【完結】空の記憶   作:西条

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第34話 友情

 結局、シリウスとセブルスは決別したらしい。仕方ない、と言われれば、確かに仕方がないのかもしれない。

 

 シリウスの実家はスリザリン気質で、シリウスはそれに猛反発しているということを、後からジェームズに教えてもらった。一家全員がスリザリン出身の中、シリウスだけがそれに逆らうようにグリフィンドールに入ったのだという。シリウスが生まれた家はかなり有名な名家で、その直系の長子がグリフィンドールだということは、ブラック家にとっては相当な衝撃だったそうだ。

 

 そんなシリウスと、スリザリン寮所属のセブルスは、最初から相容れない存在だったのだろう。むしろ、よく『()った』というべきなのかもしれない。

 犬猿の仲だとは思っていたが、そんな事情があったとはさっぱり知らなかった。

 

 ぼくには遠く及ばない、知らない世界の話、そんな気分にさせられる。

 ぼくは無力で、何も出来なくて、全ては終わった後で――

 

 本当に? 

 本当に、ぼくは何も出来なかったのか? 

 何かをすることは、出来たんじゃないのか? 

 全てが終わる前に、何かを為すことが、本当は出来たんじゃないのか? 

 ただ、やろうとしなかっただけで。

 出来ないと思い込もうとしただけじゃないのか? 

 分からない。

 全てが終わってしまった今、全てはただの夢物語で、ただの夢想だ。

 

「で、君はどうしたいんだい?」

 

 ジェームズがそう尋ねた。

 

「君とエバンズは、ただただ僕のわがままで連れてきただけだ。このグループに、明確な名前はない。目的もない。だから秋、抜けたかったらいつでも抜けていいんだよ」

 

 ジェームズ達には、『悪戯仕掛人』という明瞭な名前がある。それに対してぼくらが加わった後は、しっかりとした名前もない、ふわふわとしたものだった。

 

 でも、グループに名前なんて必要なのか? そんなにしっかりとした拠り所がないと、集まることは出来ないのか? 

 

「そんなことはないさ。ただ強制力はない。『悪戯仕掛人』では僕が一応のリーダー的な役割を持ってるけど、このグループはそんなものはないし、必要もない」

 

 ぼくはただ、皆でずっと一緒にいたかっただけなんだ。

 それだけだったんだよ。

 

「知ってるよ、秋」

 

 ジェームズは僅かに笑った。

 

「秋。最初も言っただろう? 僕は君と、友達になりたいだけなんだって」

 

 友達。ジェームズは確かにそう言った。

 ぼくはこれから、どうすればいいんだろう? 

 そう尋ねると、ジェームズは困ったように眼鏡の奥の目を細めた。

 

「それは、君が決めることだよ」

 

 ジェームズの言う通りだった。ぼくはいつも、行動の理由を誰かに求める。

 そろそろ、自らの意志で歩き出さなくてはいけない。

 進む方向くらいは、自分で決めなくてはいけないんだ。

 

「君がやりたいようにやればいいんだ。君の人生は、君のものなんだから」

 

 ぼくがやりたいこと。

 ぼくが求めるもの。

 ぼくは――

 

「ぼくは、ぼくが好きな人たちと、ずっと一緒にいたい」

 

 左の手を、ぎゅっと握り締めた。

 

「守られるんじゃなくて、ぼくが、守りたい」

 

 今まで散々守られてきた。

 セブルスに。リリーに。ジェームズ達に。

 居場所がなかったぼくに、ここにいていいんだと言ってくれた。

 悪意から、ぼくを守ってくれた。

 それはとてもありがたい行為で、感謝しても仕切れない。

 

 でも、もう守られてばかりではいたくない。

 ぼくにだって、皆を守る力くらいはあるはずだ。

 

「君の好きにするといいよ、秋」

 

 そう言ったジェームズの口調は、暖かかった。

 

 

 ◇ ◆ ◇

 

 

 全ての真相をハリーがダンブルドア先生とマクゴナガル先生に説明した後、ぼくとアリスはハリー達と別れ、レイブンクロー塔に向かった。

 途中、宴会へと向かうパジャマ姿の学生に何度か遭遇し、そのたびにぼくらは軽い英雄扱いをされた。ぼくもアリスも、そんな扱いには慣れていない。肩を竦め通り過ぎるだけで精一杯だ。

 

「宴会に参加しなくていいのか? お前、そういった行事ごと大好きだろ」

「流石に今回はね。ダンブルドア先生にも伝えたし。それよりいいの? アリスは」

「興味ないな」

「そ」

 

 あらかたの人間は、宴会が始まる大広間へともう行ってしまっている。人気がないレイブンクロー塔を昇り、ぼくらは寝室へと辿り着いた。

 

「……っ、……あった」

 

 やはりというべきか、幸いに、というべきか。

 自分の机の上に、無造作にリドルの日記の数ページが置いてあることに、小さく息を詰めた。

 

 ハリーが壊した日記帳。しかし、そのページは、今も尚、ぼくの手元に存在する。

 

 引き出しからインク壷と羽根ペンを引っ張り出すと、震える手で羽根ペンにインクをつけた。

 

『リドル?』

 

 そう疑問符付きで書き込むと、インクは一瞬だけ光って、やがて吸い込まれるように消えた。しばらく、祈るような気持ちで待つ。

 

 やはり、本体が壊れた以上、こちらも効力を失ったのか? そう不安になり始めた頃、やっと日記帳は『何?』という返事を書いて寄越した。ぼくは思わず目を見開くと、アリスと顔を見合わせる。

 

『なんでもない』

 

 急いでそれだけ書き込むと、ぼくは日記帳のページを折り畳んだ。乱暴にポケットの中に突っ込む。

 

「燃やさなくていいのか?」

 

 アリスが、ぼくにそう尋ねた。

 

「……分かんない。捨てた方がいいのかもしれない。けど……」

 

 なんとなく、捨ててはいけない気がした。

 

「ほう? で、第二の秘密の部屋が開かれるってか?」

「そんなヘマはしないよ。そんなことさせやしない。……何となく、持っておいた方がいいって思ったんだ。……いや、そうじゃないな」

 

 ぼくはゆっくりと頭を振った。

 

「捨てちゃダメだって、誰かが言ってる。そう……これには罪がないんだから、赦してあげようって」

「赦し、だぁ? お前はいつからそんなに偉くなったんだよ」

「だから、ぼくじゃないって……」

 

 アリスは眉を寄せたが、「まぁ、お前がそう言うのなら、俺は止めねぇけどよ」とため息と共に呟いた。

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