【完結】空の記憶   作:西条

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第27話 気付けなかった大きな過ち

 呪文を唱え杖を振る。瞬間、黒い炎が噴き出した。──成功だ。

 わっと喜びたい気持ちを抑え、大鍋の中を覗き込む。大鍋の底には蠢く小さな物体──雛があった。不恰好で醜い存在だが、確かに『命』が宿っている。

 

『それ』はしばしプルプルと震えていたものの、時間の経過と共に動きは弱まり、やがて力尽きては完全に停止した。

 

「流石セブルス、お前がいてこそだな」

「……僕は、ただ助言をしたまでだ。それよりもまだ『これ』には改良の余地がある。もっと大型の動物……それらに適用させるにはどうすればいいか、また長い期間『生存』させておくにはどうすればいいか……」

 

 賞賛され緩みかけた頬を、自覚的に引き締めた。

 ──まだだ。もっと、もっと。

 

 僕はどこまでだっていける。僕は皆に認めてもらえる。

 動かなくなった雛をじっと見つめた。杖を上げ呪文を唱えると、再び黒い炎が雛を包んだ。炎が消えた暁、再び雛がピクピクと動き出す。

 

 (くら)い死から明るい生へと魂を引き戻す魔法──反魂(はんごん)の魔法だ。

 魔法で生死を扱うことは禁止されている。これは闇の魔術の範疇だ。

 ……だから? だから何だと言うんだ?

 

 天才とまで言われる魔法の才能を持つ秋に、自分は敵わない。自分が一番得意な魔法薬でも、リリーには敵わない。成績なんて言わずもがな────。

 リリーと秋に認められたい。あの二人の傍にいても大丈夫だと胸を張れる何かが欲しい。

 

 そこで見つけたのが()()だった。

 母親は呪いやまじないに詳しかった。絵本や童話を読み聞かせてもらう代わりに、自分はずっと母親からそういった類の話を聞かせられてきた。

 闇の魔術──この分野であれば、自分にもアドバンテージがある。

 

 ふとジェームズ・ポッターの顔が脳裏に浮かんだ。軽薄そうにこちらを見下す笑みを浮かべるその顔を、こちらも思いっきり睨み返してやる。

 あいつに、あいつらに負けたくない。何か、何か一つでも、あいつに勝てる部分が欲しい。

 リリーと秋を守れるような強さが欲しい。

 そのためだったら、僕は何だってやってやる。

 

 

 ──間違いに気付く頃には、もう全て終わっていたんだ。

 

 

 ◇ ◆ ◇

 

 

 我が愛すべき最高の兄貴、ハリー・ポッターのおかげでグリフィンドールにクィディッチ優勝杯が授与された後、とうとうホグワーツにも呪われしその季節がやってきた。何を隠そう期末試験である。

 今年も色々あったものの、期末試験に例外はない。秘密の部屋のような大事件が起こらない限りは試験も平常運転だし、ぼくらも試験勉強に励まなければならなくなってきた。

 

 五年生はOWL(ふくろう)、七年生はNEWT(いもり)と呼ばれる魔法資格試験を受験しなければならない。それよりかはまだ気楽でいいものの、流石に十二科目分の勉強はつらいの一言だ。

 ぼくとハーマイオニーは、ここのところずっと図書館で勉強していた。理由は簡単、お互いが同じ科目を取っているから分からないものにぶち当たった瞬間尋ねられるのだ。歩く辞書、教科書生き字引のハーマイオニーさんは頼りになります、本当に。

 

 図書館で勉強しているのはぼくらだけじゃない。クリスマス休暇が終わってからというもの、様々な寮の人達が一心不乱に勉強しているのをよく見かけるようになった。少し離れたところではドラコとパンジー・パーキンソンの姿も見える。この二人は最近よく一緒にいるのを見かけるな……代わりにアクアとドラコが一緒にいるのを見なくなった。

 

「そう言えば、バックビークの控訴裁判……六日に決まったのですって」

「……そう」

 

 六日といえば、ぼくらも期末試験が終わるその日だ。ぼくは積んでいる教科書の山から一冊のノートを引っ張り出した。

 ハグリッドが裁判で勝てるよう、ぼくとハーマイオニーで作った虎の巻。とうとう日程が決まったのなら、こちらも今まで以上に気合を入れて取り掛からなければ。

 

「ハグリッド、勝てればいいのだけど……あら?」

 

 ハーマイオニーはぐしゃぐしゃと髪をかき混ぜながら、ふと視線をぼくの後ろに向けた。パァッと晴れやかな顔で手を振り「アクア! あなたもお勉強をしに来たの?」と嬉しそうに言う。

 アクアだと? 慌てて振り返った。

 

「……こんにちは、ハーマイオニー。……アキも」

「一人? なら、一緒に勉強しましょう?」

 

 アクアもハーマイオニーに軽く手を振り、こちらに近寄ってくる。うぅっ、無邪気な笑顔が眩しい。

 ハーマイオニーが気を利かせてか「ちょうどアキの隣が空いてるわ」とアクアを促した。そんなことされても、実はまだ気まずかったり……というか、いつの間にか二人は名前で呼び合う仲になっていたのだろう。

 

 アクアは小さく首を傾げて、ぼくに「座ってもいいかしら?」と尋ねかけた。それでダメと言える男がいるのなら是非ともお目に掛かりたいものだ。どうぞと言うと、アクアはぼくの目を見つめて「ありがとう」とふんわりと微笑んだ。……うわ、動悸が。

 

「……アキ、それは?」

 

 ぼくの隣の席に腰を下ろしたアクアは、ぼくがちょうど開いていたバックビークの裁判資料に気が付いたようだ。あぁこれはと簡単に説明したところ、アクアが段々と暗い顔になっていく。

 

「……私も、手伝いたい」

「え? でも、試験前だし、悪いよ……」

「いいの。……元は、ドラコが招いたものだから……」

 

 あー……そうか。

 ……そうか。

 

「……微力だけど……私にも、手伝わせて。……あなた達より、試験の科目も多くないから」

「……で、でも」

「ありがとうアクア! とっても嬉しいわ!」

 

 ぼくの声を遮るように、ハーマイオニーが身を乗り出した。アクアも意を決したように小さく頷いている。

 

 どうしてハーマイオニーはこんなにも、久しぶりに見るほどのキラッキラの笑顔なんだろう……?

 としばらく考え、ようやく閃いた。

 ハーマイオニー、もしかして、女の子の友達がずっと欲しかったのかな……。

 

「……ありがとう、アクア。じゃあさ、とりあえずこのノートに一通り目を通してくれないかな? それから、最後のページにまだ調べていない項目がリストアップされているから、本を探して調べてほしいんだ」

 

 そう言ってアクアにノートを手渡す。

 アクアはそのノートを大事そうに胸に抱きかかえて「……うんっ」と晴れやかな表情を浮かべた。

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