまだしも、一週間ともならば、無断で外泊するのはご法度だ。先輩や先生方に知られたら大変なことになる。
今のところは何とか身内だけで事を収めているが、これからも長引くとなると、どうなることか保証できない。
授業は、たまに出てきたり、来なかったり。その際もぼくとは離れた場所に座るし、授業が終わるとすぐさま姿をくらますから、今やアリスを捕まえることは至難の技となっていた。
同室の奴らはもう呆れたように諦めていたけれど、ぼくまで諦めてしまったら、一体誰がアリスを信じてやれるというんだ。
友達だと名乗るなら、諦めちゃいけないだろ。
アリスはこれに、顔を見せるだろうか。
正直、可能性は非常に薄い。けれども、行ってみることにした。
◇ ◆ ◇
行ってすぐ、この中からアリスを見つけることは、たとえアリスがこの中に混じっていたとしても、見つけられはしないだろうということが分かった。それくらい、大広間には人が溢れていた。
普段のテーブルは取り払われ、壁に沿って金色の舞台がででんっと据え置かれている。全校生徒のほとんどが集まっているだろうこの空間は、各々がテンション高めに喋り合い、とても騒がしい。
と、いきなり前方にて、しゃべり声が止んだ。伝染するように、静かに声が静まっていく。先生が入ってきたのだ。
そういえば、決闘クラブを教えるのは誰なのだろう? もしかしてリィフだろうか。
そう思って背伸びをし、教師の姿を見つけた瞬間、軽く絶望した。
ギルデロイ・ロックハートだ。きらきらとした深紫のローブを纏っている。早々と今日来たことを後悔し始めたぼくだったが、後ろに控えている人物を見て、思わず声が漏れそうになった。
スネイプ教授が、もんの凄い仏頂面で腕を組み立っている。今にも誰かを(具体的にはロックハートを)呪い殺せそうなオーラを放つ姿は、圧巻の一言に尽きた。
というか、何故そこでスネイプ教授をセレクトしたのだろうか。ロックハートを講師に選任したのも十分に意味不明だが、スネイプ教授がロックハートの助手をする、というのも解せない。
本当に罰ゲームなのか、そうなのか。
「静粛に。みなさん、集まって。さあ、集まって。みなさん、私がよく見えますか? 私の声が聞こえますか? 結構、結構!」
ロックハートは上機嫌に、観衆に手を振った。これでもまだ、騙されている女の子たちは多いようで、黄色い声があちこちから飛ぶ。
いいなぁ、羨ましいなぁ。ぼくもあのくらいのイケメンに生まれたかった。
「ダンブルドア校長先生から、私がこの小さな決闘クラブを始めるお許しをいただきました。私自身が、数え切れないほど経験してきたように、自らを護る必要が生じた万一の場合に備えて、みなさんをしっかり鍛え上げるためにです――詳しくは、私の著書を読んでください。では、助手のスネイプ先生をご紹介しましょう」
そこで、ロックハートは満面の笑みで、スネイプ教授を右手で指し示した。彼はスネイプ教授が放つ圧倒的な負のオーラに気付かないのだろうか。気付かない方が、いっそ幸せなのかもしれない。
「スネイプ先生がおっしゃるには、決闘についてごくわずかご存知らしい。訓練を始めるにあたり、短い模範演技をするのに、勇敢にも、手伝ってくださるというご了承をいただきました。さてさて、お若いみなさんにご心配をおかけしたくはありません――私が彼と手合わせしたあとでも、みなさんの魔法薬の先生は、ちゃんと存在します。ご心配めさるな!」
多分誰も、スネイプ教授の心配なんてしていない。
ぼくはむしろ、ロックハートが心配になってきた。スネイプ教授、まさか本気でロックハートをぶっ飛ばすつもりじゃないだろうか。全校生徒の前で恥をかかせる、とか。
曲りなりにも教師なのだから、流石にそれはないか。
ロックハートとスネイプ教授は、向き合って一礼した。そして杖を剣のように前に突き出して構え、その体勢のまま止まる。
「ご覧のように、私たちは作法に従って杖を構えています。三つ数えて、最初の術をかけます。もちろん、どちらも相手を殺すつもりはありません」
いや、あられたら困るけど。お互いに。
「1――2――3――」
「エクスペリアームズ! 武器よ去れ!」
ロックハートが数を数え終わるのと同時に、スネイプ教授が叫んだ。紅の閃光が教授の杖から迸り、ロックハートに命中する。
ロックハートは十数メートル後ろに吹き飛ぶと、壁にぶち当たってようやく止まった。数人の生徒が歓声を上げる。何気に全部男だ。
ロックハートはよろよろと立ち上がると、舞台によじ登ってきた。
「さあ、みんなわかったでしょうね! あれが、『武装解除の術』です――ご覧の通り、私は杖を失ったわけです――あぁ、ミス・ブラウン、ありがとう。スネイプ先生、たしかに、生徒にあの術を見せようとしたのは、すばらしいお考えです。しかし、遠慮なく一言申し上げれば、先生が何をなさろうとしたかが、あまりにも見え透いていましたね。それを止めようと思えば、いとも簡単だったでしょう。しかし、生徒に見せた方が、教育的によいと思いましてね……」
教授の凄まじい形相を見て、ロックハートも流石に気付いたらしい。
「模範演技はこれで十分! これからみなさんのところへ下りていって、二人ずつ組にします。スネイプ先生、お手伝い願えますか……」
教授らが、生徒たちの群れの中に混じっていく。それを何となく見つめ、ふと視線を壁に遣ると、そこにはリィフ・フィスナーが立っていた。静かな、というと聞こえはいいが、冷ややかな瞳で会場を見渡している。
幣原秋が二年生の時までは、リィフはセブルスと接点はなかったけれど、それから二人が友達になっていても不思議ではない。
大人になった今、二人は何かを話しただろうか。学生時代のことを思い返し語り合うことを、果たして二人は行うだろうか。
その中の話題に、幣原秋は上るのだろうか。
ぼくの知らない幣原について、二人は語るのだろうか。
「アキ・ポッター。貴様はこちらで見ていたまえ」
と、急に後ろから肩を叩かれて驚いた。見上げると、そこにはスネイプ教授の姿。不機嫌そうな仏頂面で壁際を指差している。
「え?」
「え、ではない。貴様が他の生徒に対して術をかけるなど、考えただけでも身の毛がよだつ。誰かを怪我させる前に離れたまえ。もっとも、ここでにっくき相手を葬っておこうという考えならば、悪くはないと思うがな」
いつも通りの無表情だが、台詞から考える限り、教授はだいぶ機嫌はいいのだろう。ロックハートを吹っ飛ばせたからだろうか。
促されるまま壁際へと寄り、背中を預ける。間に柱を挟み、少し離れた場所に教授も立った。
「相手と向き合って! そして礼!」
壇上に立ったロックハートが号令をかけている。皆のざわめきをどこか遠くで聞いていると、不意に近くで声がした。
「おや? えっと……アキ・ポッター君。君はクラブに参加しないのかい?」
いつの間にか、リイフ・フィスナーが、穏やかな笑顔と共に話しかけてきた。この前話したときとは違う、大人の立場として、生徒に話しかけるような雰囲気。
口を開こうとしたが、しかしスネイプ教授が口を挟むのが早かった。
「彼は他の生徒と比べて、いささか魔力が強すぎるのでな。見学という訳なのだよ、フィスナー」
「……おや、セブルスじゃないか」
リィフの雰囲気が変わったのが分かった。同時に、教授の雰囲気も。
生徒達が、言わば和気藹々としている中、ここだけが空気が張り詰めている。
「それでも、一人だけ見学なのは可哀想じゃないか? アキだって、きっと友人らと一緒に新しく習った術を試してみたいだろうに」
「余計なことを言わないで頂きたい。教師である我輩が決めたことに、横槍を出さないでもらおうか」
「別に私は、教育に口を挟もうとしている訳ではないのだけどね。しかし、いささか過保護過ぎやしないかい?」
「何が言いたい」
「あいつと似てるからって、特別扱いしてんなよってこと」
吐き捨てるように言ったリィフの言葉に、思わずどきっとした。
「……あいつとは違う。彼はあいつよりも魔力自体は小さいし、今までそれで事故を起こしたこともない。あいつよりも魔力の練り方は上手い」
「じゃあ参加させてあげればいいじゃないか」
「それとこれとは話が別だ。これは相手に直接魔力をぶつけるものだ。まだまだ未熟な生徒が生身で喰らったら、本当に怪我しかねない」
「だから教師の立場として止めるしかない? よく言うもんだね。さすがは『秋の一撃を喰らった本人』だ――経験者は語る、とはこのことかい?」
すぐ隣で会話が飛び交う。ぼくは出来る限り身体を小さくさせ、それでも一言一句聞き漏らすまいと耳を澄ませていた。
「今彼に対して世話を焼いているのは、昔に対する罪滅ぼし? あいつにそっくりなこの子にあいつを投影させて、それで償っているつもり?」
「――違う」
「いいや、違わないね。私は君とは違う立場で、ずっとあいつの近くにいた。あいつが命を絶つ一ヶ月前まで、あいつの傍にいたんだ。君とあいつの関係性を、それが崩れていく過程も結末も、私は全てを見てきた。だから言っているんだ」
「じゃあ何故、貴様はあいつの死を止められなかった」
鋭く、教授が言った。リィフがぴくりと身じろぎをする。
「近くにいたと主張するなら、どうしてあいつの闇に気付いてあげられなかった。どうして、あいつを救ってやれなかった。所詮、貴様も騙されていただけだ。あいつの見せ掛けの笑顔に。真綿で抱きしめられるようなあの嘘吐きに。全ての暗闇を隠す、あの優しさに。
騙されていただけなのだよ、リィフ・フィスナー。貴様も私と同じだ。共に罪深く、共に穢れを背負っている。貴様に私を断罪する権利などない。私に、貴様を糾弾する権限がないのと同様にな」
それから、お互い黙り込んだ。気まずい沈黙が、ぼくらを支配する。
「……いつまであいつの幻想を追っているつもりだか」
そう言い捨て、リィフは教授から離れていった。騒がしい教室を見回るように、ゆっくりと壁沿いに移動する。
さっきまでの重たい雰囲気など感じさせない暖かな笑みを浮かべていた。
「アキ・ポッター」
急に低い声で名前を呼ばれ、思わずびくっと肩が震えた。そっと教授を窺う。
「今の会話は他言無用だ。いいな。質問もするな」
教授はぼくを見ずに、そう呟いた。
「……はい」
深呼吸をし、壁にもたれる。
ぼくにとって、幣原秋は何者なのだろう。
そして。
幣原秋にとって、ぼくは何者なのだろう。
そんな、答えなんて出ないことを、ぼんやりと考えていた。
「さて、誰か進んでモデルになりたい組はありますか?」
ふと気付けば、さっきまで阿鼻叫喚の大騒ぎ(視界に入っている中でも、吹き飛んだ杖を探しあたふたする者、口論から発展して喧嘩になっている者、上手く術が掛けられなくて四苦八苦している者、術なんて掛けずにずっとおしゃべりに興じている者、はたまた全然違う呪いを掛け合っている者、など。シリアスな雰囲気をぶち壊さないためにも黙っていたのだ)だった大広間が静かになっている。
ロックハートは生徒の間を歩きながら、どうやら決闘の生徒のモデルを探しているようだ。
と、そこにスネイプ教授が(いつの間にそんなところに行ってたのか!)「マルフォイとポッターはどうかね?」と嫌味な笑顔で推薦した。
ハリーの姿を探すまでもなく、二人は舞台の上へと上がる。やっぱり、ハリーも来ていたのか。帰りは上手く捕まえて、少しの間でいいからおしゃべりしたいな。
ハリーにロックハートが、ドラコにスネイプ教授がそれぞれ何やら助言した後、舞台にはハリーとドラコだけが残された。
ロックハートが掛け声を掛ける。
「1,2,3、それ!」
ハリーが杖を振る。がしかし、ドラコの方が速かった。
「サーペンソーティア!」
ドサッ、と、何かが空中から落下する音が聞こえる。と同時に、舞台の周辺にいた生徒が悲鳴を上げて後ずさりした。
その隙にぼくは彼ら彼女らの間を掻き分け、舞台に近付こうと試みる。
ぱっと視界が開けた先に見たものは、黒光りする大きなヘビと、ヘビに威嚇され動けない、あの子は確か……ハッフルパフの、ジャスティンだっけ?
思わず杖を取り出しかけたぼくの耳に、その時、聞き慣れない音が――否、言葉が、飛び込んできた。聞き慣れない、でも、不思議と聞き覚えのある声に、自然と音の発信源を探す。
聞き覚え、だなんて、今更のこと。
だってぼくらは双子なんだから。
一体何年間、一緒にいたと思ってるの?
ハリーが、何かをヘビに向かって呟いていた。しかしその言葉は、ぼくらには決して聞き取れない種類のもので、ジャスティンもドラコも、ハリーの声が届く誰もが皆一様に、怯えた顔をする。
ヘビが、ハリーを向いた。一人と一匹が、数刻、見つめ合う。
ぼくの知らないハリー・ポッターが、そこにいた。
ぐいっといきなり、横から押しのけられる。ぼくの前に出てきたスネイプ教授は、無言で杖を振り、ヘビを消した。
ハリーが安心したように息を吐き、肩を下ろしたところで――静まり返っている大広間の現状に気付き、きょとん、とする。
その顔は、ぼくの知っているハリーそのもので、どうして皆がそう静かなのか理解出来ないといった顔が、ひたすら愛おしく思えた。
何の偶然か、因果か。ふ、とその時、舞台に立つハリーと、目が合った。
ハリーは助けを求めるような顔でこっちを見たが、は、と表情を強張らせる。
その顔を見て初めて、自分が険しい顔をしていたことに気付いた。
「あっ……」
ハーマイオニーとロンに引っ張られ、ハリーが舞台から降りた。そしてそのまま、人に紛れ、姿を消す。
ひそひそと、ざわざわと。生徒の囁き声が、まるで意志を持っているかのように集団となり、唸りを上げるのが分かった。
ヘビ語使い
パーセルタング
襲われる
スリザリン
の
後継者
単語しか聞き取れないそれは、どう頑張っても好意的にはならない感情からのもので。
この悪意が、この負の感情が、ハリーに、ぼくの大切な人に向けられているのは、我慢ならなかった――いや、そんなのは言い訳だろう。
ぼくは多分、償おうとしたのだ。
さっきハリーに向けてしまった表情を、取り繕おうとしたのだ。
今更。
舞台に飛び乗る。この場にいる皆の注目が集まるのを感じながら、叫んだ。
「ハリーはスリザリンの後継者なんかじゃないっ!」
皆のざわめきが、一気に止む。身を切るような静寂の中、ぼくはもう一度叫んだ。
「ハリーは誰も襲ったりしない! あいつはぼくのっ、誰よりも大事な人なんだっ!!」
多分、おそらく、きっと。誰もが動きを止め、ぼくを見ていただろう。
ある者は、好奇の視線を。ある者は、奇異なものを見るかのような目線を。
ある者は、関心なく、ぼくを見ていただろう。
ぼくの声は、広い大広間中に反射し、無意味に反響した。
誰も、ぼくの声に反応を返す者はいなかった。
やがて、ぼくはスネイプ教授に無理矢理壇上から引き摺り下ろされ、友人らに引き渡される。背後でロックハートがお開きの口上を述べているのを聞きながら、ぼくは大広間から、そして部屋まで、無言で連れて行かれた。
誰も口を利かなかったし。
ぼくも、誰とも口を利かなかった。